3年目 早春
工房棟のみんなとの生活も五ヶ月目に入り、医療魔法の習得も、かなり進みました。
季節はもうすぐ春、雪が徐々に解け始めてます。
ソード君は医療魔法の習得メンバーには入ってなかったんだけど、そこはやりたがりソード君。
レベルの高さを生かし、患者さんへの治癒魔法まで習得しちゃいました。
そして姉妹ちゃんたち。
時間がある時だけの参加なんだけど、内部診断と自己治癒までは習得出来ちゃったの。
6.5ポーション作りも成功させてたし。
姉妹ちゃんたちは時々参加なんだから、充分だと思うよ。
他のメンバーも、魔力はソード君より少ないながらも、ある程度の患者さんの怪我は直せるようにまでなってます。
ポーションも、なんとか9.0作れるの。
もう魔力制御はレベルを上げても大丈夫そうなので、後はレベル上げたいんだけど、スライム足りない。
なにせ一人をレベル8に上げるのに、スライム128匹必要なの。
四人全員だと512匹。
うちのダンジョントラップ、今は一日8匹くらいだから、二ヶ月ちょっとあれば行けそう。
私やネージュはレベル上がりすぎてるから、みんなにスライム廻そうと計画中です。
そんなある日、お城に行ったら、なんと王都から帰還命令が届いてた。
マギ君が言うには、帰還して王都周辺のダンジョンでレベルを上げつつ、医療魔法の習熟と後進の育成に当たってほしいらしい。
根回しが早く済んだのかと思ったら、利権絡みの強欲さんたちが全然協力しないんだって。
王様ブチ切れて、魔学研究所に医療魔法部門作っちゃって、完全に対決姿勢なんだと。
王都で医学薬学に従事する人たちって、患者さんのためになる魔法を使う気無いの?
むくれてたら、ソード君が頭撫でてくれた。
その横で、マギ君が若干黒い笑顔で人事発表かました。
魔学研究所医療魔法部門。
部門長はシャルちゃん、法衣伯爵位。
副部門長はエリーヌさん、法衣子爵位。
専属薬医師がイリアナさんとレリアさん、法衣男爵位。
(レリアさんは隣領に帰るのかと思ったら、医療魔法習得後は、元々王都に行く予定だったそうだ)
魔学研究所は王家直轄部門だから王様に任命権あるけど、法衣爵位、大盤振る舞いだな。
しかし、いくら役職に付随する法衣爵位とはいえ、シャルちゃんが伯爵位って、上位官僚クラスじゃん。
シャルちゃん、まだ10歳だよ!
やばいぞ、王様の怒りのボルテージが見えるようだ。
あの人は怒らせちゃいけないタイプなのに。
来る前は法衣爵位授与の話なんか全然無かったらしく、工房棟メンバー全員びっくりしてる。
いや、あなたたち、既に法衣子爵位持ってるんだけど。
私は期日を半年以上繰り上げられた事にびっくりだよ。
レベルアップ計画、どうしてくれる!?
みんなを説得してからやろうと思ってたお肉用うさぎでの外科処置体験計画、どうしてくれる!?
ついでに私の、みんなで春からきゃっきゃうふふ生活、どうしてくれる!?
