8:メスガキは照れたりなんかしない
「…………」
「…………」
色々終わって冷静になったアタシと聖女ちゃんは、互いにそっぽを向いていた。なんというか、顔を合せずらい。
いや、アタシはいいの。アタシはいいんだけど、聖女ちゃんが我に返って自分の暴走っぷりに反省して『しばらく話しかけないでください』とかいうから、まあしょうがなくアタシも色々と空気読んだだけで。
うん。そんだけよ。けしてあんな顔の聖女ちゃんを見て動揺なんかしてないし、アタシもあんな顔を見られて恥ずかしいとか思わない。あれはアビリティを身体に刻む際に必要なことで、やましいことなんかないんだから。
『やめっ、ら、らめ……だめぇ……!』
『んくっ、んんうっ、ふっ、にゃぅ!?』
『ひゆっ……ひゃあ、んくっ、んんうっ……!』
『トーカさぁん……。ふふふ、嬉しい』
『ん……』
…………。恥ずかしくは、ない。ないったらないわ。
ないんだけど――二度とこの件はネタにすまい。もう聖女ちゃんの暴走に巻き込まれるのはごめんよ。アタシは硬く心に誓うのであった。
うん。そう決めたんだからこの話は終わり。もう、気になんかしないわ! 深呼吸して頬を叩き、気分を切り替えた。
「レ――レベルも上がった事だし、そろそろ行くわよ」
ちょっと声が上ずったかもだけど、何とか言葉にできた。アビリティの確認と、戦術の相談をしないと。
「は、はい……。その、あまりよくわからないんですけど、【聖体】と【威光】……?」
「うん。キモは【威光】のほうね」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
★アビリティ
【聖体】:神に認められた聖なる体。その力を開放せよ。攻撃が【聖人】レベルに比例したダメージ分増加。攻撃が聖属性に変わる。MP5消費
【威光】:聖なる者が発するオーラは悪を退ける。【聖人】レベルに比例した被ダメージ減少。攻撃してきた相手に<盲目>を与える。MP15消費
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【聖体】はぶん殴るダメージ増加と攻撃時の属性付与。武器攻撃する系の『聖女』のベースともいえるアビリティだ。アンデッドや悪魔の沢山いる場所で超役立つバフ。
で、キモは【威光】。【聖人】のスキルレベルに比例したダメージ減少で、カウンターで相手を<盲目>にする。<盲目>は以前アタシも使ったけど、命中率減少のバステ。これが自動カウンターで決まるのだ。
つまり【聖歌】で歌っていても、カウンターで相手をバステにできるという超お得状態だ。
「わ、わ、すごいです。そんなことが」
「まー、『聖女』でタンクやりたいとかいう人がいなかったんで、【威光】がメインになるとか普通ないわ。<フルムーンケイオス>でもあまり注目されなかったアビリティよ」
『聖女』と言えば、魔力特化の回復支援役か聖属性の武器使いだ。防御に回るなんてまずいない。専門の重戦士系の方が防御力も高く、ヘイトを稼ぐアビリティもある。
だけとタンクの在り方は防御を固めるだけではない。要は味方を守れればいいのだ。硬い防御で攻撃を一手に引き受けるのもタンクだし、広範囲を【聖歌】で守りながら周囲にバステを振りまいて弱体化させるのもアリ。その気になれば、広範囲の回復もできるのだ。
……あれ、割とありじゃない? 魔力特化聖女タンクって、結構イケてない?
「トーカさんは、何を取ったんです?」
「アタシは【食う】を4レベルまで上げたわ。いつか取ろう取ろうと思ってて、色々あって先延ばしにしてたんだけど」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
★アビリティ
【スパイス!】:自分好みに味付けよう!『消耗品:食べ物』の効果が『遊び人のレベル(最大30)%』上昇する。常時発動。
【ピクニック】:皆で一緒に食べましょう。『消耗品:食べ物』を使ったとき、その効果を周囲にいる味方まで影響させる。MP10消費。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【スパイス!】は食べ物系の効果増幅。食べ物系は安いけどポーションより回復量が少ない。だけどこれがあればそれなりに回復量が増えるわ。
で、【ピクニック】は食べ物効果を周りにも発揮させるわ。例えばHP回復ならアタシが食べれば周囲の味方も回復するって事よ。効果は【スパイス!】の結果も乗るから結構便利。
「四男オジサンと言い囚人イベントと言い、アタシの予定が色々潰れちゃったからね。ここらで予定通り回復量の底上げよ」
全く、ガルフェザリガニとか囚人イベント突破とかでいろいろ回り道したけど、これで回復面で安定するようになったわ。
「ありがとうございます、トーカさん。歌で動けない私の代わりに、回復をやってくれるんですね」
「これは次の【食う】アビリティの繋ぎよ。強いんだからね【精吸収】と宝石のコンボ」
そうよ。【ピクニック】は繋ぎ。もともと
「でもまあ、どうしてもっていうなら助けてあげる。トーカの優しさに感謝しなさいよね」
「はい、感謝します」
「冗談の通じない子ね。嫌味とかそういうのと無縁だったの?」
「え? トーカさんは優しいですし、感謝の気持ちも素直な意見ですけど?」
……うわー。なんていうか人を見る目のない子。アタシが優しいとか、ないない。
アタシはゲーム知識とか知らない聖女ちゃんに知識マウント取ってるイヤな子で、タンクにしてるのも利用してるだけなんだからね。その辺理解してるのかしら。
そんなことを考えてたら、オーガ2体と遭遇する。こっちを見つけたのか、早速【ハングリースタイル】を使ってから襲い掛かって来たわ。
「基本的な動きはあまり変わらないわ。『赤い稲妻』で引き寄せて、その後は【威光】を使ってから【深い慈悲】で防御。で、アタシが敵を倒していく形よ」
「はい。敵はよろしくお願いします」
「そんじゃ行くわよ!」
オーガ2体が聖女ちゃんに向かう。アタシは一体に【微笑み返し】を仕掛けて<困惑>させて、
「魔よ、退け」
言葉と同時に聖女ちゃんを包む淡い光。その後で【深い慈悲】をかけて二重の防御バフを完成させる。
「フンガアアアアアア!」
「……っ。あ、れ?」
オーガの拳が聖女ちゃんを捕らえる。痛いことは痛いんだろうけど、その衝撃は思ったより強くなかった。そんな顔をする聖女ちゃん。
「後ろ、隙だらけ。ここ弱いんだぁ」
そしてアタシは狼パーカーに着替えての攻撃で、一気に2体のオーガを葬り去る。
「すごい……あまり痛くありませんでした。痛いことは痛いんですけど」
「そりゃそうよ。防御に防御を重ねたんだから。それでもオーガ相手だと長くはもたないだろうけどね。――はい、食べる?」
「あ。いただきます」
アタシが用意したビスケットを食べる聖女ちゃん。【ピクニック】+【スパイス!】の効果で、アタシと聖女ちゃんのHPが同時に回復した。
「感覚もつかめたでしょうし、ガンガン行くわよ! オーガを根絶やしにしてやるんだから!」
「根絶やしは流石に……でも、これも人の為です」
こうして、タンクに目覚めた聖女ちゃんとアタシのオーガ狩りは再開されるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます