24:メスガキは友達を作る

「――聖女コトネの話ですが」


 四男オジサンがそんな話を切り出してくる。


 場所は取調室。オジサンはケーキのお土産を持ってきて、アタシがそれを受け取ると同時に話を切り出した。


 別にどーでもいい話だけど、止める理由もないので続けさせる。


「クライン皇子は元騎士団長などの罪人を聖女様に相手させ、殺させることで力を増させたという話です」

「騎士団長……って結構強くない?」


 アタシは眉を顰める。


<フルムーンケイオス>は自由性が高く、ペナルティを覚悟すれば街を守るの騎士に攻撃できる。大抵は瞬殺されるのだが、『騎士とタイマン張ってみました』的な動画もあげられる程度には戦える。


 騎士団長ぐらいだと、お前が魔王退治に行けよ、ってぐらいに強かったはずである。


「はい。天馬騎士団として名を馳せていた御方で――」


 ここから声をすぼめる四男オジサン。見張りの兵士も、耳をふさぐポーズを取った。いつもの『私は関係ありません』ポーズだ。


「クライン皇子を諫めようとしたのですが、それを反逆罪と受け取られたようです。なんでも『召喚された英雄への高待遇』と求めたとか」


 あー。あの皇子だし、そう言う流れになりそう。


 高レベルの相手を殺してレベリング。それ自体はアタシもやったし、別に普通の行動だ。何か言及することはない。


『――ころさなくて、よかったんですか?』


 何も言うことなんてない。


『だれもころさなくて、よかったんですか? こんなつらいおもいをしなくても、よかったんですか?

 むりやりぶきをもたなくても、いのちごいするひとをころさなくても、よかったんですか?』


 ないったらない。


 あの子が泣こうが苦しもうが、皇子にどんなことをされてようが関係ない。


 この事はオジサンが勝手に調べたことで、アタシは何も知らない。


「あー、うん。そうなんだ。アタシにとってはどーでもいい話だったわ」


 ホント、どうでもいい話だ。そんな事よりもアタシは今日の事を考えないといけない。


 悪魔との戦い。囚人イベント難敵の一角。それをどう乗り切るか。


「そんじゃ、行ってくるわ。今日もサクッと終わらせて、ケーキ食べて寝るの」

「聖女様の調査は続けますか?」

「どーでもいいわよ、そんなの。好きにしたら」

「ではそのように。本日も頑張ってください」

「とっととイベント終わらせて、レベリング再開しないとね。とんだ足止めよ!」


 言いながら闘技場に向かう。


「――選ぶがいい!」

 

 セリフのほとんどを聞き流し、アタシは武器を選ぶ。防具はいつもの服でいい。そしてとある呪いの武器を迷いなく選ぶ。


「それは、この闘技場で誰も選ぶことがなかった『死神の手』! 気でも触れたか!?」


 死神の手。


 手袋のような形状だけど、武器扱い。攻撃力は皆無だけど、確率で相手を一撃で殺す即死効果を持っている。ただし同確率で使用者も即死するため、ギャンブル性の高い武器になっていた。


