5年目 初夏

みなさんどうも、アリスです。


春先にあった、金の採掘現場への視察から端を発した元老院とのもめ事。

無事(?)に解決しました。


私たちが領内の管理に奔走してる間に、王都ではかなりの騒ぎになってたみたい。

うちがやったのって抗議行動だけなんだけど、そこは例のあの人が頑張ったみたい。


うちの抗議行動って、そんなに多くなかったよ。


まずはソード商会が、元老院議員家に対する魔道具の販売を拒否。

商会代表を危険に晒されたんだから、当然だよね。


我が領からは、スライムの核、檻詰めスライム、人工水晶、ステンレスの出荷を停止。

これは領主様権限で止められるからね。


高グレードポーション類は、元老院議員への使用を拒否した条件付き出荷。

さすがに出荷停止は王都民に迷惑が掛かるので、元老院議員への使用のみ拒否したの。


きんの納入も停止。

雪が無くなってから採掘は再開したけど、元々はこれが今回の騒動の引き金だからね。


そして公爵家も同様の抗議をして、自領の産物に対して該当家への販売拒否の条件付き出荷。

新スイーツで大きな支持を集めていた公爵夫人も、社交界で該当家との交流を拒否した。


一歩間違うと内乱の危険性のある行動だけど、王家を奉じる姿勢を前面に出したのが良かったのか、王国民の支持を得られた。


王家は魔道具の価格を抑えた条例を配布したり、王国民のためにと医療魔法を使う診療所も運営して、王国民からは絶大な支持を得てたからね。

王国が空前の好景気なのも、魔道具を開発した魔学研究所のおかげと考えられてたし。


ソード商会は販売契約書に該当家への転売、貸し出しを禁じた条件を盛り込んだし、魔学研究所の診療所では、該当議員ではない確認がされた。

公爵家の産物を扱う商店でも同様の確認がなされたため、一気に王都に元老院への不信感が広まった。


宰相は元老院議員が持っている無領地貴族としての爵位を王命に従って返上したが、宰相職に付随する法衣侯爵位があるので登城は可能。

てか、解体された元老院に見切りを付けて、法衣侯爵位を守るために無領地貴族爵位を返上したらしい。


ところが、公私混同(宰相なのに元老院寄りの命を出した)と今回の騒動の責任、きんや水晶などの重要物資の供給停止の責任を官僚会議で追及され、宰相職不適格として全会一致で解任された。

