第39話 一つの精算

エカテリーナが呪詛のように全てを話し終えた時、その場には重苦しい沈黙が流れていた。


「これがあの時の真実だ。言霊による強制だから嘘はない。だがあなた方からすれば非科学的なものだ。証拠と信じるには足りないか?」


ユージーンの問いに、モードレッドが口を開いた。


「いや、私は貴方を信じよう。過去の清算には十分な情報だ」

「わかった。こいつはこちらで処理する予定だ。罪状から歌聖が判断した。喉を潰された上、無期限の懲役となる。もうこいつがお前達の人生に関わることもないだろう」


マーリンは予想以上の厳刑に驚いた。


「それと、マーリン。お前の力の行使は結果的にこいつの尻拭いになった。下界へ赴いた罪は消えないが、総合的に勘案して超法規的措置で無罪になった」

「そう・・・」


驚きの連続だ。


「マーリンは元の場所に戻ることができるということか」


モードレッドが感情を抑えたような平坦な声で問うた。


「そうだ。マーリン、今回のことが終わってからでいい。前の話を考えてみてくれ」


そう言うと、ユージーンはマーリンをひたと見つめた。そして懐から横笛を取り出すと、静かに吹いた。その瞬間、呻き声を上げるエカテリーナと共に大量の花吹雪に包まれた。



美しい光景に向かって、マーリンは口を開いた。


「エカテリーナ。私は、どんな難しい問題にも諦めないあなたに憧れていました。放課後に血を吐くほど練習している姿を見て、尊敬していました。それを隠して涼しい顔で試験を突破していくあなたの強い姿に圧倒するものを感じていました・・・」


返事はなく、花びらがひいたところには誰もいなかった。


「・・・消えやがった。気配も綺麗さっぱりだ。やはりお前の故郷の人間はすごいな」


レイモンドが感嘆したように言った。ジーンはマーリンの肩に手を置いて「さっきのだけど、とんだ逆恨みよ。気にしちゃだめ。マーリンは全然悪くないのよ」と力強く言ってくれた。

「ありがとう」とマーリンは言い、心優しい友人の手に自らのそれを重ねた。



足音に顔を上げると、モードレッドが近づいてきていた。目の前まで来ると、マーリンの手をとり、片膝を立てた自らの額におしいだいた。


「マーリン」

「な、何」

「言葉など軽すぎることはわかっている。だが言わせてくれ。本当にすまなかった」


美しい彼の髪が震えていた。その後ろで同じく片膝を立てたクロウリーが静かに首を垂れていた。

マーリンは何も感じていない自分に気がついた。この光景が少し滑稽に見える。


「証拠がなかったのですから仕方ないです・・・謝っていただくことはございません」



モードレッドが顔を上げた。自らを責めるような、哀しい表情をしていた。


(そんなに疑っていなかったくせに)


マーリンは笑ってみせた。

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