4年目 春

みなさんこんにちは。十歳になったアリスです。


私、やっと年齢二桁だよ。

身長は130cm超えたくらいで、まだまだチビだけど…。


世間は春。

平原の雪も解けて、かなり暖かくなってきました。


姉妹ちゃんの事故以来、冬場の強風は危険すぎるからと、きんの採掘作業は二ヶ月ほど前から中断してました。

でも、そろそろ強い北風も治まって来たので、姉妹ちゃんが作業再開に向けて偵察に行ったの。


U字谷、雪崩が頻発してるし、雪解け水も半端なかったって。

あと一ヶ月くらいは、採掘再開無理そうだね。


冬場から時間が出来た姉妹ちゃんは、ここぞとばかりに飛翔機作りまくってた。


王家献上用、領主家移動用、採掘用輸送機の予備の他に固定翼機も作ってたけど、なんか特攻兵器の桜花をぶっとくしたようなずんぐりした形。

固定翼の揚力や操舵の仕組みは説明したけど、これは私のデザインじゃないからね!


一方、姉妹ちゃんに触発されて、ソード君も固定翼機作ってた。

これは私が追加で色々デザイン書いた中で、零戦が採用されちゃったの。

ソード君はかっこいいからって言ったけど、複葉機やセスナよりいいんだ…。


でも、大きさは全長全幅とも5mくらいで、零戦の半分程しか無い。

反作用水晶推進だからプロペラ無いし、座席も複座式。

お昼休みに時々飛んでるのを見かけるから、結構気に入ってるみたい。


滑走路?出来ちゃったんだよ。


元々は姉妹ちゃんのヘリポート用に岩山削ったんだけど、削った岩置き場に困って敷き詰めて滑走路になっちゃったの。

魔道具技師や見習いさんたちが飛翔機熱に乗って総出でお手伝いしちゃって、冬場なのにお城の北側の岩山(丁度拡張薬草畑の上あたり)がガンガン削れてた。

今じゃ、滑走路やヘリポート(ただの広場)、格納庫なんかが出来ちゃってる。

滑走路なんて予定に無かったのに、冬場の寒さにも負けないなんて、飛翔機熱侮ってたかも。


滑走路は500mくらいしか無いけど、小型固定翼機で重量軽減水晶付きなら充分だよね。


でも、飛翔機関連では、領主様が結構怖がってるみたい。

だから領主様が遠出する時は、私が頼まれて作ったキャンピングカー型自走車で出かけてるよ。

やっぱり空中は苦手な人いるんだね。


そして姉妹ちゃん。王都での叙勲式に出るのに、自分たちで作った二人乗り固定翼機と献上用機体(クアッドコプタータイプ)に分乗して行っちゃったから、王都ではとんでもない飛翔機ブームだそうだ。


王都に滑走路なんて無いから王都近くの平原に降りたんだけど、街道を通る大勢の人に見られちゃって大騒ぎになって、騎士団総出で人混みの整理に当たったみたい。


事前にマギ君に飛翔機二機で行くって手紙出して、到着前には念話で連絡入れたらしいんだけど、平原で騎士団の整列に出迎えられてビビったって言ってた。


平原からは二人で献上用機体に乗って王城の中庭に着陸したんだけど、中庭では譲渡式典まで開かれたそうだ。


受爵式済んでも献上機体の整備や操縦方法のレクチャーがあるから、十日くらい王城に賓客待遇で泊まったんだって。

当然マギ君に捕まって、飛翔機の構造で質問攻めにあったらしい。


医療魔法習得組とも再会して、辺境の話や医療魔法の話で盛り上がったそうだ。


口うるさい父親さん(男爵)がさも当然のように王城に会いに来たんだけど、騎士団に守られた二人に近付く事も出来ず、ちょっと挨拶しただけで終わったから楽だったとは妹ちゃんの談。


でも本当は、父親がお見合いの釣書渡そうとして、近衛騎士団長に『二人は王家の賓客で法衣子爵。たとえ父親でも立場をわきまえろ』と追い払われて、すごすご退散したってマギ君の手紙に書いてあった。


