☆港街奪還

隣領の港街が襲撃された。

その一報は、隣街に行ってた商会員から念話でもたらされた。

第一報のため詳細は分からないが、隣街に応援を求めた早馬が到着したらしい。


俺は領主館の父上に念話を入れ、父上は即座に応援に行くことを決定した。

城内を移動する間ももどかしく、隊長や姉妹に指示を出し、アリスにも応援を頼んだ。


あちこちに念話で指示しながら、俺は自分の飛翔機で北の平原に向けて飛び立った。

平原で父上を乗せ、俺と父上は飛翔機で隣街に向かった。


城と街からは自走車で五十人のレベル上位者の兵を出発させ、救援物資を満載させた自走車も、アリスと兵十人を乗せて後続させた。


隣街へは俺の固定翼機なら三十分程度で到着する。

定期便の護衛で隣街にいる兵を近くの平原に呼び出し、飛翔機を着陸させた。

呼び出した兵に飛翔機を見張らせ、父上と共に隣街に入った。


代官屋敷に向かう父上と別れ、俺は商会員から報告を受けた。

まだ詳細は分かっておらず、偵察隊の帰還待ちらしい。

情報収集させてた商会員は、連絡要員としての書状を渡して隣領領都の伯爵の元に送り出した。


絶対的に情報が足りない。

俺は飛翔機で航空偵察に出ることにした。


飛び立つと、港街に続く街道には、馬や馬車がちらほら見えた。

五分ほどで港街近くに来たが、徒歩での避難者であろう人々が、街道を北に向かって進んでいた。


わざわざ飛翔機の存在を敵に知らせる気も無いので、俺は高度を上げて港街上空を通過した。


高度を上げたせいで視認しにくいが、街中を動き回るグループがいくつか見えた。

港の桟橋には中型のガレオン船が停泊しており、人がぞろぞろと降りてきている。

沖にも二隻の中型ガレオン船が見える。

この規模の襲撃だと、相手は大規模な海賊か国家か。


中型のガレオン船は乗員が二百人くらいだったか。

だとすると、敵の戦力は六百人前後。

だが、後続がいないとも限らない。

もう少し沖まで偵察しておこう。


しばらく飛んで海岸線が視認しにくくなったが、海上には船は見当たらなかった。

飛翔機にコンパスは積んでいるが、方向を見失わないうちに帰るか。


念話で父上に報告を入れ、自走車隊の現在位置を確認したりしながら隣街に戻った。


戻る途中で徒歩で避難する大量の住民を見かけたが、まだ隣街との中間地点くらいだ。

うちの自走車を出して、避難を支援した方がいいな。

だが、うちの自走車隊は、まだ隣街に到着していない。

こっちに来てた定期便も、自走車一台だけで兵士も二人しかいない。

相手も斥候部隊出すはずだから、遭遇戦にでもなれば、避難民を守りながら撤退するのに最低数十人の兵が欲しい。

うちの自走車隊が到着するまでは、待つしかないか。


着陸し、飛翔機の点検と核の補充してから街に戻ったら、なぜか父上が指揮を執ってた。

