17:メスガキは決闘を申し渡される
「然りっ! だが闘技場の件はあくまで疑いのきっかけ。聞けば遊び人トーカにはまだまだ反省すべき点が多いと判断したのだっ!」
天騎士のおにーさんがアタシを指さし、叫ぶ。アタシは朝ご飯を口にしながらその話を聞いていた。
「その話長くなりそう? 先にご飯食べていい?」
「む、これは失礼。では食べ終わるまで待つとしよう。朝食は一日の活動力、存分に食らうがいい!」
あ、食べていいんだ。話の腰を折るな、とか怒りそうだったんだけど。
そしてアタシと聖女ちゃんは朝ご飯を食べる。最後にお水を飲みほして、一息ついた。ふう、おいしかった。
「食べ終わったようだな。では再開だ!
遊び人トーカには反省すべき点が多い! 世に出るのは早すぎる! 凶悪な犯罪者が町中を闊歩するなど、住民の不安が高まるだけだ!」
「む。凶悪な犯罪者扱いは聞き捨てならないわね。どういうことよ?」
天騎士おにーさんの言葉に、反論するアタシ。
「先ずは嫌がる聖女に裸同然の姿を強要し、オーガの囮にしたことだ!
聖女が装備を好ましくないと言っていたことは、複数から証言を得ている!」
「えーと……『赤い稲妻』のこと?」
「その通り! 聖女のジョブ特性を完全に無視し、囮にする! しかも聖女コトネは嫌がっていたというではないか!」
あー。えーと……。
「赤い稲妻の件は聖女ちゃんから言い出したことよ。聖女ちゃんが囮になりたいからビキニアーマーを着ただけで」
「トーカさん、私が好んであの水着を着たように聞こえる言い方はやめてください」
「それ見たことか! 聖女コトネは明らかにあの装備を拒否しているではないか!」
いやまあ、そうなんだけど。ちょっと待って、いろいろ誤解が生まれてる。
「まだ幼く汚れなき聖女をかような装備にしてモンスターを誘い出すために利用する。それが罪でなくて何だというのか!」
「だから囮は聖女ちゃんが言い出したことなんだって。装備を選んだのはアタシだけど」
「つまり聖女コトネにあの恥ずかしい装備を強要したことは認めるわけだな! 聖女を辱めたことを認めるわけだな!」
「恥ずかしがる聖女ちゃんをみて楽しんだのは確かね」
「……トーカさん」
なによぅ。そんな目で見ないでよ。だってあの恥ずかしっぷりはほんと面白かったんだから。
「そもそもオーガを倒す囮なら重戦士あたりのタンクに適した役割がやるべし! あえて聖女をその役割にしたのは、見張りから解放されたかったのではないか!?」
「はあ? 何言ってるのよ。勝手な決めつけやめてよね」
「今自分で言っていたではないか! 『アタシとアンタが一緒にいるのは、アンタがアタシを見張ってるから仕方なく』と! 声の質から聖女を責める感じだったぞ!
すなわち、アサギリ・トーカ! 貴様は見張られているという境遇に納得していないのだ! 聖女がいるからこそ街を歩ける状況だというのに!」
え? えーと、そんなこと言ったっけ?
「さらには『アタシのほうがこの世界のこと知ってるんだから、その気になったら騙すことだってできる』とも言っていた! 箱入りだった聖女をだませる可能性を自ら暴露したのだ!」
「あー。確かに言ってた。うん」
何を言っているのかと思ったら、さっきまでの聖女ちゃんとの会話だ。
『生意気言わないでよ、もう。アタシとアンタが一緒にいるのは、アンタがアタシを見張ってるから仕方なくでしょ! んでアタシはタンクをやりたいっていうアンタを利用しているだけ!』
『はい。わかってます』
『ほんとにわかってる!? アタシのほうがこの世界のこと知ってるんだから、その気になったら騙すことだってできるって覚えておきなさいよね!』
『はい。そうですね』
『うわ、もー! 何から何までわかってるって顔してー! もー!』
アタシがこの子と一緒にいるのはそういう理由だし、利用してるのも嘘じゃないもん。ゲーム知識で上から目線だし、だまそうと思ったら騙せるのもウソじゃないもん。
って、確かに言葉そのまま受け取ったら天騎士おにーさんの言う通り……なの?
