4年目 夏

夏来たー。

公爵夫人も来たー。

女性のパティシエールさんまで来たー。


公爵夫人が計画してた養鶏場は、王都近くに出来て新鮮卵が手に入るようになったはいいが、レシピだけじゃ再現しきれないからって、パティシエールさん連れて来ちゃったんだよ。


このパティシエールさん、なんとレベル5だった。

わざわざ護衛雇って、パティシエールさんと粉末牛乳作る専任者さん(新たに雇ったそうだ)を近隣のスライム出る森に派遣して、レベルを上げたらしい。


…公爵夫人の本気度が怖い。

私のレシピ、素人お菓子だよ?


うちだと食事も私の家庭料理メニューになっちゃうのに、なぜかお城じゃなくて工房棟に泊まっていった。


既に公爵家ではレシピをかなりの所まで再現出来てるはずなのに、更に再現度を上げるために私んとこまで来ちゃったんだよ。

まあ、事前に相談の手紙もらってたから来るのは知ってたけど、ほんとに来ちゃったよ。


私も日課あるしお城勤めもあるから、毎日お昼前に工房棟のキッチンでお菓子作りしたの。


私のお昼、毎日お菓子になったよ。


十日くらい滞在していったんだけど、最後の方なんかネタ切れで和菓子作ってたもんな。


マギ君から届いてたもち米と小豆、新年まで取っておくつもりだったのに…。


白いんげん豆は元々あったから、練りきり作ってイチゴジャムで色付けしてバラの花や雪うさぎに成形してみたら、かわいいって絶賛された。


調子に乗って色々和菓子作ったけど、寒天無いから羊羹は作れなかったよ。


ソード君にはみたらしだんごお裾分けしたら、めっちゃ気に入ってくれた。


こうなると日本茶欲しくなるので、公爵夫人に『和菓子に合うお茶は、紅茶用の葉の新芽を摘んで直ぐ蒸して、揉んで乾燥させる』って囁いておいた。


しっかりメモ取ってたから、そのうち届きそうな気がする。


公爵夫人はシャルちゃんたちの手紙も持って来てくれたんだけど、医療魔法習得組、やっとのことで忙しさが緩和しつつあるみたい。


治療院は新戦力が続々と投入されたことで忙しさは緩和されたんだけど、次に貴族女性の間でシャルちゃんたちの診察予約合戦になって、国王様が貴族家に通達を出す騒ぎにまでなったらしい。


理由は、女性同士の気安さに加え医術の確かさもある上に、妊娠の確定と胎児の性別判断が出来てしまったから。

やはり貴族家、お世継ぎ問題には過敏に反応したみたい。


私は以前に手紙で、旦那さんと魔力パターンが一致しない胎児や子供見つけちゃってややこしい話に巻き込まれないように、親との魔力パターン比較はしないようにと注意はしてたんだけど、妊娠や胎児の性別判断だけでそこまで忙しくなるとは思ってなかったよ。


貴族家の女性、みんな出張診察希望だったから、効率悪くて忙しさが増しちゃってたみたい。


で、シャルちゃんからマギ君経由で相談受けた国王様が、『余が王国民の為に作った診療所の業務を、貴族家が遅延させるなどまかりならん。妊娠や胎児の性別が知りたければ、貴族も診療所に出向け』と通達して、やっと騒ぎが収まったらしい。


もう少ししたら、個別にまとまった休みをもらってこっちに来れるかもって手紙に書いてあった。

私は来てくれたら嬉しいけど、休みはちゃんと休養してよね。


こっちの領関係では、姉妹ちゃんが王家献上用の固定翼機を完成させて献上した。


例の谷は雪解け水無くなってからも、山脈に降った雨が集まっちゃって雨が降るたびに洪水で採集作業が中断してたの。


採集始まったのは雨が少なくなる去年の秋の終わりだから、雨がこれほど影響するとは予想出来なかったんだ。


で、暇の出来た姉妹ちゃんは、せっせと献上用機体作った。

どうも王様からの依頼を放置するのは、気持ち的に落ち着かなかったみたい。


また二人で分乗して王都近くの平原に降りたんだけど、今度は屋台まで出るお祭り騒ぎだったそうだ。


雨で姉妹ちゃんに余裕が出来るのは良かったんだけど、採集作業が不定期に中断しすぎるのはまずいからと、晴れた日にソード君、私、ネージュ、姉妹ちゃんで、広範囲の金鉱脈探査してみた。