この街の代官は男爵位だが文官。

街の警備隊のトップは騎士だが、平騎士な上に大規模な戦闘経験は無い。

しかも父上は伯爵で元上司。

泣き付かれて、領都から応援が来るまで指揮権を預かったらしい。


代官屋敷で今後の行動計画と防衛体制を話し合ってたら、やっとうちの自走車隊の第一陣が到着した。

乗って来た自走車五台を避難民の支援に、うちの街との物資輸送用に定期便自走車を宛て、兵士五十人に食事を採らせて出発した。


港街に向かって進み、徒歩避難民の一団と合流。

怪我人が多いので自走車でピストン輸送させ、我々は運転手以外徒歩で港街方向に進んだ。


怪我を押して歩く避難民を保護し、戻って来た自走車に乗せては進む。

しばらくそんな行動を繰り返して進んだ。

街との中間地点を超えて足の遅い避難民を保護し、街道脇の森で休憩しながら自走車を待っていた時、追い立てられる避難民が見えた。


敵兵十人くらいが下卑た笑い声を立てながら、走り疲れてよろよろ逃げる避難民を、いたぶるように剣で追い立ててる。

こちらは森に入って木陰で休憩していたために、気付かれてはいないようだ。


こちらの兵十人と飛び出し、瞬時に敵兵を切り捨てた。

おいおい、一人残らず一撃で殺っちまったぞ。

情報収集用に一人残そうなんて、誰も考えなかったんだな。

まあ聞こえて来たのが外国語で理解出来なかったから、残す意味無かったがな。


いたぶられてた避難民を保護し、治療ついでに情報聞きながら自走車を待つ。

これまでに助けた避難民たちから聞き取った話を総合すると、次のような経緯が分かってきた。


朝、一隻のガレオン船が港に入港。

片言の言葉で助けを求められたので、桟橋に接岸させた。

接岸と同時に飛び降りてきた兵士風の男たちが、問答無用で近くにいた住民たちを斬り始めた。


逃げ惑う住民たち。

船からはどんどん兵士が下りて来る。

明らかに街の守備兵より多い。

住民たちは海賊の襲撃だと叫びながら避難を呼びかける。

街の守備兵数十人が駆け付けて応戦するも、多勢に無勢でどんどん倒されていく。


だが、守備兵が稼いでくれた時間で、住民たちは避難を開始出来た。

馬の世話をしていたものは馬に飛び乗って逃げ、馬車を操っていた者も馬に鞭を入れる。


敵は守備兵を倒し終えると、目に付く住民に片っ端から斬り付ける。

だが、止めは刺さずに次々と他の住民に向かって行く。

近くに住民が見当たらなくなると、家の扉を蹴破って室内の住民に斬り付ける。


住人が街の外に出ると、今度は外に出た住民たちを敵が追いかけ始めた。

住民たちは着の身着のままで逃げるしかなく、徒歩で必死に隣街を目指して避難を始めた。


これは港街を拠点化する行動か?

だが、海賊が港街を拠点化しても、兵站が続かずにいずれ殲滅される。

…相手は兵站に船団を組める国家か?


