5年目 秋 1/3

みなさんこんにちは、アリスです。


二か月前にソード君宛のアリストクラシの招待状が届き、城内がパニックになった。

でもさぁ、ソード君は辺境伯継嗣なんだから、成人したらパーティーや公式行事なんかで、たびたびお城留守にするよ。

私なんてまだ十一歳なんだから、子供に頼りきりってどうなのよ?

私もソード君の婚約者として、たびたび抜けるだろうし。


お城の運営が私たち頼りではいかんと、お城勤めの人を大幅増員した。

港街からの避難者を積極的に採用し、ソード商会では新工場の従業員としても雇い入れた。


文官の人員は倍になり、領兵も増員して命令系統を明確化。

さらに文官、武官ともに支援部隊(遊撃部隊)を作り、突発的に仕事が急増した部署を支援させた。


うん、分かってる。仕事に忙殺されてる時に新人入れて組織改編するなんて、仕事量増やしてるようなもんだよね。


でもね、二ヶ月後には、私たち二人とも抜けるの確定なんだよ。


そして始まった修羅の道。

私、毎日十五時間勤務になったよ。

十一歳に無茶させるなよ。自分がやったんだけど…。

レベル14になってたから倒れないで済んだけど、二ヶ月無休はきつかったよ。


でも、無理したおかげで、何とか新体制が形にはなったよ。


そして私は今、王都の公爵家王都邸に来ています。

ソード君はアリストクラシの式に出るため、一足先に王城に向かいました。

私はシャルちゃん、ママさんと一緒に、ドレスアップの打ち合わせ中です。


ネックレス、私の分まで用意されてたよ。

しかも婚約祝いだからって、新品のオリジナル品。


ねえ待って。なんか宝石類がいっぱい付いてますが…。

私の嗜好に合わせてかデザインはおとなし目なんだけど、却って高級感が増してませんか?


「えっと…。公爵夫人、さすがにこれを頂戴するには、いささか、いえかなり高価過ぎませんか」

「アリスさん、娘の命の恩人への婚約祝いなのよ。公爵家としては当然の贈り物です。さらにご自身しか使えない貴重な医療魔法まで伝授下さって、娘は十歳で法衣伯よ。それと内情を言えば、このネックレスの代金の十倍を掛けても、今わたくしが受けている貴族家淑女の支持など得られないわ」


ああ、私のなんちゃってスイーツレシピ、そんなに受けちゃってますか。

それにシャルちゃん救命のお礼と言われると、受け取らないとご両親の感謝の気持ちを拒絶することになっちゃう。


「…ありがたく、頂戴いたします」

「ええ、これでほんの少しだけ肩の荷が軽くなるわ。でもねアリスさん。あなたにレベルアップして頂いたおかげで、わたくし病気知らずな上に肌艶も若返って、さらに余分な脂肪まで取れてしまったのですよ」

「あ、やっぱり効果ありましたか」

「そうね。当然婚姻の際も、しっかりと受け取ってもらえるわよね」

「わおぅ、結婚が憂鬱になって来ちゃった…」

「ぷ。アリスさん、笑わせないでください。晩餐会でアリスさんといたら、気を抜いてしまいそうですわ」

「あら、殿下の婚約者として、気を緩めてはダメよ」

「はぁい」

「…そのお返事も、今だけよ」

「…はい」

「それでアリスさん、ティアラと指輪はお持ちになった?」

「はい、これでどうでしょう?」

「……」


あれ?返事が無い。


「あの、デザインまずかった?」

「いいえ、ルールやマナー的には大丈夫よ。ただ、出来が良すぎるのよ」

「良すぎる?」

「ええ。このティアラの金属、銀じゃないわよね。銀より光沢が滑らかで、柔らかさがあるわ」

「あ、これプラチナです。純銀より少しだけ光の反射が少なくて、硬さも硬いし重さも倍くらいあります」

「…そのような貴金属、聞いたことが無いわよ」

「えっと、まだ世間に認識されてないだけで、鉱石から抽出出来るよ。マギ君も将来の需要を見越して持ってるはずだから」

「つまり、将来銀より価値が出る可能性があると言うことね」

「銀よりよっぽど希少で、金に近いかも…」

「…このティアラ、銀製と言っておきなさいね」

「はい。指輪もだよね」

「ええ、そうね。この指輪なんて、デザインが斬新過ぎるのよ。二種類の金属を接合してるのに、滲みなくくっきりとラインが出てる。さらにこの形状、大きな宝石をカットしたようなイメージを受けるわ」

