21:メスガキはウッドゴーレムと戦う
「勝利おめでとうございます、トーカ殿」
次の日。
試合前に面会室に呼ばれて行ってみれば、四男オジサンがそこにいた。
「トーゼンよ。アタシの活躍、目に焼き付けたんでしょうね」
「ええ。まあ。実にトーカ殿らしい試合の流れだと」
なんか歯切れの悪い言い方である。『あの勝ち方はヒく。あそこまで弄るのはどうかと』とか言いたげな感じである。ま、気のせいよね。
「で、何の用? あたしもうすぐ試合なんだけど」
「ええ。その前に差し入れを」
四男オジサンが言うと同時に、兵士の一人が荷物を持ってくる。
中には箱に入ったケーキと、少し重い袋。中にはお金が入っている。
「湿地帯での戦利品を換金したものと、今朝出来立てのケーキです」
「やりぃ。気が利いてるわね、オジサン!」
「ですからオジサンは……いえ、はい」
なぜか諦めたような溜息をつく四男オジサン。
それはともかく、ケーキと
ケーキはMPを回復するアイテムだ。MPポーションよりも安いけど、その分効果は低い。費用対効果はともかく、ケーキ食べたかったのよ!
で、お金は大事。囚人イベント中は買い物出来ないと思わせといて、看守から横流しって形で買い物ができるわ。めっちゃボッタくられるので使わないんだけど。
「とりあえず、ツケ返還!」
HPとMPにかかっていたマイナス補正。【ツケといて】で受けたツケを支払った。お金が半分ぐらい消え去ったけど、これでHPもMPも元に戻る。
(実は何気にぎりぎりっだったのよね、初戦の闘技場戦士)
MPが15しかなかったので、アビリティが使えなくなる寸前での勝利だったわ。運が悪ければ、<困惑>かけ続けれなくてやられていたかも。
「あー。なんか気分が軽くなってきた」
HPが元に戻ったせいか、背中にのしかかってる重い荷物が消えたカンジだ。何とはなしに、気持ちが落ち着いてくる。
気持ちがよかった、と言えば――
「そう言えば、皇子が聖女を召喚したって話知ってる?」
なんとなく、あの聖女ちゃんのことを四男オジサンに聞いてみる。
「ええ。聖女召喚の儀ですね。つい先日、聖女召喚に成功したと宣言をされました。これで魔王<ケイオス>を倒せると」
四男オジサンの言うことを纏めると、聖女を召喚したことを公開して国民を煽ったようだ。
聖女強い、聖女召喚した俺偉い。世界救えるこの国凄い。俺を誉めろ、聖女を称えよ。
えーと、ぷろぱがんだ? とかそんなの。
「聖女コトネは皇子と共に行動をしているようで、治療所や騎士団などに顔を出しているようです。そこで怪我人に癒しの術を施していますな。
まだ幼いのに大した実力だと、周りの評判もよろしいようです」
「ふーん」
頷きながら、大したものだと感心するアタシ。
前にも言ったけど、【聖女】は育てにくい。レベルが上がりにくいわ、アビリティ覚えるのにも遊び人の倍のジョブポイントがかかるわと、マゾ仕様。
おまけに攻撃的なアビリティもほとんどなく、最初は弱っちい武器で延々と城周辺のザコを狩らないといけないというぐらいだ。
(アタシと同じタイミングで召喚されて、もう【人に善意あれ】覚えてるとか。すごくない?)
【聖歌】のレベル6アビリティ。【人に善意あれ】。聖女ジョブは全部係数10だから、0から6にするにはジョブポイント210が必要になる。
初期のジョブポイントが50で、1レベル上げるともらえるジョブポイントが5。だからレベルを上げただけで210ポイントに到達するには、レベル33まで上げる必要があるのよね。
ちなみにアタシのスキルポイントの総合計が255になるわ。ふふん、勝ったわね。
でもホントにスゴくない? このあたしに追い付くぐらいのポイントとか。
(トロフィーとかでジョブポイントもらった、って可能性もあるけど……『聖女』が初期で取れそうなトロフィーってなにがあったっけ?)
