16:メスガキは変な奴に絡まれる
いろいろ騒いだ次の日、チャルストーンの町は通常業務に戻った。オーガの出現率が元に戻ったこともあり、商売が再開されたとかで大わらわ。あっちこっちで馬車(車を引いているのは、ファンタジーなトリっぽい生き物だけど)が走っている。
「ほら、起きてくださいトーカさん。もう朝ですよ」
「まだ眠ーい」
アタシは聖女ちゃんに起こされて、寝ぼけながら朝の準備をしていた。一階に降りて朝ご飯を食べてながら、今後の話をすることにした。とはいえ、基本的にはアタシが決めることなんだけど。
「オーガ狩りはおしまいね。アタシもアンタもレベル50は越えたでしょうし」
「はい。スキルポイントもかなり溜まりました。これで【聖武器】を上げることができます。もうあの水着は着なくて済むんですよね?」
念を押すように言ってくる聖女ちゃん。『赤い稲妻』、そんなに嫌なのね。
「そうね。【聖装】をとれば教会で聖武器が買えるんで、そっちのほうが生存確率高まるわ。よりタンクとして高性能になるから断然お勧めよ。
でもアンタが何かに目覚めそうだったとかだったら別に『赤い稲妻』のままでいいけど」
「はあ? 目覚めって何です?」
からかうように言ったアタシの言葉にきょとんとする聖女ちゃん。からかいがいがないなー、もう。
「問題はお金よね。『聖杭シュペイン』は確定として、できるなら『聖衣ローラ』は欲しいところ。最低でも『聖鎧ガーグ』あたり。むー」
オーガキングをはじめとした昨日のドロップアイテムを全部使ったとしても、望みの品全部を買うには届かない。教会で売っている武器は高いのだ。それに見合うだけの価値はあるけど。
「となると、コレがどれだけの価格で売れるかよね」
アタシは<収容魔法>から一本の剣を取り出す。オーガキングのレアドロップアイテム『ライトニングバスター』だ。スペック的にも悪くない剣なので、買いたい人は相応の金額を出す。
「あの、トーカさんは何か欲しいものはないんですか? 私ばかりにお金を使ってもらうのも申し訳ないというか」
「アタシはアンタが拾ったプリスティンククロークがあれば十分かな。【ハロウィンナイト】とのコンボがあれば、たいてい行けるし」
特殊能力を持たない雑魚戦は、先手を取って種族付与してから攻撃すれば、あらかたどうにでもなる。それぐらいの強さなのよね。それぐらいの動物特攻がプリスティンククロークにはある。
欲しい武器があるとすれば『宝石』か『カード』なんだけど、この辺はそれぞれ【買う】と【遊ぶ】のジョブレベルを上げないと装備できない類だ。無理してほしいものじゃない。
いや、一つあった。
「強いて言えば、あの皇子が持ってた『傾国の指輪』は欲しかったわよねー。超強いデバフレアアイテム。アンタが破壊しなかったらパクれてたのに」
「みんなが見ている前で皇族から物品強奪とか、そんなことしてたら大暴動ですよ」
「だって欲しかったんだもーん! 欲しい欲しい欲しい! 傾国の指輪欲しかったー!」
「……もう。どうにもならないと分かってるのに騒がないでくださいよ」
<魅了><洗脳><喪失>の無敵デバフ。精神ある相手なら完璧封殺ね。あれがあったら、オーガキングもかなり余裕で倒せたのに!
