3年目 秋 2/2

翌朝、お城でお薬作ってたら領主様が来た。

ソード君が昨日の内に念話で呼んだらしい。

領主様とソード君、私で貴賓控室に入って密談。

ここなら、人払いしなくても魔力感知で漏洩防止はばっちりだからね。

ネージュは食肉担当のお仕事に行ってます。


「…現物を見ると頭が痛くなりそうだな。この量をどれくらいの時間で集めたんだ?」

「多分三十分くらいだ。河原のあちこちにあった」

「それほどあるのか…。行くのは難しいんだな?」


領主様、眉間にしわ寄ってるし、話し方もいつもの丁寧さが無い。

きん見つかって喜んでくれるかと思ったのに、何やら話の先行きが怪しくなってきたぞ。


「ああ。高い木の枝の上だけをジャンプしながら移動して、最後は1kmくらいの崖を飛び降りなきゃ行けない。俺かアリスじゃないと無理だ。しかも片道五時間かかる」

「さらに地形からして洪水だらけの場所。他の災害も多いと思うの」

「はぁ……。この話は上位貴族だけに与えられた情報だから他言無用だが、我が国の金の産出量は年々落ちてきている。他国からの輸入も我が国と似たり寄ったりの状況で難しいらしい。このままでは数年内に金貨の質を落とす可能性が高い。だが金貨の質は国の威信に係わるから、水晶鉱以上に内密にだが必死になって探している状況なんだ。下手すると鉱山開発の勅命が下ってしまう。きんの発見には厳しい罰則付きの報告義務が課せられているから、隠すわけにもいかないんだ」


領主様、すっごい困った顔してるよ。

困らせるつもりなんて、全然なかったのになぁ…。


「私、なんであんなの見つけちゃったんだろう。ほんとごめんなさい」

「あ、いや、お嬢さんは何も悪くない。これはあくまで王国上層部と領主である私のなすべきことだ。要らぬ心配を掛けてしまったね。申し訳ない」

「そうだな、俺も悪かった。いろんな意見が聞けるかと思って、つい連れて来ちまった」

「ううん。森の奥に行こうって言ったのも、きん見つけちゃったのも、持ってきちゃったのも全部私。だから可能な限り手伝わせて」

「また本業以外で忙しくなっちまうぞ?」

「それでも手伝わせて。私だけのけ者は寂しいよ」

「のけ者って…」

「お嬢さんの希望は理解したよ。先ほどのように公開出来ぬ秘密も共有してもらう事になるが、お嬢さんはそれでもいいのかね?」

「その方が嬉しいです」

「承知した。では、一緒に打開策を考えよう」


その後、色々と意見を出し合ったけど、根本的な打開策は見つからなかったよ。


なにせ今回の問題点は、物理的なものだ。

まず、採掘場所に行くのが大変。

たとえ行けたとしても、増水、洪水、雪崩、土石流と、採掘作業が危険すぎる。


一点目の問題点は無理やり長距離トンネル掘るとしても(25kmものトンネルとか、かなり無茶だけど)、二点目の対応策が思い付かない。


川の下をトンネル化?

掘り終わったら採取出来ないし、川をどんどんきんが流れてっちゃう。

さらに、掘ってもきんがあるとは限らないし、水没対策も必要だ。

砂防堰堤さぼうえんてい

工事大変な上に、洪水の規模が分からんから設計のしようがない。

谷の間に堰堤渡そうとしたら、距離1km。無茶だ。


結局二点目の対応案は、現地に行ける目途が立ってからということになった。

まあ最悪でも、行ければ安全時期の人力抽出は出来るからね。


お城でお昼食べてからおうちに戻った。

せっせと日課(三日ぶりだから日課じゃないかも)して、お掃除とお洗濯してたらもう夕暮れ。


最近、ゆっくりまったりしてないな。

ソード君の言う通り、働き過ぎなのかも。


お風呂に浸かりながら、改めてU字谷へのアクセス考えてみた。


25kmのトンネル掘るって、絶対事故あるよな。

水没、落盤、窒息、何でもありじゃない?

