7:メスガキと聖女はジョブレベルを上げる

 そこからは怒涛のオーガ狩りだった。


 オーガが4体出てくることは結構稀で、基本2体、時々3体と言った感じで遭遇した。出会い頭に【ハングリースタイル】を使い、『赤い稲妻』を着ている聖女ちゃんに突撃してくる。この脳筋オジサンは、ワンパなんだから。


 レベルアップしたこともあり、4体の時ほど酷いことにはならないわ。それでも痛いもんは痛いし、ミスれば全滅なのは変わりない。それでも余裕はあるわ。1体を聖女ちゃんが足止めし、アタシが残ったオーガをバステでコントロールして、クリティカルでがしがし倒していく。


<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>


<イザヨイ・コトネ、レベルアップ!>


 ここに来て何度も聞いたレベルアップファンファーレ。このレベル帯でレベル50モンスターを立てつづけに狩れば当然の話なんだけど、インフレレベルで強くなっていくわ。


 ……まあ、レベルが上がり過ぎてオーガ以外の山のモンスターのレベルを上回って、『格上殺し』系トロフィーの固定ダメージが対象外になったのは、ちょっと面倒。アタシの素の攻撃力だと、トロフィーの固定ボーナスがないとダメージがあまり通らないのだ。強引にクリティカルで突破するけど、うっとうしい。


 そして聖女ちゃんの方も大きく進展する。


<条件達成! トロフィー:『優しき者』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★トロフィー

優しき者:1000人を癒した者に与えられるトロフィー。聖魔法と回復系魔法の効果が常時上昇。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 おー。予想より早いわね。


 御覧の通り、ヒーラー系のトロフィーよ。ヒールした相手の数で貰えるトロフィー。同じ相手に複数ヒールをかけた時には適応されない(午前8時にリセット)から、結構時間かかると思ったんだけど。


 回復魔法の効果増大も大きいけど、もらえるスキルポイントも30ポイントと多い。ある意味努力の結果だ。


「トーカさん、スキルポイントが100になりました!」


 おかげで聖女ちゃんタンク計画の第一目標に到達できたのである。


「これでようやくまともな服が着れるんですね。こんな水着じゃなくて」

「あ、ごめん。『赤い稲妻』はそのままだから」

「……え?」

「それを脱ぐのは【聖武器】を2にして【聖装】取ってからかな。スキルポイントがもう30必要だし、お金も結構かかるからだいぶ先になるわ」

「…………はぅ」


 露骨に落ち込む聖女ちゃん。


「ちなみに完成型は【聖人】Lv6と【聖武器】Lv6だから、あと320ポイント。レベルアップだけだと64ほど先になるけど」

「はぅぅぅぅ……」


 まあ、トロフィーとか取ってスキルポイント稼ぐけどね。でもそれぐらいキッツい道だ、ってのは知ってもらいたい。


「まだ引き返すことはできるわよ。どーする?」

「いいえ。やります」

「別にタンクじゃなくても人は助けれるわよ。っていうか『優しき者』ゲットできるぐらいにヒールしてるんだから、そのままの路線でも聖女ムーブで人を助けれるじゃないの」


 なんていうか、無理してタンクしなくてもいいんじゃね? って思った。そんな何とはなしに言った言葉に、


「でも、それだとトーカさんがずっと痛い目見ることになります」


 なんてことをこの聖女ちゃんは返しやがった。


「私、トーカさんが痛い目を見るのが嫌なんです。

 いいえ、トーカさんだけじゃありません。誰かが痛い目を見るのは嫌なんです」


 何このイイ子ちゃん。


「あの、ね。誰も傷つかないとかそんなの無理――」

「無理なのはわかっています。現実が見えていないっていうのも知っています。

 でもわがまま、言っていいんですよね。だったら言います。私は、皆を守りたいんです。傷つくところなんか、見たくない」


 呆れたように言うアタシに、はっきりきっぱりと言葉を返す聖女ちゃん。テコでも動かないっていう顔をしてる。


「確かに回復兼タンクがいると、狩りがしやすいっているのはあるわね」


 実際、パーティプレイに置いてアタッカーとディフェンダーの役割分担は重要だ。そして高レベルのオーガを狩るには、このチーム構成がキモの一つになった。


 うん、じゃあスキルとってもらおうか。


「じゃあ、【聖人】を4レベルまで取ってちょうだい」

「はい。…………えーと」


 頷いた後で、聖女ちゃんはしどろもどろになる。あれ?


