【2011年 実写化映画】新たな人生が始まる「スマグラー おまえの未来を運べ」。

『郷倉』


 続いては「スマグラー おまえの未来を運べ」について語らせてください。


 地獄めぐり的に言えば、やくざっぽい人達に借金しちゃって、運び屋に売り飛ばされた主人公、妻夫木聡が紆余曲折あって、仕事をトチってターゲットを逃がしてしまって、そのせいでヤクザから拷問を受けることになった映画です。


 地獄の苦しみ的には今回選んだ映画の中でダントツです。

 主人公は妻夫木聡であることは間違いないと思いますが、群像劇的な構造になっている映画で、あらゆるキャラクターの視点が挟み込まれていきます。

 おそらく、「スマグラー おまえの未来を運べ」を見た視聴者のほとんどが敵役の背骨という殺し屋の印象が強いのではないか、と思います。


 背骨を演じた安藤政信は速攻でググりました。

 こんな魅力的な俳優がいたのか、と。


 ちなみに、僕は園子温の「愛のむきだし」が大好きな人間なので、満島ひかりがやくざの組を仕切っていく流れは最高でした。

 満島ひかりが叫び、恫喝するシーンは決して怖い訳ではないんですけど、画になって臆してしまう何かがあるような気がします。


 原作は「闇金ウシジマくん」の真鍋昌平で、「GANTZ」と同じ、青年漫画家さんという印象ですが、今回の「スマグラー」はほぼデビュー作で、一巻で終わっている漫画なんですよね。


「GANTZ」のような青年たちのバイブル的な位置づけでは決してない、という言い方は悪いかも知れませんが、目配せすべきファンは少なく、まさにアングラ故の良さ、みたいなものが「スマグラー おまえの未来を運べ」にはぎゅっと圧縮されていた印象があります。


 つまり、制作側としては、「スマグラー おまえの未来を運べ」は決してメジャーな作品ではない、それ故に誰の目も気にせず、ただただ面白い映画を作ってやろうぜ!

 となっているような気がするんです。


 とは言え、裏社会的な題材とやくざな任侠的スタイルは日本映画にとって脈々と引き継がれてきたもので、昨年の2010年に北野武の「アウトレイジ」が上映されているので、その文脈で若者が活躍する「スマグラー おまえの未来を運べ」もやっておこう、みたいなところはあったのかも知れません。


 やくざ役に小日向文世は「アウトレイジ」を横目で見ている感じがありますし。


 そんな文脈はあるにせよ、「スマグラー おまえの未来を運べ」は妻夫木聡が演じる主人公、砧涼介のような諦めることに慣れて、楽な方へと流れていく若者たちの内側に確実に何かを残す映画にはなっているんですよね。


 とくに上司のジョーとの関係性なんかは、乾いているけれど、互いに一定の信頼をしていて、働くって馴れ合うだけではないって描き方が、意外と他の映画では描けていない部分だった気がします。


 そんなジョーに乾いた信頼と期待を背負って、妻夫木聡が拷問を受けることを決意するシーンなんかはぐっとくるものがありますし、ラストのそこそこの金を握らされて、駅もビルもない田舎の歩道に一人取り残される妻夫木聡の爽やかな表情は素晴しいと言う他ありません。


 まさに、これから彼の新たな人生が始まるんだと感じさせられてからのエンドロール。

 僕は思わず拍手してしまいました。


 個人的にオススメするなら、コロナ禍によって、不安な学生生活を送り、就職活動も上手くいかず、若いってだけで色んなことを後回しにされて、結局、どうすりゃあ良いんだよ、と途方に暮れている十代や二十代前半とかが見ると、励ましになる訳ではないけれど、自分のいる環境や周囲にいる人へ改めて目を向けることのきっかけになる映画になっていると思います。


『倉木』


 スマグラーは僕も見ました。かなり前にラブホで。


 郷倉くんも触れてたけど、邦画の積み重ねてきた歴史にVシネマというものがある。Vシネマといえば、任侠ものが多いんやけど、その描き方の映像となるお手本が多いため、スマグラーもウシジマくんも映像化に成功したのかもしれんね。