実際、聖女ちゃんの言うようにどうにもならないし、終わったことだ。軽く手を振って、話を戻す。
「話を戻すけど、タンクの装備品にお金かかるのは当然のことなのよ。パーティを守る要なんだから、そこは受け入れなさい」
「パーティ。宴会とかいう意味ではなくて、山登りとかのチーム的な意味ですよね。えへへ」
「……何よ。いきなり笑いだして」
「いえ。トーカさんは私のことを邪険にしていた節はありましたけど、ワタシの事をチームとして見てくれてるんだなってわかりましたんで」
……む。
アタシが聖女ちゃんと一緒にいるのは、クライン? 皇子を殴ってアタシの社会的立場がいろいろ厄介だから聖女ちゃんが見張ってるという設定だ。それ以上でも以下でもない。ないったらない。
「生意気言わないでよ、もう。アタシとアンタが一緒にいるのは、アンタがアタシを見張ってるから仕方なくでしょ! んでアタシはタンクをやりたいっていうアンタを利用しているだけ!」
「はい。わかってます」
「ほんとにわかってる!? アタシのほうがこの世界のこと知ってるんだから、その気になったら騙すことだってできるって覚えておきなさいよね!」
「はい。そうですね」
「うわ、もー! 何から何までわかってるって顔してー! もー!」
地団駄を踏んで、朝ご飯を口にする。相変わらずにこにこしている聖女ちゃん。別に負けてなんかないんだからっ! 何に負けたとか、よくわからないけど!
「とにかくレベルアップして、買い物よ。今あるお金で聖杭シュペインを買って、ライトニングバスターが売れたお金で防具を買う。それでいきましょう」
「はい。ちなみに話の流れで聖衣のほうがお望みのようなんですが、どういう効果なんですか?」
「あ、そっか。まだ説明してなかったわね。まず聖杭なんだけど――」
うっかりしてた。アタシが各装備のことを説明しようとした瞬間に、
「アサギリ・トーカ、許すまじ!」
隣の席からそんな声が聞こえてきた。そしてあたしを指さすおにーさん。
茶髪、日本人じゃなさそうな顔、おじさんじゃない程度の若さ。それはまあ、どこにでもいそうなおにーさんだ。
ただ装備品は豪華絢爛。装備している剣は七聖剣の一振り聖剣コルバー。純粋な攻撃力だけでもかなりの逸品。鎧も【聖武器】の一つである聖鎧シャッセと聖盾グラヴ。特殊効果はないが、その分数値はかなり高い。ガチガチの聖騎士サンだ。
「俺の名前はルーク・クロムウェル! ジョブは天騎士にして祝福者! レベルは78! 未だ修行中のみではあるが、魔王<ケイオス>を倒すべく邁進しているものである!」
だれ? と問おうとする前に自分から名乗るおにーさん。無駄に熱い。暑苦しいぐらい。
「初めまして。天騎士のうわさはかねがね聞いております。聖女コトネです。レベル……もぎゅ」
「トーカよ。で?」
いろいろな乗ろうとする聖女ちゃんの口を手でふさいで、端的に自己紹介するアタシ。必要以上に情報を公開する理由はない。短く告げて、相手の出方を待つ。
「アサギリ・トーカ! 貴方はオルストシュタイン闘技場にてクライン皇子に大怪我を負わせた! 英雄の力を投獄された恨みを晴らすために使用し、そして執政不可能になるまでのダメージを与えるなど、許されざる行為だ!」
こっちを指さしたまま、叫び続ける天騎士おにーさん。ちょっとうるさい。
「あー。皇子蹴ったことね。それはこの子が見張ってるからオッケーとかじゃないの?」
「その審議に異議を申し立てに来たのだっ! 聞けば罪を雪ぐはずの闘技場において対戦相手を罵倒したと聞いている! 見ていた観客からは反省の色が欠片も見えぬとのことだ!」
「そうね。普通に罵ってたわ」
「トーカさん……」
囚人クエストでの行動を思い出し、そう答えるアタシ。反省とか、全然してないし。アタシ悪くないし!
「天騎士ルーク様。確かにトーカさんは些か……幾分か……結構、人として反省すべき点が多い部分はあると思います」
「ちょっとアンタ」
天騎士おにーさんに意見する聖女ちゃん。……弁護してるのよね?
「ですが、闘技場の件に関しては決着はついています。正式な法にのっとり、トーカさんは釈放されました。異議を申し立てるなら、むしろ闘技場の関係者にすべきではありませんか?」
「然りっ! だが闘技場の件はあくまで疑いのきっかけ。聞けば遊び人トーカにはまだまだ反省すべき点が多いと判断したのだっ!」
バン、とアタシを指さす天騎士おにーさん。
ふーんだ、アタシに反省する点なんかないんだからねっ。
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