クズジョブの遊び人に転生したメスガキは、ゲーム知識で成り上がる! ~あは、こんなことも知らなかっただなんて、この世界のヒトたち頭悪いんじゃない? ざこざーこ。
15.5:天騎士ルークは正義を行使する(天騎士ルークside)
15.5:天騎士ルークは正義を行使する(天騎士ルークside)
正義――それはルーク・クロムウェルにとって大事なことだった。
正しいということ。それにより力ないものを守るということ。それは穢されてはならないことだ。暴力の横行、嘘をつき騙すこと、人から物を盗むこと、悪口により人を傷つけること、そう言った行為から人は守られなければならない。
だが、現実のルークにはそれを為すための力はなかった。力なき正義は無力。その意味を現実でかみしめながら、それでも正しいということを守ろうとした。弱いものを守り、平和に生きる世界を。ただそれだけがルークの望みだった。
そしてルークは<フルムーンケイオス>の世界に召喚される。彼自身はこのゲームが存在しない世界から召喚されたのだがそんなことは関係ない。事情を知り、魔王の暴力に苦しむ人たちを守るために強くなろうと決意した。人を襲う魔物を倒し、強くなっていった。そして天騎士というレアジョブも相まって、かなりの強さを得た。
だが、
『戦いは終わった。無益な殺生は不要だ!』
ルークは人を襲うオーガをせん滅しようとはしなかった。積極的に魔物を狩ろうとはせず、人を襲う魔物のみを狩るにとどめていた。
それは人を守ろうとしないのではない。オーガを含めた『世界』を守ろうとした。天騎士の力をふるいオーガを全滅させることはできただろう。オーガキングさえも倒すことは可能だった。だが、それはルークの『正義』に反する行為だ。
オーガもまた、この世界の一つ。それを力でねじ伏せるのはよくない。力なきものを暴力で屈服させるようなことはあってはならない。
ルークは人を守らない。自分の正義というルールにのっとって、『世界』を守っているのだ。
それは正しくもあり、同時に間違ってもいる。そもそも万人が納得できる完全な正義などどこにもない。平和な世界においては罪である戦争も、戦争となれば許容される。平時においても殺されなければ殺されるという状況なら、殺人もやむなしという判決は下る。
それでもルークは信じた。どこかに完全なる正義が存在し、それに従えば皆が守られるのだと。今はすべてを救えないけど、いつかすべてを救えるのだと。その道は未だ見えないけど、信じた道を歩み続ければいつかはたどり着けるのだと信じていた。
ルークにとって、正義とは光。正義とは道。正義とは生き様。暗き闇を照らす太陽であり、迷ったときに進む指針でもあり、決して曲げることはできない生きる理由。
「おお、異世界よりきた英雄よ。私の名前はオルスト皇国の第一皇子クライン=ベルギーナ=オルスト。オルスト皇国を含めた<ミルガトース>を侵略しようとする魔王<ケイオス>を倒すための力となってくれ」
そんなルークにとって、世界を守るために英雄召喚の儀式を行うクライン皇子は正義の象徴の一つだった。国政を司りながら、同時に世界を守る要である英雄を呼び出す。その偉業を称え、そしてそれに応えようと尽力する。
――ここでルークが周囲に目を置く程度の落ち着きがあったら、クライン皇子の人柄や行動などが目に映っただろう。そして彼の『正義』に基づき、何らかの干渉があったのかもしれない。
だが、ルークはただ魔王<ケイオス>に目を向けた。人を繰り占めるモンスターを送り出す魔王。その存在に注視した。そして世界は広く、モンスターに苦しむ人は多い。結果、ルークはクライン皇子の悪行に触れる機会はなかった。
ルークの頭の中では『クライン皇子は世界を守る英雄を召喚する善人』だったのだ。
「なにぃ!? クライン皇子を足蹴にしただと!」
そんなルークの耳に、そんな報告が入る。トーカが闘技場でクライン皇子を蹴っ飛ばした話だ。その結果、周囲の貴族は『皇子はしばらく療養すべし』と判断してクライン皇子を隔離したという。
「あのクライン皇子が『傾国の指輪』を使って、人を操っていた……? ならばその証拠を示してもらおう!」
闘技場での詳細を説明されても、それ自体を信じない。頭が固い、というわけではない。悪事の証拠をみせればルークも納得しただろう。人の証言ではなく、物的な証拠などだ。言葉などいくらでも繕える。確固たる証拠がなければ信じないのは、ある意味当然といえよう。