「わたくしも欲しくなってしまいますわ。この色、お二人の御髪の色ですわよね」

「シャルちゃん凄いわー。こっそり隠した意味を見つけちゃうんだもん。普段使いに宝石は着けにくいから、金属だけで作ったの」

「婚約者の瞳の色をした宝石を身に着けることはありますが、それは片思いでも可能です。共に在ることを表した指輪とは、まさに婚約者にふさわしい指輪ですわ」

「そうよね、素敵だわ。…隠した意味。ティアラにもあるのかしら?」

「シャルちゃんはどう思う?」

「…デザインがリボンです。リボンは何かを結ぶものですから、縁(えにし)を結ぶ。いえ、気持ちを結ぶでしょうか?」

「せいかーい!婚約で家と家を結んで、婚約者同士の心を結ぶの」

「アリスさん、そういうの上手すぎですわ!」

「……これ、貴族家の女子に大うけするわね」

「えー。こっそり分からないように作ったのにぃ…」

「ひょっとしてソード様もご存じないのですか?」

「うん、言ってない」

「わたくしも普段から身に着けられる、マギ様との指輪が欲しい…」

「あ、作れるよ」

「え?」

「マギ君って、赤みがかった金髪だよね。シャルちゃんは完璧金髪だし」

「わたくしの色に金を使うのは出来ますが、赤みがかった金色の金属などございまして?」

「なければ作ればいいよ。こうやって……」


銅貨から銅を抽出して、持って来た金とまぜまぜ。

よし、ローズゴールドの出来上がり。

後は金とゴールドを合わせて捻って…。


「そのデザインがいいですわ!柔らかさが出てて可愛いです!」


おや、カット面作る前にOK出ちゃったよ。


「確かにシャルちゃんもマギ君も雰囲気柔らかいから、こっちのデザインの方が合いそうだね。マギ君の指のサイズって分かる?」

「はい。贈り物用にサイズテストした指輪がありますわ。お出しします」


へー、贈り物用に同サイズの指輪が用意してあるんだ。

すごいな公爵家。


再度こねのねこねこね、みょーん、ねじりねじり。


「はい、どうぞ。もし新しいの欲しくなったら、自分で作ればマギ君喜ぶかもよ」

「あ、はい。でもまだ接合部のきれいな曲線は、自信無いです」

「それでもマギ君は喜ぶな」

「えっと、…はい」

「アリスさん!」

「は、はいぃ!?」

「今の指輪の作成、絶対に人前で行ってはダメですよ!」

「あ、はい。二人の前だったから作っただけです。他では人前でなんてやりません」

「そうですか。ご信頼頂いてありがとうございます。で・す・が!娘までが作成出来そうなんて、どういうことですの!?」

「あ、あれ?シャルちゃんマイスターなんですが、聞いてませんか?」

「マイスターの称号を得たとは聞きました。ですが、他家からの圧力を受けにくくするために殿下から皆で頂いたのでしょう?」

「?……あ、そういうことか。マギ君はお情けで称号だけ認定したんじゃないですよ。ね、シャルちゃん」

「ええ。きちんと試験を受けて合格水準を超えておりましたのよ、お母さま」

「は?貴女、医療魔法を習いに行ったのではなくて?」

「医療魔法より先に、ハイグレードポーション作りと魔道具作りを教えて頂きましたわ」

「…医療魔法の習得には、一年以上かかると聞いておりましたが、貴女五ヶ月で戻って来ましたよね」

「はい、王都の医療部門で受講している方々は、習得まで最低でも一年はかかっていますよ」

「五ヶ月でハイグレードポーション作りと魔道具マイスターと医療魔法を覚えて来たの?」

「ええ、そこはアリスさんですから」

「いや、シャルちゃんがきちんと努力してた結果だって」

「もー。またそれをおっしゃる。お母様もたった十日でこのように若々しく健康になさったではありませんか。いい加減認めてくださいませ。半分以上アリスさんのおかげです!」