「天騎士ルーク様。トーカさんはけしてそのようなことを思っているわけではありません。すこし怒りっぽくて天邪鬼な部分はありますけど、心の優しい方なんです」
アタシを弁護する聖女ちゃん。
「別にアタシ優しくないけどね」
「もう。またそうやってウソをつくんですから」
「なるほど、そうやって優しい聖女の心に取り入ったんだな!」
なんだかわけのわからないことを言いながら、わけのわからない納得をする天騎士おにーさん。バカなの? ばかなの?
「やめてよね。むしろアタシのほうがこの子に振り回されてるんだから。オーガ倒したいとか、一人じゃ恥ずかしいから一緒にジョブレベル上げたいとk……もぎゅ」
「忘れましょうね、トーカさん。ええ、忘れて」
聖女ちゃんに口をふさがれて、マジモンの殺意を視線から感じる。いや、アンタがやろうって言ったんじゃないのー! もがもが! 呼吸!? 呼吸させて!
「そうやって演技しても無駄だ! それも傾国の指輪に類するアイテムで<魅了>して演技させているのだろうが!」
「ぷはぁ! え? 傾国の指輪がなにって?」
何とか聖女ちゃんの手から逃れて、呼吸する。咳きこみながら、天騎士おにーさんに質問した。
「ふん。先ほど大声で傾国の指輪が欲しいと叫んでいただろうが! あの人を惑わす魔の品物!」
あ。うん。それは覚えてる。アタシ確かに『傾国の指輪ほしーい!』って叫んだ。
「おそらくは『夢魔の尻尾』などの魅了アイテムを持っていて、それで聖女コトネの思考を奪い、行動を強要しているのだな! 何たる卑劣! 同じ英雄として恥を知れ!」
夢魔の尻尾。対象を<魅了>できる装備品だ。結構強いんだけど、ぶっちゃけ『傾国の指輪』の劣化版である。
「あー。そうね。アイテム使って人を魅了するとか、人として最低ね」
あのくそ皇子を思い出して、むっとした。っていうか、それと同列と扱うとかこのおにーさんも大概だ。
「確かに指輪欲しいって叫んでたのは叫んでたけど、それは戦闘に使う意味で、聖女ちゃんに言うこと聞かせたいとかはさすがに」
「それが卑劣の証! モンスターとの戦いに<魅了>などの弱体化など不要! 強い信念とそれにより鍛えられた肉体! そして英雄としての武技! それにより全力の相手を踏破する事こそが戦いなのだ!
バッドステータスで相手を弱体化させるなど、己が卑劣であると証明しているようなものだ!」
……へえ。
「いーじゃん、卑劣。戦いは勝てばいいのよ」
「と、トーカさん?」
声色を変えたあたしに、慌てる聖女ちゃん。
「卑劣なのがアタシの悪いことなの? だったら反省なんかしないわ。
聖女ちゃんを囮にしたのもビキニアーマー着せたのも、全部アタシの作戦で思惑よ。傾国の指輪も欲しいし、なんなら聖女ちゃんを利用してるのも認めてあげる。だったらどうっていうのよ」
「卑劣な行動をしていることに反省の意はないようだな。
態度を改めるつもりがないというのなら、決闘だ! 自分が正しくないということをわからせてやる!」
アタシの言葉に啖呵をきる天騎士おにーさん。
「け、決闘!? ぼ、暴力はいけません!」
「止めるな聖女コトネ! 誠意ある言葉で通じぬ相手には力をもって示さねばならぬ時もある!」
「誠意って言葉を辞書で調べたほうがいいと思うわ」
アタシの言葉を聞く耳持たず、天騎士おにーさんは指をこちらに向けて宣言する。
「勝負だ遊び人トーカ! 俺が勝てばその態度を改めてもらう! 二度と卑劣な真似はしないと誓ってもらおう!」
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