4年目 秋

みなさんどうも、アリスです。

夏に有った他国の侵攻騒ぎ、世間的にはやっとひと段落つきました。


ソード君が予想した通り、侵攻してきたのは他国だった。

王都で捕虜を尋問した結果、海向こうの軍事国家だと判明したの。

海洋挟んで1,000kmくらい離れてるんだけど、うちの魔道具とステンレスを目的に侵攻して来たことが分かった。


港街の開放はソード君と兵士さんたちが頑張ってくれたから数日で出来たんだけど、その後が大変だった。


後続がある可能性高いから避難民戻せないし、広い海洋を哨戒しなきゃいけないし、対応戦力置いとかなきゃいけないし。



隣領は避難民キャンプを設営して、備蓄してた食料を配布。

キャンプにレリアさんが医療支援に来てたらしいけど、私は帰っちゃったから会えなかったよ。

避難民はすぐには港街に帰れないので、移住希望者を募って領内だけじゃなく近隣領にまで移住させたみたい。


うちの領も二百人ほど移住者を受け入れたため、また街の南側が拡張されちゃって、住居が建てられた。

ソード君は、滑走路作った余りの石材と、鉄鉱石採掘で出たレンガが減ったと喜んでたよ。

…まだ石材残ってたのか。


でも、なんと拡張区画は城壁無し。

スタンピードや万一の襲撃時には城壁内に避難すればいいし、ファン型飛翔機で兵士さんたちが周辺を見廻ってるから、念話で即時避難勧告出来る。

シェルター代わりの地下あるし、地下畑で小麦や米も作ってる。

城壁、一つあれば充分だよね。


王都は軍の一部(約二千人)を派遣し、港街を軍港化。

指揮権を持たせた騎士団の一部を常駐させ、軍人の監視と指揮に当たらせた。


軍人の監視って…。軍部の信用の無さが如実に表れてるよね。

軍の指揮は軍人にと文句を言った将官たちは、『王の決定に反する気なら退官せよ』と言われ、すごすご引き下がったらしい。


私は今回の事件で考えを変え、『自国民の防衛に限り、魔道具の軍事利用に同意する』って伝えたんだけど、王様は今の軍部に自走車や飛翔機を預けるのは危険だと判断したみたい。


自走車や飛翔機の有効性を説く軍部にも、『今の軍部にこれらを預ける信用は無い』って言い切っちゃったらしいよ。

そして軍部の不祥事や越権、不法行為を次々と挙げ、軍部は騎士団の指揮下に置くと宣言したの。


今回王様が軍に対して強気に出たのは、騎士団のレベル上げが進んで戦力強化が出来たことと、騎士団内に念話魔法が使えるものをある程度確保出来たこと、自走車や飛翔機による優位性を確保し、万一の軍部の暴発にも対処可能になったから。

