3年目 冬
みなさんこんにちは。アリスです。
冬になり、お外は一面の雪化粧。
秋からこっち、なんだか怒涛の日々だったよ。
みんな航空機作成に熱が入っちゃって、毎日のように実験機や試作機が飛んでたよ。
飛翔機っていうのが正式名称になり、結構な種類の実験機が出来上がった。
まずは姉妹ちゃんが作った箱型クアッドコプター。
これは試作機を経て、
名前は輸送型飛翔機。
…名称に異議ありだけど、分かりやすいのが一番だって。
でも名称長いから、みんな輸送機って呼んでる。
推進用に反作用水晶も付いてるので、最大速度は50km/hくらい。
毎日姉妹ちゃんが金の採掘に出かけてます。
姉妹ちゃんは領主家首脳陣に入ったことで、研究所職員は退職してマイスター称号も返却、領主家専属魔道具技師になったの。
法衣子爵位手放しちゃったけど、国に縛られずに自由度が上がるし、国は
だから上位貴族からの求婚は、今まで通り王家が断ってくれるそうです。
寿退職なんかされたら、人材確保大変だもんね。
さらに飛翔機開発の褒賞として、名誉子爵位(義務の無い一代限りの名誉爵位)を賜る予定。
危険な作業に従事させるからと、子爵位を奮発してくれたらしい。
この爵位は、王家に輸送型飛翔機作って納品すれば貰えるそうだ。
飛翔機は、私が思ってたより随分な大手柄みたいだね。
姉妹ちゃんだけでの採掘は危ないと思ったんだけど、
秘密にする理由は、近隣国みんなが
国際情勢は別にしても、
でも姉妹ちゃんが危険だから、レベルを10まで優先的に上げたの。
そしてソード君と私も採掘に同行して、U字谷の崖の中腹に発着場と万一の避難施設作って来た。
名称は避難用施設だけど、実際には完全な住居。
キッチンやお風呂、トイレはもちろん、リビングや寝室、万一の冷凍食料庫、飛翔機修理用の工房もあるよ。
後、徒歩でも崖下から登れるように、洞窟型の非常階段も付けといた。
採掘方法は、輸送機で河原に降りて一人を見張りにしてもう一人が
で、金塊は手荷物に隠して石英の塊を採取物としてお城に持ち込む。
こうすることで、人工水晶やガラス用石英の採掘に見せかけるの。
そして出荷する人工水晶の箱に
ちょっと
数回採取中に鉄砲水に遭ったらしいけど、レベルアップで視力や聴力も上がってるから、余裕で逃げられたそうだ。
危険だけど、王国や領の為に働いてるって実感出来てやりがいあるって言ってた。
なんにせよ、怪我しないことを祈るよ。
後、実際には就航しなかった実験機も紹介するよ。
まずはソード君が作ったエアバイク。
ちゃんと飛んだんだけど、小さな機体で風を受けるから流されやすくて、ファンが下に付いてるから安定性も無かった。
次は私が作った魔法のほうき。
エアバイクと同じく流される。
しかも見た目重視で後退翼小さくしたから、揚力弱くて
墜落しそうで実験中止したけど、夜、こっそり自前の飛翔魔法使ってほうきで飛んでみた。
ちょっと楽しかったけど、魔道具機構は完全な飾りに成り下がった。
日中は飛翔魔法ばれそうで乗れないので、景色が楽しめない。
悔しかったので、おうちの工房で密かに一人乗り固定翼機作った。
卵みたいな木製胴体に、木製後退翼と垂直尾翼付けた構造。
全長3m、全幅2.5mしかない超コンパクト設計。
機首が半球形のガラス操縦席だから、視界も良好で結構可愛い外観。
ちょっとオーパーツの黄金ジェットっぽいか。
いや、木製のマグ〇ネルXF-85ゴブリンだな。
スキー板取り付けて、明け方こっそりと北の平原から離陸してみた。
事前に1/3スケールでバランスと揚力実験してたから、ちゃんと飛んだしスピードもめっちゃ速かったけど、離着陸に滑走路要るからお蔵入りかも。
今はおうちの工房棟横の、大物資材庫に眠ってる。
こんな風に飛翔機作りまくってたけど、吹雪が見られるようになったので、飛翔機実験も全て中止になった。
春までには、飛翔機ブームも冷めるだろう。
あと王都では、ダンジョン上での薬草づくりが軌道に乗ったの。
