5:メスガキは山賊頭目をわからせる

「こっちこっちー。やん、こわーい」


 山賊の攻撃を避けながらナイフを振るうアタシ。『格上殺し』と『勇猛果敢』の効果もあって、山賊の一人に少しずつダメージを積み重ねていく。


「ちくしょう、このクソガキが!」


 山賊のオジサンたちは必死になるけど、【微笑み返し】で<困惑>状態なので先ず当たらない。


「トーカちゃんは俺のものだぶひひー!」


 鼻息荒く攻撃してくる山賊頭目。戦士系の【スラッシュコンボ】で連続攻撃してくるけど、命中値が下がっているので、ミスの連発だ。


(こっわー……。攻撃回数増えると、当たる可能性も増えるのよね)


<困惑>で命中が下がっているとはいえ、100%安全というわけではない。どれだけ補正を下げても、1%の命中確率は残っているわ。

 なので【スラッシュコンボ】のような攻撃を繰り返す系統はひやりとする。そしてあたしの耐久とHPからすれば、一発当たっただけでもおしまい。


(でも、楽しい……! 死ぬかもしれない恐怖と、そのスリルがたまらないっ!)


(必死になって当てようとするオジサンに笑える! やだ、涎垂らしてる! 息切らせるぐらい必死なのに、まるで見当違い!)


「ふふ、ふは、あははは。馬鹿なオジサンたち、何処見てるのよ。トーカはここだよ。ほーらほら」


 隙を見せるようにナイフをくるくる回してみる。挑発に乗るように振るわれたオジサンたちの狙いは甘く、斧は見当違いの所に叩き込まれる。


「オラァ! オラァ! これでどうだぁ!」

「大人を馬鹿にするんじゃねぇぞ!」

「しっかり教育してやる! ベッドの中でわからせてやるぜ。ふへへへへ」

「……えーと、とにかくよけてるんじゃねーよ!」


 小さく、だけど確実に傷ついていく山賊オジサンたち。

 一発でも受ければアウトなアタシ。

 

 勝利の天秤はまだどちらに傾くかわからない。


「オジサン、隙だらけ。はい、おーしまい」

「うぐ……!」


 ナイフが山賊の腹に突き刺さり、山賊オジサンの一人が崩れ落ちる。

 時間は8秒。残り時間は22秒。アタシはすぐに次の目標にナイフを向ける。


(【カワイイは正義】の効果が効いてるわね。幸運+6の幸運補正がきいてるかも!)


 山賊オジサン相手だと、一発クリティカルが出ればそのまま押し切れる。

 そのクリティカルの確率をわずかでも引き上げられるのは大きいわね。気分的なものだけど、確率を少しでも上げられるのならやっといて正解だわ。


「えー、それで本気なの? オジサンの人生の価値みたーい」


「ちくしょう……」

「こんなガキに負けるなんて……!」


 調子よく、2人の山賊を倒す。残った時間は5秒。流石にその時間では、無傷の山賊オジサンと山賊ボスを倒すのは不可能だ。


「へっ、少し頭が冷えてきたぜ。落ち着いて動きを見ればすぐに当てられる――」

「あはぁ、そうやって強がるのってやめた方がいいよー。失敗した時恥ずかしいもん。オジサンざこなんだから、恥かかないようにしないよ、ね」


 再度【微笑み返し】! これでMPは0。これで山賊オジサンと山賊ボスを倒せなかったら、アタシの負け。


「ふざけるなぁ! 誰がザコだ!」

「もっとざこって言ってください!」

「え? ざーこざこざこ」

「ありがとうございました!」


 うわー。本気で人生終わってるわー。どうしようもないわー。


 ともあれ残りは二人。山賊オジサンと、いろいろ終わってる山賊ボス。どちらを先に相手するかが大事。HPの高い山賊ボスを先に落とすか、山賊オジサンを落して攻撃回数を減らすか――


 山賊ボスは【スラッシュコンボ】という三回連続攻撃アビリティを持っている。山賊オジサンはスキルを持っていない。どちらが厄介かと言えば、山賊ボスの方が厄介。先に厄介な方を落しておくという手もあるけど……。


「考えるでもないわよ。オジサン、死んで」


 迷うことなく、アタシは山賊オジサンにナイフを向ける。アビリティをつかった三回攻撃よりも、確実に手数を減らす方がいいに決まってる。


「こんな頭目についていったばかりに……!」


 思いっきり後悔にまみれたセリフを吐いて倒れる山賊オジサン。だったら山賊なんかやらなかったらいいのに。それに気づかないなんて、ホント大人ってバーカ。


<アサギリ・トーカ、レベルアップ!>


 そしてレベルアップ。これでレベル12ッ! 減っていたMPが全快し、【微笑み返し】をさらに使えるようになった。


「ふへへへ。二人きりだね、トーカちゃん! たーっぷり遊んであげるから……ふへへへへ」


 えーと……<困惑>の効果よね、これ? 変なバステはいってない?