25kmってのも、移動時間からの超適当概算だし。


地上トンネル道?

地下よりはマシそうだけど、あそこはヒグマいっぱいいたぞ。壁厚必要だから掘るより時間掛かる上に、材料どうすんだ?


……


ヘリコプターか搭乗型のクアッドコプターあれば楽なんだけど、航空機はなぁ…。


ん?

王様には航空機の話ばらしたよな。

元々は、航空機に目を付けられて貴族に拉致られないために秘密にしてたんだよね。

私、医療魔法のご褒美に王様から放任の許可貰ったから、貴族でも私に手出し出来ないんだよね?

マイスターと特級薬医師公表したから、法衣子爵名乗れるし。


……作ってもいいんじゃね?


お風呂で色々考えてたら長湯しすぎてしまった。

上がったら、指がしわしわだったよ。


さあネージュ、寝よっか。



翌朝、残ってた日課してからお薬作って、お昼前にはお城に出かけました。

ネージュは朝から散歩に出たので、お昼にはお城に出勤だろうね。


お城で昼食食べてからは、いつものようにお薬作り。

エレナちゃんとネージュも、頑張ってお手伝いしてくれてます。


今日はお泊り予定なので、お薬作り終わったら私の専用工房に籠ります。

ここ、あんまし使ってないから、たまには使わないとね。


夕食挟んで夜も頑張って試作機作りました。


……こたつ?

出来上がったのは、こたつをひっくり返して足の先にプロペラ付いた機体。…機体か?


まあ、実用機作る前の、問題点洗い出し用の実験的機体だから、こんなもんだよね。

プロペラの回転数制御用に棒型の操縦桿そうじゅうかんは付いてるけど、昇降は自分で重量軽減魔法使うの。

これなら万一制御失っても、重量軽減掛ければ自力で降りられるからね。


あ、ソード君に作る相談するの忘れてた。

もう夜も遅いから、明日でいいか。


……ちょっとだけ試してみよう。


こそこそと大物格納庫に移動して、暗闇で飛行試験。

ビュンビュン飛ぶわけじゃないから、格納庫で充分だよね。


…遅い。

めっちゃ遅い。


ちゃんと浮いたけど、前進いっぱいでもゆっくり歩く程度。

…重量軽減あるからプロペラの回転数ケチっても浮くとは思ってたけど、進むのにも回転数必要だよね。


しかも操縦桿の反応悪くて、やたらふらふらするし。


…もう遅いからここまでにしよう。



朝、ちょっと寝坊した。

けど、まだ眠いな。でも起きなきゃ。


…ネージュのしめじハウスが部屋の真ん中にある。


お城にもネージュ作のしめじハウスあるから部屋にあるのは良いんだけど、部屋の真ん中は邪魔だよ。

昨日私が製作に没頭してたから、自分の作品も主張したいのかな。

魔法で浮かせて定位置に置いとこう。


みぎゃ!


え?何?ネージュが移動中のしめじハウスから飛び出してきた。

ネージュ、中にいたんだ。

私、寝ぼけてて魔力感知使ってなかったよ。

ごめんごめ……ん~んっ!?


一気に目が覚めた。

なんでネージュ入ってるのにしめじハウス浮かせられたの?


………まじかよ。

自分に重量軽減(と言う名の上方向ベクトル魔法)掛けたら浮けちゃった。

いつもみたいに一気に魔力持ってかれなくて、浮くまで魔法掛かっちゃった。

ベクトル方向変えたら、空中移動も出来る。


例の制限、どこいった!?

昨日まではいつもと変わんなかったじゃん!!


重量軽減はね、重量ゼロ近くになると一気に魔量消費跳ね上がるの。

だからいつもは消費量が跳ね上がりかけるのを目安にして、その直前で魔法掛けてるの。


でも今は、浮いても消費量は跳ね上がることなく、軽減率なりの直線的な変化量に思える。


ふみゃ!


あ、ネージュがへたり込んだ。

魔力感知で見ると内包魔力かなり減ってるから、きっと私の真似しようとして、例の制限に引っかかったね。


辛そうだからしめじハウスに入れといて上げよう。

ポーションも水入れに入れとくから、ちゃんと飲みなね。


でも、ネージュは制限掛かったままみたい。

私だけ制限解除されたの?



色々実験した結果、制限外れたのは上方向へのベクトル魔法だけみたい。

やばい。私もポーション飲んで休まなきゃ。


お昼~。

私とネージュ、復活。


身支度整えて食堂へ。

朝食抜いちゃったからお腹すいたー。


ネージュも朝食抜いちゃったから、二人してもりもり食べてます。


「お、今日は結構食べてるな。普段からそれくらい食べた方がいいんじゃないか?」

「今日は朝ドジって魔力枯渇させちゃったから、朝食抜きなのよ」

「ふーん」


ソード君、向かいの席で食べ始めました。


【今度は何やった?】

【ひど!やらかし確定!?】

【レベルが高くなるほど枯渇はしんどいって言ったのアリスだろ。人一倍気を付けてるアリスが枯渇させたんだ。なんかあるに決まってるだろ】

【…後で貴賓控え室】

【念話じゃやばいレベルかよ】

【相談と報告】

【わかった】


食後、薬草畑に行くネージュと別れ、二人して貴賓控室に向かったけど、メイン階段で重量軽減ミスった。


メイン階段は角型の螺旋階段だから、重量軽減使える人は、みんなジャンプしながら登ってくの。


私、魔力消費の跳ね上がり兆候を目安にしてたから、調整むずい。

ちょっと天井にぶつかりそうになった。

ソード君が白い目で見てたけど、何も言わずに貴賓控室まで移動した。


「で、さっき重量軽減ミスってたよな。何があった?」


鋭いな。ちょっと失敗した程度なのに。


「例の魔法の制限、なぜだか重量軽減、つまり上方向へのベクトル魔法の制限が、私だけ無くなってるみたい」

「は?アリスだけ?」

「まだネージュしか比較してないけど、ネージュは制限掛かったままだった」

「えっと、制限なくなるとどうなるんだ?」

「浮ける。そして飛べる」

「くわー、久々に強烈なの来たな。でも、ほんとに飛べるのか?」


室内で、ちょっと浮いて飛んでみた。

うん、やっぱり飛べる。


「俺もやってみるか」

「止めた方がいいよ。重量軽減、いつもと同じ感覚なんでしょ?私は魔力消費急増する感覚無くなっちゃったから、階段で制御ミスったんだもん」

「…そうだな。今から魔力枯渇したら、午後の仕事に差し支えるな」

「その方がいいと思う。でも、こうなった理由が分かんないの」

「今朝気付いたのか?」

「うん。昨日寝る前に階段上がった時は、今まで通りだった」

「祝福は?」

「無いよ。私、次のレベルまで数年かかるはずだから」

「思い当たる事は無いんだな?」

「…すっごく可能性薄いし、関連性無いかもしれないのはある」

「なんだ?」

「昨日空飛ぶ乗り物作ったら、夜に夢で女神様に褒められた」

「うぉい!!」

「ごめん。昨日相談しようと思ってソード君感知したら、執務室で誰かと会ってたから。で、後にしようと思ってそのまま忘れてたの」

「ああ、昨日は面会多かったからな。女神様の夢はよく分からんが、作っちまったかぁ…」

「私、国王様から放任の許可貰ったから、飛ぶ乗り物作っても大丈夫かと思って」

「うーん、確かに放任の許可あるから貴族は手出ししにくいだろうし、陛下もそういう乗り物作れる可能性は知ってるな。問題は軍部だ。こっそり拉致して作らせようと…無理だな」