「こんなことになってアリスさんには申し訳ない限りなんだけど、側近たちも陛下を宥められないらしい。今回届いたのも、任命書じゃなくて命令書だった」
「こっわ!国王様は怒らせちゃいけないタイプの人なのに、強欲さんたち、何で気付かないのよ…」
「気付かない程、強欲だからじゃないかな」
「王都にはそういう奴、結構いるぞ」
「…強欲さんたちの冥福を祈るよ」
「さすがにそれはシャレにならんぞ!」
「あ、ごめん。でも、私も結構むかついてるみたい。ソード君、お城の畑、通常薬の薬草植えてもいい?」
「野菜は街から仕入れるから構わんが…。やる気か?」
「うん。ポーションと通常薬量産して、医療魔法部門に送り続ける。高品質なお薬で患者さん呼んで、医療魔法のすごさを実感してもらうの」
「いいな。俺や姉妹も薬作り、協力するぞ。そうなると姉妹のレベル上げ、急いだ方がいいな」
「僕も王都に一番近いトラップ化ダンジョンを医療魔法部門専用にして、みんなのレベルアップと、薬草栽培に励むよ」
「陛下とアリスさんが、民の為に広めようとしている医療魔法。わたくしたちも全力で取り組みますわ」
「あたしもやる。患者さんの事を考えられない奴らなんて、大嫌い」
「当然私もです。自分の利益しか考えてないなんて、許せない」
「よし、みんなで医療改革、やっちまおう!」
「「「「「「おー!!」」」」」」
ソード君の一言で、みんなで気炎吐いた。
その後、みんなの荷物まとめなきゃいけないので、ついでに送別会もやろうと、マギ君とソード君も一緒に工房棟に移動。
マギ君は、お付きや護衛さんに、私室にしてるノーブルスイートの片づけとか指示して、城に置いて来てた。
お別れ会の準備してるのに、みんなノリノリで医療改革計画を相談。
なんか色々決まってくぞ。
王都帰還組はマギ君を筆頭に、王都付近のダンジョンで薬草畑を拡充しつつレベル上げ。
その間に、王都に医療魔法部門の診療所と薬局を建設。
同時に、私の講習でみんなが取ってたノートを元に、医療魔法用の医学書を編纂。
私はお城の薬草畑を拡張しつつ、9.0ポーション、ポーション軟膏・丸薬、通常薬を量産。
ソード君は王都のマギ君と連携取りつつ、姉妹ちゃんと一緒に5.0~6.5のポーション作成。
辺境組は通常業務と平行してなので、多分これくらいが限界かな。
工房棟でささやかな送別会開いて、みんなでお片付け。
ソード君とマギ君は、夕方城に戻って行った。
翌日は、朝からみんなで工房棟のお掃除。
私がぼちぼちやってく気だったんだけど、お世話になった工房棟に感謝を込めて、みんなで掃除したの。
お昼前には雪上車のお迎えが来て、みんな旅立っていった。
半年近く一緒に生活してたから、お別れ結構辛かった。
でも、医療魔法を広めなきゃと、みんな我慢してた。
誰もいなくなった工房棟のリビングダイニング、広すぎて寂しいな。
感傷的にならないように、いつもの日課、始めました。
◇
医療魔法習得組が帰って一ヶ月。季節は春です。
私の生活は、お城通いの日々です。
午前中にいつもの日課を済ませ、お昼前にお城に通勤。
平民用の食堂でお城のみんなと昼食食べたら、薬草畑のお世話とポーション、お薬作り。
ソード君と姉妹ちゃんは、夕方、余った魔力でポーション作りしてる。
週一ペースで元工房棟のみんなから手紙が届くので、お返事書いたりしてて遅くなったらお城にお泊り。
なにせ医療関係の質問だと手を抜くわけにいかないから、どうしても書くことが多くなっちゃうんだよ。
おかげで月の半分近く、お城にお泊りしてる気がする。
手紙では、案の定お肉用うさぎでの外科処置体験が、うさぎがかわいそうで出来ないって相談も来た。
これ、みんな優しいから大変だろうなって懸念してたんだよ。
悩んだ末に、今世の父ちゃんが言ってたことを書いて返信した。
『人は他者の命(肉になった動物や野菜や小麦などの植物)を吸い取って生きながらえる生き物。お肉屋さんで支払う代金は、動物を殺してお肉にしてくれと依頼した事への達成報酬』
かなりきつい言い方だよね。
これ、私がうっかりお肉無駄にしちゃった時に言われたんだよ。
そして森に、狩りに連れてかれた。
まだ体温のあるうさぎを捌かされて、泣いちゃった。
あの時の父ちゃんは、怖かったなぁ…。
辺境での食べ物の大切さは分かったけど、そん時私五歳だよ。
しばらく物が食べられなくなったけど、空腹に負けて食事しちゃったことで、自分の業を悟ったよ。
