第38話 犯人の告白

昔から、マーリンが嫌いだった。


どんなに叱られても「こっちがいい」と楽譜通り歌わず、自分の好きな通りにアレンジしてしまう。


叱られても馬鹿の一つ覚えみたいに同じことを繰り返す。ナジェイラの歌をなんだと思ってるのよ。

私はそんな規律に縛られませんっていう自由人アピールが鼻につくのよ。


私はちゃんと言われた通りに頑張っているのに。


難しい旋律も、声が枯れるような音域も、楽譜に書いてあるから仕方なくて、必死で練習したのに。

辛いけどひたすら我慢して我慢して、こんなに…こんなに私は頑張っているのに。あいつはなんの努力もせず被害者面して周囲の批判を受けている。腸煮えくり返るほど煩わしい。


そんな顔するなら言われた通りにすればいいじゃない。自分を曲げられないのならその悲劇のヒロイン面をやめろ。


私達の中の誰よりも歌の才能に恵まれたくせに。あいつに歌えない曲はなく、あまつさえ作曲の才にも恵まれた。そんなに縮こまりたいなら私にその力寄越せよ。もっと不幸になれよ。


あいつを虐めてもあいつは私に屈服しなかった。だからあいつの弱みを握ってやろうと探りを入れていた。バカなマーリン。悲劇のヒロインは下界の王子さまとよろしくやっていた。傷の舐め合いはさぞかし楽しいのだろうね。


下界に降りたことを通報するだけじゃ満足できない。お前の大好きな王子さまを殺してやろう。眠っている少年に近づいた。


「うぅ…マーリン?」

「そうよ」


にっこりと、私は短刀を突き刺した。少年の呻き声、マーリンが戻ってくる音…。先に帰って泉を埋めてしまえば、取り残された奴は間違えられて死罪かしら。あぁ最高じゃない。私はマーリンに見つかる前に泉に身を投げた。

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