15:メスガキは切り札を買う

「ジギャアアアアアアア!」


 両方のハサミを失い、殻の色が赤から紫に変わるガルフェザリガニ。


「あとは本体か。さっきは油断したが、今度はバフモリモリだ。負けるはずがない」

「遊び人のガキの攻撃が通ってたしな。鍛えられた戦士である俺達の攻撃が通らないはずがない」

「うむ。選ばれた英雄として当然の栄光を頂くとしよう」


 なんてことを言いながら本体に目を向けるおにーさん達。そして、


「な、何だこの色! こんな色だったか!?」

「きっと俺達の強さを前に青ざめたんだろうぜ! ハサミ落とされて、攻撃方法がしっぽしかなくなったんだしな!」

「ガルフェ湿地帯のボスとは言えども、選ばれし英雄を前には無力を感じるという事か」


 ザリガニの色の変化に驚くけど、そのまま気にせず攻撃を仕掛ける。


「やめなさい! その色は『攻撃色』だから――」


 アタシの忠告は間に合わない。全てを言いきる前におにーさん達はザリガニに攻撃を仕掛けて、


「ヴォダアアアアアアアア!」


 激しい叫び声。それが強烈な衝撃波が周囲に広がり、近くにいたおにーさん達を吹き飛ばした。そのまま地面を転がっていく。


「強烈な範囲攻撃を仕掛けてくる、のよね」


 ガルフェザリガニは本体とハサミ二本の多部位構成ボスよ。


 攻めの主体はハサミから繰り出される斬撃と水の矢。ならハサミを先に落とせばいいんじゃないか、と考えるのは当然の判断。実際ハサミの方がHPも防御力も低く、まともに攻めればハサミの方が先に落ちる。


 当然それは<フルムーンケイオス>を作った運営も想定内。なのでハサミが落とされた時に本体に強力な攻撃手段を用意していたのよね。


 それがさっきの衝撃波。吹き飛ばし効果を持つ攻撃で、<麻痺>のバッドステータスを与えてくる。こうなると周囲に麻痺効果付きの衝撃波を振りまく厄介な存在になるわ。攻撃力もマシマシになって、麻痺するか死ぬかのどちらか。


 加えて殻の硬さも健在。攻防共に隙の無い面倒な存在になるの。


「こうなる前に、もう少し本体にダメージを与えておきたかったんだけどなあ」


 なのでガルフェザリガニの攻略は『両ハサミが健在な間に本体に出来るだけダメージを与えておく』事が重要になる。


 四男オジサンの【当身投げ】&【投げ打ち】は、はさみと本体の両方にダメージを蓄積していくやり方。HPの関係で先にハサミが尽きるけど、本体にも適度なダメージが残っていて後処理はそれほど難しくないわ。トーカのお着換えヒットアンドウェイで、十分に片付く。


 だけど、さっきのおにーさん達はハサミを集中砲火して落としちゃったわ。四男オジサンとアタシがダメージを重ねてたはいたけど、まだまだ本体のHPに余裕はある。そして何よりも、


「どどどどどどどうすればいい!? ほほほ本体は【投げる】ことはできないぞ!」


 おたおたとする四男オジサン。


 四男オジサンのダメージ源は【当身投げ】&【投げ打ち】。それは投げることができる相手がいるからこそだ。ハサミが動かなくなった以上、オジサンが【投げる】事が出来る相手はいない。


 都合よく【投げる】事が出来るモンスターが大量に通りかかってくれるとか、そんな偶然はないだろう。


「んー。何もできないんじゃない? オジサン、ちっちゃい子には強気になれるけど、大きいのには何もできないし」

「言い方ぁぁ!? しかし事実!」


 オジサンが攻撃を受けるしかないでくの坊になった、というのは結構厳しい。


 アタシのヒットアンドウェイはオジサンが近接攻撃を受けてもらう事が前提だ。オジサンもかなり攻撃を与えてザリガニからの怒りヘイトを買ってるけど、攻撃できなくなったらそれは別の方に移る。


 アタシがヒットアンドウェイをすればヘイトはアタシに向いて、オジサンへの怒りが消えれば攻撃対象をアタシに変えてくるだろう。そうなる前に倒せるか否か。


 ……微妙。HPはかなり減らしているけど、それでも何度かは斬る必要がある。そうなる前にアタシに攻撃対象が移るだろう。そうなると、衝撃波で飛ばされてお終いね。


「ギジャアアアアアアアア!」


 奇声を上げながら近づいてくるガルフェザリガニ。攻撃範囲自体はザリガニの周辺数メートルとそれほど広くはない。だけどアタシたちが倒れれば、無差別に暴れ出すだろう。


「ガルフェザリガニがフリーになってる! なんだあの色は!?」

「『赤の三連星』もやられただと! もうお終いだー!」

「早く逃げろー! ちくしょう、こんな時にモンスターが沸いてきた! 逃げられねぇ!」


 絶望的な悲鳴が聞こえてくる。確か死んだら終わりなんだっけ、ゲームと違って。

 まあ、アタシは別にどうなろうが知った事じゃないけどー。


「うおおおおおおお! ここまで来て何もできないのか! 吾輩は誰も守ることが出来ないというのか!」

「オジサン頭悪いの? 何度も言わないと理解できないとか、ホント記憶力ないんだから」

「なんだと?」

 

