5年目 冬 2/2

みなさんこんにちは。アリスです。


冬もいよいよ本番になり、樹氷や地吹雪が見られるようになりました。

今日もお外は吹雪いてます。


一ヶ月ほど前にあった教会の倒壊事故、奇跡的に死者は出ませんでした。

肝臓が破裂してた男の人も、無事に助かったよ。

今は血液量戻すために、食っちゃ寝生活してます。


事故原因の捜査は、十日ほどであっけなく終了しました。

あの、ギャーギャー騒いでた司祭、シスターの言う通り建築業者に建材ケチらせて、差額を着服してたよ。


建築業者は王都近くの業者で、うちの領の積雪量を知らなかった。

司祭は建材をケチらせて差額を返金させただけじゃなく、雪の積もらない地域の仕様で業者に発注してその差額まで着服してた。

契約書には、しっかり無積雪地域の図面が付いてたよ。

これを知った教会は、即座に司祭を異端者認定して破門。

後ろ盾の無くなったは、あっけなく自供を始めた。


倒壊するのが目に見えてるのになんでそんなことしたのかと思ったら――

『雪など雨より軽い物。だから倒壊は工事の手抜きが原因』だって。

この元司祭、王都出身で『雪など埃程度の重さ。いくら積もっても軽い』と思ってたらしい。


尋問してたソード君が呆れて元司祭を外に連れ出し、直径1mほどの雪玉を作って持たせようとした。

元司祭はレベル0、雪玉はおよそ500kg。持ち上がるはずがない。

元司祭は目の前の現実が受け入れられないらしく、首をひねるばかり。

今度は直径10cm程の雪玉を渡して、『それでリンゴ一個分。大きな雪玉はリンゴ1,000個分。大きな雪玉が教会の屋根には何個乗るんだ?』って言ったら、ようやく自分の間違いに気づいたらしく、呆然としてたってソード君が言ってた。


でもさ、ソード君。

君もこっち来た最初の頃、雪の重さを説明したら信じて無かったよね?

これは王都とこっちの常識の違いなのかな?


まあそんなこんなで、元司祭は財産を没収されて領外追放になった。

ソード君は、没収した財産に領からの見舞金を乗せて被害者の怪我に合わせて配分したの。

だからあの男の人は食っちゃ寝出来てるんだけどね。


で、問題は倒壊した教会。

放置するのは危険なので、私とソード君、兵士さんたちで解体して整地しなおし、新しい教会建てて来た。

作業日数は、わずか一日。

高圧縮レンガとH鋼使って、壁も二重壁にしてきた。

屋根も無落雪の魔道具融雪式だよ。

だって女神様のおうちでしょ。手抜き工事なんて許せないからね。


本来なら教会側が解体して建て直すんだけど、極寒の中で平気で工事出来る人材なんて、うちの兵士さんくらいしかいない。

でも、放置して再倒壊なんかしたら教会の威信に係わる。

で、困った教会が撤去費用払うからとうちに泣き付いて来たの。


辺境ってね、大自然の脅威を身近に感じるから、信心深い人多いんだよ。

ソード君が兵士さんたちに撤去の仕事を振ろうとしたら、非番の有志でやるから建築までさせろと迫られたの。

女神様にお世話になってる(と自分では思ってる)私は、当然参加した。

ソード君まで、私がお世話になってるからって参加してくれたんだ。


そして資材は全て領主様からの個人的な寄付。

兵士さんや私、ソード君は完全無償奉仕。

しかも女神様へのご恩返しとかみんなが思っちゃってるから、以前の教会とは比較にならない新教会が出来上がってしまった。

私もちょっと調子に乗ってステンドグラスや女神様の像、床暖房まで作っちゃったし、副長さんもノリノリであちこちに彫刻してたからね。


そして王都の教会本部に、『整地して新しい教会建てた。全部領主様や領民からの寄進』って手紙出したら、教会本部が大慌て。

私たちは知らなかったんだけど、教会を建てた場合は、直ぐに式典をしてお披露目しないといけないらしいの。

普段はお金を寄進してもらって教会が建設するから事前に予定が立てられるらしいんだけど、知らなかったものは仕方がない。

しかも迷惑掛けられたこちら側からの寄進だから、教会側は文句なんて言えるわけがない。

でも、王都から通常の方法で移動していたら時間がかかりすぎて、式の予定が立たない。


結局、姉妹ちゃんが旅客用の飛翔機二台で、王都まで教会ご一行を迎えに行ってくれた。

吹雪の季節だけど、晴天の時にまっすぐ南下すれば、吹雪は避けられるからね。

帰りは念話で気象条件確認しながら戻ってもらったし。


そして到着した教会様ご一行。

まずは飛翔機の速さに驚愕。

朝王都を出発して、途中でお昼休憩入れてるのに、夕方前には到着だからね。

でも、ファン型だから遅い方だよ?

