21:メスガキは教会に行く

「神はすべてを見ておられる。貴方の行いも、罪も。迷える子羊よ、教会に何の用でしょうか」


 教会の神父? 牧師? とにかく黒い服を着たおじさんNPCのセリフだ。何でも見てるのに何の用かと聞くのはどうなんだろう?


 買い物で最初に来たのは教会よ。主目的である聖女ちゃん用の武器、『聖杭シュペイン』を買いに来たのだ。現状の手持ちではそれが手いっぱい。あとはオークションでライトニングバスターが売れるかどうかだ。


「おお、あなたは聖なる武器を纏う資格を持っているようですね。聖武器の購入をお求めですか?」

「はい。聖杭シュペインをお願いします」

「了解しました。聖武器は専用の倉庫に保管してありますので、今から案内します。こちらにお越しください。申し訳ありませんが、資格のない方はこちらでお待ちください」


<フルムーンケイオス>だとその場で装備が渡されるやり取り。まあアビリティを持ってないと装備できない武器がその辺にホイホイ置いてあるわけもないわよね。


 聖女ちゃんは聖武器を置いてある場所におじさんNPCに連れられて教会の奥に行く。止められたアタシはひらひらと手を振って近くの椅子に座り込んだ。


「あー。ヒマ」


 呟きながら、この後のことを考える。言ってもやることはほとんど決まっている。聖女ちゃんの【使い魔】捕獲用のアイテムを買って、動物を捕まえる。その後はオークションの動向を確認しながらアイテム購入。可能なら、アタシも武器を買うぐらいだ。


「天騎士の火力に耐えながら攻撃だから、聖属性耐性はもっておきたいわよね。あとは祝福者で何のアビリティ取ったかね。【天使顕現】か【天の祝福】か。ぼっちソロぽいだから、【天使顕現】かなぁ……?」


【天使顕現】はNPC天使が補助してくれるアビリティ。危なくなったらHPとかバッドステータスを回復してくれるわ。【天の祝福】は常時発動のバフ効果。こっちも余裕があるなら取っとくと便利。


 とか考えてると、ぼそぼそと声が聞こえてくる。


「……おい、あの娘」

「……間違いない。あの格好」


 視線を向けると、僧侶服を着た人たちが何かしゃべってた。


「遊び人トーカ……元罪人の」

「経歴を偽り、人の手柄を奪い、闘技場で暴挙を働いた……」

「英雄にあるまじき行為……」


 聞こえてくるのはそんな単語だ。あー、はいはい。その通りでございます。アタシはもうどうでもいいとばかりに目をそらして、


「やめないか! トーカさんはオーガキングを倒してこの町を救ってくれた人だぞ!」


 そんな大声が響いた。は? 何事?


「ぼ、牧師様!?」

「オーガキングを倒しオーガの一軍を退けた功労者を悪し様に言いつのるなど、神に仕えるものとして、いや人として恥を知れ!

 そのような噂に惑わされるなど修行が足りぬ証拠。反省房にこもってくるがいい!」

「ひええええ!? お許しを!」


 見ているアタシがぽかんとするやり取りだった。その後で牧師? さっきまで聖女ちゃんとやり取りしていたオジサンはアタシのほうにやってきた。


「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。トーカさん。この教会を収める私の不徳の致すところです」

「え? そこまで謝られるほどじゃないっていうか」

「いいえ。貢献云々は関係なく、噂で人を判断して罵るなど、人としてあってはならぬ行為です。重ね重ね、申し訳ありませんでした」


 頭を下げられ、対応に困るアタシ。


「悪口は言わない。人を噂で判断しない。それが普通なんですよ、トーカさん」


 声をかけてきたのは聖女ちゃんだ。その腕には、白い手甲がはめられている。普通の手甲と違うのは腕の部分が隆起している。そこから魔力で作られた杭を打ち出すための機構が備わっているわ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★アイテム

アイテム名:聖杭シュペイン

属性:聖武器

装備条件:【聖武装】習得 レベル50以上

魔力:+45 耐久:+10 抵抗:+10 吹き飛ばし効果。確率で<足止め>のバッドステータスがかかる。


解説:魔力により生み出した聖なる杭を打ち出す手甲。その罪を縫い留めよ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 聖杭シュペイン。相手に接触し、聖なる杭を打ち出す聖武器。


