第3話 千切れた思い出
「おかえりマーリン」
白いシャツに黒のズボンを履いた子が、揺れる緑の中、曇りない笑顔で立っていた。黒に近い濃い赤の髪は、子供特有の柔らかさをたたえ、さやさやと風にそよいでいる。
額にハラリとかかる前髪の下には、燃え上がるようにマーリンを見つめる切れ長の目があった。鹿のようにしなやかな身体を歓喜に震わせて、少年は華奢な腕を広げたー…。
「ただいま…!」
ただいま、モードレッド。
マーリンはその腕の中に思い切り飛び込んだ。彼の匂いを思い切り吸い込む。少年は衝撃によろめきながらも、しっかりとマーリンを抱きしめてくれた。
「今日も、夜までずっと一緒だよマーリン」
少年は、自分の元に来たマーリンを見て満足そうに口元を綻ばせると、その肩に顎を乗せて囁いた。
「うん。たくさん遊ぼうよ!モードレッド」
マーリンは布越しに伝わる、少年の熱い鼓動を感じた。久しぶりの逢瀬に、体が宙に浮いているような、ふわふわとした幸せな気分だった。
その日もいつもと同じ、とろけるような幸福感に包まれた休日になるはずだった。マーリンと少年は柔らかな芝生の上に腰を下ろし、少年の持ってきた菓子を摘みながらとりとめのない話に夢中になった。
しかし神の気まぐれか、その日常はいとも簡単に崩れ去る。
マーリンが聞いたのは、彼の苦しそうな呻き声。彼の体から大きな刃が生えていた。
「う…がぁっ…」
「モードレッド‼」
彼の口から鮮血がつう…と滴り落ちた。苦悶に顔が歪む。マーリンは悲鳴のような声を上げた。
少年はマーリンを見てはくはくと口を動かした、しかし音は出ずそのまま少年は糸が切れたように崩れ落ちる。
「モードレッド!モードレッド!」
マーリンは少年をかき抱いた。死なせたくはない。たとえ掟を破ったとしても救いたい。マーリンは全てを覚悟した。ゆっくりと口を開く。
「―――」
紡ぎ出される禁忌の歌に、自らの運命の歯車が回る音が混じった―――。
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