金鉱脈、現在の採集場所から5kmほど上流に行ったところにあったんだけどさぁ…。


河原に金塊がごろごろしてたよ。

川底自体が金色だもん。

これ、川が鉱床の上を流れてるよね。

川べりの堆積土どけてみたら、あたり一面石英層。

そして金。

みんな無言でため息吐いてた。


とりあえず、みんなで採掘拠点作った。

冬の北風を考慮して、北側の崖の中腹あたりに。

山脈側だから雪崩怖いし崖の崩落も怖いから、採掘拠点は崖をかなり抉ってから固めまくり、崖の奥の方に作った。

輸送機発着可能な採掘拠点と、地中階段で降りられる道も作ったよ。


この階段は、途中で二本に別れてるの。

一本は、U字谷の谷底に降りられます。

こっちの階段は、大洪水だと水没しちゃうけどね。

そしてもう一本は、分岐から山脈側に下って鉱床に。

予想通り、鉱床は山脈地下まで続いてたよ。

坑道も山脈側に掘り進む予定なので、谷の状況関係なく採掘出来るよ。


以前作った避難所から備品や道具類持って来たので、もういつでも採掘作業出来ます。


これで姉妹ちゃんの安全性もかなり上がったはずだし、金の産出も安定しそうだよ。


姉妹ちゃんは、穏やかな天候の時は河原で採集、荒れた天気の日は坑道で採掘するって言ってた。

河原に放置された金、もったいないもんね。


帰り際、ソード君から手間賃だってスイカサイズの金塊渡されそうになったけど、そんな重くてでかい物、どうやってこっそり持って帰るのよ。

近くに落ちてたこぶし大の、石英に金が挟まれた欠片だけもらって帰ったよ。

こっちの方が金鉱石っぽくって、記念にはいいよね。



世間様の方はね、私の予想に反して飛翔機ブームが冷めてない。

王都では続々と機体が作られてて、姉妹ちゃんが着陸した平原で、毎日のように試験飛行が繰り返されてるらしい。


平原は柵で仕切られた上に騎士団に守られて関係者以外立ち入り禁止になってるけど、遠くからでも飛ぶ姿を一目見ようと、連日見物人が押し寄せて屋台もたくさん出てるそうだ。


飛翔機の製作は開発当初から魔学研究所の認可が必要になってるから、今試験飛行してるのはみんな魔学研究所の機体。

研究所の魔道具技師さんたちにも飛翔機熱が感染してるらしく、休日返上、サービス残業どんと来い状態で機体作ってるらしいよ。


でも、研究所以外の試作機は皆無。

まあ、王家が空と言う優位性を手放すわけもなく、厳格な審査を通過した申請者はゼロらしいからね。


こうなると反国王派からは文句が出そうなんだけど、審査の中に公開での1/2サイズ無人模型機の飛翔試験がある。

つまり、ちゃんと飛べる無人模型作れなきゃ審査で大恥かいちゃうわけ。


揚力や操縦の仕組み知らなきゃ、飛べる模型なんか作れるわけないよね。

仕組みは魔学研究所の重要機密指定だから、公開するわけないし。


きっとあの王様の事だから、反国王派に飛べない模型いっぱい作らせて、資金を浪費させようとしてる気がするよ。


あ、うちの領はね、原理発明者のソード君と実機開発者である姉妹ちゃんがいるから、飛翔機製作の特別許可があるんだよ。

でも、雨でも金が採掘出来るようになったから姉妹ちゃんの暇が無くなっちゃって、次の機体製作は未定です。


当初、鳥みたいに空を飛んでみたいって言ってた妹ちゃん、毎日お仕事で輸送機に乗ってて、『思ってたのと違う!』と荒ぶった。

ソード君がU字谷のスカイダイビングに誘い、ダイビング仲間になった。


お姉ちゃんは、『見た目で怖いから無理』って言ってた。



色々あったけど結構平和だなーなんて思ってたら、とんでもない事が起きてしまった。


隣領の港街が、船で侵攻してきた大勢の兵士に襲われたの。


襲われたのは、隣の伯爵領にある海岸沿いの小さな港街。

うちの領からだと120km以上南だけど、船での侵攻だから、最初に港が襲われたの。

うちの国の海岸線って砂浜がほとんどで、街を襲撃出来る兵を乗せた大型船なんて、まず接岸出来ないからね。


港町が襲われた初期に助けを求めた早馬が隣街に付き、隣街は一気に大騒ぎ。

定期便の運行で隣街にいたソード商会の商会員さんからソード君に念話が入り、領主様とソード君は姉妹ちゃんと従者さんに領を任せ、零戦型の飛翔機に乗って一足先に隣街に向かった。

