29:メスガキは皇子を殴る
「私、は……」
【パリピ!】の効果で<魅了>が解けた聖女ちゃんは自分を取り戻したのか、杖を落して自分を抱くようにする。
【パリピ!】で解除できるバッドステータスはジョブレベルの数まで。<魅了><洗脳><喪失>の3つ中から2つ解除される。なので実は<魅了>が解除されない可能性もあった。
うん。良かった。
「なーんて平和的に終わるわけないでしょ!」
【人に善意あれ】の効果でバッドステータスが無効になっている間に【早着替え】でバニー服に着替え完了! そのまま真っ直ぐ皇子の元に走っていくアタシ。【カワイイは正義】も発動よ!
「皇子を守れ!」
「親衛隊を侮るな――うぐぅ!」
そうはさせじと、皇子を守る兵士がアタシに割って入る。豪華な装備を持つ強そうな兵士。
だけど今のアタシはHP一桁のクリティカルバニー状態。おまけに【笑裏蔵刀】もあるから、一撃必殺。3倍クリティカルキックをお見舞いよ!
「く・そ・ざ・こ♡」
「あは。そんな所で寝ちゃって、トーカに踏まれたいの?」
跳躍と同時に回転するような動きでケリを叩き込み、髪をかきあげるようにして倒れた兵士達を見下すアタシ。
「なにぃ!? 遊び人如きに負けるとは、何たる惰弱! 皇国親衛隊として恥を知れ!」
いやまあ、この親衛隊? がアタシよりもレベルが高いから『格上殺し』系の固定ダメージが入ったんだけどね。まあそれはいいや。
「やだー。もしかして皇子様って兵士に守られないと何もできないの? さっきまで偉そうにしておいて、情けなーい」
「黙れ! わたしに手を出してみろ。国家反逆罪で死刑だ!」
「それってこの国のヒトがトーカを捕まえれたら、の話よね? こんなよわよわおにーさんがトーカを捕まえる事、出来ると思ってるの? もしかして頭弱いの?」
うぐ、と呻く皇子。
自慢の親衛隊をこうもあっさり蹴散らしたアタシの実力を前に、ぐうの音も出ない。悔しそうに歯を食いしばり、そして――笑顔を浮かべながら立ち上がった。
「見事だよ、遊び人。キミの勝ちだ。その健闘を称えて握手を――」
「きーっく!」
「ぐぼはぁ!」
なんかいきなり似合わないイケメンムーブしたので、キモくて蹴っちゃった。
皇子はアタシよりレベルが低いのか『格上殺し』系の固定値は乗ってないようだ。倒れてはいるけど、まだ意識はある。
「な、なぜ私が洗脳しようとしたことに気付いた……?」
あ、そうだったんだ。
聖女ちゃんも<魅了>されてたし、その可能性があったわね。流れ的に触れると<魅了>がかかる魔法を使おうとしたか、アイテム持ってるって事か。あ、それって……?
皇子の指にあるアイテム。あれは――
(ああ! あの指輪『傾国の指輪』じゃん! 超々レアアイテム! 欲しい! あれあると無敵じゃないの!)
<魅了><洗脳><喪失>が乗るデバッファーの極み。精神系バステが効く相手ならほぼほぼ完封できるぶっ壊れアイテム。
超ほしい! っていうかもらうわ。アタシのものよ!
まさかこんな初期で手に入るなんてねー。アタシの日ごろの行いだわー。えへへー。
倒した相手からドロップするのはゲームの基本だし、早速頂くと――
「皆さん、聞いてください!
第一皇子クライン=ベルギーナ=オルストはこの指輪で多くの人を洗脳し、自分のいいように操ってきました!」
アタシが皇子に近づくより前に、聖女ちゃんが倒れた皇子の腕をつかみ、そう叫んだ。その言葉に会場はざわめく。
「皇子が……」
「いや、それは……」
「ほかならぬ聖女コトネが糾弾するのなら……」
そのざわめき方は『皇子がそんなことをするはずがない』というのはなく『皇子の所業は知ってたけど、それをここで暴露するのか?』という感じだった。皇子を恐れて目を伏せていたことを明らかにされて、どうするか迷っている声。
どうやらみんな、皇子の独裁は心のどこかで良く思ってなかったようね。でも逆らうこともできず、長いものに巻かれるように従っていたのかな? なっさけないなぁ。
「魔の力により人を支配し、己が儘に君臨する。これと魔王<ケイオス>とどう違うのでしょうか!