私が魔道具の軍事利用に一部同意したことも、強気の後押ししてるよね。


要は、『反抗するなら潰す』だけの力を得たから、腐りかけてた軍上層部にメスを入れだしたってことみたい。


うちの領からは敵国襲来時の対応のため、支援として十二名の兵士を隣領の各街に派遣。

三交代制で、二十四時間の念話による連絡体制を構築した。


うちのお城からは毎日海洋哨戒用に固定翼型の飛翔機が飛び立ち、上空から各街に連絡を入れてる。


お城の工房では反作用水晶とエアクッション水晶を増産し、港街で漁船サイズの小型船に取り付けた。

これでエアクッション魔法を盾代わりにした高速機動可能な船の出来上がり。


敵船に近付いて矢を射かけられても大丈夫だし、そのまま敵船の喫水あたりの板を魔法で剥がせば、相手はどうしようもないからね。


ただ、魔道具船の操船なんて、誰もしたことが無い。

そこで、自走車や飛翔機を日常的に使用してて魔道具の乗り物に慣れてるうちの兵士五名が、追加で港街に派遣された。



そして侵攻事件の半月後には、大型船含めた十八隻の帆船船団が来た。


哨戒機からの連絡を受けて船団に向かった小型艇五隻には、問答無用で矢が射かけられた。


警告するも攻撃は収まらず、仕方なく小型艇側も応戦。

作戦通り喫水下の板を剥がし、次々と船を沈めた。


状況を見て降伏するかと思いきや、船縁にロープでぶら下がって小型艇を攻撃しようとする始末。

仕方なく、敵船団全てを沈めた。


海に投げ出された敵兵がわらわらと小型艇に泳ぎ寄って来るが、大人数を助ければ小型艇も沈没してしまう。

救助以前に、相手は降伏すらしていない。

小型艇は戦闘を終了して、該当海域を離脱。

以降小型艇で海岸付近を哨戒。


王家は南大陸の海洋貿易相手から情報を集めた結果、侵略してきた軍事国家への賠償請求を断念した。


この軍事国家、南大陸では蛮族扱いされてるらしく、南大陸では国家として認められて無かった。

蛮族は独自言語を使い、思考もぶっ飛んだ俺様理論で、通訳を介しても話にならない。

会話を試みるだけ時間の無駄と、複数の南大陸商人から言われたらしい。


南大陸では、蛮族の支配領域との境界に各国共同で砦を建設して防衛に当たっているが、仲の悪い国同士でさえ、蛮族に関しては協調するそうだ。


会談中各国の商人たちから同情され、今回の見舞金代わりにと、商取引の値引きまでされたとマギ君の手紙にあった。


利を追求する商人が自ら値引きをしちゃうほど同情されるって、蛮族のダメさ加減がすごいな。


国としては、派遣した軍の一部(約五百人)を残して今後も海洋の哨戒を続けることでひと段落にはなったみたい。


でも、その後でうちの領は大変なことになった。


領主様は自領が狙われたせいで隣領に迷惑を掛けたからと、とんでもない額の見舞金を出そうとした。

超好景気なうちの領が、本来ならつぶれちゃうほどの額。


見舞金の原資は国が購入したきんの代金。

内緒の取引だから大っぴらに領の財政に組み込むわけにもいかず、どんどん貯まる一方だった使いにくい資金。


領主様は申し訳なさから出そうとしたんだけど、これが問題になった。

このまま見舞金として出すと、どう考えてもうちの領の財政規模に見合ってない。


王家と相談した結果、領主様が出す見舞金の額は三分の一(これでも見舞金としては破格)に。

残り三分の二は王家が見舞金を上乗せして、王家からの見舞金として支払うことになった。


これで王家と領主様の見舞金の表面上の比率は体裁が取れたけど、今度は見舞金全体の金額が大きすぎる。

そこで隣領の伯爵は川から西の領地(港街と隣街の住人含む)を、王家に献上することになった。


これだと襲撃される可能性のある領地の一部を王家が買い上げる形になるから、領地割譲の言い訳も立つし見舞金の額にも釣り合う。

そして王家は買い上げた領地を、今回の侵攻撃退の褒賞としてうちの領主様に下賜して、今後の防衛に当たらせる。


領主様は他国の侵攻を防ぐ立場になるので辺境伯となり、国から防衛費が支払われる。

実はこの防衛費、名目を変えたきんの購入代金。

これで領の財政に、防衛費という名の金の代金を組み込めるようになる。

今までは王家が手持ちのきんを国に売って代金をこっそりうちに払う形になってたんだけど、きんの出所を隠すために、大っぴらにきんの売却代金として領の財政に組み込むことが出来なかったんだよ。


隣領は領地が減って損してるように見えるけど、元々港街も隣街もうちからの鉄の輸送のために出来た街。

しかもうちの街の近くには橋が二本も掛かって自走車で渡れちゃうから、港街も隣街も衰退し始めてたの。

さらに襲撃される可能性のある防衛が必要になった土地を、王家に高額で買い上げてもらってる。


貧乏くじなのはうちの領主様。

侵攻の撃退で頑張ったのに、見舞金出した上にご褒美として貰ったのがお荷物な土地と防衛義務。

国から支払われる防衛費は領財政に組み込めるけど、それじゃあきんの代金もらってないのと一緒じゃん!

しかもこの事はバラせない。


でも領主様は当然のように受け入れたの。

自領のせいで他領に迷惑を掛けるわけにはいかないからと。

さすがソード君の父親、人が好過ぎる。


そして大活躍したソード君へのご褒美は、隣にある元男爵領だった王家直轄領。

ここも薪売って生計立ててた衰退領。

しかもスタンピードで村二つが壊滅しちゃって、今は街一つと村一つ。


ソード君は伯爵家(もうすぐ辺境伯家)継嗣として仕事してるから代官での統治は認められたけど、『いらね~!』って叫んで頭抱えてた。


今までうちの領が好景気だったのは、魔道具とステンレスの売り上げで街一つと城を維持するだけで良かったから。

でもこれからは、ほとんど産業の無い街三つと村一つが増えちゃう。

このままだと、一気に赤字運営領に転落だな。


真面目に王国のために尽くしてる領主様やソード君に対して、さすがにこの仕打ちは無いんじゃないか?