元老院筆頭としての地位を失ってたこともあり、バッサリ切り捨てられたみたい。

さすがは官僚、責任問題にはシビアだな。


元老院議員たちは王様から爵位返上の命を受けていたが、返上して来たのはわずかに二家(宰相含む)。


残りの六家は王命を無視して兵を集めようとしてたんだけど、ことごとく失敗。


まずは勢力を強めようと血統主義の貴族に決起を呼びかけるも、味方すればステンレスや魔道具入手が困難になる廃爵間近な家に呼応する者はいなかった。


次に元老院として軍部に派遣要請するも、命令権は騎士団にあるから騎士団に要請してくれと、一蹴された。

軍部は平民ばかりなんだから、負け戦に乗れるかという現実的な思考だよね。

騎士団は王家の騎士なんだから、そんな要請受けるわけないし。


次に傭兵を雇おうとしたんだけど、そもそも傭兵が転職しちゃっていなくなってた。


最後に頼ったのが闇組織。

でも、構成員の下っ端の多くが真っ当な職に就職しちゃってて、ほとんど兵が集まらなかった。

そりゃあ命の危険がある不安定な仕事より、安全な職で稼げるならそっち取るよね。


そして王命を無視して反乱を企てたとして、軍部と騎士団による一斉摘発を受けた。


反逆罪で捕縛されれば強制廃爵。

家財は没収され、強制労働を課された犯罪労民となった。


爵位返上した二家は平民になった上に王都民から非難されまくって王都を出たけど、財産は残ったからましだったよね。


でも、一連の騒動で意外なところに被害があった。


うちの領主様、離婚してたよ。

奥さんとの結婚は、元々王都の血統主義な上位貴族からの縁談仲介を断り切れずに結婚してたらしい。

今回の騒動で領主様は元老院や血統主義貴族との対決を決めたため、こちら側に付いて領地に来るか、血統主義を捨てずに王都に残るかの決断を奥さんに迫った。

結果、奥さんは息子二人と共に王都に残る決断をした。


元々隣領への赴任時も同行せず、拝領した領地にすら来ずに夫人としての仕事を放棄してた上に、今回の領主家の一大事でも全く協力しようとはしなかった。

さすがにこれでは、領主夫人の資格無しと言われても仕方がない。


領主様は以前から持っていた騎士爵位を長男に与え、王都の屋敷も与えた上で、奥さんに同調した長男次男を含めて離縁した。

本来なら王都の屋敷から叩き出されるような奥さんの愚行に、領主様はかなりの温情を掛けた格好だ。


ソード君からこの話を聞いたんだけど、ソード君は安堵の表情を見せてた。

『家族を大切にするアリスには申し訳ないが、以前のままじゃお互いが不幸になる。父上も俺も相当なストレスになってたから、決着が付いて良かった』って、しみじみと言われたよ。


私、前世も今世も仲良し家族だったから、ソード君に申し訳ない気持ちになっちゃた。


そしてもう一つの別れ。

カインさんの婚約者の家、捕まった元老院議員から多額の借金をしていたことが判明。

婚約者の家は領地持ちの伯爵家で血統主義派では無かったはずが、どうやら婚約後、徐々に取り込まれつつあったみたい。


債権は元老院議員から国が没収しているため割賦返済が認められたが、公爵家に無断で血統主義派から借金していたことが問題になった。


将来の婚家に無断で、婚家の敵対派閥から借金しちゃうのは不誠実だよね。


結果、婚約は解消。

頑張って婚約者と信頼関係を結ぼうと決意してただけに、カインさんは失意のどん底。

知らずに自分で破談の引き金引いたみたいなもんだから、結構堪えるよね。


でもね、今度エレーヌさんと婚約するらしいんだよ。おめでとう!

これ、シャルちゃんが頑張った結果みたい。


シャルちゃんとエレーヌさんはうちの工房棟で生活してるうちに、工房棟組全員が親友関係になっちゃってた。

エレーヌさんは独身を貫いてでもシャルちゃんに生涯使えたいって言ってたんだけど、シャルちゃん含む工房棟組が親友であるエレーヌさんの幸せを望んでた。


シャルちゃんは落ち込んだ兄を慰めるためにと、エレーヌさんをカインさんの元に何度も派遣しては食事を振る舞わせたの。

口実は、傷心で食の細くなった兄に工房棟仕込みの料理を振る舞って、元気を取り戻してもらうため。

カインさん、日本食気に入ってたから、そりゃ食べるよね。


そしてエレーヌさんは工房棟で人を信頼するのが当たり前な環境に浸ってたことで、親族にでも本音を隠す貴族的思考からは外れちゃってた。

そしてカインさんは、深い信頼関係にあこがれてた。

カインさんがエレーヌさんに惚れこんじゃうのは、もう自明の理だよ。


エレーヌさんは主家である公爵家からの婚約打診に、家族共々大慌てだったらしいけど。

でも、エレーヌさん自身がカインさんの信頼関係を結ぼうとする姿勢を憎からず思っていたため、めでたく婚約となった。


シャルちゃんは、親友の幸せと親友を家族に迎える幸せをゲット。

エレーヌさんも信頼関係を築ける相手と結婚出来て、シャルちゃんとも家族になれる。


シャルちゃん、やるな。

でもさ、『アリスさんのおかげです』って、なんで?

私、なんもしてないよ?


