クズジョブの遊び人に転生したメスガキは、ゲーム知識で成り上がる！ ～あは、こんなことも知らなかっただなんて、この世界のヒトたち頭悪いんじゃない？ ざこざーこ。

２０：メスガキはサブジョブを獲得する

　サブジョブの覚醒イベントが終わり、アタシ達はチャルストーンに戻ってくる。

「なんか……予想以上に疲れたわね」

　移動を含めて１日中イベントに費やし、戻ってきたのはそれから半日後。天騎士おにーさんとの勝負まで、あと１日半。

「ライトニングバスターのほうは……」

　チャルストーンの宿屋で寝っ転がりながら、ステータス画面から英雄組合の掲示板を確認する。ヤーシャ出発前にライトニングバスターをオークションにかけていたのだ。ステータス画面からスマホみたいに確認できるのは楽でいいわねー。

　一般的なライトニングバスターの取引価格が２Ｍ（２００万）ガマ。なので１．８M（１８０万）ガマで掲示板に出したのだ。この値段ならすぐに買い手がつくよね、と思っていたんだけど……。

『アサギリ・トーカって、あの遊び人か？　じゃあパス』

『んー。雷切（ライトニングバスターの俗称）は欲しいけどなあ。様子見』

『なんかやばい噂あるからなあ、このキャラ。皇子蹴ったんだっけ？』

『闘技場見てたけど、バステとクリティカルで勝った運だけ女。雷切もそうやって手に入れたに違いないぜ』

　……てなことが、コメントに書かれてた。

「わざわざ書くあたり、悪意感じるわね」

　コメントに書いて残すのは単なる憂さ晴らしか、これを見た人に『アタシは悪い奴だ』と喧伝するのが目的だ。噂を知っていたとしても、普通は書かずに心の中で思うだけだ。スルーして２度と見ないだろう。

　書き込んでいるコメント数は多くはないけど、このコメントを見て回れ右した人は多いだろう。実際、取引に応じてくれた人はゼロだ。普段なら気にしないんだけど、今は事情が違った。

　あと１日半後までに売れてくれないと、聖女ちゃんの装備が整えられないのよね。

【聖武器】アビリティを取った聖女ちゃんは、教会から聖なる武器を購入できる。聖騎士などの神様に仕える前衛系が装備できる武器防具で、高いけど強い武器ばかり。タンクを目指す聖女ちゃんが必要な装備を整えるなら、相応にお金は要る。

　最悪、聖杭シュペインのみってのも覚悟しないとね。天騎士おにーさん相手だとそれでどうにかなるか。多分狙ってこないだろうし。

　売れないものは売れない。そう割り切ってアタシは頬を叩く。しかたないしかたないと呟いてベットから起き上がり、

「なんなんですか、これは！」

　同じく隣のベッドで寝ていた聖女ちゃんが怒りの声を上げた。

「トーカさんがクライン皇子を蹴ったのは事実ですけど、ここまで悪し様にいうのは酷すぎます！」

「あ。掲示板見たんだ」

　アタシの問いかけにほほを膨らませるような怒りの表情を浮かべて頷く聖女ちゃん。ライトニングバスターのオークションに出したことは伝えてある。聖女ちゃんのステータス画面からも、確認はできるんだから見れるのは当然だ。

「トーカさんのことをよく知らないのにジョブとか噂だけで判断して！」

「気にしたら負けよ。ストレスかかるなら見ないほうがいいわ」

「なんでトーカさんはそこまで無関心なんですか！」

「人間なんてそんなもんだからよ」

　現実……この場合ゲーム転移する前の世界って言ったほうがいいのかな？　とにかくそこでもそんなものだった。ネットの世界は足の引っ張り合い。成功者をねたみ、指導者を監視し、それに同意する人ばかり。でも自分は何もしない。何の実績も挑戦もないのに、実績者や挑戦者を嘲笑う。

　出る杭は打たれる、とはよく言ったものだと思う。皆が平等であるために、出る杭はみんなで叩くのだ。まるで藁人形。恨みを込めて、釘をさす。サンドバッグにされた人の気持なんか考えない。自分は悪くない。悪いのは世間だ。悪いのは上だ。悪いのはお前だ。悪いから殴っていいんだ。罵っていいんだ。

「アタシが遊び人で皇子蹴ってバステとクリティカル重視なのはホントなんだから」

「それはトーカさんの一側面です。トーカさんはそれだけではありません」

「その一側面を理由に笑うのが人間なのよ。この話はこれで終わり。問題はライトニングバスターが売れないってことね。金策は後で考えましょ」

「……トーカさんは、いい人です」

　不服そうにつぶやく聖女ちゃん。感情を抑え込むようにこぶしを握り、そこだけは譲らないと視線で訴える。アタシは何とも言えない感情を抑え込み、話を切り替えた。

「【聖武装】と【使い魔】は取れた？」

「はい。トーカさんの言う通り聖女スキルの【聖武器】を２にして、サブジョブのウィッチスキルの【従僕】も２にしました。アビリティは【聖武装】と【使い魔】です」

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★アビリティ

【聖武装】：神より授かった武具を扱い、魔を討て。『装備：聖武器』が装備可能になる。常時発動。

【使い魔】：魔術の補佐を行う動物を呼び出す。自分の（レベル／５　端数切り上げ）以下の『種別：動物』を使役できる。被ダメージ時やコストとして、使い魔のＨＰとＭＰを使用できる。常時発動。

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【聖武装】は装備可能な武装が増える【聖武器】の基本アビリティ。これがないと聖武器が装備できないのだ。

　で、【使い魔】は動物系のモンスターを使役できる。テイマーみたいに戦わせることはできないけど、使役した動物からＨＰやＭＰを使える。実質、ＨＰとＭＰが使い魔分だけ増えることになるのだ。

「レベルの５分の１だからアンタだと１１までのモンスターね。使い魔にするには専用のアイテムでとらえないといけないし、動物系は基本的にＭＰはそんなに多くないから補助程度だけど、タンクやるならＨＰは大事ね」

【従属】のレベルが上がれば使役できるモンスターの種類が増えたり、モンスターの特技が使えたりするけど、そこまでジョブレベルを上げる余裕はない。

「そういえば、トーカさんもサブジョブに覚醒したんですよね。何を選んだんです？」

「遊び人」

「……え？」

「だから遊び人よ。メインジョブサブジョブ共に遊び人」

　メインジョブとサブジョブが同じというのは＜フルムーンケイオス＞でも可能な話だ。アビリティの選択肢は減るが、メリットもある。

「常時発動系のアビリティの数値効果が相乗されるのよ」

　ＭＰを消費して使うアビリティの重ね掛けはできないけど、常時発動のアビリティは効果が増す。

　アタシの場合だと【笑顔の交渉】の効果『購入金額を『遊び人のレベル（最大３０）％』減少させる』が二重で発揮される。言っても二倍の６０％減ではなく、３０％減して追加で３０％減で、最終的に４９％減少。７０％×７０％ってことね。

「【笑裏蔵刀（しょうりぞうとう）】みたいな『同じ相手に一度だけ』的な条件も別アビリティ扱いになるから結構使えるわ」

「ピンときませんが、一つの技が強くなるというのはわかりました」

「そんな感じでいいわ。よりアタシの笑顔が素敵になったのよ」

　この辺の数値はバグなんじゃないこれ、って言われたんだけどど公式が『仕様です』と明言したので問題なし。おかげで買い物とかだいぶ楽になるわ。

「そんじゃ、いろいろお買い物よ。新生聖女タンクのお色直しといきましょう」

「あの水着みたいな服じゃないなら、何でもいいです」

「オーガにガン見されてたもんね。男の視線を独りじめー」

「もう結構です。囮の役割的には正しいんでしょうけど」

　あははー、と笑いながら宿を出るアタシたち。楽しい楽しいお買い物タイムよ！