8:メスガキは貴族と話をする

「オジサン重戦士なんでしょ? だったらアタシの盾になって。場所は『キノコ畑』と『ドラゴンボーン』の二ヶ所でいいわ。とりあえずお金とレベル上げたいの」


 言って二つを折る。狩場二つ分、って意味で、


「あとは……そうね、色々教えてほしいかな。英雄召喚でこの世界に召喚されて、あまりこの世界のこと知らないのよね」


 さらに一つ指を折った。

 一応この世界のことは<フルムーンケイオス>の世界で良ーく知ってるんだけど、アタシが知っている<フルムーンケイオス>との違いを確認しておきたい。


「あとは貴族のコネとか利用させてほしいわね。具体的には宝石店。『宝石』を売ってる店を紹介してほしいなー」

「まてまてまて! 待ってくれ! 吾輩にも吾輩の都合と言うものがあって――」

「ままー」

「うぐ……! しかし、無理なものは無理なのだ! 吾輩は確かにヘルトリング家の血を引いているが、実質上放逐されているも同然なのだ!」


 は? でも商人ギルドの人はオジサンを男爵? 貴族っぽく扱っていたけど?


「その……吾輩は四男で。家督は非公式だが次男のヘルガが継ぐことが決定している。貴族としての権限はほぼ奪われているのだ

 ある程度の功績をあげなければ、家を追い出される身なのだ」


 あー、要するに働かないから家を追い出されるのね。このニートオジサン。


「で? 山賊を倒したらその功績とかになるの?」

「ああ。王国近くに集まる徒党を倒せば、国家を守った貴族という功績が得られる。そうなればどうにか貴族としての面目を保つことができるだろう。

 山賊の頭目を倒せれば一番なのだが……惜しくも逃げるしかなく」


 全然惜しくなかったけどね。まあ、それはどーでもいいわ。


「でも、山賊の頭目はアタシが倒しちゃったけど?」

「なにぃ!? 遊び人如きがつまらぬことを――」

「みなさーん、ここにいる元貴族のオジサンはおなかが痛くてか弱いアタシに山賊を」

「すまない。吾輩が悪かった! 許してくれ!」


 土下座しそうなぐらいに情けない顔で謝罪するオジサン。あは、ぶざまー。


「だが……その本当なのか?」

「ほんとーよ。トロフィーもあるし」


 アタシは言って自分のステータス画面のトロフィー部分を見せる。それを見て真実だと納得したのか、愕然と崩れ落ちた。


「何たること……これで吾輩の貴族復帰の道は途絶えた」

「なに落ち込んでるのよ。時間が立てばボスは復活リスポーンするじゃない。それを倒せばいいのよ」

「? 何を言っているのだ? 復活呪文など『聖女』の領域ではないか」


 アタシの言葉に、四男オジサンは首をかしげる。

 モンスターは一定時間が立てば復活する。それは<フルムーンケイオス>に限らず、ゲームなら常識的な事だ。


「あー。もしかして死んだらおしまい? オジサンもアタシも?」

「当たり前だろうが。死者蘇生を為したのは伝説に残る200年前の『聖女』ラーナ様のみだ。自分の命を引き換えにして多くの命を救った功績は、この世界の人間なら誰でも知っているぞ」