まあ、こうやって普段から動物殺してもらってるんだから、実験台になったお肉用うさぎには、感謝してちゃんと治癒させてから森に返したらと書いた(単なる偽善だけどね)。
でも考え方は人それぞれだから、強制は誰も出来ないし、しちゃいけないとも思う。
あ、お泊りが多くなったもう一つの原因あった。
ポーション用の薬草畑をダンジョン入口方向にガンガン拡張しちゃったので、帰りが遅くなったのもお泊りの原因か。
ポーション薬草畑、今やダンジョンの壁(天井裏?)を床にした状態で、元の面積の四倍くらいになってるの。
ソード君が呆れてた。
もう一人ではお世話出来なくなってるので、お城の畑のお世話してる農家さん一家が、せっせと面倒見てくれてる。
この一家さん、寒村での生活に困窮してうちの領に移住して来た人たち。
おじいちゃんとおばあちゃん、旦那さんと奥さんと五歳の娘さんの五人家族で、お城の平民エリアに住んでるの。
移住して来た人には住民の健康づくりの一環でレベル3に上がってもらってるんだけど、びっくりなのは娘のエレナちゃん五歳。
何故かレベル6くらいの魔力反応。
当初は幼女に優しい領主様の配慮かと思ってたんだけど、犯人はなんとネージュだった。
エレナちゃんの同年代はお城にいない(私が一番近い年齢)ので、今までもネージュを見つけると必ず一緒に遊んでたの。
私はお仕事しにお城に来ててネージュは放置気味だったから、当初は遊んでくれてありがたいなーくらいに思ってたの。
で、気付いたらレベル6の反応。
なんとネージュ、散歩のついでに森奥のスライム捕まえて来てたの。
しっかり硬化した土の箱に詰めて、エレナちゃんの前にころり。
エレナちゃん、箱中央に空いた小いさな穴にネージュ製の長めのボルトをぷすり。
薬草畑の傍でやってたから、状況目撃して唖然としたよ。
エレナちゃんに聞いたら、最初は目の前でボルトが勝手に箱に刺さるのを見てたらしい。
ネージュが喜ぶので、そのうち自分で刺すようになったそうな。
そしてネージュとの遊びは、ほぼ魔法。
土でお人形作って動かしたり、雪でネージュ作ったりしてたんだと。
うん、ネージュ雪像見たことある。
てっきりネージュ好きのメイドさんか魔道具技師見習いあたりが作ったんだと思ってたのに、この幼女作だったのか。
魔力感知でよく見たら、エレナちゃんの魔法制御力、魔道具技師見習いさんくらいになっちゃってるよ。
これはネージュの保護者である、私の責任問題だ。
慌ててソード君に相談したよ。
その日はたまたま領主様がお城に来てたので、領主様、私、ネージュ、農家さん一家で緊急面談。
まず私から状況説明して謝罪した。
お宅の娘さんを、ご家族の了承も無しにレベル上げちゃってごめんなさいと。
そうしたらエレナちゃんのご両親からは、なぜか謝罪の言葉が帰ってきた。
一家の都合で娘を友達のいない所に連れて来てしまった。
当初ふさぎ込んでた娘は、ネージュと遊ぶようになってから元気になった。
申し訳ないが、出来ればこれまで通り遊ばせてやって欲しいと。
領主様が色々聞き取ってくれた結果、エレナちゃんは引っ込み思案でおとなしい性格だから、レベルについては問題ないだろうってことになった。
また、ネージュが来たのが分かるらしいと言われ、魔力感知力が相当上がってるらしいことも判明した。
ここで考え込んでた領主様から、私の弟子にしてはと提案された。
ご家族はすっごい乗り気。
なにせ、農家の娘が錬金薬師になれるかもしれないなんて、元居た場所では考えられないほどのチャンスらしい。
私はネージュがしでかしちゃったことの責任取る立場なので、全く異存はない。
当の本人は、ネージュといられる時間が増えると喜んじゃってた。
エレナちゃん、私に弟子入り決定。
エレナちゃんは家族と一緒にお城に住み、午前中は家族と畑のお世話。
午後は私のお手伝い。
ネージュにも責任取らせる意味で、狩りや散歩を減らして、私たちと一緒にいてもらう事にした。
エレナちゃんにだっこされてゴロゴロいってるネージュには、反省のそぶりは全く見えなかった。
翌日から、エレナちゃんのお手伝いが始まった。
まずは器材の清掃覚えてもらおうとしてびっくり。
ネージュってお薬作りのお手伝いなんてしたこと無かったのに、ネージュがお手本見せたの。
薬研やら乳鉢・乳棒を、魔法で作ったお水で水洗いしてた。
エレナちゃんは遊び感覚で真似してるし。
ぐぬぬ。私、そんなお手伝いしてもらったこと無いんだけど。
…ひょっとしてネージュ、お姉さんぶりたいのかな?
