クズジョブの遊び人に転生したメスガキは、ゲーム知識で成り上がる! ~あは、こんなことも知らなかっただなんて、この世界のヒトたち頭悪いんじゃない? ざこざーこ。
25:メスガキはレイドイベントに巻き込まれた
25:メスガキはレイドイベントに巻き込まれた
「トーカさん、起きてください!」
体をゆすられたと思ったら、聖女ちゃんが必死な顔をしていた。いい感じで寝てたのに、何よもー。
「まだ夜じゃないの。アタシ眠いんだけど」
「窓の外を見てください!」
指さす聖女ちゃんに誘導されるようにアタシは窓を見る。そこには宿屋から見えるチャルストーンの街の光景が――
「……シャドウビースト!?」
黒い狼に蹂躙されていた。黒い体毛を持つ狼状の何か。影となって地面に潜り、死角から人を襲う闇の獣。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
名前:シャドウビースト・ウルフ
種族:悪魔
Lv:18
HP:58
解説:影より生まれた悪魔の従僕。影に溶け込み人を食らう暗殺者。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やっぱり、何とかっていうゲームのモンスターなんですね、あれは」
「レイドイベント『暗黒騎士襲撃』に出てきたやつよ。シャドウビースト自体はあんまり強くないけど……イベント通りなら暗黒騎士がいるってことなの?」
「レイド?」
「レイドイベントっていうのは、他プレイヤーと協力して多人数で倒すことを目的とした超強いボスを倒すイベントね。
……あー、要するにあの影の狼は前座で大ボスの暗黒騎士がいるってことよ」
プレイヤーがどうとか言ってもよくわからない顔をされたので、要点だけ掴んで説明した。
「つまり、その暗黒騎士を倒せばいいんですか?」
「そうね……。<フルムーンケイオス>基準だと、HP10000ほどあって20000回復活したけど」
「……え? あの、それは」
「倒しても『闇ある限り、我は不滅』とか言ってすぐに復活してくるのよ」
魔王<ケイオス>の暗黒騎士団長だとかそういう設定だったかな? とにかくそういう奴が街を襲撃して、町中にモンスターが発生したイベントだ。低レベルキャラ用にシャドウビーストが出てきたけど、それも無限沸き。
「とにかく町の人を助けないと!」
「あー、そうね。アンタはそういうと思ったわ」
筋金入りのいい子ちゃんだ。そういうと思った。
「シャドウビーストは種族が悪魔なんで、聖歌による回復でダメージを与えられるわ。それで『優しい人』系の獲得条件の人数も追加されるから、ガンガン歌って倒しちゃいなさい」
「歌で倒すとか……ええと、影を清めるとかそういう解釈をします」
アタシの的確なアドバイスに苦笑する聖女ちゃん。やることは一緒なのに、ためらわなくてもいいじゃない。
「トーカさんはどうするんです?」
「んー。いきなりレイドイベントとか言われても。
「……トーカさんでも無理ですか」
「無理じゃないわよ。やろうと思えばレイド狩りやれなくもないわ」
<フルムーンケイオス>での暗黒騎士のデータそのままなら、やりようはある。その中でも一番楽なのは、
「暗黒騎士は聖属性攻撃に弱いんで、天騎士おにーさんのアビリティでがガッツンガッツン殴っていけばすぐにHP削りきれるわ。警戒すべきは『魂切り』ぐらいだけど、予兆はわかるからどうにかなるわ。
というわけで、あのおにーさんを『正義の味方なんだからがんばれ』とか焚きつけて暗黒騎士にぶっつけて、アタシも殴って楽させてもらおっと」
「焚きつけ……いえ、その、こういう状況ですから普通に戦ってくれると思いますよ。というか、あの人の性格からして何も言わずともその騎士のところに行ってそうですけど」
「確かにそうよね」
叫びながら暗黒騎士に突撃していくおにーさんを想像して、うんうんと頷いた。まるっきりの脳筋バカみたいだけど、聖鎧シャッセと聖盾グラヴは暗黒騎士の【黒炎】や【影斬】などの攻撃と相性がいい。近づいて【エデンスラッシュ】連打が最適解だ。
「それじゃ、シャドウビースト倒したり町の人助けたりしながら暗黒騎士探しましょうか。アタシは【ピクニック】とダブル【スパイス!】でアンタをサポートするわ」
MP回復用のジュースを聖女ちゃんに見せる。メインとサブでとった【スパイス!】は、店売りポーションよりもMP回復量がある。しかも二重の【笑顔の交渉】で購入金額もかなり安くなってる。
「意外ですね。トーカさんは暗黒騎士のほうに向かうと思ったんですけど。あ、もしかして町の人が心配だから、とかですか!? そうですよね、あれだけ皆さんに優しくされたんですからトーカさんも――」
「ちっがうわよ。アタシ一人だとシャドウビーストに4体以上絡まれたら厳しいから、アンタを盾にするだけよ!」
嬉しそうに近づいてくる聖女ちゃんに、違うと叫ぶアタシ。アタシよりもレベルが低いシャドウビーストに数で押されれば、死なないにせよダメージは大きいわ。安全に移動できるならそれにこしたことはないってだけ。
アタシは高レベルモンスター相手だと『格上殺し』系の追加ダメージがあるから大ダメージを与えれる。低レベルモンスターだとこのダメージが乗らないので、倒すのに時間がかかってしまうのよ。
「ほら、行くわよ。シャドウビーストの討伐とケガをした人の回復。トロフィー獲得目指すわよ!