兵士さんたち五十人も自走車で即時出発。

私と兵士さん十人は支援物資を満載してから後を追ったの。

ネージュには万一に備えて、お城を守るようにお願いしてきた。


私たちが昼過ぎに隣街に着いた時には、うちの領主様が隣街の領兵を指揮して、街の防衛体制を構築してた。

領主様は元隣領の騎士団長で、隣街の領兵束ねてたのは元部下さん。

元部下さんは騎士爵で領主様は伯爵。

隣領領都から応援が来るまでの繋ぎとして、臨時に指揮したみたい。


私は特級薬医師として、当然医療班に組み込まれたよ。

隣街には続々と港町から避難民が逃げて来てて、怪我してる人たちも多かったので、ダンスホールが臨時治療室に宛がわれた。


医療班の人たち、領主様が特級薬医師って紹介してくれたのに、最初は懐疑的な態度だったよ。

でも、治療が進むにつれて、医療班全員が私の指示で動き出した。


私が治療に使ってたのは、王都の医師が先を争って買い求める医療道具と9.0、軟膏、丸薬の超高級ポーション類。

そして内部診断と痛覚遮断。

きちんとした医療知識を持った人たちなら、私がやってることをある程度理解出来ちゃうから、自然とそうなっちゃったの。

いつのまにか、私がトリアージと緊急処置して、後を医療班の人たちに任せる流れになってた。


でも、一般人の怪我人ばかりだし怪我の度合いもひどい。

子供にまで武器で切られた怪我があったよ。

高ぶりそうになる感情を抑えてひたすら治療に当たってたけど、夕暮れには魔力が尽きそうになった。

私自身丸薬を9.0ポーションで胃に流し込みながら治療してたんだけど、緊急処置が必要な患者さんが多くて魔力回復が間に合わなかったよ。


ふらつき始めた私を見た医療班の人たちに、強制的に休憩取らされた。

魔力回復早めるために、食事してから三時間ほど長椅子で仮眠。

起きたら魔力六割くらい回復してた。


医療班の処置室に戻ったら、重傷者も治療されてて私の確認待ちになってた。

内部診断して追加処置してたら領都の医師と看護師が到着したので、患者さんを引き継いだ。


夜なので怪我人の流入も停まり、医療班も交代で休みになった。

私は医療班主戦力として、朝まで強制休養を言い渡されちゃった。

うん。明るくなったらまた避難者来るから、休まなきゃダメだよね。

ダンスホールの隅で毛布に包まり、何とか寝ました。



翌朝、怪我人がどんどん運ばれてきたけど、重傷患者だらけ。

領都から来た医師のおじいちゃん、元従軍医師らしくめっちゃ怖かった。

元従軍医師のおじいちゃんに『助けるべき患者が多いのに魔力を無駄にするな』と一喝され、私は救命処置のみに限定されちゃったよ。


昨日は当初患者の増加数を見誤って最終処置までしちゃってたから、終盤魔力保たなかったんだよね。

うん、今は救命が私の仕事。

割り切って救命のみに限定しないと、魔力不足で救命すら出来ない事態になりかねない。

荒っぽい治療になっちゃうけど、痛覚遮断の使用も最低限に抑えよう。


数多くの患者さんを呻かせながら(申し訳ない)治療を続け、交代で休憩挿みながら迎えた夕方、新規の患者さんの流入が無くなった。

今日は何とか魔力保ったな。


でも、実感しちゃったよ。

私、サボってた。

レベル上げれば魔力量格段に増えるって分かってたのに、積極的にレベル上げしてなかった。

こんな野戦病院みたいな状況は想定してなかったとはいえ、魔力量増えれば救える患者さん増やせるのは純然たる事実だ。

うん。今のレベルに胡坐かいてないで、ちゃんとレベル上げしよう。


一人反省しながら夕食食べてたら、妹ちゃんから念話入った。


【アリスちゃん、聞こえる?】

【うん、聞こえてるよ】

【やった!繋がった!】


ん?繋がったことを喜ぶって事は、どっか遠くにいるの?

お城とこの街は姉妹ちゃんとは念話成功してたから、もっと遠くかな?