でも、あの王様が忠臣を粗末にするとは思えないんだよな。

なんかまだ裏がありそうだ。


世間的には襲撃事件は一応沈静化したけど、今度はうちの領(プラスソード子爵領)が大変なことになりそう。

新たな領地と領民の受け入れで、むしろこれからが忙しさの本番な気がするよ。



そして今回の襲撃で避難民の治療時に魔力が足りなくなっちゃった私は、サボってたレベル上げに力を入れることにしました。

内緒だけど、ソード君の敵を殲滅する力も欲しいし。


でも、うちのダンジョンは、今は領との共有でおこぼれ頂いてるような状態だから、日産八匹くらい。

このままだと次のレベルまで年単位の時間がかかっちゃう。

なので新しいダンジョン探すことにしました。


森の奥にはいっぱいスライムいるから、きっと未発見のダンジョンはあるはず。

リンちゃんに乗って低空で森奥を探索。

リンちゃんは失速速度高いから探索には不向きなんだけど、森奥の低空なら見られる可能性なんてまず無いから、重量軽減だけ魔道具使って自前の飛翔魔法で飛びました。


頑張って探索した結果、森奥、ダンジョンだらけだった。

森奥に五つ見つけたんだけど、みんな鬱蒼とした森の中な上に猛獣だらけ。

きっと整地するだけで猛獣に集られる。

しかもトラップの上に強固な砦作んないと、飛翔機の発着も出来ない。

めんどい。


悩みつつ探索範囲広げてたら、もう一つ見つけた。

金の採掘場から更に2kmほど上流に行った、U字谷の側面。


なんとここ、自然のトラップになってたよ。

ダンジョンの出口はU字谷の底から500mくらい上がった、南側の崖の側面。

出口のすぐ下に、テーブル状の岩の出っ張りがあるの。

ここにダンジョンから出て来たスライムが飛び乗るんだけど、この出っ張りの周りは何もない。

スライムがどんどん出っ張り上に溜まって、互いに押し合うもんだからはみ出して落ちちゃうの。


500m落下して、下は崖から剥がれ落ちて割れた鋭利な石だらけ。

落下の衝撃をボディが吸収しきれず、核が傷付いておしまい。

あたりには大量の核が散乱してた。

もったいないので拾おうかと思ったんだけど、スライム降ってくるから止めといた。


ここなら面倒な猛獣来ないし、処理部や待機場所は崖内に作れる。

俄然やる気が出たので、二日がかりでトラップ化しました。


逆L字型の配管みたいな筒を立ててダンジョンの出口に繋ぎ、筒の中、ダンジョンの床から少し下がった位置にはお玉を逆さにしたような形状の床を設置。

この床は筒との隙間を大きく取ってあるので、数匹乗ればすぐはみ出して筒内に落ちちゃうよ。


シーソー式のトラップ床じゃないのは、見回りの兵士さん来られないから可動部無しのメンテナンスフリーにしたかったの。

お玉テーブルから落ちると筒の中を斜めに滑り落ちて、崖内の処理部に運ばれるの。


ここ、すごい大きいダンジョンみたい。

出口も大きかったからある程度予想はしてたけど、三分以内に一匹くらい落ちて来る。

一時間に二十匹ってことは一日で四百八十匹。


筒は巨大だから結構溜められると思うけど、満杯になってスタンピードしないように、お玉の下あたりに外への逃し弁付けとくか。

そうすれば、満杯手前でぽろぽろ崖下に落ちるだろう。

あ、崖下にトゲトゲいっぱい生やしとこう。


吹雪対策に休憩室はワンルームマンション化したし、各種魔道具も設置した。

強風対策で崖下近くに格納庫も作ったし、地中階段も付けた。

フリーズドライ食材も持って来たから、これで住めるぞ。

あ、お布団無いや。注文しなきゃ。

まあ、ほぼ出来たから、ソード君に報告しに行こう。


お城の滑走路に着陸したら、駐機場に知らない固定翼機があった。

私が知らない機体って事は、王都からのお客さんだよね。

うーん、今日はソード君に報告するの、無理かも。


駐機場に移動してリンちゃん整備してたら、ネージュがお城の方を前足で指した。

あ、マギ君の反応が。

そうか、横の二人乗り飛翔機はマギ君のか。


「アリスさん、ネージュ、久しぶり」

「みゃ」

「マギ君、いらっしゃい。忙しいのにどうしたの?」

「忙しさはかなり落ち着いたよ。今日はある方の付き添い兼操縦士なんだ」

「え゛、それって…」


【ごめん、お忍びだから内緒にして】

【ああ、了解。…しかし国王様と王子様が護衛も付けずに二人で来ちゃっていいの?】

【あはは、だから内緒なんだ】


「ところでその機体、かなりコンパクトだけど、その大きさでも飛べるんだね」

「翼面積小さいから、失速速度高いの。だから離着陸は結構なスピードだよ」