 Vシネマに通じるものは実写化しても、妙なリアリティーが出る。単なるコスプレ映画にはならない。そういう流れはあるように思える。


 事実、邦画の歴史で積み重ねてきた時代劇ものは、前年の大奥であったり、るろうに剣心であったりと、映像化したときの説得力が強い。


 実写化した際に成功しやすいジャンルってあるんやろうね。


 ちなみに、Vシネマのジャンルで多いもののひとつに、ギャンブルものがある。

 特に麻雀が多いんやけど、そこからの流れで様々なギャンブルものもある。


 カイジや咲や賭ケグルイも、この流れの子供たちと考えれば、実写化したときに成功しやすいジャンルともいえそうや。


 あと、特撮ものもジャンルとして強くて、それで一本映画つくりましたってので、ワイルド7というのがこの年の実写映画であります。忘れてなければ、僕のターンでワイルド7を話すかな。


『郷倉』


 実は個人的に倉木さんと奥さんが付き合っていた頃のエピソードって結構、面白いと思っていて当時のエピソードを四コマ漫画っぽい軽さで描いていってほしいなぁ、と僕は思っています。

 普通にラブホでスマグラーを見るのは面白すぎます。 


 倉木さんの返信を読んで、Vシネマと言えば倉木さんだったじゃん!という前提情報を見落としていたことに衝撃を受けました。


 そうか、倉木さんの軸足ってVシネマにあって、映画を評価する時、あるいは好みを語る時にVシネマ的かどうか、というのが大事になるのか、と変な気づきを得ました。


 そりゃあ、Vシネマが根底にあるなら、徹底的に「THE LAST MESSAGE 海猿」や「BECK」を否定しますわ。

 Vシネマの製作費の何倍の金をかけて作る作品がこれな訳? メジャーな俳優やアーティストを使えば、それで良いと思っている訳? 作品ってもっと泥臭いもんじゃないの?

 という価値観(偏見ですが)であれば、倉木さんの映画評論というか、立ち位置はとても明確な気がします。


 以前、倉木さんは「僕には今日はなんか映画みたくないって日があります。そんな日でも見える映画が最強だと思う。」と言っていたことがありますが、Vシネマを作っている人からすれば、これが一番の最強の褒め言葉でしょうね。


 また、倉木さとし作品を読んだことがある人には伝わると思うんですが、「情熱乃風R」とか、『超常現象代理人』とかの短編の作りに顕著な空気、あるいはノリや展開が、どことなくVシネマ感があるんですよね(その集合体が「はつこいクレイジー」だったと僕は思います)。


 僕はそれほどVシネマを見てきた人間ではありませんので、勝手なイメージですけど、アングラ感というか、王道的なことをしているのに、決してメジャーにあるようなポップさには迎合しないマニアック感がある気がします。


 このメジャーに迎合しないからこそ、コアなファン(僕ですね)がつく作家が倉木さとしで、逆にメジャーを求める読者からはどうやって面白がればいいのか、分からないって言われちゃう作品になるんでしょうね。


 これから倉木さとし作品を読む皆様、彼の作品はVシネマ的なカメラワーク、キャストを想像して、ぜひ読んでみてください。

 おそらく、二、三作品読むと、なるほどそういうことね、と分かってくると思うので。


 さて、では倉木さんの返信に関して、触れていきたいと思います。

 Vシネマの歴史があったからこそ、成功した作品は確かにありそうですね。もっと言えば、どんな漫画の実写映画であっても、邦画の歴史の系譜で分類することができそうです。


 その歴史、系譜に則るからコスプレ映画にならないのも納得です。

 邦画って、ファンタジーとか青春恋愛ものって、どうもコスプレ感が漂う時期があったんですが、過去の映画で参考にできるものがなかったからなのかも知れませんね。


 そういう意味で、少女漫画原作の実写映画は令和に近付くにつれて、参考にできる作品が溜まってきて、映像や俳優の演技ににこなれた感じが出てきている印象があります。


 その到達点は「溺れるナイフ」だったんだろう、と勝手に思っていますが、それはまた別の機会に語ります。


 任侠もの、時代劇もの、ギャンブルもの、特撮もの、この辺が一定のクオリティを保ち、テーマを吟味する余裕が伺い知れるのは、Vシネマのおかげだと分かりました(ワイルド7の話は楽しみです)。



『倉木』


 ものすげー、納得いってくれてるみたいで、読んでて面白かった。


 Vシネマの話をとりあげるならば、Vシネマの監督から漫画原作監督という経歴の持ち主もいるようです。

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