【どっか遠くに行ってるの?】

【うん。今、桜花で王都との中間地点くらいの平原にいるの。王都近くまで行って、マギ君に念話で第一報入れた帰りだよ】


桜花、私が初めて姉妹ちゃんの固定翼機見た時に呟いちゃって、意味は説明したんだけど特攻兵器とは言いだせなくて、気に入られて正式名称になっちゃったんだよ。


【うわ、300kmくらい離れてるじゃん。よく繋がったね】

【休憩に降りて色々試してたんだけど、アリスちゃんとお姉ちゃんだけ繋がったんだ】

【そうなんだ。遠いから魔力消費には気を付けてね。私も治療用に魔力温存しなきゃだから、長くはしゃべれないかも】

【わかった。お姉ちゃんが商会長と繋がらないって心配してたけど、そっちの状況どう?】

【ソード君は作戦行動中だと思うから念話は難しいかも。こっちも治療が忙しくて、念話してる魔力ももったいないんだよ】

【そっか。お姉ちゃんと伯父様は繋がるみたいだから、連絡はお姉ちゃん経由で行ってると思うけど、アリスちゃんにも報告だけするね。マギ君が騎士団非常呼集して王都を出たよ。シャルちゃんが王都に残ってマギ君と念話可能距離を測りつつマギ君が進んで、シャルちゃん、マギ君、私、お姉ちゃん、伯父様の順で、王都までの連絡網を作る予定。王都からの第二陣にはレリアさん含む医療班も同行するからね】

【うん、わかった。第二陣着くまで頑張るよ】

【うん。それじゃまた連絡するね】

【魔力温存したいから、私には医療関係の連絡だけでいいよ】

【了解、じゃあね】

【うん、またね】


ふう、遂に来ちゃったか。

念話も私が開発した魔法だから、気持ち的には軍事に使って欲しくは無いけど、この状況じゃあ仕方ないよね。

相手は問答無用で街を襲撃する集団。連絡の遅れが王国民の被害拡大に繋がっちゃうから、念話は使うべきだ。


次は魔法を攻撃手段に使われ、魔道具も移動用に当然使われるだろう。

うちの領のみんなが怪我するよりは、私が開発した魔法や魔道具使ってでも無事でいてくれた方がいいに決まってる。


親しい人が無事でいることを願うのは人として当然の事なのに、なんだろうこの重圧感。


………ああ、なんだそうだったのか。

やっと分かった。

なんだ、こんな単純なことに気付かなかったのか。


自分が開発した物のせいで、例え敵側であっても被害が拡大するのはいい気はしない。

でも、相手側の被害が拡大することで、親しい人が助かるならその方がいい。

自分勝手?いやいや、それが人として当然の感情だ。


例えば私の開発した魔法や魔道具が今回使われなかったとしたら、気にならないのか?

違う。重圧感はほとんど変わらない。


じゃあ、領のみんなが港街に向かってなかったら?

