第42話 建国祭
晴れ渡った空の澄んだ空気が、黒樹の前の舞台を満たしていた。舞台の前には、百人ほどの官僚が階級に応じてずらりと整列していた。
この会議に参加するには一定以上の身分が必要だったが、その殆どは貴族だ。しかし、その100人の後ろにはカールおじさん達を含め平民や下級貴族も多くいた。
レイモンド将軍は、モードレッドの側近として舞台の傍に控えていた。クロウリーも近くにいる。新月教の者はいなかった。
モードレッド王はいつもと異なり、剣舞のための儀礼用の衣装に身を包んでいた。王剣もある。その佇まいの美しさと静謐さに、魅入るものも少なくなかった。
官僚達は忠誠心溢れる瞳で準備を整える皇帝を見上げていた。現在評判こそ悪い王だったが、彼の政治的能力に関しては少なくとも年齢を問わず中央の官僚から一定の評価を得ていた。
公平かつ迅速、国民のための最善手を常に考え、官僚たちの意見も広く取り入れる。淡々と、未来を見据えた最高の手を打つ目立たぬが有能な王。戦で荒廃した国を諸外国から守り、国力を着実に取り戻してきたのは他ならぬ彼の采配の賜物だ。
政治に深く携わる者はとうに気が付いていた。新月教が流布した口さがない噂も、ただのでっち上げだと言うことを。彼を失う事こそが、真に国の終わりを意味すると言うことを。
小さなどよめきが走った。始まるようだった。儀礼用の被り物をし髪と目が隠れた少女が舞台へと上がってきた。どうやら今回は楽器ではなく歌で始めるらしい。少女が所定の位置に座ると、ゆっくりとモードレッド王が舞台に上がった。
「これより、建国を祝し、王自ら奉納の舞を行われる」
クロウリーの凛とした声が辺りに響いた。
シャラリ、と鈴の音を纏いながら宝剣を掲げ、モードレッドは口を開いた。
「神と、この地に散っていった全ての者達へ捧げよう」
『始まる』
空気が泡立つのを皆が感じた。
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