第22話 調査開始
次の日、マーリンはレイモンドに城の案内をしてもらった。
「王城の敷地内の殆どが庭と言う名の森だな。建物はたくさんありすぎて説明しきれないから主要なものだけいうと」
レイモンドは昨日の旅装を解き、今は立派な軍装をしている。
「正門から入って正面の道をまーっすぐ進むと城がある、それでその城の右側手前にあるのが使用人宿舎や練兵場だ。左手奥に神殿がある。大理石で出来ているから綺麗だろう」
使用人宿舎の区画は大きく一つの街か思うくらいだった。神殿も、あまり奥へは立ち入れなかったがそこそこの規模があった。大理石の壁がピカピカと光り、清冽な空気が建物を包み込んでいた。
「城の中だが、下層階は公的な目的のために使われる。晩餐会や舞踏会が開かれる大広間や、官吏の執務室、調理場、図書館…とにかくいろいろあるぞ。上層部には謁見の間があるが、それ以外は全ての、王とその家族の私的な空間だ」
マーリンの部屋があったところも居住区にあたる場所だったらしい。
「あとは城の裏に昔の神殿跡がある。誰も立ち入らない遺跡だ。例の王剣が見つかったのがここの地下だ。ただ、そこを調査した大神官のやつがここは危険だっていうんで基本的に立ち入り禁止だ…まぁ俺も陛下について入ったが危険はなかったがなぁ…だが、妙な気配はした。だが剣があった部屋は入り口から一本道のところにあったし、どこに行っても目ぼしいものはなかった。まぁ、無駄足だと思うが気が向いたら探索でもしてくれ」
「わかった」
レイモンドはマーリンの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「そんじゃ、俺は行くよ。また分からないことがあったら聞いてくれ。今日は夕方から晩餐会なんだ。俺も早めに仕事を終わらせて参加しないといけないんでな」
「忙しい時にありがとう」
「気にすんな。昨日はうちの陛下達が嫌なこと言ってごめんな?俺はお前を信じるよ。だが、クロウリーは陛下に関しては盲目だし、陛下は特に昔から暗殺仕掛けられまくってるから裏切られるのにひどく臆病なんだよ。まぁこれからしばらく一緒に時間を過ごせば陛下も警戒を解いて信じてくれるようになる。それまでの辛抱だ」
「そんなに命を狙われていたの?」
「あぁ・・・生まれた時からずっとな。当時は国中荒れていてな。玉座につきたいやつはごまんといた。お母上も暗殺されたと聞いた。まぁ、詳しくは本人に聞くことだな」
レイモンドはニッコリと笑って背を向け去っていった。
マーリンはひとまず、誰もいない庭を、何とは無しに歩き続けた。どこかから澄んだ鐘の音が聞こえてくる。時刻を知らせているらしい。鐘の音が途絶えると、辺りは鼓膜が変になるような静けさに包まれた。前後左右、どこを見回しても、木漏れ日が降り注ぐ木々の中にマーリンは来てしまっていた。だがマーリンは不安になるどころか安心感さえ覚えた。ここはマーリンの住んでいた辺りに似ている。
(故郷と違って生き物や精霊達の声がしないけど.懐かしいわ)
城や街の喧騒から離れて、久し振りに1人の静けさを味わう。ぼんやりと歩きながらマーリンは穢れの事について考え続けていた。やはり城に来ても手掛かりらしいものは掴めなかった。これからどうすればいいのか。
(でもとりあえず、今の時点で気になるのは遺跡、ね。あの破魔の剣があったんだし)
レイモンドは何もないと言ったが、遺跡の地下には、まだ探せば何か手がかりがあるのではないか。一度自分の目で確かめてみようとマーリンは決めた。地下への入り口が遺跡のどこにあるのかを聞きそびれたが、とりあえずマーリンは今日中に向かうことにした。
ひとまずやるべき事が見つかり安堵したマーリンは、一休みしようと近くの芝生に腰を下ろした。大きく深呼吸する。気持ちがよくなり、つい鼻歌を歌ってしまった。
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