第40話 夜闇に想う

「母さん、行ってくるよ。この国のあちこちで反乱が起っている。俺も領主さまの反乱の片棒を担いでしまっているけど・・・クレハ母さんや家族を守る為なら、俺は何でもする。帰るまで、家族を頼む」


そういった息子は骨さえも帰ってこなかった。夫と同じ。


「お義母様、どうかこの子をお願いします。この子は私達の宝、私たちの全て。この子が生きていれば、私たちはどうなってもいい」


息子の妻が炎に包まれる。血のような業火から震える腕がのび、赤子を差し出す。受け取った温もりは沸騰しているように熱く感じた。村は戦火に焼かれ地図から消えた。



てんてんと、鞠が転ぶ。拾った幼子がにっこりと笑う。

「ばぁば」


血溜まりに倒れ込む幼子。迫害のせいでボロボロに痩せこけ、石を投げられ、いじめられて自ら命を絶った。自分は何一つ守れなかった。


この子が何をした

敵に加担した一族だからだ

なぜ何も知らぬ子までこんな目に

ゴル・ジェだからだ


憎かった。この国全てが。大義もクソもあるか。天上人の思惑など知ったことではない。どんなに正義があろうが、その下で蟻のように死んでいく命を顧みたことがあるか。


全てを呪った。差し伸べる危篤な手さえ、振り払い傷つけた。

何もかも。どうでもよかったんだ。死ぬまで。



★★★

マーリンは瞼を上げた。


「これが、あなたの記憶なんですね」


溜息をついて、寝返りを打った。


「このようにして散っていった魂が、この国にはどれくらいあるのでしょう」


正直、マーリンが知るこの千年間の闇は氷山の一角だろう。鎮魂など、行う資格はない。それでも。できる限りのことはやってみようと思った。

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