汚れが残ってると、『みゃん』って鳴きながら小さい水球作って洗ってあげてるよ。
ちょっと得意そうな仕草のネージュ、かわいいぞ。
私としては、お仕事早く進むから嬉しいな。
喜んでポーション作り始めたら、ネージュまでポーション作り始めたんだけど!?
まじかぁ…猫がポーション作っちゃってる。
自分ではかるん使って、グレードチェックまでしてるよ。
うん、グレード6.5。いい出来じゃん。
あ、エレナちゃんまでポーション作り始めちゃった。
でも、さすがに一度見ただけじゃ、手順覚えきれないよね。
…おいネージュ、手助けはずるいぞ。
はかるん値3.0。
魔力の均一性が足りてないけど、一応ポーションにはなっちゃってるよ。
あれ?エレナちゃん不満顔。
あ、再チャレンジですか。はい。
まあいいや。エレナちゃんはしばらくネージュに任せとこう。
王都のみんなのために、私は9.0と軟膏、丸薬作らなきゃ。
ネージュとエレナちゃんに予備の調剤机渡して、私は私専用の調剤机ごと移動して、濃緑薬草育てながら9.0ポーションを量産します。
ポーション軟膏と丸薬は9.0が原料だから、これが無いと作れないんだよね。
よし、9.0ポーション30本出来た。
これ以上はポーション軟膏と丸薬作る魔力が足りなくなるから止めておこう。
しばし無言でポーション軟膏と丸薬作り。
魔力空じゃないいけど、結構だるくなってきた。
今日はこの辺にしておこう。
お仕事終えて二人の所に戻ったら、エレナちゃんがネージュと一緒に地面で寝てた。
あかーん!
私がエレナちゃん預かってるのに、幼女を地面で寝かせてしまった。
ダッシュで自室へ行って毛布持って戻ってきたら、エレナちゃんがソード君と姉妹ちゃんに囲まれてた。
とりあえず毛布でエレナちゃんを包みました。
お姉ちゃんが、毛布ごとエレナちゃんを抱きあげてくれた。
「アリス、さすがにこれはまずいだろ」
「ごめんなさい。ポーション作りに没頭してたら、知らないうちにこうなってたの。多分ポーション作りすぎて、魔力足りなくなったんだと思う」
「は?いきなりポーション作りさせたのか?」
「ネージュがエレナちゃんと遊んでて、ポーション作り教えちゃったの」
「…ネージュがポーション作り教えただと!?」
「うん、ネージュは6.5作ってた。私もネージュがポーション作れるなんて、今日初めて知ったよ」
「俺、6.5出来るまでに一ヶ月近くかかったんだが…」
「ネージュはレベル12で、魔力感知も魔力制御も私以上。いつも私がポーション作るところ見てるんだから、作り方も知ってるよね」
「……この机に並んだポーションは?」
「レベル6だと十本くらいがいいところ。だからほとんどエレナちゃんが作ったんだと思う」
「五歳の幼女がいきなり十本もポーション作ったのかよ。さすがにやりすぎだろ?」
「監督してなかった私が全面的に悪いのは分かってる。でも、私も予想出来なかったんだよ」
「で、何本成功したんだ?」
「まだ計ってないから分かんない」
ソード君とせっせと計った結果、6.5が二本、3.0~4.5が九本あった。
6.5はネージュだな。残りがエレナちゃん作か。
「私、まだ6.5がぎりぎりなのに…。すぐに追いつかれそう」
妹ちゃんは感覚派だから、細かい調整とか苦手だもんね。
私はお姉ちゃんからエレナちゃん預かって、農家さんの自室に連れて行きました。
昨日に引き続いて謝罪したら、おばあちゃんが教えてくれた。
エレナちゃんがネージュと廊下やエントランスで寝てるところを、兵士さんやメイドさんが見つけて運んでくれたことが三回ほどあったそうだ。
でも、私がちゃんと見てたら地面なんかじゃ寝かせなかったんだからと、しっかり謝った。
ご両親も、子守を頼んだわけじゃないからと言ってくれたけど、二度とこんなことが無いようにすると約束した。
夕方、簡易ベッド作って、毛布と一緒に薬草畑横の調剤スペースに設置しておいた。
明日からは、預かってるのが幼女だという事をことを忘れずに、しっかり面倒見よう。
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