「だよね。…あの、基本的な事聞いちゃうけど、騎士団と軍部の違いって何?」

「騎士団は団員全員が貴族籍持ってて、貴族の警護や取り締まりなんかしてる。軍部は上層部以外は平民だし、上層部も官職付属の法衣爵位ばっかりだ。暴動鎮圧とか対国外戦力だな。普段遊ばせとくのももったいないから、スライムの討伐とか、災害時の救援や工事にも使ってる」

「ふーん…。軍部は平民でも上に行けば法衣爵位持ちになれる。成り上がりたい強欲さんたちがいるわけね。で、その強欲さんたちは、非合法なこともやっちゃうと」

「…今の説明だけでそこまで分かるのか」

「だって貴族が爵位上げるのと、平民から爵位持ちになるんじゃ、平民から見たら後者の方がメリットでかく見えるもん」

「アリスや医療魔法習得組は、法衣爵位さえ嫌がってなかったか?」

「普通平民は爵位に付随する義務の多さなんて知らないよ。私たちはマギ君やソード君、シャルちゃんと仲良くさせてもらってるから知ってるだけだよ」

「…そうか、義務を知らねえのか」

「後は、軍部の爵位持ちが仕事もせずに威張ってるとこばっかり見てるとかね」

「ありえそうだな。…あれ?かなり話が脱線してないか?」

「そうだった。制限外れた情報どうしよう?」

「…今んとこアリスだけなんだよな?俺も外れてなさそうだし。アリス以外誰も制限外れてないんだとしたら、情報広める意味無いな。外れた理由が女神様の夢ってのも曖昧過ぎるし。よし、この話は内緒にしとこう」

「わかった。あと、空飛ぶ乗り物はどうしよう?」

「うーん。マギは医療魔法で忙しいだろうし、いっそのこと俺が発表しちまうか。俺なら伯爵家継嗣だから、軍部も馬鹿な手出し出来ないし」

「またいっぱい忙しくなんない?」

「原理だけ発表して研究中って事にすれば、注文は受けなくて済むんじゃないか?自走車みたいに早急に国内に広めるべき物でも無いだろう」

「…そうだね。必要としてるのは、谷へのアクセス手段探してるうちくらいだよね」

きんの話もあるから、王家も無茶は言えないだろしうな。よし、じゃあ現物見せてくれ」

「私の専用工房に、鍵掛けて置いてあるよ」


専用工房に移動して、実験機見せました。


「意外に小さいな。なんかテーブルみてぇ」

「これ、原理が合ってるかどうかを試すだけの実験機だから。試作機の前段階だよ」

「そっか。どこかで実験は…」

「まともに飛ぶわけじゃないから、最上階のホールで充分だよ。誰にも見られないし」

「そうするか」


ひっくり返して布掛けて、ローテーブルに見えるようにして運びました。


ソード君に操縦方法説明して乗ってもらったんだけど、やっぱりかなり微妙。

1mくらいの高さを、ふらふらと漂ってます。


「うーん。確かに浮いてるし進んでもいるが、これじゃ使い物にならないな」

「だから実験機だって。これで空中を移動出来るのは分かったから、後は重量軽減水晶での昇降、スピードと操縦性、荷物の積載位置とか考えなきゃね」

「そうだな。…これ、誰でも実用に不向きなのは見て分かるから、発表用にはちょうどいいかも」

「そうだね。しょぼい浮くだけ機体に見えるから、自走車みたいに欲しがる人はいないよね」

「ただの浮遊実験だからって言えば、製品として注文受けなくて済むしな」


今後の方針は決まったんだけど、ソード君、操縦桿手離して体重移動で操縦し出した。


「お、これはちょっと面白いかも」


ソード君、午後の執務の催促の念話が来るまで、ホールをあちこち漂ってたよ。

空飛ぶじゅうたんならぬ、空飛ぶこたつだな。


浮遊実験しててちょっと遅くなったけど、薬草畑行ったらポーションと通常薬が並んでた。

ネージュとエレナちゃんは、既に簡易ベッドで丸まってたよ。


仕方なく、一人でせっせとお薬作りました。

…なんか寂しい。



おはようございます。アリスちゃん先生です。

…この呼び方、何とかならんのか?