父上に念話で報告を入れたら、やはり港街を拠点化する算段だろうと言われた。

住民に切り付けて恐怖を煽り、街から自力で逃げ出すように仕向ける。

そうすれば拠点化の為に死体を処理しなくて済むから。


胸がムカムカして吐き気がする。

俺は敵兵の死体を森に隠すよう指示して、やってきた自走車に避難民を乗せた。


だが、自走車での避難民の保護はここまでだ。

もうここからは、敵との遭遇戦が起きる戦場だ。

後続の自走車には現在位置での待機を命じ、残りの自走車は隣街に返した。


ここからは街道を外れ、森や丘陵に隠れながら、徒歩で避難民を探す。


しばらく街道を監視しつつ隠れながら進むと、ぽつぽつと街道に人が転がってた。

みんな死んでた。

怪我が酷いから、逃げる途中で失血死したんだろう。

中には子供の死体まであった。

敵の斥候部隊を見つけたら、即座に殲滅してやる。


途中で二回斥候部隊に遭遇したが、俺の出番が無かった。

俺以上に兵たちは頭に来てるみたいだ。


やがて港街が見える所まで来たが、ここまでの街道に倒れた人影は、全員が死亡していた。


港街近くの森に潜み、港街を観察する。

多少遠いが、これ以上は森が切れてるので近づけない。

夕日に照らされた港街の門の外に、小山があった。

遠目なので最初は何か分からなかったが、門から兵士が出て来て、引きずってた何かを小山に向かって放り投げた。


放物線を描くシルエットで、何かが分かった。

あの山は死体だ。


あまりの怒りに、視界がチカチカと点滅するみたいに見えた。

だが、激情に任せて斬り込むわけにはいかない。

俺は兵を率いてるんだ。

相手は想定で六百人ほど。

こっちは五十人しかいない。

この人数で突っ込むなど、死体の山を増やすだけだ。


必死に激情を抑え、後退を命じる。

返事の念話に、怒りの感情が伝わってくる気がした。


森の中ほどまで後退したところで夜を迎えた。

本当はもう少し後退したいが、魔力感知が苦手なのもいるので、暗闇ではこれ以上動けない。

交代で見張りを立て、木に寄りかかって一夜を明かした。


翌日、あたりがうっすらと明るくなり始めたので、撤退の準備を始めた。

街道ならこの明るさでも歩けるが、敵の勢力圏内で街道を歩くわけにもいかない。

撤退はもう少し明るくなって、森を歩けるようにならないとな。


明るくなるのを待ってたら、街を見張らせてた兵から念話が入った。


【ご継嗣、敵が出てきました】


まいったな、先を越されたか。


【まだ森を歩ける明るさになってない。しばらく様子見だ】

【五十人くらいの敵兵が出てきて街道を歩き始めましたが、先頭に十人ほどの街の若者らしき姿が見えます】

【近付いてきたら詳細を確認してくれ】

【了解】


先頭に若者?矢玉除けの人質か?

相手が五十人くらいなら、奇襲かければ人質は救出出来るか?

だが港街からの増援を無くすには、もう少し港街から離れないとな。


でも奇襲となると、アリス考案の土ボルト飛ばし使っちまうよな。

人質助けるのに仕方ないとはいえ、アリスの魔法を戦闘に使うのは気が重いな。


【ご継嗣、先頭の防具の無い若者は十二名。全員十代前半と思われます。後は皮鎧と剣を装備。盾持ちと弓を持った者もいます。若者の後ろで剣を構えてる男が、こちらの言葉で隣街に案内しろと脅してます】

【わかった、見つからないように戻ってくれ】

【了解】


人質兼矢玉除け兼案内役か。

十二人もいるのは、途中でつぶれた時の予備とか見せしめ要員か。

十代前半って事は、ちゃんと歩ける体力考慮して、なおかつ可哀そうに見える人選かよ。

むかつくほどに手慣れてやがるな。

こいつらはおそらく強硬偵察部隊なんだろうな。

アリスには悪いが、ボルト飛ばして一気に殲滅だな。


しばらく追従するつもりだったが、俺たちが潜んでいる手前で、一人の少女がうずくまった。


「ケッ、役立たずが!ガキどもはよく見ておけ!役立たずはこうなるんだ!」


こちらの言葉をしゃべってた奴が、うずくまった少女の前で剣を振りかぶった。


くそっ!