「どうしたのよ? もしかしてやり方分からない? ウィンドウのスキルの所を――」

「いえ、その。やり方は解ります。何度かやってましたし。その」

「その?」

「……あの感覚は流石に。誰もいない所でやりたいんですけど……」


 あの感覚。


 そう言った聖女ちゃんの顔は赤く、アタシの目をまっすぐに見れないほど恥ずかしがっていた。


「そこの岩場の影なら――」

「出来れば室内で! その、一人でやりたいんですけど!」


 一人でヤリたい。ここだけは譲らない、とばかりに聖女ちゃんは叫ぶ。


 言外に察してくださいと睨みつけてくる聖女ちゃんを見ながら、アタシは心の中の悪魔が微笑むのを感じていた。


「えー。でも宿に戻ってここまで帰ってくる間に、オーガが誰かを襲っちゃうかもだよー」

「う。……それは」

「そんな人を見捨てちゃうのは可哀想じゃない? アンタがちょーっと恥ずかしい目にあうだけで、その人が救えたかもしれないのになー」

「あううう……!」


 本気で悩んでる。あー、おかしい。


 でも流石にいるかどうかも分かんない事でイジメるのは可哀想かな。アタシだって緊急時だったから戦闘中に『ああいう』ことしたけど、冷静になれば確かにヤな話だ。


「ま、しょーがないから――」

「分かりましたっ。ただし条件があります!」


 一旦宿に戻りましょ、と言おうとしたアタシに聖女ちゃんが顔を真っ赤にして叫ぶ。


「トーカさんも一緒にジョブをあげてください!」

「……へ? なんで?」

「一人だと恥ずかしいからです!」


 え? え? なんかものすごい勢いで迫ってくる聖女ちゃん。お、落ち着いてー。


「その、一人でも二人でも恥ずかしいものは恥ずかしいっていうか。やっぱり宿に戻ってからの方がいいかなー、てアタシは」

「オーガが誰かを襲うかもしれないんです。早く!」

「は、はひぃ!」


 完全にテンパってる聖女ちゃん。もう頭の中には『恥ずかしい』『早くジョブアップを終わらせたい』ぐらいの思考しかないのだろう。


 こうなったら、フリで誤魔化して――


「ジョブアップしたフリとかしないでくださいね。そんなことしたら、泣きますから!」

「あ、アタシがそんなことするわけないじゃないの。もー」


 う、釘刺された。勘がいいわね、この子。


 まあでも、タンクやってもらえるなら取らないといけないジョブもあったし。どうせとるつもりだったから、まあいんだけどさー。


「……本当にやるの? その、アタシちょっと恥ずかしくなったんだけど」


 お互いの顔が見えるように、聖女ちゃんと向き合うように両手を繋いで向き合ったアタシ。


「こ、ここまで来て後には引けません。さんにいいちで、いきますよ」


 両手を繋いだ状態のまま、真剣な表情で言う聖女ちゃん。これ、やらなかったら後でものすごくネチネチ言われそうだ。泣く、とか言ってたし。うん、仕方ない、わよね……。


 両手は使えないけど、実際に指でフリックしなくても意識だけで画面を動かせる。ショートカットとかそういう感じだ。


「一緒に、ですからね。じゃあ……さーん」

「にー」

「いーち、っ、はい!」


 合図と同時にスキルを一気にレベルアップした。


「やめっ、ら、らめ……だめぇ……!」

「んくっ、んんうっ、ふっ、にゃぅ!?」


 同時に突き抜けるような感覚。意識を奪うような強い電撃が体中を駆け巡る。ねっとりと全身をなめとられるようなぬるぬるした感覚と、太い棒で力強く蹂躙される感覚。全く違う感覚が同時にアタシと、そして聖女ちゃんを襲った。


「ひゆっ……ひゃあ、んくっ、んんうっ……!」


 アタシの目の前にはその感覚に翻弄される聖女ちゃんの顔。普段の何でもがんばるマジメちゃんの顔は緩み、熱っぽい吐息と熱情に流されそうな甘い顔をしている。


 きっとアタシも同じ顔をしてるんだろう。そしてそんなアタシの顔を、聖女ちゃんも見ていた。


「トーカさぁん……。ふふふ、嬉しい」

「ん……っ」


 そんな熱に身を任せるようにアタシたちは荒い呼吸を繰り返し、どちらともなく抱き合うように崩れ落ち、膝をついた状態で互いを支えてあっていた。

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