まあ、今日もマイスターとして講義(という名の遊び)してたんだけど、新たな事実が発覚しました。


重量軽減の魔力変換水晶が作りにくい。

単に魔力マシマシで作ろうとすると、魔力が流れない。

重量物を軽くするイメージで魔力増やしたら出来た。


…これ、浮遊の魔力変換水晶は作れないってことかも。

ジャンプの時の制御シビアだし、重量軽減の変換水晶づくりにも気を遣う。


制限解除、いい事ばかりじゃないな。


講義が終わりかけた時、姉妹ちゃんが教室にやって来た。

ソード君が新たな魔道具の実験するから、見習い君たちも見に来るようにと、姉妹ちゃんに先導されて全員で中庭に出た。


「みんな忙しいのにすまん。だが、魔道具技師たちにはどうしても見ておいて欲しくてな。今から見せるのは、売り物にはならないただの実験だ。だが、魔道具の未来を想像出来る実験になるはずだ。詳しい説明は省くが、まずは見てくれ」


ソード君、言い終えると実験機に飛び乗り、慎重に操縦桿でバランスを取りながら機体を浮かせていった。


ざわめく観客たちの前、5mほどの高さに上がった機体が前進を始める。


あれ?プロペラの回転数上がってないか?

ふよふよ進むはずの機体が、早歩き程度のスピードで移動してる。


昨日の今日で、もう改造しちゃってるよ。

多分ふよふよじゃあビュンビュン飛ぶ未来を想像させにくいと思ったんだろうね。

でも、しょぼさを見せて関心を惹き過ぎない予定じゃなかったか?

おかげで観客のみんな、唖然としちゃってるよ。


「ス、スゲエ」

「「「「「ウオーッ!!」」」」」


誰かのつぶやきをきっかけに、観客一気に沸いちゃった。

ちょっと耳痛い。

みんなこぶしを突き上げて、機体を追って走り出してるし。

まじでお祭り騒ぎだよ。

これ、当分騒ぎ収まんないぞ。


やがてソード君が離陸地点に戻り、ゆっくりと着陸したら、今度は拍手の嵐。

見習い君たちなんか、抱き合って背中バシバシ叩き合ってるのいるし。

あ、姉妹ちゃんがこっち見てる。

知らんふりしよう。


【目を逸らせてもダメよ。一人だけ冷静に見てたらバレバレよ!】


あかん。追及が怖い。……戦略的撤退!


【あ!アリスちゃん逃げた!!】


く、こういう時は念話困るな。

今じゃ姉妹ちゃんたちとは100kmくらい通話可能だから、逃げ場がない!


【ごめん!機密事項絡みだから話せないの。領主様に聞いて!】


秘技、困った時のデコイ作戦!領主様ごめん!!

デコイ放出して、そそくさと退散しました。


ほとぼり冷まそうと薬草畑見廻ってから食堂行ったら、まだ熱気冷めて無かった。

みんなが身振り手振りで盛り上がってる隅っこで、居心地悪くこっそり食事しました。


ソード君が食事に来たら囲まれるだろうと居場所感知してみたら、五階の領主家プライベートエリアの食堂にいた。

逃げたな。

でも、姉妹ちゃんの反応もあるから、きっと問い詰められてるな。


ソード君がデコイになったか…。

ありがたや~。


【アリス、五階の食堂に来てくれ。頼む!】


げ、デコイが撃沈されたっぽい。


【…わかった。今昼食中だから、食べ終わったら行くよ】

【あ~、俺も昼食べてるから、食べ終わったら展望室の方がいいな】

【そうだね。あと五分くらいで移動するよ】


うーん、航空機開発は金採掘のためなんだけど、姉妹ちゃんに言っちゃっていいのかな?

