第29話 遺跡とナジェイラ

しばらくの間、マーリン達はこの部屋の本棚を調べて回った。書庫にある本はざっと2、3万冊程あり、その全てが古代語で書かれていた。歴史書、娯楽本、技術書、小説、芸術書…と、本棚にある本は様々な種類のものがあった。


マーリンがそれを説明すると、『古代にこれほどの文化が発達していたとは』と、クローリー達は驚いていた。マーリンは歴史書を重点的に探そうと本棚から大量の本を取り出した。



それから暫く時が経ち、モードレッド達が夜会の準備で帰ってしまってからも、マーリンはこの部屋でずっと一人、本を読みふけっていた。厄介だったのはマーリンのよく知る本のように、章ごとにまとまりがある訳ではなく、だらだらとひたすら長文が続いていたことだ。


手がかりを見つけようとすれば全ての本をある程度読み進めなければならず、その作業は大変な労力を要する。しかも、ある程度精通しているとはいえ古語で書かれている本だ。読みにくいことこの上ない。


それでも根気強く続けられたのは、内容が興味深かったからに他ならない。大分探し回って、マーリンはようやく手がかりらしきものにたどり着いた。


「大紀元年(年表によれば今からおよそ1000年前)、悪魔に支配されたこの地に、突如として金の一族が現れた。彼らは、その不思議な力でもって瞬く間に悪魔を滅ぼし、この地を再び人間の物とした。民衆はこれを歓び、彼らを自らの王として迎え入れた…」

「金の一族には指導者が一人いた。その者の名をウーゴという。ひときわ輝く黄金の髪を靡かせて、水晶の大剣を振るうさまは人々の目をひどく惹きつけるものだった。…彼こそが、壮麗王とも呼ばれたこの国の初代国王である」


どうやら古代の王族には『悪魔』ー恐らく現在「魔物」と呼ばれているものーを退治する力があったしい。そしてモードレッドの持つ剣は、初代の王の愛刀であることは間違いなかった。魔物の脅威から民を救った彼らは「神の力を持った金の一族」として崇められ、王座についたと本は語っていた。


「金の一族」、そして初代国王のウーゴのもつ「黄金の髪」。


 やはり、金の一族はナジェイラの一族のことを指しているに違いない。カールおじさんの仮説が正しかったのだ。あの古い歌はまさに彼らの事を言っていたに違いない。そうすると、やはり魔物を一掃するにはナジェイラの持つ歌魔法が必要であるという事だ。

だが昨晩モードレッド達に説明したように、マーリン一人がいくら浄化魔法を使ったところで意味はない。古代に生きた同族達はどういう方法で人々を救ったのかー…まだまだ知るべきことはたくさんあった。


日も暮れている頃だろう。マーリンは明日また調べることにして、本を元の棚にもどし、書庫を後にした。部屋を出るとひとりでに扉が消え去った。マーリンは石像にぺこりとお辞儀をすると、地上への階段を上っていった。


★★★


外に出ると、やはり日はとっぷりと暮れていた。しかし城の方は夜会が開かれているだけあって、中から漏れ出る明りでぼうっと輝いていた。城の前の大通りにはひっきりなしに馬車が止まり、着飾った女性や仕立ての良い服を着た男が続々と城の中へ吸い込まれていった。


使用人も慌ただしく出入りし、兵士たちもピリピリとした雰囲気で警備をしている。


暗闇にぼんやりと浮かび上がる青の城からは、明るい音楽が聞こえてきた。近くの庭園も解放されているらしく、飲み物を持った夜会の参加者達が、寛いだ様子で談笑していた。


中で行われている夜会がどんなものか興味があったが、人目を気にしなければならないマーリンにとってそれは不可能なことは分かっていた。そのためマーリンは部屋に戻るべく、城の裏口へ歩を進めた。

しかし、歌うような声に呼び止められる。


「おや、せっかくの宴ですのに、見ていかれないのですか」


振り返ると、昼に会ったジュダが立っていた。


「私の存在は極秘ですから」


マーリンは力なく微笑んだ。

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