思わずボルトを発射して叫んでた。


「子供たち、街道走って逃げてこい!!隊長は兵を率いて敵の側面に!」


剣を振り上げてた奴は、額と胸にボルトを生やして倒れた。

俺は一人街道に躍り出て、子供たちに手招きする。


「早く!斬られる前に逃げろ!」


俺は叫びながら子供たちに向かって走る。

子供たち数人が走り出すと、つられて他の子たちも走り出した。


言葉が通じないのが良かったのか、敵兵が子供たちを捕まえようとする動作が遅れた。

しかも森の中を走るうちの兵士に気付き、注意が逸れた。


森から飛び出した兵たちから、ボルトの雨が降る。

うずくまった少女の周りにいた敵がバタバタ倒れ、一人飛び出した隊長が少女を抱える。


斬りかかって来た敵には、ボルトが何本も突き刺さる。

隊長は一瞬で飛び退き、敵から距離を取った。


俺は子供たちとすれ違い、追いかける敵兵の前に出る。

射線が空いたと同時に、複数のボルトを連続で発射した。


森から出た隊からもボルトが発射され続け、残った敵は盾を構えて密集隊形になる。


だが、敵の隊形などお構いなしに発射されるボルト。

ボルトは盾を貫通し、どんどん敵の陣形を削っていく。


剣でボルトを払おうとする奴もいるが、ボルトは矢の三分の一くらいの長さしか無い上に矢よりも高速だ。

剣を空振ってボルトの餌食になってる。

よし、殲滅完了だ。


「ご継嗣、敵の増援が門の前に集結してます」

「チッ、やはり気付かれたか」

「どうされます?」

「小さい子たちがまだ八人捕まってるの。妹もいるから助けて」


まいったな。少女に縋りつかれてしまった。


「わかった、何とかしてみる。この中で魔力感知範囲が一番狭いのは?」

「あ、俺です」

「じゃあお前は一人で子供の引率しながら撤退だ。治療や水分補給も歩きながらして、自走車と合流して街まで下がれ」

「了解」


命じられた兵はうずくまってた子を抱き上げ、子供たちを引き連れて隣街方向に歩いていく。


「俺たちはゆっくり下がりながら戦闘だ。出来るだけ敵を引っ張り出して叩き、夜に忍び込んで人質確保を試みる。長丁場になるから、今のうちに9.0と丸薬を服用しとけ」


最低でもこの場で二十分敵を抑えれば、さっき逃がした子供たちの安全は確保出来るだろう。

問題は俺たちが相手する敵の数が多いって事だが、今まで戦った奴ら、全員レベルが0だったように感じた。

ひょっとしたら敵の国って、ダンジョン無いのか?

まあ、敵が強いよりは弱い方がよっぽどいい。


さて、門前に集合してた敵、やっと動き出したな。

俺たちもゆっくり下がるか。

敵は二百ってとこだが、数の利を過信して別動隊は出してないみたいだ。


よし、港街が見えなくなってしばらく来たな。

さあ、ひと踏ん張りするか。


俺たちが止まったら、敵軍は俺たちの200mくらい前で停止。

最前列が盾を構え、その後ろに弓隊が出て来た。


おいおい、俺たちが左右の森に入ったら、矢は無駄打ちだぞ。

…ああ、矢で俺たちを森に入らせて、街道突破して後ろに廻って包囲戦のつもりか。


通常の軍同士ならセオリーかもしれんが、俺たちは動く気無いぞ。

やりたきゃやってみろ。


やがて矢が雨のように降り注いだが、俺たちは構えすらしない。

矢は俺たちが展開したクッション魔法に弾かれ、ぼろぼろと俺たちの前に落ちてきた。

よし、矢玉が手に入った。


ん?なんか敵将らしき馬に乗ったおっさんが、敵軍中央でギャーギャー騒いでるが、どうした?


お、前衛が進んできた。

って、おっさんは動かねえのかよ。

自分は分厚い仲間の層に守られて命令するだけって、気に入らんな。

よし、運動させてやろう。


さっき降り注いだ矢玉を集め、おっさんを中心にしたあたりに一斉発射。

この方法だと細かい照準は無理だが、一本の太い矢として扱えるから楽でいい。

当たらなくても、どうせ嫌がらせだしな。


…おい、当たっちまったぞ。

おっさんに何本も矢が生えて、馬から落ちやがった。

周りの奴らが何本か剣で払ってたが、おっさんは払い損ねてハリネズミになっちまった。

皮鎧も貫通してるな。


ああ、ついいつもの癖で、ボルトのスピードで発射しちまってた。


敵将っぽいのが倒れて、敵前衛の前進も停まっちまったぞ。

やば、撤退されたら面倒だな。


お、一人が剣を振りかざして号令掛けた。

今度は全軍で突撃して来るぞ。

撤退されずに助かった…。


盾を構えた前衛の隙間から、長槍が突き出されたまま突進してくるな。

よし、全員ボルト構え、…発射!


前衛がバタバタ倒れたが、倒れた前衛踏みまくって前進してきた。

そりゃあ後ろが止まっちまうよりはいいだろうが、躊躇なく傷付いた仲間を踏みつけてやがる。

合理的なのかもしれんが、こいつらの戦い方は好きになれんな。


全員ボルト連続発射!