「なるほどね。試乗させてほしかったけど、止めた方がいいかな?」

「うん、そっちの固定翼機だと、重量軽減使わないで飛ぶのに近いかな」

「それはかなりきついね。離陸で必死に加速しなきゃ飛べないね」

「うわ、この人重量軽減無しを経験しちゃってるよ」

「あはは、つい試してみたくなってね。でも滑走路が無くなりそうになって、慌てて重量軽減したよ」

「危ないなぁ…。この機体は急加速用の反作用水晶付いてるから飛べるんだよ」

「なるほどね。そうすると飛翔中に使えばすごく早くなるね」

「やっちゃダメだからね。そんなことしたら空気抵抗で空中分解しちゃうから」

「そっちも考えなきゃダメだったか。高速飛翔機は難しいね」

「ほんと無茶しちゃダメだからね。シャルちゃんにチクるよ」

「げ、それは勘弁して。わかった、安全を心掛けるよ」

「そうしてね」


マギ君、興味深げにリンちゃん見てるけど、ほんとに安全を心掛けてくれるかなぁ…。


【ところで、あのお方は何しに来たか聞いてもいいの?】

【領主様と内密の会談の予定。内容は、勝手に話すわけにいかないんだ】

【わかった。泊ってくんだよね】

【その予定だよ】


「じゃあ、私はそろそろ帰るよ」

「あれ、来たばっかりじゃないの?」

「ソード君も対応とかで忙しそうだから、また今度にするよ」

「それは残念。明日は?」

「おうちでお薬作りして街にも用事あるから、午後遅めには来るよ」

「午前中には出るから会えそうにないね。それじゃあまた今度」

「うん、シャルちゃんや王都のみんなによろしくね」

「わたっか。元気にしてたって伝えとくよ」

「ありがとう。お願いね」


マギ君と別れてリンちゃんで離陸しました。

お城の滑走路は北向きだから、おうちに帰るにはUターンしいなきゃいけないの。

だから滑走路が横眼に見える。

…マギ君、時計持って滑走路を歩測してる。

あれは、離陸距離と離陸時の平均速度計算してるな。

危ないことしないように、シャルちゃんに手紙で連絡しておこう。



翌日、日課済ませてから街に行き、お布団注文しておきました。

そしてお城の手前でソード君に念話。

よし、ロイヤルな方々は帰ったな。

ソード君の執務室に行こう。


「ソード君、昨日はお疲れ様」

「あ?ひょっとして城に来てたのか?」

「駐機場でマギ君に会ったから、お城に入らずに帰ったけどね」

「ははは、あの方は随分と嫌われてるな」

「嫌ってないよ、苦手なだけ。あの人いっつも仕事モードだから、気が抜けないんだよ」

「まあそうかもな。で、何か用事だったのか?」

「うん。森奥のダンジョン五つ以外に、U字谷でもダンジョン見つけた。利用出来そうだったから、トラップ化してきた」

「森奥ってダンジョンだらけだな。どのあたりだ?」

「採掘現場から2kmくらい上流のU字谷南側の崖面」

「崖面ってことはU字谷にスライム出てるのか?その割にはU字谷では見かけなかったが」

「びっくりな事に自然のトラップになってた。500mくらいの高さの所が出口で、そのすぐ下に岩棚があって、そこにスライムが出るの。岩棚狭くて周りは崖だから、スライムが押し合いして落ちるんだよ。で、地面の石に叩きつけられて自動的に討伐されてた」

「まじかよ。すげー偶然だな」

「もうびっくりだよ。崖下なんか核だらけだった」

「ってことは、結構ダンジョン大きいのか?」

「一日で五百匹くらい」

「うお、でかいな。だが飛翔機無しじゃ行けないな。……アリスと俺、あと姉妹だけで使うか」

「うん、その方がいいと思う。南側の崖だから風が複雑で危ないから、崖下に格納庫は作っといた」

「採掘現場にも近いから、俺たち以外に知らせない方がいいからな」

「うん。私たちだけのレベル上げ用に使っちゃおう。適当に時間ある時に行っても、使うの四人だけだから結構溜まると思うよ」

「そうだな。俺も前回の戦闘で魔力量が不安だったから、レベル上げたいしな。姉妹も危険な場所で作業させてるから、レベルは上げた方がいい」

「じゃあそうしよう」

「おう。それで昨日の件だが、あの方がわざわざ領地拝領の件で説明に来た」

「やっぱり裏あり?」

「ああ。うちが貧乏くじなのは、反王族派貴族の反発を抑えるためだった。うちは領民の数から行くと本来なら男爵クラスのはずなのに伯爵家、しかも収入は侯爵レベル。支出も街一つと城一つの維持で済んでる。それに、表に出せないきんの購入代金もある。つまり王族派貴族が儲けすぎてるみたいに見えるんだ。それで今回、赤字領地と他国からの防衛を押し付けられた」

