13:メスガキはレアな剣を手に入れる
<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>
<イザヨイ・コトネ、レベルアップ!>
<条件達成! トロフィー:『ボスキラー』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>
<イベント終了! オーガキング撃破により、モンスター出現率が通常に戻りました!>
脳内に届くレベルアップのファンファーレを聞きながら、アタシはぺたりと腰から崩れ落ちた。
最後はまあ、なんかウソみたいに<古呪>の行動不能効果がはまってたりしたけど、実際は何時逆転されるかわからない状況だった。バッドステータスが上手くはまらなかったら、聖女ちゃんがやられていた可能性は十分にあった。
赤い稲妻と【威光】。プリスティンククロークと【ハロウィンナイト】。このコンボが無かったら、確実に押し負けていただろう。
にしてもレベル80のボスを撃破か。30も上のボスを二名で倒すとか、すごくない? まあ、半分はアタシの知識だけどね! でももう半分は聖女ちゃんの存在なのは否めない。
アタシは座り込んでポーションを飲んでいる聖女ちゃんに声をかける。
「ねえアンタ。そのビキニずっと着る気ない?」
「ありません!」
ちぇー。
「はっ、オーガキングに捕まった人を助けないと! 生きているといいんですが……!」
そして立ち上がって、オーガキングに捕まった人達を助けるために動き出す聖女ちゃん。まだ足取りもフラフラなのだが、それを気にしている様子はない。ブレないわよねー、あの子。
「ちょっとぐらい休んでも罰当たらないでしょうに、もう」
言ってアタシもオーガキングの方に近づいていく。HP自体は問題ないけど、棍棒の衝撃波で何度か飛ばされたりして体がじんじんする。痺れてる程度の違和感なんで無視できる程度だ。
「今すぐ癒しますね」
「おお……。ありがとうございます……」
拘束を解いて意識の有無を確認した後に、聖女ちゃんは【聖歌】で捕まっていた人達を癒していく。
「貴方こそまさに聖女……聖女……えーと……」
「あのオーガキングを倒すほどの戦士……戦士?」
喋れるほどに回復した人達は、アタシと聖女ちゃんの姿を見て首をひねる。彼らの目に映るのは、癒しの歌を使うろりきょにゅービキニアーマーとナイフもった原始人の少女。うんまあ、言いたいことは解るわ。それ以上何も言わないのは、きっと彼らの優しさね。
「その、あまり、こっちを見ないで、ください……」
その視線に気づき、アタシの後ろに隠れるように移動する聖女ちゃん。そしてアタシの背中越しに癒しの歌を奏でる。
「もー。あんだけ人を助けたいって言ってたんだから堂々としてなさいよ」
「や! やめ、トーカさん、お願いですから……!」
言ってササっと移動すると、顔を赤くしてすぐにアタシの後ろに移動する聖女ちゃん。マジでだめらしい。
「逆になんでトーカさんはその格好で大丈夫なんですか……?」
「そりゃ性能いいしね。それにこの服可愛いもん。アンタの服だって、タンクするなら悪くない性能よ」
「そうかもしれませんけど……。納得いきません……」
ぎゅっとアタシの服を掴んで逃さないようにする聖女ちゃん。ちょっと苛めすぎたかな。
「あの、ありがとうございました。感謝します」
「貴方達の事は、街に伝えておきますので」
十分に回復したNPCズはいたたまれなくなったのか遠慮がちに手をあげて、礼を言ってくる。そのまま街に向かって移動していった。ゲーム処理だと瞬間移動して『そんなことできるなら、捕まった時にやれよ』とか言われたんだけど。
「あの! できればこの格好の事はぼかして……いいえ、忘れてくださるとありがたいんですけど!」
必死に叫ぶ聖女ちゃん。その声が届いたかどうかは分からないけど、まあそこはどうでもいいわ。
「先ずはドロップターイム。さあ、レベル80のボスは何を持ってるのかなー?」
ボスキャラを倒した報酬の確認だ。このドキドキ感がたまらないのよね。
でもまあ、実の所あまり期待はしていない。オーガキングはパワー系ボスで、そのドロップアイテムもパワー系。重戦士が使うような武器や、筋力増加系の装備アイテムが中心になる。アタシや聖女ちゃんが装備しても役立ちそうなものはあまりない。
「まー、予想通りよね。店売り品ばかり。アタシらが装備して役立ちそうなものはないわね」
「そんなものなんですね」
ドロップアイテムを見ながら聖女ちゃんも気のない相づちをつく。興味がないよ言うよりは、アイテムの価値が分かっていない部分が大きい。物欲自体もあまりなさそうだけど。
「この辺はレア売り掲示板とかあれば取引できそうだけど、どうなんだろ?」
アタシは自分の身長よりも大きい剣を手にしてため息をついた。ネットがあれば取引掲示板に書き込んで他のプレイヤーに売ることもできるけど、そんなのなさそうだしなあ。
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★アイテム
アイテム名:ライトニングバスター
属性:大剣
装備条件:ジョブLv60以上
筋力:+75 <雷>属性付与
解説:雷神より授けられた剣。その一撃は稲妻の如く。
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中堅ランク重戦士垂涎の一品だ。かなり強い武器だけど、アタシや聖女ちゃんには不要である。とりあえず<収容魔法>内に入れて、確保した。
「掲示板……そう言う取引をする場所はあるんじゃないでしょうか?」
「あー。英雄組合とかその辺かー」
英雄組合。<フルムーンケイオス>におけるプレイヤーキャラのみが入れる集会場だ。他のゲームだと冒険者ギルドだとかサロンだとかそう言うのに相当する。
アタシの場合、その辺に向かう間もなく盗賊退治に出かけたりしてたんで無視してたんだけど、そこで声をかければ剣を欲しい人が見つかるかもしれないわね。
「そうね。捨て値でいいから売っちゃおうか。それでいい装備買って次の狩場行きましょう」
「出来ればこの水着はもう着たくないです……」
「【聖武器】が2になって、まとまったお金が入るまではガマンしてね。
もう一回だけ聞くけど、それずっと着る気ない? 性能的に悪くないんだけど」
「い・や・で・す!」
アタシの提案を断固拒否する聖女ちゃん。一片たりとも妥協の足掛かりはない。
「ちぇー。ビキニでからかうのはもうお終いかー」
「あー、からかうって言いました! 性能とか関係なかったんですね!」
「やっば。いや、性能がいいのは間違いないんだけどね。まあ、色々おもしろかったし」
「トーカさん! いいですか、貴方はもっと慎みを――」
聖女ちゃんの説教を『あー、はいはい』とか言いながら聞き流すアタシ。それに構わず大声で説教する聖女ちゃん。
次はどこに行こうかな。そうね、聖女ちゃんの癒し系称号獲得の為にアンデッド狩りもいいかも。レアアイテム狩りはもう少し先になりそうだし、ゆっくりレベル上げよっか。
「聞いてるんですか、トーカさん! そもそも貴方の格好も――!」
「大丈夫、聞いてる聞いてる」
「トーカさんは可愛い女の子なんですから、もう少しきちんとした格好をしないと不埒な男の人が――」
うんうんと適当に相づちを打ちながら、アタシはさほど居心地が悪くない自分に少しだけ驚いていた。最初はこの子がアタシのバステだ、とか思ってたのになあ。
「お菓子は一日一回! お夜食禁止! 脱いだ下着は片づけて――!」
まあ、鬱陶しいのは変わりないけどね。
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