そうだよね。

飛翔機作れて危険地域でのきんを採掘出来る、王家にとって貴重な人材だもん。

王家にしてみたら、『寿退社の可能性が出る釣書なんか持ってくんな!』ってことだよね。


姉妹ちゃん、帰りは二人乗り固定翼機で帰って来たんだけど、『王都出身のはずなのに、ここに帰ってくるとホッとする。もう、ここが私たちの家になってるのね』だって。

辺境好きが増えて嬉しいな。


ただ、王様からお褒めの言葉と共に、固定翼機の製造依頼も頂いちゃったみたい。

もうすぐ採掘作業再開なのにって悩んでた。


姉妹ちゃんは王都の医療魔法習得組からの現状報告も持って来てくれたんだけど、やっと治療に使える人材が育ってきたので、忙しさは幾分か緩和されたみたい。


マギ君は他の直轄地ダンジョンの薬草畑化も始めたらしく、今度は薬草の生産者と錬金薬師見習いを募集してるそうだ。


あとは内緒話として、危険な場所でのきんの採掘貢献で報奨金も貰ったそうだ。

妹ちゃんが、『自分たちで抽出した金が少し返って来たみたいで、なんか微妙』とか言ってた。


まあ、そうかもね。

あの谷で毎日のようにきんを抽出してたら、金が貴重品だって感覚無くなるよね。


私の生活はあんまし変わってないよ。

ネージュがお散歩(狩り?)再開したのと、工房棟のある段を300mほど整地してリンちゃん用の滑走路作ったくらい。


ソード君や姉妹ちゃんが固定翼機の試験飛行でお城と街の北の平原を行ったり来たりしてたから、私のリンちゃんも公表許可されたの。


でも、滑走路のテストに一度飛んだだけで、それからは乗ってない。

おうちとお城は滑走路あるから通勤に使おうと思えば使えるけど、飛行距離短すぎる上に出入庫手間なんだよ。

スノースクーターの方が、手軽に使えて便利だ。


さて、今日もスノースクーターで、お城に出勤しよう。



お城に着いたらまずは昼食。

またソード君、平民食堂に来てるし。


「ようアリス。またマギから手紙来たぞ」

「今度はどんな内容?」

「やっと各地のダンジョン、トラップ化が完了したところが出て来た。だが、スライムの檻を作れる奴が少ないから、檻だけ売ってくれってさ」

「ソード商会、ほんとなんでも屋さんだね。檻は誰が作るの?」

「各地のダンジョンがスライム出荷してくれるから、うちの出荷は激減するんだ。だからうちで余った檻を出荷するつもりだ。檻作りは元々兵士が小遣い稼ぎにやってたから、魔力制御の観点からも減らさない方がいいだろう」

「そっか。そうするとスライムをレベル上げ用に多く使えるね」

「ああ。アリスが言ってたレベル上がると身体も頑丈になって病気や怪我しにくくなるってやつ、街の診療所で統計取ってもらったら、当たりっぽい。だから城の兵士と平民のレベル上げに使うつもりだ」

「おお、結果出たんだ。やっぱりそうだったか」


実は最近、お城の診療所に来る人少ないんだよ。

たまに来る人も、診察するとレベルが低い人ばっかりなの。

だからひょっとしたらと思って、街の診療所の患者さんの統計取ってもらってたの。

やっぱレベル上がると健康になるのかー。


「だから街の平民はレベル5まで、兵士は最低でもレベル7まで上げることにした」

「レベル欲しくて、似非住民になる悪者さんとか増えない?」

「レベルと居住年数を5までは同じにするつもりだ。レベルが途中、3とかで移住してきたら、4年住まなきゃ4には上がれない」

「なるほど、長期居住特権式か。子供はどうするの?」

「1、3、5、7、9歳で1ずつ上げるのはどうだ?」

「うーん。幼児は弱いから早めに上げて、0、1、2、12、15とか。力を振り回す子になるのはまずいし、レベル4は下働き始める年齢だから。で、レベル5は成人祝い」

「なるほどな。レベル3までは病気や怪我対策で早くして、4、5は働くための力付けるのか」

「あ、医師の許可あれば特例で早く上げられるのは?そうすれば虚弱な子や重病の子は助かるかも」

「ああ、有りだな。でも遠方の医師に許可出されても困るから、うちの診療所での許可にするか」

「うん、それでお願いするよ」


昼食食べながら、領民のレベルアップ計画が纏まってしまった。


「あと、飛翔機が飛ぶ原理、出来たら秘密にしてくれって」

「うん。中途半端な機体作られたら危ないから、実際に作る人以外には話してないよ」

「そうか。魔学研究所の最高機密にするから、外部流出は避けたいらしい」

「私はいいけど、姉妹ちゃんは魔学研究所の籍無くなっちゃってるよ?」

「俺と従妹姉妹は発明者と開発者になってるから、作るのは問題ないぞ。アリスも開発補助で名前入れてあるから作れるぞ」

「じゃあ安心だね。でも機密指定するのか…。王様、またなんか考えてそうだな」

「民間の飛翔機製造は、魔学研究所に模型提出してもらって、色々確認してから許可するつもりらしいぞ」

「原理は内緒にするのに、作るのは許可制だけど禁止はしない?……うーん、やっぱりなんか考えてる気がする」

「そうなのか?」

「だって、魔学研究所は国の機関の一つだけど、実際は王家の技術部門みたいなもんでしょう?だとすると、飛翔機の民間製造を禁止すれば、王家の独占技術になって王権が強まるはずなのに…。門戸を開放してる振りして申請全部却下する手もあるけど、それだと却って印象悪くなるよなぁ…」