王家との重要機密が絡んでくる気がするんだけど…。


色々考えながら、貴賓控室…いや、展望室(正式名称になってしまった)に移動しました。


展望室に入ってお茶の準備してたら、ソード君と姉妹ちゃんがやって来た。


「ソード君、最初に確認するけど、姉妹ちゃんたちをあの話に巻き込んじゃっていいの?」

「面倒ごとになる可能性高いって言ったんだが、あの乗り物開発出来るんなら面倒ごとくらい気にしないってさ」

「そうよ。あんな夢みたいな乗り物開発出来るなんて、どう考えても偉業よ。私たちは国王陛下との謁見の時に、『魔道具技師として力の及ぶ限り王国の為に尽くす』って誓っちゃってるの。謁見時の形式的な文言だけど、あの乗り物の開発メンバーになれたら、誓いを果たしてるって言えるわ」

「そうだよ。私たち、謁見してから『何か実績上げなきゃ』って焦ってたんだよ」

「そうだったんだね。理由は分かったけど、ソード君の意見は?」

「俺はいいと思う。この二人は元々領主家一族だし、父上にも念話で確認したら、貴族として陛下に仕える覚悟があるなら領主家の首脳陣として迎えるそうだ」

「…いいのかな?婚期遅れるよね?」

「「「え?」」」

「だってここって秘密や重要情報が他領よりかなり多いから、首脳陣が領外へ嫁ぐのは難しいよ」

「しまった。そっちがあったか…」

「ソード君は来てもらう立場だもんね」

「うげ、面倒で考えたくないぞ」

「うわ、なげやり。この領のご継嗣様だから、早めに決めとかないと狙われると思うんだけど」

「数年前から釣書はいっぱい来てるけど、全部王家から断ってもらってる」

「そうなんだ。その手はいつ頃まで使えそうなの?」

「……賢者様が嫁に行くまで」

「はあっ!?なにそ……まさか、私のつなぎ止め要員!?」

「悪い。そういうことにして露払いにさせてもらってる」

「あーびっくりした。なんだ、口実かぁ。それならソード君に好きな人出来るまで、自由に使ってよ」

「お、おう、そうか……」


【うわー、商会長マジへこみしてるよお姉ちゃん】

【あれじゃ仕方ないでしょ。まるで強制されてるような言い方だもん。真意をアリスちゃんが理解出来るわけないわよ。しかもムードもシチュエーションも最悪】

【だよねぇ…】


姉妹ちゃん、さっきから黙ってるな。

さすがに自分たちの将来がかかってるから、慎重にもなるよね。

黙って結論出るまで待とう。

あ、そうだ。航空関係のアイデア書いてよ。


【お姉ちゃん、商会長が落ち込んで黙ってるのは分かるけど、なんでアリスちゃんまで黙ってるの?】

【…あ!これ私たちの返事待ちよ。二人とも、私たちの結婚の条件が厳しくなるのを気にして、私たちに選択権を与えてくれてるのよ】

【選択権って、私たち、実家飛び出しちゃった時点でこの領にしか居場所ないよね?】

【いいえ。私たちはマイスターになれたことで、王都の研究所勤務や上位貴族との婚姻も可能になってる。しかも法衣子爵位あるから、王都に戻っても実家の言いなりにならなくて済むわ】

【あ、そっか。でも私、よく知らない貴族に嫁ぐのも、口うるさい家族がいる王都に戻るのも嫌だよ。ここってほんとに住み心地良いし、みんな優しくてあったかい。アリスちゃんと別れるのなんて絶対嫌だし】