クレスト皇国の民よ、今ここに目覚める時です! 魔なる指輪による支配ではなく、人の統治による繁栄を!」
言って聖女ちゃんは皇子の指から指輪を抜き取る。ちょ、そのドロップ権アタシにあるんだけど! いやまあゲームじゃないからそんなこと言ってもアレなんだけどさあ――って?
「指輪により人生を曲げられ、多くの罪と咎が生まれました。……それはけして消えず、残り続けます。
ですが、人はやり直すことが出来ます! ここに魔は砕れ、新たな一歩を進むのです!」
聖女ちゃんは指輪を天高く掲げ――指に聖なる力を込めて砕いた。ぱりーん、という清らかな音と共に、『傾国の指輪』は粉々に粉砕される。
――ゲーム処理的には『ゴミ箱』に捨てたわけだけど。
って! 何してんのよあの子!? 『傾国の指輪』破棄しちゃったーーー! ああああああああああああああああ………………! キュウビの超レアドロップアイテムなのにぃぃぃぃぃぃぃぃ!
東国エリアの最難関ダンジョン『オンミョウシティ・キョウ』のボス。出現条件が厳しいボスを倒し、運が良ければ出るかもしれない指輪、が………。
「すみませんでした。操られたとはいえ、貴方を散々殴ってしまいました。謝ったところで許されるとは思いません」
アンタ、それ以上の理由で許されないことしたんだからね。もう、もう、もう!
「そしてありがとうございます、トーカさん。貴方がいなければ、私はずっと皇子に捕らわれたままでした」
崩れ落ちるアタシに肩を貸し、起こしてくれる聖女ちゃん。拒否するだけの体力も気力もなく、そのまま抱えられる。
「私は友人であるトーカに助けられ、そして支えられました。それが無ければ魔の支配からの脱却はなかったでしょう。
どうか、どうか私の友人に惜しみない拍手を!」
聖女ちゃんの言葉に、最初はまばらだらけど少しずつ拍手が大きくなってくる。そして闘技場全体を割れんばかりの拍手が襲った。これはあれよねー。聖女か皇子かどっちにつくかを迷って、とりあえず聖女に乗っちゃえ、って感じの心境変化。
指輪のない皇子が落ち目だって判断されたのか、もともと皇子が嫌われてたのかはわかんないけど。
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
沸き上がる拍手に頭を下げる聖女ちゃん。
「このクレスト皇国の聖女として、私はトーカさんと魔王を倒しに行きます。平和な世界を取り戻し、皆さんに真の笑顔を約束します!」
そしてとんでもないことを言いやがった。え、ちょっと待ってなにをいきなり――
「うおおおおおおお! 聖女の旅立ちだ!」
「聖なる力が魔王を討つために向けられた!」
「神は、神はここに降臨したんだー!」
そして更なる歓声が沸き上がった。それだけ魔王に対する不満が高かったのだろう。大いなる期待と、そしてその未来に向けての熱を感じる。
(こ、この流れで『アタシ、ソロでやりたい』とか言えそうにない……!)
なんかもういろいろどうでもよくなって、アタシは軽く手を振った。もー、どうでもいいわ。好きにして。
――後になって四男オジサンに言われた事なんだけど。
この時聖女ちゃんが場を盛り上げてくれなかったら、アタシは皇子を殴った罪で兵士に取り押さえられーの、反感を買った観客に取り押さえられーの、街行く人に石を投げられーの、色々散々な目に遭っていたっぽい。
そんだけいきなり皇子を殴ったのはマズかったし、街の人もアタシの態度に不満を持ってたらしい。あの場で指輪パクろうものなら、大暴動だったとか。
知らないわよ。トーカはトーカの好きにするの。
……まあ、助けてもらったらしいから、お礼ぐらいは言うけどね。
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