ぱっと思いつくトロフィーは一種類ぐらいしかない。それだとしても、大したものだ。
「それぐらい、あの皇子様は気合入れてるのね」
世界を救うために召喚した聖女。それを育て、その成果を自らの栄光にする。
その為には――聖女は自分の手中に収めないといけない。勝手な行動を控えさせ、逆らうことを許さない。
『……っ! あ、はい……』
『申し訳ありません。私は皇子の為の聖女です。皇子の為に尽くしますから――』
皇子、の単語に反応して体を震わせた聖女ちゃんを思い出す。その単語で何かを思い出し、体と心を守るようにするあの姿。
(……ホント、ムカツク)
思わずため息が出た。何をされたのかはわからないけど、何かをされたのは間違いないんだろう。
これだから大人はイヤなのよね。自分が一番偉いと思い込んで、他人を馬鹿にして。
「ま、トーカには関係ないか。偉い人の考えとか、関係ないない」
もやもやを振り払うように、アタシは手を振った。実際、囚人クエスト中のアタシには関係ない。とっとと終わらせて、レベリングを再開しないと。
「聖女コトネの動向が気になるようでしたら、調べておきますが」
「気にならないってば」
「はっはっは。了解しました」
む。なんかムカつく。
「ともあれ、戦いの方は頑張ってください。とはいえ、トーカ殿の事ですから心配はしておりませんが」
「あったりまえでしょ。ウッドゴーレムなんかさっくり倒してケーキタイムよ!
そんじゃ、行ってくるわ」
アタシの心は、もう戦いが終わった後のケーキに向けられていた。手をひらひらと振って、面会室を出る。
そんぐらい、ヨユーなのよ。今回は。
「アサギリ・トーカ……前回は運よく勝てたが、今回の戦いは前よりも強い相手だ。勝てると思うなよ」
兵士NPCのテンプレセリフだ。初戦に勝つとこうなる。負ければ確か『今回も無様をさらしてくれよ』的な嘲笑いになったはず。
ま、それを聞くことはないけどねっ。
「罪人には過ぎた施しだが、選ぶがいい!」
テンプレセリフを聞き流し、武器を見る。
ポイントは全く稼いでないから、2ポイントのまま。ウッドゴーレム対策に『マジック(各種武器名)』はあるけど、それを購入することはできない。出来たとしてもそれじゃあ勝てないのは聞いているし、選択肢にはない。
(仮に対策立てられてなくても、そっちは視野に入ってないのよね)
「そんじゃ、暗闇ダガーと服で」
アタシが選んだのは、真っ黒いナイフと、普通の服。このダガーは威力は馬鹿みたいに高いけど、装備者に<暗闇>のバッドステータスを与える。<暗闇>は視界が悪くなって命中にマイナス補正がかかるわ。
<困惑>と似てるけど、こっちは精神系バッドステータスじゃないので精神を持たないモンスターにも効くわ。
それをもって、アタシは闘技場に向かう。
「今度こそ死ね! 俺はお前が30秒以内に負けるのに大金賭けてるんだぞ!」
「私は10秒だ! それまでは逃げきれよ!」
「私のオズマ様を土下座させた小娘ェ! その顔をぐちゃぐちゃにして死になさい!」
「あのゴーレムマスターは私が出費している魔法博士でね。皇子に逆らう犯罪者をすぐに排除してくれるよ」
飛んでくるのは様々な罵倒の声。そして、
「おいおい。本当に『暗闇ダガー』だぞ。気でも触れたか?」
「大方碌な武器も貰えず、一番大きい攻撃力のものを貰ったんだろうよ。今度はあのガキが無様に踊る番だ!」
「はっはっは。罪人には相応しい最後だな!」
アタシの装備に対する嘲りの声。アタシが何を選んだかは事前にアナウンスされたのだろう。ここぞとばかりに大笑いする。
そしてあたしを出迎えたゴーレムマスターも、アタシを見て大笑いする。
「わはははは! そんな装備で私のウッドゴーレムに勝てると思うなよ。グレートオークから生み出し、三重のマジックコーティングを施した無敵無敗のウッドゴーレム! 貴様如きに傷一つつけることできぬわ!」
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名前:ウッドゴーレム
種族:魔法生物
Lv:30
HP:200
解説:木で作られた人型の魔法生物。硬く、そして頑丈に作られている。(追加:対魔法コーティング済み)
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うわ。本当に魔法に対して強くなってる。
アタシのステータスでは真面目にウッドゴーレムと殴り合っても勝ち目はない。魔法の武器を持ってダメージが通るようになったとしても、一発殴られたら即終了になるわ。
ついでに言うと、ゴーレムは精神系バッドステータスが効かないので<困惑>作戦も意味がない。距離を詰められて、殴られれば一発で終わりなのだ。
暗闇ダガーは打点は強いけど、物理属性。ウッドゴーレムの防御力を貫いて致命傷を与えるには、貧弱すぎる。
さらにいえばアタシが<暗闇>状態なのでまずあたあない。
「えー。それで硬くて強いつもりなの? やだー」
まあ、アタシにかかればヨユーなんだけどね!
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