17:メスガキは罪人になる
目が覚めると、知らない天井だった。
周囲は薄汚れた壁。寝ているのは硬い床の上に敷かれた布。そして人一人ぐらいしか通れない扉があるけど、こちらからは開けれないようにノブはない。
初めて見るけど、知識はある。牢屋だ、これ。
「ちょっと何これふざけんじゃないわよー!」
ガンガンと扉を叩くけど、反応はない。
いきなり兵士に捕らえられて気絶させられ、気が付くとこんな所にいるのだ。文句も言いたくなって当然よ。
「うるさいぞ! 大人しくできないのか、罪人め!」
扉の向こうから聞こえてくる叫び声。
「罪人? トーカが何したっていうのよ。わけわかんない!
トーカが可愛いから誘拐した、って方がまだ理解できるわ」
「うるせぇチビガキ! テメェのような薄汚い遊び人なんざ触る気もおきんわ!
ガルフェザリガニを倒したという虚偽を流布した騒乱罪! ヘルトリング家への暴言および侮辱罪! 貴様にはこれだけの罪が課せられているのだ!」
はあああああ? 何ッてるのよコイツ?
「ふっざけるんじゃないわよ! ガルフェザリガニ倒したのはホントなんだから。トロフィーだってあるのよ!」
この世界のステータス開いて見せるけど、鼻で笑われる。
「おおかた『赤の三連星』が殴っている所を横殴りしたんだろう? 或いは遊び人らしく媚でも売ったか?」
あかのさんれんせい?
「知らないわよそんなの。誰それ?」
「それみたことか。『赤の三連星』を知らない程度の歴の浅い英雄が、ガルフェザリガニを倒せるほどの強さを持ってるはずがない!
上手いことやったようだが、クライン皇子の目は誤魔化せんぞ! そもそも遊び人のようなクズジョブがモンスターを倒せるわけないだろうが!」
「うっわー。風評被害」
これ以上は何言っても無駄ね。アタシは諦めてステータスを開いた。
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★アサギリ・トーカ
ジョブ:遊び人
Lv:26
HP:35(-20)/35(-20)
MP:25/25
筋力:10
耐久:6
魔力:6
抵抗:6
敏捷:11
幸運:33
★装備
囚人服
★ジョブスキル(スキルポイント:50)
【笑う】:Lv6
【着る】:Lv4
【買う】:Lv4
★アビリティ
【笑顔の交渉】:<封印>
【微笑み返し】:<封印>
【笑裏蔵刀】:<封印>
【早着替え】:<封印>
【カワイイは正義】:<封印>
【ツケといて】:<封印>
【デリバリー】:<封印>
★トロフィー
『格上殺し』『勇猛果敢』『不可能を覆す者』
『英雄の第一歩』『駆け出し英雄』
『ボスキラー:バンディット・ヘッド』『ボスキラー:ガルフェザリガニ』『単独撃破』
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装備は全部取り上げられていて、囚人服を着せられている。そしてアビリティの欄は全て<封印>のバッドステータスが乗せられていた。
原因はこの囚人服ね。
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★アイテム
アイテム名:囚人服
属性:服
装備条件:なし
装備者は<封印><無力>のバッドステータスを受ける。解除不可。装備変更不可
解説:罪を犯した囚人が着る服。咎人に抵抗の術はない。
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<封印>はアビリティが使用できなくなるバッドステータス。
<無力>は戦闘行為を封じるバッドステータス。通常攻撃ができなくなり、攻撃されても反撃できなくなる。
要するに、これを着ている間はアビリティによる攻撃も防御も何もできなくなるのだ。<収容魔法>も一緒に封じられているらしく、アイテムを取り出すこともできない。
(これはあれよね。囚人イベント)
囚人イベント。
<フルムーンケイオス>は自由度の高いRPGで、犯罪行為も可能なの。NPCを襲ってお金を奪ったり、他人の家に入ってタンスを開けてもの物色したり。
タンスは『勇者は許されてたのに!?』とかなんとか言われてたけど、何だったんだろう……?