追加募集した医療魔法習得見習いの中にいた採取人や薬師さんたちが頑張ってくれたらしく、薬草の大量生産に漕ぎ付けて、王都での消費量の半分以上を賄えるようになったそうだ。
おかげで私のお薬作りも、最盛期の半分以下になったよ。
9.0と軟膏、丸薬は今まで通り必要だけど、ネージュが作ってエレナちゃんが丸めたり詰めたっりしてくれるようになったから、私のノルマは半減したよ。
医療魔法関係も進展あって、やっと念話イメージ受け取れる医師が出始め、マギ君が育ててる見習いさんからも、ぼんやりだけど他者の体内が見られる人が出て来たらしいの。
うまくすれば、もう数か月で王都組の忙しさも緩和されそうだね。
さて、今日も日課終わったから、お城に出勤するかな。
冬場は獲物見つからないのかネージュは食肉担当お休みしてるから、最近はネージュと一緒に出勤してます。
ネージュ、お城行くよー。
お出かけしようとして、ガレージ行ったらソード君から念話入った。
【アリス、U字谷の崖で事故だ。姉妹の乗った輸送機が風で煽られて崖にぶつかったらしい。墜落して二人とも怪我したみたいだから、何とかならないか?】
【うわ、大変!私、すぐ現場に向かうよ】
【すまん。吹雪いてはいないが、雪で視界が悪い。予備の輸送機はまだ出来てねえし、エアバイクじゃ向かえそうにないんだ。悪いが気を付けてくれ】
【わかった、任せて!】
荷物持って外に出てみたら、吹雪の一歩手前くらい?
吹雪かれて二重遭難はまずいな。
「ネージュ、姉妹ちゃんの居場所ってわかる?」
「みゃん」
頷いて、前足で北の方指してくれた。
ネージュがいれば、吹雪でも方向見失わないな。
お外の視界は500m無いくらい。
人には見られそうにないから、飛翔魔法で飛んでくか?
いや、姉妹ちゃんの怪我の状態分かんないから、魔力温存した方がいいな。
向こうは雪原になってるはずだから滑走出来るな。
よし、リンちゃん(XF-85の愛称もじった)出そう。
大物資材庫開けてリンちゃん出したら、飛翔魔法で垂直離陸。
平原まで移動させる時間がもったいないし、雪で視界悪いから見られずに済むからね。
視界が悪いので、衝突防止(途中に岩山あるからね)に高度上げて、ほぼ真っ白な視界でのフライトです。
怖い。一応水平器とコンパスあるから飛べるけど、ネージュいなかったら雪の日は方向見失いそう。
高度計なんてガリレオ温度計の改造だから、温度で表示変わっちゃって当てにはならないし。
ゆっくり飛びたいけど、リンちゃんは固定翼機だし、デザイン優先で翼面積けちったから、失速速度高めなんだよね。
重量軽減で何とか浮力稼いでるんだけど、体感で失速速度60km/hくらいかも。
だから、速くしか飛べないの。
今日は結構風あるから、すごく流されちゃう。
……デザイン優先はまずかったかな。
ネージュナビでなんとか谷に到着。
U字谷の雪原に着陸しようとしたら、めっさ機体流される。
ベクトル魔法併用して、何とか着陸しました。
でもね、車輪じゃなくてスキーだから、止まったと思ったら風で動いちゃうの。
仕方ないから、大きなかまくら作って駐機しました。
避難所の崖下行ったら、輸送機が横倒しになって、雪に半分埋まってた。
機内に姉妹ちゃんの反応は無い。
避難所に飛翔魔法で上がろうとしたら、風に翻弄された。
ここ、風が崖にぶつかって、すごく複雑に吹いてる。
これは輸送機じゃ事故るわ。
飛翔魔法は諦め、非常用の地中階段使って避難所に辿り着いた。
姉妹ちゃんはリビングのソファーに寝転がってたよ。
「怪我、大丈夫?」
「うわ、アリスちゃんだ。よく来られたね」
「いや、私の事はいいから。内部診断していい?」
「いらっしゃい。私は右腕と右足骨折しちゃったから、自分で痛覚遮断してから治癒魔法で直したわ。ポーションも服用済みよ。妹は運よく打撲だけで済んだみたい。でも、一応見てくれる?」
「うん」
内部診断したら、お姉ちゃんはきちんと骨を繋げられてた。
早く治って欲しいから、追加で接合部に回復魔法掛けとこう。
ポーションもちゃんと飲んだみたいだから、後は回復待ちだね。
後はギプスと三角巾だな。