まあ王都では色々騒がしかったみたいだけど、こっちも大変だったよ。


隣街横には飛翔機と自走車の組み立て工場が、ソード子爵領領都では家電的魔道具の組み立て工場が稼働を始めました。

そして去年から稼働してた造船ドックも、注文多すぎて拡張されてしまった。

また出納管理増えるな…。


お城では新しい魔道具技師見習いさんが入って来たから講義再開したし、姉妹ちゃんがマイスター資格返上したから講師減ってるし、見習いさんの将来懸かってるから手は抜けないし。


新たな領民へのレベルアップサービスもソード子爵領のダンジョンで始まり、領民の送迎用に旅客用ファン型飛翔機も就航した。

四倍近くに膨れ上がった領民と領兵のレベルアップ管理。

運行管理も私の仕事だよな…。


各街と村の学舎の教育内容を統一したり、診療所建てたり。

教師や医師、看護師の手配も当然ね。


各役場では書類の統一仕様を導入、業務内容も統一。

念話連絡要員の育成。


各街には解任後に領主様から再任された代官がいるんだけど、うちのやり方知らないから指導は必須。

当然一回では終わらない。

当初はうちの文官さん向かわせてたんだけど、港街と隣街の代官(男爵と騎士爵)が平民の文官さんの言うこと聞かないの。

ただでさえ仕事量多くてみんなでヒーヒー言ってるところに、自分勝手な選民思考で何度も仕事を滞らせる。

イラついた私、突撃しました。


チビな私に謎の反抗心持ってるのかもしれないけど、忙しくて説得する時間さえ惜しい。

領主が代わったのに、『今までのやり方と違う』って何?

改革は領主命令なんだよ?現状を認識出来ないの?

貴方たちは”解任”後に辺境伯様から改めて任命されたでしょ?

結局、”嫌なら辞めろ”と突き放したら、急におとなしくなった。


しばらく様子見だけど、ダメなら交代だね。

港街の代官なんて、襲撃時に住民置いてきぼりで馬車で避難しちゃってるから、私としては信用出来ないんだよね。


こんな風に一人で飛び回ってるので、リンちゃんも改造した。

主翼の真ん中近くに穴を空け、ファンを取り付けたの。

水平飛行する時は蓋して、離着陸時のみ蓋を開けて(ハンドルキコキコ)ファンを回す仕組み。

ファンが二つしか無いから垂直離着陸時はベクトル魔法で機体の水平取らなきゃいけないけど、これで垂直離着陸が可能になった。

さらに着陸脚を格納式(これもハンドルキコキコ)にしたことで、最高速度上がった。

今では各代官屋敷の庭に、直付けです。


でもね、私、薬医師なのに、あまりの仕事量にお薬作り出来なくなっちゃったんだよ。

なんとか診療だけは続けてるけど、このままではそれも危うい。

こっそり目を掛けてる文官さんたち、早く育たないかなぁ…。


そんな状況の中、王都からソード君と私に招待状が届いた。

…届いてしまった。


” アリストクラシへの招待状”

この国でのアリストクラシというのは、『あなたは貴族の一員として王家から認められました』という貴族の成人式みたいなものなの。

子供の頃から貴族籍はあっても、このアリストクラシを経ないと役職就任も結婚も出来ないんだ。


ソード君の婚約者としての教育で、貴族のルール・マナー教本読んだから知ってるもん!

姉妹ちゃんなんかアリストクラシから帰って来た時、『結婚、結婚かぁ…』とか言って遠い目してたから!


この国の成人は十五歳。

ソード君十四歳なのになんでって思ったら、次の生誕祭で成人になるから、先に式しとかないと生誕祭過ぎても婚姻とか役職就任が出来ないかららしい。


貴族の場合は未成年であっても受爵した時点で成人扱いされるので、ソード君は四年も前から成人だけどね。


でも未成年で受爵するなんてそうそう無いから、貴族籍を持つ子供は大抵アリストクラシで成人扱い。

一生に一度の式だし、主催は当然王家。

よっぽどの事情が無い限り、ぶっち出来ないよ。


しかもアリストクラシの式後にはお祝いの晩餐会と夜会もあって、婚約者がいる者は婚約者同伴。

多分婚活も兼ねてるんだろうね。

…私も行かなきゃダメじゃん!


アリストクラシはおよそ二ヶ月後だけど、この状況で主力二人が抜けるの?

王都行ったら当然社交とかしなきゃだから、とんぼ返りなんて無理だよね。

私も工房棟組に会いたいし。

…そんな何日も抜けれらるのか!?


とりあえず十日に一回やってる、領主家旬報会議で相談しなきゃ。

あ、今から文官さんたちに発破掛けとこ。


およ?

マギ君からソード君宛と、シャルちゃんから私宛の私信もあるな。

アリストクラシ関係かな?