「うーん、あの人が忠臣を大事にしないとは思えなかったんだけどなぁ」

「あの人は軍の上層部を解体する気だ。そうなると全貴族の絶対的支持が無いと、軍と一部の貴族が組んで暴発する可能性が出る。で、貴族への根回し時点でうちへの不満が出た。今回の件は支持を絶対にするための交換条件として、うちがきんの実質無償提供と赤字領地を受け持つことになった」

「うえ。クーデターさせないための生贄いけにえなんて、完全なとばっちりじゃん。でも実際負債を押し付けられるんだから、このまま行くと赤字だよね。採掘物の代金も実際にはもらえないし」

「我が国は海軍増強が決まって、あの港街が軍港兼造船ドックになる。港街を国に有償で貸し出して、造船はうちが受注だ」

「それだけじゃ足りなくない?いっそのこと隣街を自走車と飛翔機の製造拠点にしちゃって、陸海空全部受注出来れば新たな住民にもお仕事斡旋出来るし、ソード子爵領は機体や車体用の木材売れるよね。あと滑走路作って王都の避暑地化とか?魔道具満載のお部屋で、地下畑の食材と玉子使った料理とデザート振る舞えばお客さん来るだろうし、冬場のスキーやスノーボードもありかな」

「……それ、今考えたのか?」

「ううん、領地拝領の話があった時」

「昨日あの人と父上、俺で話し合ったんだが、造船以外いい案出なくてあの人が父上に謝ってた」

「うわ、頭下げちゃいけない人が謝っちゃったか。やっぱり忠臣は大事にしたいんだね」

「ああ。父上がめっちゃ焦ってた。それで、具体的には何かあるか?」

「もし陸海空手掛けられるなら、大きさの違う人工水晶数種類作って規格化すれば、家庭用魔道具や車体、船体、機体で共通部品化出来るから、流用出来て無駄も少なくなるよね。今はそのくらいかな」

「魔道具技師は?」

「最初はお城で変換水晶だけ作れば?王都への出荷数減っても、領内の新体制構築って言えば文句来ないでしょ」

「その理由だと長くは使えないな」

「領民は成人までにレベル5まで上げるんでしょ。私、学舎にガラスケース入りのリバーシとジ〇ンガ寄贈してあるから、もう少し手を使わない遊び増やせば、いい魔力制御の練習になると思うよ。一年もあれば後続は育つんじゃない」

「いつの間にそんなことを…」

「今年の春くらいかな。たまたま雨の日に近く通ったら、みんな暇そうに空を見上げてたから」

「今はどんな感じだ?」

「ごめん。先生に壊れたら連絡してって言ってあったんだけど、四、五回追加持ってっただけで様子は見てないんだよ」

「そうか、そのうち確認しとくか。つまり学舎で魔道具技師見習いを養成してるって事だな」

「いや、将来少しでも魔力制御が役に立つかと思った程度だよ」

「まあ、素養は上がってるわけだ。学舎卒業は未成年だから、見習いになれそうなのは特例でレベル上げてもいいな」

「まあ、そのあたりはお任せするよ」

「わかった。だが、木材輸送は手間だな。長い丸太運ぶのは自走車じゃ難しいし、距離も100kmだしなぁ…」

「川を使えばいいよ。街の横あたりからは船使えそうだから船で運べばいいし、面倒なら丸太そのまま流しちゃって、隣街で回収してから製材するとか」

「途中で引っかからないか?」

「時々ファン型飛翔機で見廻れば?隣街行くついでに、飛行コースを川の上にするとか。で、よく引っかかるとこなんかは、川底や岸の形状変えちゃえばいいし」

「……なあ、今度から昨日みたいな会議の時は出てくれないか?」

「え?首脳陣の姉妹ちゃんも出てないのに、どんな立場で出るのよ」

「……そうだな。なら、せめて内輪うちわの会議の時は頼む」

「まあ、それならいいけど」

「まじで頼む」

「…」

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