で、罪を犯すと罪科ポイントっていう隠しパラメーターが増えて、そのポイント数によっては街の兵士が襲ってくるの。ポイント量が多ければ、その分NPCの強さも規模も増していく。
で、戦いに負けると発生するのが囚人イベント。重ねたポイント数だけ闘技場で戦わされて、それが終われば勝ち負け関係なく釈放されるわ。罪科ポイントは基本減らないので、捕まるごとに戦闘回数が増えていく。
(ゲームだと、負けてもデスペナ支払うだけなんだけど……)
敗北時はデスペナルティを払う。<フルムーンケイオス>のデスペナはお金が半分なくなるのと、次のレベルまでの経験点から5%奪われる。レベルやジョブによっては5%稼ぐのに20時間かかるとまで言われているので。相応にキッツい。
(この世界だと、即処刑? あるいは拷問?)
少なくとも、相当痛めつけられるのは変わりはなさそうだ。
「――だが、クライン皇子は慈悲深い。咎人に罪を雪ぐチャンスを与えてくれるとおっしゃった」
あ、今まさにそのことを看守が喋ってるみたい。
「貴様には罪人奴隷として闘技場で四回戦ってもらう。四回戦い終えれば、釈放してやろう。貴様が持っていた装備もすべて返してやる。
ただし逃げられると思うなよ。『トンボガエリ』等の移動系アイテムは使用しても発動しないようになっているからな」
どれだけ罪を犯しても、戦いさえすれば許されるのは法律としてどうなの? とは思うけど、そこはもうファンタジー世界。インターネットもテレビもない世界だし、血を見る戦いや犯罪者の処刑がいい娯楽になる。
SNSとかで他人の意見に罵倒レスを返すように、何もできない相手が苦しんだり死んだりするのが楽しいのだ。
「たとえ貴様が死んだとしても、アンデッドとして蘇らせて戦わせる。あるいはキマイラの一部に混ぜて戦わせよか? 動かぬ死体をゴブリンたちに弄らせるのもいいな。罪人が楽に死ねると思うな。そして死後も墓に入れると思うなよ」
うっわー、趣味わるっ。
「ふーん。そんな趣味なんだ、オジサン。そりゃ結婚できないわよね」
「ううううううううるさい! っていうかなんで知ってるんだそんなこと!」
あ、図星だったんだ。
「良かったわー。オジサンの変態趣味に女の人が巻き込まれなくて。あ、もしかして男の方が趣味なの? だから結婚できないの? かわいそー」
「テメェ……! そこを動くなよ!」
怒りの声と共に扉が開き、警棒を持った兵士のオジサンが入ってくる。そして別の兵士が扉の前に立ち、アタシがそこから逃げないようにしていた。
「自分の立場ってものを理解してないようだな。今ここで泣き叫んでも、誰も助けになんか来ないんだぜ」
警棒をアタシの顔にぺちぺちと当てる。あ、これヤバい。
何もできないアタシ。兵士のオジサンが警棒を振り上げる。せめてもの抵抗と、殴られる瞬間までは相手を睨みつけて――
「やめろ! 栄えあるオルスト国の兵士は、罪人に虐待を行うというのか!」
そんな言葉が割り込んで、警棒の動きが止まる。
「ああん? 貴様何者――」
「我が名はゴルド・ヘルトリング。国防騎士白銀騎士団を統べるヘルトリング家の名を継ぐ者だ。衛兵よ、己の職務を怠るな!」
ごるど・へるとりんぐ。
そう名乗るびしっとしたスーツのオジサン。明らかな貴族風の人だ。
えーと……だれだっけ? どこかで聞いた声なんだけどなぁ……?
「ヘルトリング家……! はは、これは失礼しました! しかしこちらの罪人は国家にあだ名す存在で、そういえばヘルトリング家の侮辱罪も――」
「その件に関し、一時預かる事となった。一旦この者を面会室まで移送する」
「はい! ……ちっ、立てよクソガキ――」
「その者は吾輩の客人だ。それを乱暴に扱えばどうなるか。知ったうえで扱うがいい」
「……ッ! 失礼しました!」
吾輩……ああ、四男オジサンか!
鎧着てないんで全然わかんなかった。てへぺろ。
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