【全く同意見よ。更に言うなら、領主様や商会長、アリスちゃんにこれだけ良くしてもらってるのに、恩返し全然出来てないもの】

【そうだよね。私もいっぱい恩返ししたいよ】

【じゃあ、首脳陣の仲間入りでいいわね?】

【うん!】


「えっと、お待たせしてごめんなさい。

私たちは王都の貧乏男爵家の特技も無いただの子女っていう、貴族扱いされないような立場だったわ。

それが今ではマイスターで法衣子爵、ポーションまで作れちゃう。

私たちがここまでこれたのは、全部この領のおかげなの。

どうせあなたたちは恩義なんか感じる必要無いって言うだろうけど、そんな人たちがいるこの領だからこそ、私たちは働きたいの。

だから、私たちにも関わらせてください」

「私もお姉ちゃんと同じ気持ち。だからお願いします」

「…まいったな。今の話聞いたら父上絶対泣くぞ。そのフォローも頼むからな」

「うん」「ええ」「「任せて!」」

「おう!じゃあ話すぞ。

うちの領、北にでっかい山脈あるだろ。

あそこのふもときんが出た。

我が国ではきんの産出量がかなり減ってて、きんの採掘は国策事業になるだろう。

だが、ここの森を25kmも走破出来るのは俺とアリスくらいしかいない。

しかも魔法使いっぱなしで片道五時間かかる。

そこで、国に採掘命じられるまでに足を用意しようとして出来たのがさっきのあれだ。

だがまだ操縦の安定性、積載量、スピード、全天候型と、解決すべき課題が山盛りだ。良かったら開発の中核技術者になって欲しい」

「うわ、空飛ぶ乗り物開発が主目的じゃないなんて、思った以上に大事ね。でもいいわ。空飛ぶ乗り物なんて、夢を実現できる仕事だわ。ぜひやらせて」

「私もー!鳥みたいに空飛ぶのが夢だったの。頑張る!」

「おう、頼んだぞ。…で、アリスは何書いてんだ?」

「えっと、新しい機体のデザイン。こんなのどう?」


さっきからせっせと書いてたデザイン三種類、見せてみた。


一つ目は箱馬車の上部、対角線の延長上にプロペラが四つ付いてるやつ。

これが輸送力、安定性、作りやすさともダントツかな。


二つ目はホバーバイク型。

バイクの車輪の代わりに、地面に対して平行にプロペラが付いてるやつ。

安定性はいまいちだけど、機動力は一番かな。


三つ目は、魔法のほうきをイメージしてみた。

前部に小さな後退翼付いてて、ハンドルもある。

下部に魔力伝達用のパイプや重量軽減水晶、足置きとか付いてるから、ちょっとスチームパンクっぽいデザイン。

ほうきの掃く部分には推進用の反作用水晶。

多分スピードは一番出ると思うけど、操縦の難しさも一番難易度が高い。

安定性も無いけど、やっぱほうきで空飛んでみたいじゃん。


それぞれの特徴を説明してみた。


「…最初のやつ一択だろ。後の二つはなんだ?」

「二つ目はソード君が欲しがりそうだから。三つ目は私が乗ってみたいから」

「確かに二つ目はかっこいいと思うし作ってもみたい。だが、三つ目はなんでほうきなんだ?」

「いや、前世じゃほうきで空飛ぶの、おとぎ話の定番だったんだよ」

「作ってもいいが、安全にな」

「わかった」

「ねえアリスちゃん、これってあっちの世界じゃほんとにあった物?」

「ほうき以外はね」

「…賢者の世界って、すごいわね」

「魔法無いからこっちより作るの大変だよ。それでも夢をあきらめなかった人たちが、いっぱい失敗重ねながら作り上げたの」

「そうよね。私たちも負けてられないわね」

「私はほうきに乗ってみたいかも」

「まじかよ!?」


結局姉妹ちゃんたちが、箱型クアッドコプター作ることになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る