【聖武装】を習得していないと装備できず、且つレベル50以上でないと装備できない武器だけあって、単純な数値スペックも高い。魔法攻撃の数値である魔力が上がり、同時に手甲として物理&魔法防御も上がるの。


 何よりも確定で相手を吹き飛ばし、かなりの確率で相手を<足止め>のバッドステータスに陥らせるわ。<足止め>はその名の通り、移動を封じるバッドステータス。杭に縫い留められるわけね。


<足止め>になっても攻撃はできるけど、距離を放された上に動けないから近接攻撃は封じられる。魔法や飛び道具などの遠距離攻撃は封じれないので、その対策さえすれば事実上相手を封殺できるわ。


 これを使ってる人はそんなに多くはない。威力重視ならもう少しいい聖武器があるのだ。近接攻撃なのに相手を吹き飛ばすから、わざわざ追いかけないといけないという面倒な仕様。なんだけど『パァァァァァイルッ! バンッ! カァァァァ!』とか『これぞっ、男のっ、ロマン!』とか言いながら使ってた。よくわかんないけど。


 ともあれ、これで目的の一つは達した。鎧はお金の問題でどうしようもないので、以前聖女ちゃんが来ていたローブを着てもらっている。性能的には魔法防御に強いので、天騎士おにーさん相手には悪くはない形だ。


「アタシはそんな普通のことができない人がいるのも知ってるわ。アタシもその一人だし」

「もう。ひねくれないでくださいよ」

「そうよ、アタシはヒネてるの。噂通りに厄介で暴力的でわがままでめんどくさい子なの」

「わがままでめんどくさいのは事実ですね」

「アンタに言われたくないわ」


 言いながら椅子から起き上がる。そのまま教会から出ようとして、


「牧師さんだったっけ? 怒ってくれて感謝するわ」


 黒服おじさんに顔だけ向けてそう言った。


「トーカさん……。ええ、素直に感謝の言葉を言えるのは素晴らしいです」

「キッツいお仕置きしておいてね。泣いて心の傷になるぐらいのヤツを」


 何やら感極まったという顔をした聖女ちゃんは、次のセリフを聞いて眉をひそめて肩を落とした。


「なによう。文句あるの?」

「いいえ。トーカさんらしいと思いました」

「ふーんだ。次行くわよ次。時間が惜しいんだから」


 教会を出て町の通りを歩く。次の目的地はも魔法道具屋。そこで【使い魔】捕獲用のアイテムを買うのだ。


「あ。コトネ様とトーカ様ですわ」

「元気だねー。リンゴ余ってるんだ。持って行ってくれ」

「モンスター退治、頑張ってくれよ!」


 そして街を歩いてると、やたらと声をかけられた。妙に好意的な感じだ。


「皆さんトーカさんに感謝しているんですよ」

「こんなのただのブーム的なもんよ。三日ぐらいしたらすぐに忘れるわ。アタシも、アンタも忘れられるのよ」

「そうですね。苦しかった日々を忘れて、平和に明日を生きる希望がある。そのための手助けができたんです」


 迷うことなくそう言い切る聖女ちゃん。


「アタシにはわかんないわ。あんだけ頑張っても忘れられるなんて空しいだけじゃない」

「努力の結果は自分の中に積み重なります。それが形になったのなら、それは喜びです。何もない平和な一日こそ、私たちが守った報酬なんです。

 それに、受けた感謝を忘れない人もいますよ。私はトーカさんに助けられたことを、ずっと覚えてます」

「いつかはアンタも忘れるわよ」

「いいえ、忘れません」

「忘れる」

「忘れません」

「忘れる」

「忘れません」

「……アンタも強情ね」

「ええ。私は強情なんです」


 そういえばオーガキングの時といい、結構強情だったわね、この子。


「そこまで言い切ったんだから、忘れたら指さして笑ってあげるわ」

「はい。それまでお付き合いよろしくお願いします」


 そんな他愛もない会話をしながら、アタシ達は街を歩くのであった。

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