あ、松葉杖も作っとこう。
妹ちゃんの方は…うん、打撲部分も修復始まってるから大丈夫だね。
「よかったー。ちゃんと治療出来てるから、静養すれば大丈夫だよ」
「貴女に医療魔法教わっといて、ほんと良かったわ。知らなかったら今頃パニックよ」
「私は、お姉ちゃんの腕が変な方に曲がってるの見ただけでパニックだったよ。お姉ちゃん、自分で曲がった腕持って元の位置に戻し始めちゃったから、更に驚いちゃったよ」
「痛覚遮断って、ほんと便利ね。痛みが無くなったら、冷静に対処出来たわ。でも、手足の自由が利かなくなって階段上れなかったから、妹に負ぶってもらったけどね」
「重傷じゃなくてほんと良かったよ。あれ、安心したら涙出て来ちゃった」
「泣かないでよ、大丈夫なんだから。こっち来るくらいなら念話してくれたらもっと早く安心させられたのに」
「あ」
「うふふ、焦ってると忘れるわよね。でも、アリスちゃんこそ、よくこんな天候で来れたわね。危ない事しいてない?」
「実はちょっとパニックだったかも。えへへ。私はネージュいるから、雪でも方向見失わないから大丈夫だよ」
「ネージュちゃん、すごいね。なんで方向分かるんだろう?」
「どうやってるかは私にもさっぱりだよ。私、輸送機の状態見て来るから、二人は休んでて」
「ありがとう。悪いわね」
「私は一緒に行こうか?」
「打撲でもまだ直ってないんだから、怪我人は休むのが仕事だよ」
「はーい」
地中階段で崖下に降り、輸送機見て回った。
結構壊れてるなー。
でも、この風と雪じゃ、修理無理だな。
雪に埋まりそうだし。
よし、崖下に臨時格納庫作ろう。
ネージュも手伝ってね。
せっせと崖下に穴を掘り、輸送機格納しました。
地中階段にも繋いだから、雨や雪でも平気だよ。
あ、リンちゃんのかまくらが雪で埋まってく。
…格納庫拡張して、入れとこう。
状況的に、本日はここでお泊りだね。
雪、全然止まないし、輸送機の修理も結構時間かかりそうだ。
ソード君にも状況念話して、一旦避難所に戻りました。
「どうだった?」
「うん、結構修理に時間掛かりそう。天気も回復しないし、今日はここにお泊りだね」
「そう、仕方ないわね。でもこの避難所、作ってくれて助かったわ。最初はここまで要るのかって思ったけど、ほんとに全設備使っちゃうわね」
「まあ、辺境では準備しすぎるくらいでちょうどいいんだよ。なにせ大自然相手だからね」
「最初にこの谷見た時、しばらく呆然としちゃったわ。平時でも圧倒されるほど大自然は怖いって事なのに、気を抜いちゃってた。今回の事故原因は私たちの油断ね。もっと早くに作業を切り上げるべきだったわ」
「私も反省したよ。崖近くは河原より風が強いって分かってたはずなのに、つい油断していつもの時間まで作業しようとしちゃった。それでお姉ちゃん怪我させちゃったんだよね」
「山の天気って急変することが多々あるからね。『まだいけるはもう危ない』ってことなんだよ」
「うわ、河原で作業してた時の私に言ってあげたい言葉ね」
「そうなんだよ。『まだ』なんて言ってる時点で、危険は感じてるって事だからね」
「肝に銘じるわ」
「うん。じゃあ反省終了!私、夕方まで輸送機修理して来るよ。ミネアさんはリアーナさんの介助役、よろしくね」
「うん、いってらっしゃい」
また臨時格納庫に戻って、今度は修理用部品の洗い出し。
右側のファン用アームが二本とも折れてるから、新しい木材要るね。
木は魔法で繋いでも、強度出ないからな。
本体の前面ガラスも割れてるけど、破片見つからないから石英ガラスも必要だ。
魔力伝達用のパイプは折れ曲がってるだけだから補修で済むな。
でも、アームに取り付けるから、アームが修理出来てからだね。
回転の魔力変換水晶は、パイプにぶら下がって残ってるから大丈夫だな。
中は…ああ、積んでた石英のかたまりが全部右に寄っちゃってる。
壁にぶつかった時に重い石英が片側に寄っちゃって、重心ズレてバランス崩したのかな。
カーゴスペースに大きな碁盤の目状に仕切り板付けて、荷物が移動しないようにした方がいいな。
