24:メスガキはワンターンキルする
結論から言えば、勝負は圧勝だった。ワンターンキルとばかりの一方的な勝利。
「マジで?」
勝ったアタシがそう思うぐらいにあっさり勝負が決まった。何かの罠なんじゃないか、って思うぐらいあっさりと決まったわ。
「あの……私たいしたことはしてないんですけど」
聖女ちゃんもあっけにとられていた。わかる。すんごくわかる。
「ば、馬鹿なぁ! この天騎士ルークが負けるだと! 遊び人トーカ、何をした!」
HPバーは完全に真っ赤になってる。うん、おにーさんも自分が負けたことは理解しているみたいだ。
「え? ダメ元で【微笑み返し】で<困惑>させたら効いたんで、そのまま【笑裏蔵刀】使ってクリティカル攻撃しただけなんだけど」
「作戦では<困惑>を解除させた隙に私が吹き飛ばし、<足止め>がかかればトーカさんのプリスティンクロースコンボ。決まらなかったらクリティカル攻撃を決めて……でしたよね?」
「うんうん。祝福者で何のアビリティ取ったかわかんないから、二重に作戦決めてたんだけど……」
天騎士は聖属性に特化した戦士系で、祝福者は天使を味方にするジョブだ。天使自体を使い魔みたいに使役するタイプもあれば、天使を使って自動回復してくれるのもある。
このおにーさんがバステ回復を持っている可能性を考慮して、初手は捨てて二度目の聖女ちゃんで体制を崩し、三度目で相手のアビリティを見切って攻撃。そのつもりだった。だったんだけど……。
「何たる卑劣な攻撃だ! あのようなタイミングで可愛らしく笑ってこちらの気勢をそぎ、攻撃を躊躇させるなど! 英雄にあるまじき戦い方だ!」
「いやまあ、アタシはそういう戦い方なんだから」
<困惑>のバッドステータスのことを言ってるんだろうけど、そんなこと言われてもなー。
「もしかしてとは思うけど、バッドステータス対策とか全くなしなの? 祝福者でそういうアビリティとか取ってないの?」
「ない! そのような卑劣な手段など、すべて正義の力で打ち破ってきた! 不屈の精神と肉体。そして聖なる鎧と盾で凌駕してきたのだ!」
確かにこのおにーさんが着てる聖盾グラヴはたいていの属性魔法を何割かカットし、聖鎧シャッセは燃焼系や凍結系といった属性攻撃からくるバステを弾いてくれる。素の防御力も高いしおにーさんのHPも高そうなので、何も考えなくても同レベル帯のモンスターなら怖くはない。
アタシの攻撃は無属性の物理攻撃で、クリティカル攻撃は武器防具の防御点を無視してダメージを与える。なので無意味だったというわけである。
「うわ、脳筋。じゃあアビリティとかは全部攻撃一辺倒?」
「無論! 悪は全て絶つ! 天騎士の力はそのためにあるのだ!」
すがすがしいほどに脳筋だわ。
でもパーティプレイ前提ならこういう一点特化型はありね。防御や支援を仲間に任せ、本人はがっつり殴りに行く。特化型にありがちな弱点をカバーしあえるのだから。でもソロだと尖りすぎて弱点が多いわ。
「……じゃあもしかして、祝福者のジョブは【天使の翼】とか?」
「な、何故分かった!?」
「さっき門から飛び降りたでしょう。あんな高さから降りてダメージなしとか、アビリティじゃないと説明着かないわよ」
「どういうものなんです?」
「【天使の翼】っていうのは天使の力で宙に浮いたりジャンプしたり町から町に移動したりできるのよ。便利系だけど戦闘向きじゃないわ」
首をかしげる聖女ちゃんに、呆れたように説明するアタシ。
祝福者の中でもネタ系といわれたアビリティね。<浮遊>して地面の罠を回避したり、高低差を無視して移動したり、町から町に移動したりといった感じの便利なんだけどスキルポイントを払うほどじゃないよね、というアビリティ。
「いやほら……! 天使の翼を広げるとか、ロマンじゃないか!」
「いや知らないし」
アビリティをどうとるかは人それぞれだし、それを否定する気はない。おにーさんのロマンとかを否定する気はないけど、理解できないし無理に理解する気もない。
「とにかく、トーカの勝ち。あんだけ偉そうに正義だとなんだの語っておいて、1秒も耐えられないとか情けなくなーい? おにーさん、もしかしてトーカに負けたかったから勝負に挑んだの?」
どうあれ勝ちは勝ちだ。ここぞとばかりに罵っちゃえ。勝者の特権よ。