 メタ読みすると、どうしても勝てない相手に対抗するための救いの手だ。だが、


「そうか。相手が悪魔と知って起死回生の策にかけたのだな。

 しかし無知無学とはこのことか。悪魔は抵抗力が高く即死が効きにくいことを知らなかったのか?」


 そしてその即死確率は、レベルと抵抗と幸運の値が作用する。高ければその分即死しにくくなるのだ。

 悪魔は種族的にも抵抗が高く、幸運も低いとは言えない――っていうか基本的に高水準で人間よりステータスが高いのだ。

 要するに、即死に対する耐性も高いのである。


「おおっと! 今更武器の変更は不許可だ! 恐怖におびえてくるがいい!」


 そして兵士NPCはアタシを闘技場に送り出す。今度こそ負けてこい、とばかりに声が上ずっていた。


「負けろ負けろ負けろ!」

「負けて俺達に屈服しろ!」

「『死神の手』? 勝てないと悟って賭けに出たか! 無様だなぁ!」

「悪魔相手に即死させるとか、無理に決まってるだろうが!」


 そして罵倒する観客たち。あー、もう。うっさいなぁ。


「ふん。逃げずにやってきたことは称賛に値する。そして『死神の手』とはな。確かに遊び人如きが悪魔を倒すなら、その奇跡の一手にかけるしかない」


 悪魔使いのおにーさんが、やってきたアタシにそんなことを言う。


「しかし知らなかったのか? 悪魔はかなりの抵抗力を持つ。仮に遊び人がよくやる幸運の一撃を繰り出したとしても、死に通じるかは不明だ」


<フルムーンケイオス>と仕様が同じだとすると、クリティカルヒットと即死判定は別枠。

 クリティカルを出したとしても即死判定で失敗することもある。その逆もしかり。

 ――つまり【笑裏蔵刀】で無理やりクリティカルにしても、即死にはならないのだ。


「契約に従い、出でよ悪魔! 我が敵を倒せ!」


 悪魔使いの言葉と同時に地面に奇妙な文字が描かれた赤い円が展開する。魔法陣、とか言うらしいその縁の中心に黒い何かが現れた。例えるなら、全身黒タイツのコウモリ羽オジサン。通称黒マッチョと呼ばれる悪魔モンスターだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


名前:デーモン

種族:悪魔

Lv:50

HP:659


解説:契約により召喚された悪魔。人間に召喚され、本来の力よりも弱まっている。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うーん。生理的に駄目。黒タイツ筋肉とか、アタシ駄目かも」

「そんなことを言えるのも今のうちだ。命乞いの間もなくあの世に行くがいい!」

「いのちごい」


 その単語で、ヤな事を思い出す。


『むりやりぶきをもたなくても、いのちごいするひとをころさなくても、よかったんですか?』


 …………あー、もう。


「ねえ、悪魔使いのおにーさんは聖女ちゃんのこと知ってる?」

「む、聖女コトネか。クライン皇子が気にかけていたな。多くの罪人を浄化したとして、多くの人の前で褒めたたえていたぞ」

「罪人の浄化、ね」


 脳裏に浮かぶ、あの泣き顔。

 逃げる事も、謝る事もできなくなり、ただ諦めたようなあの泣き顔。『罪人』を殺して、レベルを上げた聖女様。

 その結果が、あの聖女ちゃん。


「聖女コトネも皇子の隣で笑顔を浮かべていた。貴様も反省すれば聖女様に罪を雪いでもらえるかもしれんぞ」


 笑顔。


 あの泣き顔が、笑顔になるぐらいに自分を殺した子。


 皇子に無理矢理何かをされていたとはいえ、魔王を倒すために、聖女だから、そんなくっだらない理由で我慢してたんだろう。


「ばっかじゃないの」


 鼻で笑う。


 泣きたいなら泣けばいいじゃない。イヤならイヤって叫び続ければいいじゃない。


 それが許されないぐらいに厳しい環境だったんだろうけどさ。それでもそこで笑顔で我慢するなんて、ホントバカ……!


「罪? そんなのオジサンたちが勝手に決めた事でしょ。そんなのトーカには関係ないわ。トーカに言うこと聞かせたかったら、トーカに勝ってからにしてよね。

 ま、悪魔のオジサンには絶対無理なんだけどね」


「試合、開始――!」


 審判の言葉と同時に、アタシはステータスウィンドウを開く。


(ふっざけんな! わけわかんない理由で泣きながらフレンド登録するとかわけわかんないわよ、もう!

 しょーがないから、愚痴ぐらいは聞いてあげるわ!)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★フレンド申請

 イザヨイ・コトネ 様から、フレンド申請が来ています。

 承認するなら、『承認』ボタンを押してください。


 この申請は一週間後に消滅します。フレンド承認が不要の場合、このメッセージを消去してください。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アタシは『承認』ボタンをタッチする。


 ステータスに『フレンド』のタブが追加され、そこに『イザヨイ・コトネ』が追加された。

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