【聖魔法】のレベル10アビリティ。【この身を捧げます】だ。自分の死亡と引き換えに、パーティ内全員を完全復活させるゲーム内最強の癒し。

『マゾ過ぎる育成の最後が自己犠牲とか、聖女はホントマゾ』とコメントがあったなー。


 いやいや。それはそれとして。

 この世界じゃ死んだら終わりなんだ。神殿で復活もない感じ。うわー、キッツ! 狩場から神殿への死に戻りが出来ないとか、やだなー。


 死に戻り。狩場で死んで、セーブした場所まで戻るというネトゲ用語である。移動用の手段がなく、道中の時間がもったいないとかそんな理由でわざと死ぬことだ。


「ほら、アタシ召喚された英雄だから。その辺よくわからないのよねー」

「死んでも蘇ることができる魔術が普通の世界というのは、聞いたことがないが……そういうものなのだろう」


 そうそう、と頷いてこの話は終わる。続けてもいいけど、今は別のことが気になる。


「えーと……話を戻すと、オジサンは貴族の地位はもうない。山賊ボスを倒せばその可能性はあったけど、それもアタシが倒してもう無理になった、っていう解釈でイイ?」

「そのオジサンは……はい、間違ってません」


 アタシが手でメガホンを作るポーズをした瞬間に反論を止めて、頷く四男オジサン。うんうん。自分の立場が分かって来たみたいね。


「で、貴族の地位がないから『宝石』を買える店にも入れない、って事?」

「そうだ。私の地位がなくなったことはすぐに街中の商人達に伝わるだろう。今は貴族御用達の店のみに伝播しているが、商人ギルドにまで伝わるのは時間の問題だ」


 商人ギルドの方はアタシにとってはどーでもいい。

 でも貴族御用達の店に入れない、っていうのは面倒よね。折角楽して『宝石』が買えるチャンスだったのに。


「出来ないのは仕方ないわね。じゃあ盾になってもらうだけで勘弁してあげるわ」

「いや、その……それもできない」

「……なんで? オジサン重戦士なんでしょ? ハンマー持ってるから盾系のアビリティないのは解るけど」


 重戦士のジョブスキルは【重武器】【剛力】【盾術】【金属鎧】【死中活】の五つだ。前者二つは武器のパワーアップ系。後者は防御系。

 ハンマー使ってるから【重武器】【剛力】あたりだとしても、重戦士はジョブ補正で筋力と耐久が高い。HPが低いという事はないはずだけど……?


「……吾輩は、重戦士ではないのだ」

「はぁ? オジサンハンマー持ってプレートアーマー着てたじゃない。重戦士以外がそんな格好する理由ないでしょ?」


 ハンマーにせよフルプレート鎧にせよ、敏捷の値がものすごく下がる。敏捷不要の重戦士以外でそんな格好をする理由はないはずだ。


「吾輩のご先祖は国を護る騎士で『聖女』ラーナ様と巡礼の旅に出た家系なのだ。その吾輩もそれにあやかってご先祖様と同じハンマーと金属鎧を着て……。しかし一向に成果は出ず……」

「ちょっとオジサン、ステータス見せなさいよ!」


 アタシの言葉に従うように、四男オジサンはステータス画面をアタシに見せてくれる。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★ゴルド・ヘルトリング


ジョブ:格闘家

Lv:16 

HP:86/86

MP:13/13


筋力:12+20(+25)

耐久:12+15(+20)

魔力:7

抵抗:6

敏捷:16(-23)

幸運:4


★装備

鋼鉄のハンマー

プレートアーマー


★ジョブスキル(スキルポイント:35)

【筋力増加】Lv4

【耐久増加】Lv3


★アビリティ

なし


★トロフィー

貴族の家系


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「か、格闘家ぁ!? アンタバカなの! しかもジョブスキルは全部能力上昇系とか……」


 うわー。これはひっどいわ……。

 格闘家は敏捷が基本になる。耐久は基本不要で、敵の攻撃は避けて手数で押し切る形になる。

 耐久増加に割り振ってるから壁として多少は役に立つ。立つんだけど……。はっきり言ってデクの坊だ。山賊ボス相手で逃げたのは、正解ね。


「確かに吾輩のジョブは格闘家だ。だがヘルトリング家の物として騎士を目指すように教育された。……確かにジョブを告げられた時は家族全員から役立たず呼ばわりされたが、それでも吾輩は騎士たろうとしたのだ!」


 胸を張り、自分が進む道を誇るように告げるオジサン。


 家に望まれたジョブにつけず、それでも希望に沿うように努力した。レベル16という数字がその努力を物語っている。うん、このジョブでハンマーと金属鎧で頑張ったのはすごいと思う。


 アホだけど。


「悪いがとても他人を庇って戦えるようなことはできない。そんな余裕はないのだ。

 ……すまないが、諦めてもらえないだろうか」


 四男オジサンの言葉に、アタシはため息をついた。


「サイテー。見てらんないわね。

 こんなダメオジサン、トーカじゃなかったら見捨ててたわよ」

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