次に圧倒的大自然に唖然。

飛翔機降りて、うちの領の寒さに驚愕。

今、真冬だから、日中でも-10℃くらいだもんね。

そして姉妹ちゃんが使ってくれた熱魔法に驚愕。

暖かく移動出来る魔法なんて、知らなかったんだね。

式は翌日の予定なので、到着後はお城で歓待。

姉妹ちゃんがわざと中庭に着陸したから、お城見て唖然。

貴族用の客室に案内されて、魔道具の多さに驚愕。

夕食に招待されて冬場の食材の豊富さに驚愕。

知らない料理の多さに唖然。

食べてみて美味しさに驚愕。

翌日は、教会の荘厳さに驚愕。

中に入って床暖房に唖然。

ステンドグラスと等身大女神像を見て驚愕。


なんとか式典をこなしてもらい、領主館での昼食後、赴任する新司祭を残して王都に向けて飛翔機で旅立って行った。

かなりの強行スケジュールだったけど、魔道具関連の機密を守るためには仕方なかったんだ。

一度に十人以上泊めようとすると街の宿屋さんかお城しかなくて、宿屋さんはあんまりグレード高くないから、お城一択だったんだよ。

こっちも勝手に教会建てちゃった手前、歓待しないわけにもいかなかったからね。

一応お城では各階段に兵士さん配置してたけど、普段は配置してないから人員のやりくり大変なんだよ。


でもね、式典終わった日の夜、また女神様が夢に出て来たの。

私たちが建てた教会の中で、女神様が微笑んでるだけの夢。

自分の願望が夢になっただけだろうと思ってたんだけど、なんと教会建てたみんなと領主様まで同じ夢を見てた。


そしてみんなが気付いた。

自分のレベルが一段階上がってる。

全員教会にお祈りに走ったよ。


大勢で押し掛けちゃったので、新司祭さんとシスターさんがびっくり。

理由を説明してたら、丁度雲の切れ間から日が差し込み、女神様の像が光って見えちゃったからもう大変。

司祭さんとシスターさんが涙流しながら祈り始めちゃって、しばらく収拾付かなかったよ。


その後、思い詰めた表情のシスターライラさんから、診療所でのお手伝いを希望された。

ライラさん、ここにくる以前は地方の教会で治癒師見習いをしてたらしい。

倒壊事件で前教会を血で汚してしまった責任の一端があるし、私の手術見て感動しちゃったからと、すんごい勢いで頼み込まれた。


診療所、春からすごい事になりそうだな。

実は、港街襲撃事件の時に隣街で治療の補助してくれた看護師見習いの少女三人が、仕事の引継ぎと身辺整理を終えて、春から診療所に来るんだよ。

この少女たちも、私の治療見ちゃって『少女でもこんなすごい医師になれるんだ』と夢を抱き、以前から私に弟子入り志願して来てたんだよ。


この世界、まだまだ男性社会で女性の活躍の場は少ない。

私も女性の社会進出応援したいから、彼女らの後任の雇用と引継ぎを条件に、領都街の診療所での弟子入りをOKしたんだよ。


なんで街の診療所なのかって?

お城のみんな、レベルが上がっちゃってケガや病気しなくなって、お城の診察室は閑古鳥泣いてるからだよ。

対して街の診療所は、住民二百人以上増えてるから患者さんも増えてるの。

丁度良いよね、私のスケジュール以外は!


そんな理由もあって、春からのスケジュール調整のために事務処理システムを変更しました。

文官さんが育って来てかなりの仕事を任せられるようになったし、領政も安定して来たからね。


今年の領財政は大赤字だけど、来年は黒字化出来そうな見込み。

やっぱしきんの代金払ってもらえるようになったのは大きい。

陸海空の各工場も、業績は上り調子の黒字だ。

ただ飛翔機は王家から民間販売を禁止されてるので、顧客は国と自領自家使用だけどね。


そして以外だったのはソード子爵領。

厳密には他領の財政だけど、お城で辺境伯領と一緒に扱ってるからね。

子爵領は来年も赤字と覚悟してたのに、黒字化が見えて来てるの。


子爵領での新規事業は、自走車・飛翔機・船舶用木材販売、家庭用魔道具工場、そしてリゾート旅館の三つ。

これ全部が予想の倍近い収益上げてるの。


旅館なんて予想の三倍の収益上げちゃってる。

リゾート旅館なんて銘打ってるけど、村おこしのつもりで建てた旅館だから、寒村の旅館だよ?

村の横にあったなだらかな丘をゲレンデ化して対スライム防護壁で旅館と一緒に囲い、簡易リフト付けただけ。

簡易リフトなんて、頂上と下をロープがぐるぐる回ってて、手で掴んで滑りながら登るんだよ?

客室稼働率なんて30%くらい行けばいいかと思ってたのに、三ヶ月先まで予約埋まってるの。

三か月先なんて、ここよりあったかい地域だから、雪無いよ?

グラススキーでもやるべきか?


どうやら、子爵領領都との送迎をファン型飛翔機にしたのが繁盛の原因らしい。

地域的に猛吹雪は一冬で二、三回らしいから移動時間の短縮目的で導入したのに、集客の目玉になってた。

よく考えたら、平民が飛翔機に乗れる機会なんて、ここくらいしか無い(領民はレベルアップのために移動で乗ってるけどね)。

他領の平民の飛翔機熱、なめてたよ。


そして三か月先の予約は、半数以上がリピーターだった。

理由は料理。

目新しい方が受けるだろうと、メニューのほとんどが日本食。

お城の料理人さんを指導員に派遣して、食材は領都街から空輸してるの。

リピーターさんからは、『年中この料理が食べられるのか』と必ず確認があるらしい。

食い意地もなめてたよ。


仕事も慣れて来て効率化が進み、財政の黒字化も見えてる。

おかげで文官室は修羅場から脱したよ。


だから私は、春から診療所通い出来そうです。

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