第13話 束の間の休息

それから数日間、マーリンはジーンとウィルと過ごした。カールおじさんは王都にいる長男にマーリンの事で手紙を出したから、返事が来るまで是非ここでゆっくりしてほしいと言ってくれた。

マーリンはこの家で過ごすのは楽しかったし、この力を彼らのために使いたかったから特に異論はなかった。


ジーンもウィルも州立の学校に通っているらしい。今は長期休みの真っ最中で、ジーンもローズブレイト家に泊まっていた。そのためずっとマーリン達と一緒にいてあれやこれやを教えてくれた。


この国の身分階級、諸外国との関係といったことから時には街に出て通貨の数え方、買い物の仕方や商品の相場までマーリンは知ることができた。


「この国には5つの階級がある。上から王族、貴族、騎士、平民、そして犯罪者だ」

「騎士は平民でもなれて、出世すれば貴族と同列になれるの。平民がそこまで辿り着くのはまれだけど、ウィルの一番上のお兄さんがまさにそれにあたるのよ」

「あぁ。レイモンド兄さんは王の側近だからな。上位貴族と同じくらいの地位にいる」

「それは大出世だね」

「あぁそうさ。おかげでママは鼻が高くて仕方ないんだ。会う人会う人に自慢するんだ」


ウィルは嫌そうな顔をして言った。


「僕らもレイ兄さんみたいになりなさいって言われ続けて育ったよ。僕らが同じように偉くなれるって信じてるんだ。ほんとうに困るよ」

「レイモンドさんと自分を比べようなんて思っちゃダメよウィル。あの人は昔からどの子供よりも優秀で、それに人を惹きつける才能があったんですもの」


ジーンはウットリとして言った。その顔はまるで恋する乙女のようだとマーリンは思った。ウィルもその顔を見てそっぽを向いた。


「そうだな。男はみんなレイ兄さんの下につきたがったし、この州の全ての女の心は兄さんのものだった。腕っ節はめっぽう強かったし、顔もめちゃくちゃイケメンだったからな。君だってあいつにお熱だったろ」

「そ…そんなことないわよ!」


ジーンは否定したが、顔が真っ赤に染まっていた。


「そ、そういえば、マーリンは好きな人いないの?」


 急に質問がマーリンに飛んできた。突然の問いに狼狽える。


「えっ…」

「いたでしょう?」


助けを求めるようにウィルを見るが、肩を竦めるだけで「諦めろ」と言わんばかりだった。


「うーん…」


そう言われて、マーリンは必死で好きな人を思い浮かべようとした。学校では好きな人どころか友達一人いなかった。見目の美しい男子はいたが、そう言う人達は必ず自尊心と自己愛が強いのでマーリンはあまり好きにはならなかった。寮母は優しかったので好きだったが、恋ではない。


「あ…」


マーリンはふとモードレッドを思い浮かべた。彼といると心が温かくなるし、一緒にいると全ての不安が吹き飛び、ずっと話していられる。会えない時間が寂しいくらいだ。彼は男だし。


ではこれは恋しているというのだろうか。


「いるの?いるのね?」


ジーンがさっきとは様子が打って変わって、キラキラした目でこちらを見た。


「大好きな人はいるけど…でも多分彼は親友だから…」


そうだ、親友なんだ。マーリンはそう自分に言い聞かせた。


「そうなの・・・。じゃあ、出来たら教えてね」


ジーンはにっこりと笑った。

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