どんどん倒れてく最前列。

だが、後ろからは見えてないらしく、次々と前進してくる。


これはひどい。

流れ作業のようにボルト発射してるだけで、街道が敵兵で舗装されていく。


子供たちまでいたぶって殺すような奴らだから容赦する気は無いが、なんなんだこいつらの弱さは。

だんだん馬鹿らしくなってきたぞ。


流れ作業を繰り返すうちに土で固められた街道がボルトの材料にされて削れていき、やがて畑のような形状になったころ、街道の人体舗装も途切れた。


「……弱すぎる。なぜこんな弱さで侵攻なんかしてきたんだ?全く意味が分からん」

「ご継嗣。避難民から聞き取った話では、船から降りて来た敵兵に港街の兵士数十人が当たったものの、敵兵に倒されております。

その後も多数の住民に負傷を与え、千人近くを追い出しております。

これは敵兵が弱いのではなく、我々が強くなりすぎてしまった可能性もあるかと」

「……俺たちが強すぎる?アリスやネージュといると、自分の強さなんてまだまだとしか思えんが」

「ご継嗣は近衛騎士団長に試合で勝利されております。普通に考えれば、王国最強なのでは?」

「…俺がアリスを基準に考えちまってるのは確かだな。だがアリスは、近衛騎士団長以下陛下の近衛を、身動きすら出来なくさせてたぞ」

「…我々も知らず知らずのうちに、彼女を基準にしてしまっていた結果がこれかと」

「基準を間違えていたのは何となく分かった。だが敵の残り三百強が人質を取って港街に立て籠られたら、さすがに手出しは無理だろう」

「先ほどの戦い、後列は手持無沙汰でした。我々が街に分散侵入して陽動に動き、ご継嗣が人質救出に当たれば行けそうですが。万一人質を盾にされた場合も、先の人質救出と大差無い気がします」

「…この敵兵二百が戻らないなら、その内警戒されるな。今ならまだ追撃戦中と考えて、警戒も緩いか」

「はい。僅か五十に二百が負けるなど、思ってもいないでしょう」

「よし、隊を三人一組に分ける。隊長はなんとか港側に潜入して船自体を火矢などで攻撃してくれ。奴らにとって船は生命線だ。慌てて多くの人員を割くだろうから、他の組は騒ぎに乗じて北門側から見つかるように侵入だ」