アーム部から直さないと他に手が付けられないけど、木材無いから崖上の木を切って来なきゃ。
でも、お外吹雪だから今日は無理だな。
ガラスも替えが無かったから、石英から二酸化ケイ素抽出してこねこねしなきゃ。
よし、荷物の石英からガラス作ろう。
……
ガラスは作って嵌め直したけど、後は天候回復するまで無理だな。
リビング戻って姉妹ちゃんに状況報告。
お外は完全に吹雪いてるから、今日は籠るしかないね。
夕方、妹ちゃんと夕食の準備してみんなで食事。
フリーズドライ食材、備蓄しといて良かったな。
お姉ちゃんには、右手吊ってるから先割れスプーン用意した。
「食事も利き腕使えないと食べにくいわね。骨折は十日くらいかかるんだっけ?」
「リアーナさんはレベル10まで上げたんだよね。それなら9.0ポーションと丸薬多用出来るし、寝る前に治癒魔法併用すれば、多分三、四日で直るよ」
「良かったわ。十日も左手だけじゃ、不自由で仕事も出来ないわ」
「直るのは早いけど、三日間は絶対休んでよね」
「はーい」
「ミネアさんも一人で採掘なんて、絶対ダメだからね」
「うん。辺境では無理しちゃいけないって学んだよ」
「でも、冬場も採掘なんて、王家も無茶させるよね」
「私たちもだけど、辺境での自然の怖さを理解出来てないんでしょうね」
「もし森に不時着なんかしたら、猛獣やスライムと戦わなきゃいけないんでしょ?めっちゃ怖いよ」
「万一不時着したら、速攻で分厚い壁で飛翔機囲って、中で修理するのが一番だね」
「あ、そうしたら怖い思いしなくて済むかも」
猛獣&スライム王国への対処法を話したりしながら、食事終わってお風呂も入った。
お姉ちゃんは今日はお風呂入れないけどね。
仮設ベッド、エアクッション無いから寝心地悪かったよ。
翌朝は晴れてた。
妹ちゃんと格納庫に降りたらリンちゃんに試乗されそうになったけど、修理が第一だからって妹ちゃんを説得した。
私が崖上に上がって木を切り倒し、アーム修理用の木材ゲット。
丸太に乗っかったまま崖を飛び降りたけど、風で崖にぶつかりそうだったよ。
冬場は発着場使わない方がいいかも。
三人(ネージュ入れて)で木の水抜きして、せっせと修理して、ついでにカーゴスペースも偏り防止式に改造した。
強風時の地上走行用に、おっきなソリも下部に付けたよ。
これで強風時は、雪上車みたいに地上走って格納庫に入れられるよね。
でも、輸送機の中見てびっくり。
不時着時の修理部品、搭載してないじゃん!
機体重くなるけど、しっかり搭載スペース作っていっぱい乗せといた。
午前中に修理終わったから、試運転がてら、金鉱石の採掘と抽出もしました。
雪で河原が分からなくなってるから、雪かき必要だったよ。
めんどいな。
帰りは妹ちゃんの操縦で、姉妹は輸送機で飛び立った。
私は雪原にリンちゃん出して離陸した。
【ちょっと!なんなのよそのスピード!?】
【うわー!全然追い付けない~】
【この機体、左右の羽根が風を切ることで揚力得てるの。だから滑走しなきゃ飛べないし、スピード落とすと墜落しちゃうんだよ】
【スピード、輸送機の倍くらい出てるわね】
【もう見えなくなってるー】
【私はこのままおうちに帰るけど、そっちも気を付けて帰ってね】
【ええ、今回は助かったわ。ありがとう】
【アリスちゃん、ネージュちゃん、ありがとね】
…まずい。晴れてるから村からでもリンちゃん見えるかも。
どうしよう…。
結局、西の森の上を低空で飛行し、最後は失速させて無理やりベクトル魔法で垂直降下して、工房横に降りました。
おうちに戻ってほっと一息。
姉妹ちゃん、後遺症や傷跡が残るような怪我じゃなくて良かったよ。
やっぱり大自然は怖いね。
翌日、お城行ったらソード君に呼び出された。
リンちゃんの設計図提出しろっだって。
滑走路要るから設備大変だよって言ったんだけど、かっこいいから作りたいんだって。
ソード君の好みは、ホバーバイクよりこっちだったか。
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