22:メスガキはウッドゴーレムを撃破する

「えー。それで硬くて強いつもりなの? やだー」


 アタシの言葉にゴーレムマスターのオジサンは眉を歪めた。


「自信満々になってるとこ悪いけどさー。あまり凄そうに見えないわ。なんていうか、木のゴーレムとかむしろハリボテ?

 折角なんだしオパールとかルビーとかサファイアとか、その辺出してくんない?」

「ななななななな、何を言うか!? そんな伝説級のゴーレムなど、確かに素晴らしいが!」


 ちなみにオパールゴーレムとかルビーゴーレムとかサファイアゴーレムとかは、魔王城に近郊のモンスターだ。ルビーとサファイアのゴーレムは門番ボスとして立ちふさがる。


 ……まあ、本当に今ここに出されたら手も足も出ないけど、そこはそれ!


「このトーカが相手するんだからさー。もっとキラキラしたのがいいのよね。女の子相手に、木? センスなーい」

「だ、黙れぇ! 犯罪者にはこれで十分だ!」


 笑うアタシに顔を真っ赤にするゴーレムマスターのオジサン。そして何かの呪文を唱えると、ゴーレムが動き出す。


「行け! 我が最愛のゴーレム、ミミ! クソナマイキなガキに現実を教えてやれ!」

「人形に名前つけて愛でるとかキモくない?」

「ちちちちちがうわ! 33番めのゴーレムなんだから、語呂合わせ的にだ!」


 うわー、キョドってるキョドってる。そこで恥ずかしがるならやめればいいのに。やーねー。


「試合、開始――!」


 審判が試合開始を告げる。動き出すゴーレム。そして、


「【デリバリー】――服買いまーす!」 


 試合開始と同時に【デリバリー】を使って買い物をする。パパっとウィンドウから服を選択し、【早着替え】で着替える。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★アイテム

アイテム名:エルブンクロース

属性:服

装備条件:ジョブレベル15以上

耐久:+2 敏捷:+5 <耐性>木属性:50% <弱点>火属性:50% 

解説:森の民、エルフ属が着ている服。自然を愛する力を得る


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 緑マントに緑の上着とズボン。茶色の手袋にブーツ。エルフは森に棲む耳が尖った人で、これを着ると同じように耳がピン、て尖っちゃう。これ含めての服なんだって。


 フロッガーハットと同じように、特定の属性に耐性を得て、特定の属性に弱点を得る服よ。今回は木属性への耐性。なんで炎に弱いのかな、って聞いたら、


『エルフの森は燃やされるのが作法なのだ』


 とか言われた。よくわかんないけど。


「ミミ、ゴーレムパンチだ! ……なにぃ、効かないだと!」


【カワイイは正義】で木属性に対する耐性2倍。ウッドゴーレムからの攻撃を完全カット! ウッドゴーレムの拳が、アタシの直前で止まったわ。


「そんなパンチ、トーカに当たらないわよ。ミミちゃんよっわー」

「弱いだと、そんなことは! これは何かの間違いだ!

 いいや、まだ慌てる時間ではない。あのガキは<暗闇>状態。つまりあちらの攻撃も当たらない。ついでに言えばあのガキの貧弱な筋力ではクリティカルでも出ない限りは耳の装甲を貫けない!」


 うーん。オジサン生粋の解説属性NPCね。アタシ、そう言うの大好き。


 だったら、クリティカルしてアゲル。 


「あは、弱いトコ見ーっけた。ざこざこ装甲、貫いちゃえ」


【笑裏蔵刀】で最初の一撃はクリティカル。絶対命中装甲無視攻撃。<暗闇>であっても関係ない。


『格上殺し』『勇猛果敢』『不可能を覆す者』のダメージ補正も乗って、一気にウッドゴーレムのHPを削っていく。


「ねえ。もう終わり? やだー。もっと遊ばせてよね」


 あとはなぶり殺しだ。


<暗闇>があるのでまず命中しないし、命中してもアタシの攻撃力じゃ装甲を貫けない。


 だけど何度か殴れば、クリティカルは出る。それでHPをごっそり削っていけばいい。


 何せウッドゴーレムからのダメージはアタシには届かないのだから。


「ば、ばかなあああああああ! 私の人生最高作品であるウッドゴーレムがこんなガキに倒されただ!?」


 そして、何度目かのクリティカルを重ね、ウッドゴーレムを撃破する。


「あはぁ。オジサンが一生懸命に作ったゴーレムよわよわっ。拳は当たんないし、全然硬くないし。壊しちゃってごめーん」


 崩れ落ちるオジサンを見ながら、アタシは口に手を当てて笑いながら謝った。ごめんねー。オジサンの人生最高作品、完封しちゃった。


「あのガキが勝つなんて大損だ! 俺の金返せ!」

「ふざけるな、真面目に戦え! こんなの面白くいない!」

「ゴーレムもあのガキもほとんど空振りじゃないか! 何だこの試合は!」

「あの男に金を出していた私の立場はどうなる!」

「遊び人のくせに……!」

「規定以外の装備は反則だ!」

「ロリエルフ最高!」


 そしてぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。何を言おうがズルはしていない。ただ、遊び人の強さを知らないだけの大人が騒いでるだけだ。


「その服は……」

「何よ。きちんとしたアビリティの効果よ。アビリティの使用はOKなんでしょ?」

「む……。確かに私の知らないアビリティだが、不正はない……ない」


 兵士NPCがアタシに問い詰める。同時に魔法らしいものをアタシにかけて検査したが、反則を行った様子はないと判断したらしい。そのまま解放された。


 そして闘技場から戻ると、囚人服に強制的に着替えさせられた。


「むぅ。あの服可愛かったのに」


 ため息をつくアタシ。買った服がどうなったかはわからないけど、囚人イベントが終わったら戻ってくるんだろう。そうじゃなかったら訴えてやるわ!


「ここからは自由時間だ。労働に精を出してもいいし、体を休めてもいい。

 何なら次の相手を見ておくのもいいぞ。媚を売れば手加減してくれるかもな」


 いつものテンプレセリフを聞き流し、アタシはどうしたものかと考える。


 次の相手は確か騎士の人だ。


<困惑>が効くので、そっちを軸にして攻めればまず勝てる。山賊よりはバステ抵抗率高いから何度か繰り返すか、何か服を買って対策立てるか――とか考えてたら。


「次は我が使役する悪魔が相手だ。

 クックック。貴様のはらわたは何色だ?」


 なんか違うのがいた。黒ローブを着たおじさんだ。どう見ても騎士には見えない。


「予定では皇国騎士の威厳を示す予定だったが、貴様のようなやつにはもったいないということで我の出番となった。

 我の悪魔は人の精神より上位故に<困惑>することもない。そして遊び人如きが買える低俗な服には魔の力を撥ねのける聖なる力はないと聞いている」


 うわあ、メタられた。


 実際その通りで、悪魔属は精神系バッドステータスが効かない。あと魔属性への耐性を持つ『服』はない。あの辺りは聖職者関係の装備品だったはず。


「うわー。アタシ相手に大判振る舞いね。悪魔使いとか極悪人の相手じゃない」


 囚人イベントで出てくる悪魔使いは、殺人を何度も重ねた犯罪者相手に出てくる奴。無実の罪であるアタシ相手に出してくるとか、どんだけよ!


「命乞いのセリフを考えておくのだな。もっとも、悪魔に慈悲はないが。クックック」


 なら言うな、っていうツッコミは面倒なのでやめとく。


 にしても本当に面倒よねー。こっちの知識通りにイベントしてくれないとか。

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