「了解です。川岸の土手に隠れて港側に廻ります。準備が整い次第、念話で連絡します」

「すまんが頼む。俺は東側からこっそり侵入して潜みながら人質を探す。他の組は敵に見えるように侵入して、街中で分散し陽動しながら敵を減らしてくれ」

「「了解!」」




………はぁ、人質救出作戦は一時間で終わっちまったぞ。

しかも救出して逃げるのではなく、敵を殲滅して港街を奪還してしまったぞ。

当初は敵を分散させて人質を救出し、各個撃破しながら街の外に出る算段だった。

だが、気付いたら敵がいなくなってた。


敵は船の破壊と北門からの侵入の二重陽動にあっさり引っかかり、港と北門に敵兵が集中した。

隊長が湾内にあった船を三隻とも沈めちまったから、動揺も大きかったんだろう。

後で隊長に聞いたら、土でバケツ作って息継ぎしながら海中を進み、船底を魔法で引っぺがしたそうだ。

なるほどな。バケツをベクトル魔法で浮かないようにして海中を進めば、発見されにくい上に万一見つかっても攻撃受けないな。


北門側の陽動部隊は戦力も多かったために、あっさりと敵を殲滅して街に入った。

そして隊長と合流しようと港に向かい、桟橋で慌てふためく敵も殲滅してしまった。

どうやら陽動部隊が分散侵入したために、期せずして港の敵を包囲し、桟橋に追い詰める形になったらしい。


俺は敵がほとんどいなくなったエリアから魔力感知最大で大きな建物をめぐり、三つ目で子供たちを見つけた。

子供は大きな建物の地下室に監禁されてた。


マギと一緒に内部診断魔法を習得した時に、土や岩の中まで感知出来るようになってたから助かったぜ。


ラッキーだったのは、地下室への階段にしか監視がいなかったこと。

まあ地下室なんだから、普通は出入口だけ見張ってりゃいいもんな。


俺は庭から穴掘って地下室に侵入。

子供を侵入路に連れ出し、地下室の壁は元通りに。

横に小部屋作って近くの兵士一組だけ呼び寄せて護衛に付け、敵兵の殲滅作業に出た。

適当に偉そうな奴を三人ほど見つけて拘束、残りは殲滅した。


作戦終了後父上に念話を入れ、詳細を報告。

死体の片づけのために、各所から派遣されて来た混成部隊二百人を港街に派遣してもらった。


俺は隊長に後を任せ、敵の後続部隊監視のために、俺の飛翔機を取りに隣街に戻った。

敵がこの港街を占領しても、食料や人員の補充は本国からしか出来ないわけで、必ず後続があるはずだからな。


隣街への帰り道の途中で人体舗装の場所に来た。

…まいったな。俺、大量殺人犯だ。

救出作戦が終了して港街を開放したことで、戦闘モードだった気持ちが通常状態に戻ったみたいだ。


自分が仕出かしてしまったことに、今更ながら恐怖心が芽生えた。

しかも、アリスに教えて貰った魔法を使って敵兵を殺したんだ。


これではアリスを癒す存在になるどころか、離れられてしまうかもしれない。

まじでやらかしちまったなぁ…。


でもアリスに嘘や隠し事はしたくないから、正直に話すしかないな。

はぁ、自業自得だな。

助けた子供たちには英雄扱いされたけど、大罪人になった気分だ。


落ち込む気持ちを無理やり切り離して、仕事モードに切り替えた。


夕方前に隣街に着いたが、さすがに精神的な疲れがひどい。

代官屋敷で父上に帰還を報告し、明日の後続船舶の探索予定の許可貰ってから休息に入った。

港街奪還戦は未許可だったから叱られたが、子供たちを救出したことは褒められた。

街道の途中で子供の死体を見てから頭に血が昇って好戦的になってたみたいで、父上に報告や相談することも忘れて突っ走っちまった。

こんな事態は二度と有って欲しくはないが、現場指揮官としてちゃんと反省しておこう。


黙々と反省しながら食事して、風呂にも入って一息ついた。

だが、アリスに念話する気にはなれなかった。

精神が疲弊したまま話をしても、多分いい方向には行かない気がする。

今日はゆっくり睡眠取って、明日、もう一度考えを整理してみよう。



翌朝、朝食摂ってから偵察飛行。

これが終われば、アリスに話すことを考える時間が取れるだろう。


敵が使う海路が分からないから、往路は少し東寄りに進路を採った。

海に出てから三十分。

俺の機体は時速200kmくらいだから、海岸から100kmくらい離れたと思う。

それらしき船影は見えないから、ここからは少しだけ西に向かい、その後北上すればいいだろう。

これで少しは索敵範囲が広がるはずだ。


…戻ってきたら、思ってたより進路が西にズレた。

コンパス頼りのフライトは、結構難しいな。


隣街近くの平原に着陸し、機体の点検と核の補充。

この機体は俺の空中散歩用だったのに、偵察って言う軍事に使っちまったな。

魔法、飛翔機、ああ、兵士の移動にも使っちまったから自走車もか。

あっ!ポーションと丸薬も戦闘中の魔力回復早めるのに使っちまったぞ!


やばい。

アリスは開発したものの軍事利用を断ってるって知ってたのに、俺自身がなし崩し的に使っちまった。

その上、アリスが治療用に作った薬まで軍事に利用した。


薬医師止めるとか言われたら、俺はどうしたらいいんだ?

薬医師は、アリスが両親と約束した二番目に大切なアリスの希望みたいなもんだ。

それを俺が壊しちまうのか?


……ウガー!!俺ってこんなにもひどいことしてたのかよ!

どうすんだよ、俺っ!?