おっとびっくり。

珍しくシャルちゃんが荒ぶってる。


「え、あ、えっと…」

「わたくしたちは家事全般に出納管理まで出来るようになっておりますのよ。アリスさんにとっては何でもない事でも、わたくしたちにとっては一生感謝し続けるほどの事なのです。悪あがきはお止めになって、感謝の気持ちは受け取ってくださいまし!!」

「そのあたりはエレーヌさんの努力のはずなんだけど、これも言うと怒られるの?えっと、悪あがきって…。でも感謝の大きさは理解したから、気持ちだけならちゃんと受け取るから勘弁してよ」

「はぁ、やっとですわ。それでも気持ちだけしか受け取って下さいませんのね。まだまだ先は長いですわ」

「…えっと、なんかごめんね。理解力無くて?」

「まあ、これがアリスさんですし、一歩前進出来たのでよしとしますわ」

「……ねえ、クリスティーナ、いえ、シャル。あなた料理やお掃除、洗濯、出納管理まで出来るの?」

「はい。王都に戻ってからは、出納管理と料理くらいしか使っておりませんが」

「料理って、この邸ではしていませんよね?」

「はい。マギ様がアリスさんのレシピを懐かしむので、時間のある時に王城で作っているだけです」

「アリスさんのレシピ!?あなたやエレーヌは五ヶ月もアリスさんの元にいたのよね。レパートリーはどれくらい?」

「すいません。数えた事がありません」

「とっさには数え切れぬほどのアリスさんのレシピ。あぁ、どうしてエレーヌは王城勤めになってしまったの…」

「エレーヌはカイン兄様に時折、作っておりましたわよ」

「ずるいわ!どうしてわたくしには振る舞ってくれないのよ!?」

「カイン兄様も同じこと言ってましたよ。わたくしとお母様はずるいと」

「コ、コホン。…カインはエレーヌに胃袋を掴まれたのね」

「心地よい信頼関係の虜にもなっているようですわ」

「……なるほど。全部アリスさんのせいね」

「はい!」

「ちょ!なんで私!?」



シャルちゃん家でドレスアップした私とシャルちゃんは、公爵家の自走馬車(なんと御者さんが御者席で運転してた)で、メイドさんと一緒に王城に向かいました。


今から始まる晩餐会は、アリストクラシ出席者とその婚約者だけが招待されてるの。

ほとんどの人には初めての公式な行事だから、貴族的なルールやマナーの失敗は、よほどひどくない限りは注意されるだけで大目に見る決まり。

まあ、本番前の模擬体験みたいなもんだね。


でも王族主催だから、礼装に手は抜けないよ。


私はシャルちゃんに借りたパール色のローブデコルテ。

髪は、後ろで編み込んだアップにティアラを乗せてる。

首元には頂いたばかりの、おとなし目だけど金額ごつそうなネックレス。

左手薬指にはペアリング。

左手首には、領主様から生誕祭で頂いたゴールドチェーンのブレスレット(ダイヤ付き)。

でも婚約者有無の識別のために、グローブはしてないよ。

足元もシャルママさんが用意してくれたパーティ用のパンプス(未成人はこれでいいらしい)。

そして極めつけは淡いブルーのサッシュ(サッシュの色もこの色に決まってるそうだ)。

サッシュの胸元付近には、特級薬医師とマイスターのバッジ。

腰元には医療魔法開発の功績勲章がぶら下がってる。

いやはや動きにくい。


シャルちゃんは淡いピンクのローブデコルテ。

やはり髪をアップにして、クラウンタイプのティアラが乗ってる。

王族籍持ってると、クラウンタイプになるらしい。

宝石類が強そうです。

指輪はマギ君とのペアリングで、手首には私と同じネックレス。

サッシュには、胸元に医療魔法部門長とマイスターのバッジ。

腰には医療魔法普及の功績勲章(工房棟組全員貰ったらしい)があった。


うーん、やはり動きずらそう。

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