「その、指輪は聖女様が破壊されて――」
「その指輪が『傾国の指輪』であった証拠がどこにある! すべてが虚偽の可能性もあるのだぞ!」
そうは言われても。言いつのろうとする貴族。クライン皇子が自分に逆らう相手を洗脳していたのは、皆が黙認していた。皇子に逆らわなければ安泰ということもあって、寄らば大樹とばかりに皆が協力してその証拠を消し去っていたのだ。
英雄のほとんどはそれを知らない。知っているのは洗脳されて逆らえないほどに屈服した者か、あるいは知りながら皇子に協力しているものか。ルークはそのどちらでもなかった。洗脳するまでもなくレベルを上げモンスターに挑むので、その必要がなかったのだ。
「わかった。証拠はないというのだな。では皇子に会わせよ! 直接話を聞かせてもらう!」
「なりません。皇子は療養中です。いかにルーク様とはいえ、今はお控えください」
ならば皇子に直接真相を聞こうとするが、貴族たちは総出でルークを止める。表向きの理由はケガを癒すため。だが本当の理由は皇子をできるだけ隔離したいのだ。
「くぅ!? ならば聖女コトネだ! 彼女はどこにいる!」
「聖女様は魔王討伐の旅に出られました。見張りの名目で、件の遊び人トーカと一緒に」
遊び人トーカ。その名前を聞いて、ルークはこぶしを握り締めた。
ガルフェザリガニを倒したという虚偽報告により投獄。罪を雪ぐはずの闘技場において、対戦相手をののしるなど反省の色は見えない。
そして最後の戦い。そこで観戦していた皇子に襲い掛かる。親衛隊を足蹴にして罵り、皇子に暴行を企てる。その結果クライン皇子は『療養』することとなった。
「英雄の力は魔物に向けられるべきもの。それを皇子に向けて放ち、そして政治から離れなければならないほどの傷を与えるなど、許されることではない!
聖女コトネが見張っているとはいえ、そのような英雄が人の住む町にいるなど……!」
皇子の『療養』はあくまで表向きの理由で、本当はダメージは大したことはない。だがルークはそうは思わなかった。闘技場で連戦連勝したほどの強さだ。名うての戦士か、格闘家か。少なくとも力に長けた存在だとみていた。その一撃を受けて『療養』するに至ったクライン皇子の状態は聞くに堪えぬものだろう。
……まあ実際は、療養という名の軟禁状態なのだが。
そしてルークは英雄トーカの情報を調べる。チャルストーンの話を聞いた兵士による報告によると、
「聖女コトネと遊び人トーカは、オーガキングを倒したようです! これによりオーガ軍は撤退。チャルストーンに平和が戻ったとのこと」
兵士の報告を受けて、ルークは表情を歪める。オーガにも生態系や生活はあったのだろう。それを破壊してしまったのは、悔やむべきことだ。確かにオーガによりチャルストーンの平和は脅かされていただろうが、過剰な暴力は許されるべきではない。
だが、彼女たちにも言い分はあるのだろう。それを確認しなければ。ともあれ二人でオーガキングを倒す英雄だ。ならばかなりレベルの高いのだろう。あるいは、装備が強いか。
「分かった。相応の高レベル、もしくはかなりの装備を有している二人組ということか。聖女なら聖武器だったな。その武器に見合う心を持っているかどうか、確かめなければ――」
「いえ、なんでも聖女コトネが装備していたのは『赤い稲妻』と呼ばれる鎧……? ともあれ聖武器ではないようです。遊び人トーカも裸に近い服装だったようで」
「なんだと?」
「遊び人トーカは聖女コトネを囮にして戦ったようです。防御力皆無の聖女コトネは聖なる歌で防御。威光を放って身を守りながら、攻撃をしのいでいたと。
その隙をついて、遊び人トーカはオーガキングを倒したと聞いています」
「聖女を裸に近い格好にさせて囮にして、隙をついてモンスターを倒した……だと」
淫らにして卑劣。それはルークの『正義』に反する行為だ。そのような手段でこの世界で生きるオーガの生活を破壊した、というのか。
「おのれ! 聖女に淫らな格好を強要して囮にし、卑劣な手段でオーガの王を倒した卑劣な遊び人トーカ!
闘技場で罪を雪いだかと思ったが、どうやら反省の色はないようだな! この天騎士ルークの正義が、貴様を裁く!」
――そして、ルークはチャルストーンに向かう。
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