 ヒットアンドウェイでは倒しきれない。

 なら一撃で決めるしかない。


「トーカに全部任せておきなさい。

 しょーがないから、ダメダメなオジサンとかよわよわな英雄たちを助けてあげるわ!」


 アタシはステータス画面を開いて、スキル所得画面にスライドさせる。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★ジョブスキル(スキルポイント:50)

【笑う】:Lv6

【着る】:Lv4


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 本当は【着る】をレベル6にしたかったんだけど、しょうがない。

 一気にスキルポイント50を使うわよ!


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★ジョブスキル(スキルポイント:0)

【笑う】:Lv6

【着る】:Lv4

【買う】:Lv0→4


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<【買う】がレベル2になりました。アビリティ【ツケといて】を獲得しました>

<【買う】がレベル4になりました。アビリティ【デリバリー】を獲得しました>


<条件達成! トロフィー:『駆け出し英雄』を獲得しました。スキルポイントを会得しました>


「んきゅ……ぅん♡」


 下腹部に痺れるような感覚が走り、そこから全身に稲妻のように突き抜けていく。どくどくと脈打つように熱い何かが体中に注がれていく。肉体が理解不能の力で押さえ込まれ、いいようにされているような感覚。


 目の前が真っ白になって、はじけそう……。

 ってダメダメ。今は落ち着かなくちゃ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★アビリティ

【ツケといて】:心身削ってでも欲しいモノはあるの。買い物時、最大HP1点を『遊び人のレベル×100』ガマに変換できる。差額を稼ぐと解除される。常時発動。

【デリバリー】:欲しいと思ったら即買い物。どんな場所でも買い物ができる。店は最後に買い物をした店限定。値段は2割増しになる。MP5消費。


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【ツケといて】は最大HPをガマおかねに変える能力。最大HPと共にHPも減るので死にやすくなるけど、それでもお買い物は大事。


 そして【デリバリー】。最後に行った店で2割増しで買い物ができるアビリティ。ダンジョン奥地でも届けてくれるわ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★トロフィー

『駆け出し英雄』:アビリティを六つ獲得した証。英雄として駆け出し始めた存在を示す。


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 で、『駆け出し英雄』はアビリティ取得数が6を超えた事を示すトロフィーよ。スキルポイントが15点もらえるわ。


 先ずは【デリバリー】使用! 最後に行ったのは仕立て屋ね。


<フルムーンケイオス>みたいにトーカの目に前にウィンドウが開く。そして【ツケといて】を使って、最大HP20点を支払って44000ガマを使って買い物をする。


 うう……身体が急に重くなってきたぁ……。これが最大HPが減ったって事か。いまHP9点しかないものね。レベル1の時より低いんだから、当然か。

 欲しいものをクリックしたけど、どうやって商品が来るんだろう?


 ヒュウウウウウウウウ…………!


 ん? 何かが放物線を描いてこっちに飛んでくる。まさか……?


 ドカアアアアアアン!


「きゃあん!?」


 ファンタジーっぽい宝箱がアタシの目の前に落ちてくる。それがパカッと開いて、その中に頼んでいた品物が入っているのを確認した。もう、アタシに当たったらどうするつもりだったのよっ!

 ともあれそれを手にする。このアイテムが要だ。


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★アイテム

アイテム名:バニースーツ

属性:服

装備条件:ジョブレベル20以上

敏捷:+5 幸運:+5 HP10未満の時、クリティカル率20%上昇 クリティカルダメージ100%上昇 

解説:ウサギを模した服。追い詰められたウサギの一撃を侮ることなかれ。


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 白いウサミミ、丸いしっぽ付きの赤レオタード、カフス、タイツ、ヒール。

 やーん、あたしせくしー。そんなバニー服。胸がないから残念とか言ったヤツ、後でぶっころころね。


 敏捷と幸運に+5と結構ハイスペックだけど、真価はHPが一桁になった時の追加効果。クリティカル率20%アップとクリティカルダメージを100%アップさせるするぶっ壊れ。


 HP10未満に調整するのは普通なら難しいけど、【ツケといて】で最大HPを調整したアタシはその条件を楽々クリア。


 そしてこれまで通り、この修正も【カワイイは正義】で二倍に出来るわ。クリティカル率40%! クリティカルダメージ200%上昇!


 これが遊び人のぶっ壊れその2! クリティカルバニーコンボよっ!


「トーカにぐちゃぐちゃにされて、飛んじゃえ♡」


 振るったダガーはガルフェザリガニの胸に吸い込まれる。

 傍目には偶然にしか見えない幸運の一打クリティカルヒット。ただ運がいいだけの遊び人の戯れ。


「トーカの勝ちぃ! トーゼンよね!」


 だけどこの勝利は当然の結果。

 知識と計算と思考を積み重ねた果ての結果――

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