「ええ、行きましょう。町のみんなを助けます!」
「はいはい。それでモチベが上がるならそれでいいわ」
なんてことを言いながら、アタシ達はシャドウビーストが跋扈する街中を走る。
シャドウビーストがいれば言って聖女ちゃんが【人に善意あれ】を歌う。旋律が聖なる力となって悪魔を浄化し、同時に傷ついた人たちを癒していく。アタシはその隣でジュースを飲みながら【ピクニック】を発動させ、聖女ちゃんのMPを回復していく。
「ありとうございます。助かりました!」
「ああ、あなたはまさに聖女です! この恩は忘れません」
助けられた人はお礼を言って去っていく。臨時て作られた避難所があるらしく、町の兵士達が守っているので一時的な安全は得られるようだ。
「暗黒騎士がいる限りはシャドウビーストは無限に沸いてくるから、永遠にはもたないだろうけどね」
「そうなる前にその暗黒騎士さんを倒せばいいんです」
「アタシとしてはここでアンタに『天使の癒し』まで覚えてほしいのよね。2000体ぐらいシャドウビーストを倒してもらって」
「どれだけやるつもりですか……」
「んー、今討伐ペースが1分で2体ペースだから、時給120体として、端数切り上げ17時間ぐらい?」
「現実的な話をしましょう、トーカさん」
アタシの提案をばっさり切り捨てる聖女ちゃん。むぅ、チャンスなんだけどなぁ。
「でも実際問題として、暗黒騎士を倒すのが面倒なのよね」
先ずHP10000というのはさすがに面倒だ。オーガキングのざっくり七倍のHP。レイドボス設定そのままなら、それを20000回。
数十人単位で殴り殺すことを前提としたボスだから、HPだけじゃなく攻撃も半端ない。『
で、一番厄介なのは『魂狩り《デスブリンガー》』。効果は一撃必殺の即死攻撃。挙動がわかるから回避はできなくもないけど、結構シビア。<フルムーンケイオス>だと復活アイテムがあれば立て直しもできたけど、この世界だと死からの復活は希少だとか。
「うん、やっぱり天騎士おにーさんに押し付けて楽しようっと。戦闘相性ばっちりだもんね」
「相性とかはよくわかりませんが、協力してもらえるならそれに越したことはありませんね。……あまりトーカさんに近づけたくはありませんが」
最後はボソッと、少し陰鬱な声でつぶやく聖女ちゃん。なんでよ。確かにあまり近づきたい相手じゃないけど。
「あの性格なら、大声上げて敵に特攻してそうだから探すのは難しくないだろうけど」
「うおおおおおおおおお! アガギリ・トーカ!」
「ほらあんな感じで……え?」
天騎士おにーさんの声に振り向けば、そこには漆黒の鎧を着た『何か』がいた。アタシの記憶にあるレイドボス暗黒騎士の姿そのままだ。そしてそこから聞こえる声は、まぎれもなく天騎士おにーさんの声である。
「正義を貴様に刻み込んでやる。卑劣なる精神を強制し、泣いて反省するまで切り刻んでやる!」
暗黒騎士からアタシに向けられる鋭い殺意。
「ちょ、アタシ何か悪いことした!?」
何が何だかよくわからないんだけど!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます