18:メスガキは勝負を受ける

「勝負だ遊び人トーカ! 俺が勝てばその態度を改めてもらう! 二度と卑劣な真似はしないと誓ってもらおう!」


 びしっと指さし叫ぶ天騎士おにーさん。


「具体的にはレベルに応じたダンジョンでの経験値稼ぎ! 他人の悪口は言わない! 肌の露出が控えた服を着る! バッドステータスで弱体化させるのは禁止!」

「無茶言わないでよ。そんなのできるわけないじゃないの」

「無茶……じゃない気もしますけど?」


 無理難題言ってくるおにーさんの意見に反論するアタシ。聖女ちゃんは首をかしげるけど、アタシにとっては無理なのよ。


「ちまちま経験値を稼ぐのはダレるのよ。効率よく高レベル帯のモンスターをバステと相性で狩るのが気持ちいいの。適正ダンジョンとか、やってらんないわ。

 あと、ざこをざーこって罵るのは悪口じゃなく事実だからいいの」

「前半はともかく、後半は事実でも駄目です」


 なんでよ。不満そうな顔をして聖女ちゃんを睨み返すけど譲らないとばかりに睨み返してくる。むぅ。


「大体、決闘って殴り合うってことでしょう? そんなのレベルとかジョブとか考えたらそっちが有利に決まってるじゃない。

 自分が有利な勝負を一方的に押し付けてきて、はいそうですかって受けれるわけないじゃない。おにーさん、他人と交渉したことある? 大声で叫んでればなんでも押し通せるとか小学校男子の発想じゃない」

「ぐぬぬ……!」

「でもこっちの条件飲むなら受けてあげてもいいわ。トーカっておっとなー。こんな子供みたいなおにーさんの相手してあげるとか」


 ぐうの音も出ないおにーさんを前に、指を二本立てる。


「一つは、勝負は三日後。アタシ達サブジョブイベントまだだから、それを終わらせてから。

 もう一つは、この子と一緒に戦わせて。レベル差を埋める形ね」


 もう片方の手で聖女ちゃんを指さして、条件を提示する。後ろで『さぶじょぶいべんと?』って聖女ちゃんが首傾げてるから、後で説明しとかないと。

 

「2対1だと?」

「何よ、アタシが卑怯なのは知ってるんでしょ? ああ、倒すのはアタシだけでいいわ。アタシが倒れれば負け。聖女ちゃんを攻撃する必要はないわよ。

 卑怯なことをするアタシを倒して反省させるのが正義なんでしょ? だったらこれぐらいいいじゃない」


 アタシの言葉に何かを言いたげに歯を食いしばる。わかりやすいぐらいに『正義』とかに執着してる。


「いや待て! それは……聖女コトネはそれでいいのか!?」

「はい、構いません」

「なん……だと……!? こんな条件をノータイム受け入れるとは、やはり何かしらの弱みを握っているとしか思えない!」


 すんごく失礼なこと言われてるわね。


 でもあたしも即決するとは思ってなかった。渋ったり戸惑ったりしている聖女ちゃんをどう言いくるめようか考えてたから、少し驚いたわ。 


「いいだろう、勝負は3日後! そちらは2人ということで! 十分に準備を整えてくるがいい! それでは――!」

「待ちなさいよ。アンタが負けたらどうするか、決めてないじゃない」

「む、確かに。正義に負けはないが、それでも条件は公正でなければならない。俺が負けた時は反省の意を示そう。ごめんなさいと謝罪し、頭を丸め――」

「いや、そんなのはいいから」


 丸刈りとか、はっきり言ってどうでもいい。見て笑うけど、その程度だ。


「反省もいいわ。アタシのスタンスとアンタのスタンス。それが違うことはどうでもいいの。正々堂々とモンスターをぶった切るって王道でかっこいいじゃない。

 アタシが勝ったら、さっきの言葉を撤回して」

「さっきの言葉?」

「バッドステータスとか囮とか使って戦うのは卑怯だ、って発言」


 言った後でアタシは言い直す。


「んー、違うわね。ずるーいとかえろーいとか思うのはいいわ。それはただの感想だし。アタシのことをどう思おうが自由。

 でもそれを口にしないで。ぶっちゃけ、うざったいの」

「ふん、何かと思えば。正道ではない戦いを卑下して何が悪い! 正しくない戦いなど、この世から消えるべきだ!

 言われて困るのは、心のどこかでやましい気持ちがあるからだろう!」

「赤い稲妻を着た聖女ちゃんを見た時、コレヤバイって思ったのは事実ね」

「困ったらそれを引き合いに出すのはやめてください」


 アタシの肩をつかんでツッコミを入れる聖女ちゃん。って痛い!? 肩を思いっきり握らないで! 指食い込んでるからぁ!


「しかしそれが負けた時の条件というのなら受け入れよう。正義が卑劣な方法に屈することなどありえないがな!

 いや、ある意味正当な取引か。数やバッドステータスに頼る軟弱な戦法を、正攻法で叩き潰す。そうすることで正しい道を示すことができるのだから!」


 なんか変な納得をする天騎士おにーさん。そのままマントをばさぁ、と翻して去っていく。その行動、意味あるの?


「では3日後にこの町の西門で会おう! 逃げてもかまわんが、その際は正義が悪に屈したという証とさせてもらうぞ!」


 ばたん、と扉を閉めて帰っていく天騎士おにーさん。なんというか、悪い人じゃないんだけどメンドクサイ人だった。


「じゃあ別の街に行こうか」

「それはさすがに可哀そうすぎるというか……むしろやる気満々じゃないですか、トーカさん。そんなに自分のやり方を否定されたことに怒ってるんですか?」


 割と本気の提案を、ため息をついて否定する聖女ちゃん。


「怒ってないわよ。ちょっとカチンと来ただけで」

「それを怒ってる、っていうんです。確かに他人の話を聞かないお方でしたけど」

「ふん。自分のスタイルサイコーなのはいいわ。アタシもそうだし。だからこそ、アタシも譲れないのよ」


 真正面から敵を打ち倒すのが天騎士のスタイルだ。それは王道で、だれもが憧れる英雄の姿なのだろう。それを求める人が多いのは確かだし、メジャー路線がかっこいいというのは当然だ。


 だからと言って、そうじゃないやり方を否定するのは違う。自分こそ正義。正しくないやり方は淘汰。そんなの許せない。


 っていうか、


「バッドステータスで弱った相手を罵ったり、相手の攻撃を完封してバカにするのってサイコーじゃない。それするな、って言われたら面白みがないわ」

「そういうところが責められる原因なんですよ」

「うっさいわね。自分が絶対勝者だって思ってるのに、ざこと思ってるアタシににひっくり返されたときのあの顔をみたら、背中がぞくぞくするのよ。やりぃ、とかざまぁ、とかで笑っちゃうのよ。

 だからアタシはあの天騎士おにーさんと戦うの! あの自分正義の顔が負けた時にどうなるか、見てみたいのよ!」


 戦う理由はそれだ。アタシのやり方を否定されたというよりも、あの高慢な正義面を真っ向から否定したい。その時の顔を見て、アタシのすごさをわからせたい。


「確かに鼻を折らないといけないのは事実ですね。がんばりましょう」

「……およ? 以外ね。思ったより乗り気じゃないの」


 良い子の聖女ちゃんは戦いはいけませんとか、私利私欲はだめですとか、そういうことを言ってくるかなと思ってたのに。以外ね。


「ええ。策を練る行為を否定するのは、許せません。人は知恵を絞って生きていくものですから。

 何でもかんでも力で突破。王道といえば聞こえがいいですが、天騎士様のやり方は頭を使わない正面突破。それができない人もいるのです。そのような方が知恵を絞ることを否定するのは、弱いものは死ねと言っているのと同意ですから」


 わお、思ったよりも怒ってる。でもその割には声はやわらかい。むしろ嬉しそうに聞こえた。なんで?


「それにトーカさんに必要にされましたし。それに応えます」


 それが一番の理由ですわ、とアタシに向かってほほ笑む聖女ちゃん。


「あー、はいはい。がんばりましょう」


 本気で嬉しそうな聖女ちゃんの笑顔とオーラに、アタシは手を振って会話を打ち切った。思わずドキッとして、その動揺を抑えるように深呼吸する。


 もう、何なのよこの子は。調子狂うわね!

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