「ご継嗣!だ、大丈夫ですか!?」


はっ!?飛翔機警備の兵が駆け寄って来た。

頭抱えて苦悶してたから、病気か何かと思われたか。

誤魔化さないと、兵に不安を与えるぞ。


「あ、大丈夫だ。すまん。ちょっと機体に頭ぶつけただけだ」


頭さすって演技したら、兵は安心して所定の位置に戻って行った。



『指揮官は兵に不安を与えてはいけない』


あぶねぇ。父上に言われてた事なのに、苦悶する指揮官を兵に見せちまうとこだった。

普通にしろ、俺。


「整備は終わった。俺は代官屋敷に戻る」

「はっ、了解です!」


兵とのやり取りで頭は冷えた。

そうだ、俺は指揮官だ。

俺は指揮官としての判断で、アリスの魔法や発明品を使ったんだ。

自走車は救援時間の短縮に。

魔法やポーション類は、保護した子供と兵の安全確保に。

飛翔機での偵察は、未来の被害防止体制の構築に。

全部指揮官としての判断で、間違ってはいないはずだ。


公的な立場での判断が、アリスの親友としての私的な立場を損ねる。

これも父上に言われてたことだな。


『公的な立場が上がれば上がるほど、私人としての苦しみが増す。だが、公的な判断を私人として行ってはならない』


聞かされた時は、『公的な立場で友人を贔屓しない』程度に考えてたが、思ってた以上にきついことだったな。


しっかり認めよう。

俺は領主継嗣として、アリスの大切にしてるものを傷付けた。

謝って済むような事じゃないが、やっちまったことは一刻も早く知らせなきゃ、不誠実過ぎるな。

よし、念話入れよう。


【アリス、今話せるか?】

【うん。ソード君、無事?】

【ああ、大丈夫だぞ。兵士のみんなも無事だ。それで、その……】


やばっ、いざ話そうとすると、焦って考えが纏まんねぇ!

昨日や一昨日の出来事が、ごちゃ混ぜに思い出されてくる。


【ソード君、感情やイメージが漏れて全部伝わっちゃってるよ。私はソード君の行動を全面的に支持する。私がソード君の立場だったら、おんなじことするから】


え?え?支持?おんなじ?え?漏れた?


【え?ちょ、…ウガー!マジで!?全部??何やってんだよ俺っ!?】

【あはは、今度は混乱と動揺】


く、深呼吸、深呼吸。

スー、ハー、スー、ハー。


【落ち着け、落ち着け俺。……すまん、ちょっと念話の制御ミスった。…だが、いいのか?ご両親との約束を破ることにならないか?】

【ごめん。私、二番目の約束は最初から守れてなかったよ。今私は、こんな侵攻をしてきた敵を人とは思えないの。そして即座に消えて欲しいとさえ思ってる。なんなら私が殲滅しに行ってもいいよ。ね、全然優しくないでしょ。これが私の本性だから、二番目の約束は最初から守れてなかったってことだよ。それなのに偉そうに守ってるフリしてた。ソード君や領主様にも嘘ついてたことになるよね。ごめんなさい】


え?なんでアリスが謝るんだ?

謝らなきゃいけないのは俺だ。

それに本性って、多分俺のために過激な事言ってるんだろうな。

だからアリスは優しいぞ。


【……気付いてなかったんなら嘘にはならんだろう。だが本当にいいのか?俺、アリスが開発した魔法や魔道具、それに薬まで戦いに使っちまったぞ。しかも二番目の約束知っててだ。薬医師としてもアリス個人としても、俺の行動を支持するのはまずくないか?】

【私はこの国の特級薬医師なんだ。この国の人たちを守るためにソード君がしたことは、立場的にも支持していいと思うよ。公的にはこの国の法衣子爵だからね。私個人としては支持どころか完全に同意だよ。ソード君は、怪我した避難民救うために自走車使って、子供たちを救うために魔法使って、さらに子供たちを救うために魔力の回復促進に9.0と丸薬使ったんでしょ】

【それはそうだが…】

【私も同じことしてるんだよ。怪我した避難民助けるために自走車使ってここに来て、魔法使って重傷者の命救って、救える患者さん増やすために魔力の回復促進に9.0と丸薬使ったよ】


は?俺とアリスが同じことしてた?


【……それは同じって言えるのか?】

【第三者の見方なんてどうでもよくて、私自身が同じだと感じてるんだよ。それじゃダメなの?】

【いや、アリスがそう感じてくれてるんなら、他の奴の意見なんかどうでもいい】

【よかった。…ソード君、頑張ってくれてほんとにありがとう。ソード君のおかげで私もこの街の人たちも無事なんだよ。そして多くの避難民も助かったんだ。でも、私個人はこう言いたいの。『あなたのおかげで私は幸せでいられるの。だから無事に帰って来て』】


え?俺のおかげでアリスが幸せ?だから無事に帰ってこい?

俺の存在がアリスの幸せだから心配された?

それって……。


ぬわっ!?ちょ、待て!また漏れるかも。

なんだこの感情!?バレるのはまずい!!


【くっ、す、すまん、また制御ミスりそうだ。落ち着いたら連絡する!】

【うん、待ってる】


やばい、なんなんだこの感情?

精神的な疲れなんか一瞬で吹っ飛んで、ガンガン仕事出来そうな気分だ。

どうなってんだ、これ?

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