申し訳ない事に、かなり重圧感が軽減されるんだよ。


そして気付いた。

ソード君を失う可能性があるから、こんなにも重圧感がきついんだ。


この重圧感、覚えがあるよ。

両親の消息が分からなかった時に感じてたものと同じだ。

つまり私は、ソード君を両親の存在に近いところに置いちゃってるんだ。


私、混同してたよ。

開発した魔法や魔道具を戦いに使って欲しくないのは、両親の願いである『やさしい薬師』でいたいからなんだ。

もちろん使われることに重圧は感じる。

でも、ソード君を失う可能性の重圧に比べたら、かなり少ないや。


ソード君が兵士さんたちを指揮して港街に向かってることを考えると、侵攻してきた奴らなんてこの世界から消えて欲しいとさえ思っちゃうんだ。

この世界から消えることって一番手っ取り早いのは死ぬことじゃん。


まいったな。

父ちゃん、母ちゃん、『心優しい薬師であって欲しい』って、人が死ぬことを願っちゃう私には無理だよ。

というか、私の考え方は以前と変わってないんだから、『心優しい』って部分は最初から全く出来てなかったよ。


認めよう。これが私だ。

ソード君が傷付くくらいなら、相手に死んで欲しいとさえ願ってしまう。

優しくない娘でごめんね、父ちゃん母ちゃん。

せめて薬師として、いや、薬医師としての仕事には手を抜かないよ。

薬医師は、私自身が選んだ道でもあるから。



翌日、新規の怪我人は少なかった。

医療班の人の話では、港町の人口は千人弱。

今いる街は最前線になる可能性があるので、健常者や軽症の怪我人は、どんどん渡し船で対岸奥の街に避難させてるらしい。

もう、ほとんどの人が避難しちゃったから患者さん少なくなったのかな。


私が今いる街には領都や周辺領からの応援が続々と集まり、街の外にはテントが立ち並んでる。

ここで一戦交えるみたいだね。


私はどうするかな。

薬医師として、動けない患者さんを放置する気なんて無い。

しかもソード君に薬医師として頼られたんだから、患者さんはどんなことをしてでも守って見せる。

たとえ相手を傷付けてでも。

多分手加減せずに。


父ちゃんと母ちゃんとの約束、どんどん破る事になるよな。

でも、ソード君が万一怪我したりしてたら、私は進んで敵と戦いに行っちゃいそうだよ。

こんな状況にした敵に、また腹が立ってきたぞ。


高ぶりそうになる感情を抑えようと深呼吸を繰り返してたら、ソード君から念話が入った。


【アリス、今話せるか?】

【うん。ソード君、無事?】

【ああ、大丈夫だぞ。兵士のみんなも無事だ。それで、その……】


よかった。ソード君もみんなも無事なんだ。

でも、急に歯切れ悪くなったな。

あ、ソード君の感情まで漏れて伝わってくる。

自責、後悔、憤怒、悲しみ、恐怖、色んな感情がごちゃ混ぜになって伝わってくる。

そしてフラッシュバックのようなイメージも。


ああ、これはダメだ。

伝わって来たイメージで、ソード君の言いたいことは全部分かったよ。

何の交渉も無く、突然の奇襲で一般民を無差別に攻撃。

子供まで殺してる。

ソード君の怒りは私の怒りだよ。

私だって、ソード君とおんなじ事するよ。


ソード君が指揮官として取った行動は間違ってないけど、私が両親とした約束を守れなくなるのが辛いんだね。


どこまでお人好しなのよ。

私が両親とした約束なのに、なんでソード君が守ろうとしてんのよ。

しかもその約束、私自身が最初から守れてなかったんだよ。


【ソード君、感情やイメージが漏れて伝わっちゃってるよ。私はソード君の行動を全面的に支持する。私がソード君の立場だったら、おんなじことするからね】

【え?ちょ、…ウガー!マジで!?全部??何やってんだよ俺っ!?】

【あはは、今度は混乱と動揺】

【く、落ち着け、落ち着け俺。……すまん、ちょっと念話の制御ミスった。…だが、いいのか?ご両親との約束を破ることにならないか?】


やっぱり気にしてるのはそこか。


【ごめん。私、二番目の約束は最初から守れてなかったよ。今私は、こんな侵攻をしてきた敵を人とは思えないの。そして即座に消えて欲しいとさえ思ってる。なんなら私が殲滅しに行ってもいいよ。ね、全然優しくないでしょ。これが私の本性だから、二番目の約束は最初から守れてなかったってことだよ。それなのに偉そうに守ってるフリしてた。ソード君や領主様にも嘘ついてたことになるよね。ごめんなさい】

【……気付いてなかったんなら嘘にはならんだろう。だが本当にいいのか?俺、アリスが開発した魔法や魔道具、それに薬まで戦いに使っちまったぞ。しかも二番目の約束知っててだ。薬医師としてもアリス個人としても、俺の行動を支持するのはまずくないか?】

【私はこの国の特級薬医師なんだ。この国の人たちを守るためにソード君がしたことは、立場的にも支持していいと思うよ。公的にはこの国の法衣子爵だからね。私個人としては支持どころか完全に同意だよ。ソード君は、怪我した避難民救うために自走車使って、子供たちを救うために魔法使って、さらに子供たちを救うために魔力の回復促進に9.0と丸薬使ったんでしょ】

【それはそうだが…】

【私も同じことしてるんだよ。怪我した避難民助けるために自走車使ってここに来て、魔法使って重傷者の命救って、救える患者さん増やすために魔力の回復促進に9.0と丸薬使ったよ】

【……それは同じって言えるのか?】

【第三者の見方なんてどうでもよくて、私自身が同じだと感じてるんだよ。それじゃダメなの?】

【いや、アリスがそう感じてくれてるんなら、他の奴の意見なんかどうでもいい】

【よかった。…ソード君、頑張ってくれてほんとにありがとう。ソード君のおかげで私もこの街の人たちも無事なんだよ。そして多くの避難民も助かったんだ。でも、私個人はこう言いたいの。『あなたのおかげで私は幸せでいられるの。だから無事に帰って来て』】

【くっ、す、すまん、また制御ミスりそうだ。落ち着いたら連絡する】

【うん、待ってる】


ソード君、焦って念話切ったけど、手遅れだよ。

また感情伝わって来たよ。

歓喜と感謝。

ねえソード君、感謝してるのはこっちなんだよ。

だからお願い。無事に帰って来てね。

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