第32話 明らかになる事実
「この棚からこの棚迄は全てハズレ・・・次はこの棚・・・。はぁ、この書庫、蔵書が多い上に並びがバラバラ・・」
オウリとの出会いから一週間。マーリンは遺跡の書庫で毎日調べ物をしていた。
話にあった歌と剣舞の記録が記された本。それがマーリンの目的だった。
「目が疲れた・・・頭が痛い・・・」
暗い書庫を照らすのは、数本の蝋燭の光。外はきっと太陽が顔を出した頃だろう。
この遺跡は、ナジェイラが国を治めていた頃の宮殿跡だったようだ。千年以上前の歴史書、算術書、天文書、文学書等々。この書庫の蔵書はその一つ一つが現代においてまさに宝と呼ぶに相応しいだろう。
(だが、肝心の本がない)
疲れた。一度横になろうか。持ち込んでいた毛布を引きずり収まりの良い場所を探して歩く。ドサリと横になり、毛布を被った。視界に広がるのは聳え立つ書庫の数々。あと3週間。急がなければ。
どれくらい眠っただろう。優しくぽんぽんと叩く衝撃で眠りの淵から浮き上がった。
「うーん・・」
「ほれ、起きんさい。ほんにもうあんたは、頑張りすぎじゃ。ろくに食べもせんでずっとこんな所に篭りきりで・・・。毎日数刻も眠っとらんじゃろ。王も心配しとったぞ。身体を大切にしぃ」
しわくちゃで温かい手。お婆さんだ。ちょっと怒った顔。でも、声には心配が滲んでいる。マーリンは心が暖かくなるのを感じた。
「書庫にはお主しか入れんからの。一度外に出てみい。王の心配の証が沢山あるぞ」
そうだ、防犯のために毎度書庫の扉を閉めていたんだった。入るにはあの獅子の口に頭を突っ込まなければならない。モードレッド達では無理だ。
お婆さんの言う通り、書庫の扉の向こうには沢山の軽食が乗った盆が並んでいた。昔マーリンが好きだと言った菓子も数多く乗せられている。モードレッド直々の指示だろう。暫く会えていなかったが、彼の心遣いに自然と笑みが溢れた。何だろう、この心が満たされる感覚。
「な?」
お婆さんもくしゃりと笑った。マーリンは盆の一つを持つと足取り軽く書庫へと戻った。
「こら、休めと言ったじゃろう」
「時間が無いのです。気が急いて、戻ったところでゆっくり眠れません・・・」
ふっくらと炊いた穀物を丸めて握ったこの料理は何と言うのだろう。塩が効いていて美味しい。試しにお婆さんに差し出すと、ニッコリ笑いながら断られた。
「そうか。探し物をしておったかの。じゃが、体を壊していては元も子もない。余計に時間がかかろうて。今日だけは夜にしっかりと戻りんさい。飯もたんと食べ」
「ありがとうございます」
お婆さんは微笑みながらマーリンの頭を優しく撫でると、帰っていった。
しばらくマーリンは差し入れの軽食を腹に収めていた。盆が綺麗に片付くと、調べ物を再開すべく立ち上がろうとした。
パサリ。
足元に、先程までなかった、古ぼけた本が転がっていた。
何と話にパラパラと捲っていたマーリンの空色の目が大きく見開かれた。
★★★
それは、初代国王ウーゴの手記だった。手記といっても備忘録のようなものだったようで、走り書きや、血の跡がついていたりした。しかし読み進めるうちに、マーリンが探していた情報が記されているのを見つけた。
『大樹の浄化』
この出来事だけ、彼は詳細に筆を走らせていた。後世に残そうとしたのだろう。マーリンは夢中で読み進めた。確かに、彼は樹の精霊と言葉を交わし、歌と剣舞でもってその穢れを鎮め、魔物から国を守ったのだという。
(この記述は・・・剣舞の詳細か)
文章のみであるが、事細かに剣舞の詳細が記されていた。
「では、肝心の歌は」
『教典第1章〜5章、終末記、創世記の暗唱』
教典とは何だ。千年前に存在していた宗教と云えば・・・。
マーリンは左の本棚から分厚い本を取り出した。これが確か教典だったはずだ。今はほぼ廃れたというが。
『後世のために、楽譜を残す。千年後のナジェイラよ。これをもって責務を果たせ』
(楽譜)
確かに暗唱だけでは効力は発揮しない。音節をつけ一つの曲として成り立たせなければいけないのだ。
「楽譜はどこ・・・」
しかし、どれだけ探しても楽譜は見つからなかった。
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