「ぐぬぅ! いや、正義は……正義は負けない! まずはそちらの1勝だ! だが勝敗はまだついていない!」
「はあ?」
「この戦いは3本勝負! 先に2勝したほうが勝ちだ!」
「ルーク様。それは往生際が悪いのでは……」
「あー、そうね。格ゲーっぽいしそれでいいわ」
聖女ちゃんが呆れて何かを言いかけるけど、それを止めてアタシは言いつのる。
「ふん、余裕のつもりか遊び人トーカ。しかし真なる英雄は追い詰められてから真価を発揮するのだ! 隠された潜在能力が開花するがごとく!」
「新しいアビリティを取るだけのポイントがあるの?」
「そんなものはない!」
まあそうよね。天騎士も祝福者も聖女並みにジョブレベル上がりにくいもんね。レアジョブってそんなもんだし。
「あー、はいはい。つまり潜在能力? がどうとかはハッタリなのね」
「気概といってもらおう! 相手を騙すつもりなど、このルークにはない!」
うんうんわかってた。そんな駆け引きができるような性格じゃないもんね、おにーさん。
そしてステータスやアビリティが変わらない上に、おにーさんの戦術が突っ込んで天騎士アビリティでの一刀両断しかないと分かっている以上、結果は同じ。
「くらえこれが天の一撃。エデンッ、スラ――!」
「はい。【微笑み返し】」
「可憐な笑顔……はっ、何なんだこの沸き上がる感情は!? まさかこれが恋――!」
「勘違いです」
「しょーりぞーとー」
天騎士おにーさんが溜め攻撃の準備に入ったタイミングで【微笑み返し】で<困惑>させて、聖女ちゃんが聖杭シュペインで吹き飛ばし&<足止め>。いったんHPが0になって仕切り直した、ということで【笑裏蔵刀】。
一戦目と全く同じ流れで、クリティカルで一気におにーさんのHPを削りきる。
「ば、ばかなぁあああああああああああ!」
はい、終了。
アビリティを使わずに通常攻撃するか、あるいは精神系バッドステータス対策のアイテムを持っていればここまで一方的な展開にはならなかったんだけどね。ぶっちゃけ、聖女ちゃんの聖歌なしでおにーさんに斬られたらアタシの紙装甲とHPだと一撃で負けるだろうし。
「やだー、おにーさん何してるのよ。トーカ全然楽しめなかったじゃない。もう少し頑張れないの。ほら、がんばれがんばれ」
「うぅ……! 正義は……負けない!」
「きゃー。かっこいー。でもまた負けちゃうんだよね。おにーさんよわよわだもん。何度やってもお・な・じ。正義の弱さをみんなに見せるだけだよ」
「こんなことがあってはならない……! 地道につらい修行を続けてきた正義の象徴である天の騎士が、卑劣な手段に手も足も出ないなんてことは……!」
「あは、おにーさんの努力の結果が今なんだよ。地道な努力、トーカに負けちゃったね。ざ・こ」
「ぐ……っ!」
こぶしを握り、血を吐くように嗚咽を吐くおにーさん。でもトーカに勝てないことは身にしみてわかっているのだろう。立ち上がることはできない。
「その……こっちが悪役みたいな感じになってるんですけど。トーカさんももう少し相手に敬いとかを」
「この相手のどこに敬う要素があるのよ。そういうのアンタが得意そうだからやってみたら?」
「ええと……。はきはきとした宣誓はお見事でした」
「うっとうしいだけじゃない」
さすがの聖女ちゃんも擁護できないのか、とりあえず元気の良さをほめた。
「はいはい。とにかく2勝したから終わり。もう二度と人のスタイルに口出ししないでよね」
「あ、ルーク様はゆっくりお休みくださいね。今日の事は悪い夢を見たと思って忘れてくれると助かります」
拍子抜けするぐらいにあっさり終わったし、今日はもう一日だらだらしよう。そういえば屋台とか出てたし、なんか買って帰ろうかな。
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおお!」
天騎士おにーさんの悔しそうな雄たけびが、空しく空に響いた。
「本当にこっちが悪役みたいなんですけど……」
「知らないわよ」
そんな叫びを聞きながら、アタシはこの後ウィンドウショッピングをして宿に帰ったのでした。まる。
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