 とはいえ、相手はレベル34のボス。HPのボス修正が入ってる。『格上殺し』『勇猛果敢』の修正込みで、ざっくり計算だけどクリティカル10回分。


 最初の山賊オジサンよりましだけど、このボスは時折【スラッシュコンボ】で三回攻撃してくる。敏捷の違いもあって、攻撃回数は圧倒的に山賊ボスの方が高い。


(バンディット・ヘッドは<困惑>しても当ててくる可能性が高いのよね。だからきらーい)


 このまま【微笑み返し】で<困惑>状態を維持したまま攻めるのは、すこし危険だ。なのでアタシは一気に勝負を決めに行くことにした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★ジョブスキル(スキルポイント:55)

【笑う】:Lv4

【着る】:Lv4


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 トロフィー『英雄の第一歩』の効果で、スキルポイントが10点もらえた。これで一気にレベルアップが出来る。


 本当は次に【食う】を取る予定だったけど、このままだと山賊ボスに押し切られる可能性がある。


 ゲームだと『死に戻ってデスペナ払うかー』というのが最適解だけど、この世界でアタシがHPが0になったらどうなるかわからない。死者の復活なんてないかもしれないし、そうじゃなくても斧で切られたらすんごく痛そうだし。


「ぐへへへへ。ピンクなお薬たっぷりの特選お風呂に入れてあげるねぇ。トーカちゃんおねだりするまで、じわじわ遊んであげるからぁ」


 ……それに負けたら、死ぬよりひどい目に遭いそうだし。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


★ジョブスキル(スキルポイント:0)

【笑う】:Lv4→6

【着る】:Lv4


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 55のスキルポイント全部を【笑う】に入れる。


<【笑う】がレベル6になりました。アビリティ【笑裏蔵刀しょうりぞうとう】を獲得しました>


(ふやぁ、あ。しびれ……ひっ、い!)


 これまでのアビリティとは違った鋭い感覚。びりびりとした熱い振動がアタシの敏感な部分を中心に全身に広がっていく。振動は体をそして脳を痺れさせる。

 戦闘中でなかったら、このまま崩れ落ちてしまいそうな甘い甘い波が魂から体に伝達してくる……。


 そっかぁ、レベル6のアビリティだから、こんなにすごいんだぁ。じゃあ、レベル8とか10のアビリティだと、どーなるのかなぁ。トーカ、耐えられないかもぉ。

 ……ん。落ち着いたわ。


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★アビリティ

【笑裏蔵刀】:笑顔の裏に刃を隠す。最初の攻撃が必ずクリティカルヒットする。同じ相手には通じない。MP10消費。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【笑裏蔵刀】。遊び人ぶっ壊れアビリティその1。MPを消費した後の攻撃が必ずクリティカルになるわ。同じ相手には一回しか効果がないけど、確定クリティカルは大きいわ。


 バフとか乗っければその分も追加されるので、一撃必殺になるわ。……今は攻撃に乗せるバフがないから残念だけど。


 口元に手を当てて、山賊ボスに向かって笑った。身体に満ちる甘い痺れをに身を寄せるように、蕩けるような声で。


「んふ、トーカいますごく気分がいいの。オジサンの事、食べてあげる」


 主に経験点的な意味で。


「ぶひぃぃぃぃぃぃ! 我々の世界でご褒美です!」


 なんか両手を広げて無防備に腰を突き出してきたんで、容赦なくナイフで刺した。


「うぎゃああああああああ! これが、トーカちゃんの愛! ありがとうございました!」

「え。うん」


 なんでお礼を言われたのかわからないけど、とにかく思いっきりいい一撃が入った。このままガンガン攻めちゃえ。


「その目! 豚を見るような冷たい目! その目で見降ろして!」


「口元サイコー! 鋭く嘲笑うような笑み! それだけでオカズに出来ます!」


「TU・RU・PE・TA! TU・RU・PE・TA!」


「スカートからはみ出たおみ足! 拝ませてください。ふんでください。ああああああ、もう言い残すことはありません!」


 クリティカルが出るたびになんかよくわからない事を言う山賊ボス。

 ホント、大人って情けないわよねー。


「私はトーカちゃんにわからせられた駄目な大人です! メスガキには勝てなかったよ……!」


 なんだかすごく嬉しそうな声で、山賊ボスは昇天したのでした。

 めでたしめでたし?

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