シャルちゃんからの手紙は、やはりアリストクラシ後の晩餐会と夜会についてだった。


晩餐会と夜会出席時のドレスは、シャルちゃんのお下がりでいいなら提供してもらえる。

サイズも各種あるし、手直しもその場で出来る。

ドレス用の靴も各サイズある。

指輪とティアラはオリジナルを用意しなきゃダメ。


ティアラ。ティアラかぁ…。

伯爵家以上の当主・継嗣の正室・婚約者は、お相手がいることを示す意味で、公式パーティ出席時はティアラ装着が基本。

まあ、男除けだね。

子爵家以下なら指輪だけで済むのに…。


あ、公式パーティだから、公的な身分や役職を示す褒賞メダルやバッジも付けなきゃだ。


しかも晩餐会だから、ローブデコルテやん。

私、お胸はそんなに育ってないよ。身長もだけど…。

ソード君は最近ぐっと背が伸びてるけど、燕尾服あるのかな?


いかん。

ドレスや靴はシャルちゃんにお願いするとしても、装飾品用意しなきゃ。

指輪やティアラはオリジナルじゃないとダメ。

今更注文しても間に合わないから、自作しなきゃ!


ということで、文官さんに雲隠れを宣言して恐慌状態にし、専用工房に移動。


たしかスペリー鉱石があったはず。

これ、将来の王国の資産になるかもと、マギ君に特徴伝えて探してもらった確認用のサンプルなの。


サンプルの多くは黄鉄鉱だったけど、当たりもいくつかあったからしまっておいたはず。

お、あったあった。


出でよプラチナ!

よしよし、これだけ量があればティアラも指輪も作れるな。


私の髪、かなり色の薄いブロンド(プラチナブロンドに近いかも)だから、同系色でティアラが埋没してくれるだろう。


仰々しいのも嫌だから、高さを抑えた小さ目のコームティアラがいいな。

デザインは、婚約者を示すんだからリボンモチーフかな。

リボンが中心に向けて、段々大きくなるように並べてみよう。


む、なんかのっぺりだな。

ああ、宝石の飾り石が無いからか。


むーん、宝石かぁ…。

あ、ソード君の婚約者なんだから、水晶がいいな。

人工水晶づくりで失敗して出来ちゃったニードル水晶クラスターあったよな。

カットして埋めちゃえ。


…中央部が寂しいぞ。

よし、人工水晶も頭カットして埋めよう。


……出来たな。

多分一回しか使われないのに、結構いい感じだぞ。

もったいないな。


おっと、指輪も作らなきゃ。

指輪はペアリングだよね。

ソード君が付けてもいいように、あんま可愛いのはダメだな。

うーん……。


あ、プラチナとゴールドのコンビリングにしよう。

ソード君の髪はブロンドだし、私はシルバーに近いから丁度いいかも。

きんは魔道具の装飾に使った余りのインゴットあったよな。


デザインは……。


よし、軽くひねりを入れて、プラチナとゴールドが斜めのストライプ描くようにしよう。


……うーん。見た目が柔らかなイメージで、いまいちソード君に合ってない気がする。


うーん、うーん…。

そうだ!ゴツゴツ感出るように、表面をひし形の平面にしちゃえ。

ゴールドとプラチナの細長いひし形が、斜めに交互に並ぶみたいに。


…出来た。

ちょっとだけ薄ナットっぽくなって、男性が付けても違和感なさそう。

よし、ソード君の分も……指のサイズ知らないや。

後で聞こう。


後は……ローブデコルテだと首元にネックレス要るよな。

…あれ?ルール&マナー本には、ネックレスの規定って書いてなかったぞ。


まいったな、どんなの作ればいいのか分からん。

適当に作ってマナーとかに引っかかるのは、ソード君の恥になっちゃうな。


よし、金とプラチナ持ってって、シャルママさんに聞いてから作ろう。


これで私の方は何とか格好付くだろう。

ソード君帰ってきたら、指のサイズとか燕尾服の用意とか確認しなきゃ。


【統括、もう無理です!戻って下さい!!】


ありゃりゃ、文官室、かなりパニクってるな。

仕方ない、戻るか。

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