「いや、民間製造なんて当分無理だろ。俺や従妹姉妹だって、アリスに説明受けながら手伝ってもらわなきゃ、飛べる機体なんて作れる気がしねえぞ」

「そっかぁ。模型提出でテストを公開すれば、飛ばなきゃ却下理由は一目瞭然だから研究所の印象は悪くならないね。見学者いっぱい来るだろうし。でもなんで原理公開しないのに作ってもいいって言うんだろ?そんなんじゃ飛べる機体なんて出来なくてお金が無駄に……ああ、そういうことか。納得したよ」

「…おい、俺には分からんぞ」

「えっとね、研究所以外で飛翔機作ろうとする人ってどんな人?」

「そうだなぁ…。変換水晶と機体が要るから、金持ってる奴。大商人か上位貴族だな」

「その上位貴族が標的なんだよ。特に王家が持ってる飛翔機での優位性を埋めようとする反王族派は、絶対作ろうとするね」

「そいつらが作ろうとするのは分かるが、なんで標的なんだ?」

「マイスターが作った物だから、飛翔機が魔道具なのは分かる。でも何の変換水晶が必要なのかは機密だから分からない。ソード君ならどうする?」

「そりゃ現物分解するだろ」

「飛翔機は販売してないよ。しかも警備が厳しいから盗む事も出来ないの」

「うーん…。じゃあ自走車分解して前に進む構造から調べるか」

「そう、そこからなんだよ。自走車買って研究員雇って研究しなきゃだめなんだ。お金いっぱいかかりそうだよね」

「……うわ!反王族派の資金浪費させるのが目的かよ!」

「うん。さらにえぐいのは、走る原理から飛ぶ原理に辿り着くのに、膨大な研究しなきゃいけないって事。分解する自走車が何台にもなって、飛翔機の機体作りの作業も、何回も墜落して壊れるだろうから膨大な数になる。変換水晶割れたらまた自走車売れるよ。誰が儲かるの?」

「そりゃあうちと自走車の車体作ってる業者と飛翔機模型作る作業員だな」

「つまりうちと民間業者が潤うの。反王族派の資金で」

「うへぇ~、すげええぐいな」

「もう一つえぐいのあるよ。模型でのテスト飛行で墜落なんかしたら恥ずかしいよね」

「反王族派の奴らなんて意味不明なプライドの塊だからな。ちゃんと飛べる機体出来るまでは…。うげ、テスト飛行に来れる機体作るまで、勝手に延々と資金浪費するわけだ。陛下おっかね~」

「まあ私の想像でしかないけどね」

「想像とか思えん。めっちゃありえそうで、事実としか思えんわ」

「怖いよねー」

「全くだ。……あ、もう一つマギから頼まれごとあった。お嬢のポーションの作り方、魔学研究所でポーション作ってる奴らに教えちゃダメかってさ」

「実際ポーション作ってる人ならいいよ。王都組以外が9.0とか軟膏・丸薬作ってくれれば、魔力を診察に廻せるもんね。一応薬師の秘密だから、研究所内だけにとどめてはほしいけど」

「わかった。ありがとな、連絡しとくわ」

「うん、お願い」


さて、昼食済んだからお薬作りに行くか。


私、ネージュ、エレナちゃんで、今日もせっせとお薬作り。

王都の医療魔法習得組はポーション軟膏や丸薬作りにも成功したんだけど、診察用に魔力温存したいからって、9.0と軟膏、丸薬は、未だにこちらで作ってます。


でも、マギ君が錬金薬師見習い募集したから、いずれは王都での製造も可能になるよね。

私もさっき作り方教える許可出したし。


でも、そうなると将来のエレナちゃんのお仕事減っちゃうけど、お城の薬草と設備使ってお薬作ってるから、元々エレナちゃんはお給料制にしてるの。


今は私が生産量に応じた金額もらって、そこからエレナちゃんにお給料出してるけど、この世界の見習いや弟子ってお小遣い程度しかもらえないんだよ。


なのでお小遣いよりちょこっと多めのお給料渡して、エレナちゃんがお仕事してくれた分との差額は私が預かってるの。

いずれ来る、独り立ち時の資金に使ってもらおうと考えてるんだ。


それに、弟子を卒業したら領との直接契約になって収入も上がるはずだからね。


ネージュの分も別立てで貯めてるけど、これはどう扱うか悩んでます。

ネージュはお金貰っても喜ばないし、高給猫グッズなんてこっちじゃ売ってないからなぁ…。

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