☆ノーブルスイート(女子部屋)にて
「私、アリスちゃん泣かせちゃった…」
「お姉ちゃんは時々やるよね。思ったことポロっと言っちゃて、相手を沈めちゃうの」
「反省してるんだけど、気を抜くとポロっと出ちゃうのよ…。自分の事だけど、ほんとに嫌になるわ」
「あたし分かんないんだけど、どうしてアリスちゃんは功績褒められると泣いちゃうの?」
「アリスの発明や発見は、みんなの役に立つものばかりだろ。だと、出来るだけ早く世に出したい。だが、辺境の孤児の少女が発表なんかしたら、欲深い奴らに攫われるのが目に見えてる。だから俺やマギが発表するんだが、発明のペースが速すぎて、俺たちが発表や対応に忙殺される。あいつはそれが嫌なんだ。自分のせいで俺やマギが大変な目に遭ってると思ってる。俺たち自身は、忙しいけど全然嫌じゃないってのにな」
「そうだよね。僕は庶子だから政策に参加させてもらえないつまはじき王子だったんだよ。それがアリスさんのおかげで、政策の中枢を担う事も多くなったんだ。しかもアリスさんは、僕が研究出来る余地を残して発明発見を渡してくれたりするんだ。多分、気兼ね無く僕の研究成果だって発表出来るようにしてくれてるんだと思うよ」
「私たち、わずか五ヶ月でゼロからマイスターになれたわ。アリスちゃんのおかげだって感謝したら、それは私たち姉妹の努力の結果だって言われたの。あの子、いい子過ぎるわよね」
「五ヶ月でマイスターなんて、国王陛下から直接お褒め頂くくらいすごい事なのに、全部私たちが頑張ったからだって言うんだよねぇ」
「あいつはさ、いきなり両親亡くして孤児になったから、孤児の自分が悪く見られたら両親の育て方が悪かったんだって思われるのが嫌で、両親の名誉のために必死になってんだ。しかも必死になってることにさえ気付いてねえ。俺はあいつに休んでもらいたかったのに、泣かせちまった…」
「ソード様の先ほどの発言は、『もう充分だ』と、おっしゃりたかったのですね」
「ああ。口下手な自分が嫌になる。俺、アリスに聞いてたんだ。前世の人生前部思い出したんじゃなくて、所々を自分が主人公の劇を夢で見るみたいな感じだって。あいつは変な知識を夢で見た、七歳で孤児になっちまった辺境の少女でしかないんだ」
「七歳で孤児になっちゃったのに、一人で自立して亡くなった両親の為に頑張ってるの?あの子、健気すぎない!?あたし、泣きそうなんだけど!」
「私、王都の両親から遠く離れただけで不安だったけど、自分の子供っぽさが嫌になるわ」
「ええ、アリスさんの傍にいると、自分がいかに子供なのかを思い知ってしまいますわよね。けれど、アリスさんの傍は、なぜかすごく居心地がいいのです。ですからひがんだりせずに、わたくしにも出来ることはたくさんあるのだと前を向けるのです。」
「父上が陛下に言ってた。アリスの中の天使は、周りを勝手に癒し育ててしまうほどの最高位だって」
「うわぁ、僕、すごく納得しちゃったよ」
…
「あの、侍女の身で失礼いたします。少し気になったのですが、アリス様が周りを癒し育てる大天使なことには全く異存ございません。ですが、アリス様自身は、どなたかに癒されているのでしょうか?」
「…普段、一番近くにいるはずの俺が、全然癒せてねぇ」
「そうでもないと思う。商会長に撫でられて、アリスちゃんはほっとしたような、嬉しそうな表情浮かべてた。商会長、あなたもっとアリスちゃんを甘やかしなさい」
「いや、それが出来てねえから困ってるんであって…。どうやりゃいいのか分かんねえんだよ」
「撫でろ!抱き締めろ!」
「ちょ、無茶言うな!むやみに女性に触れるのは、しちゃいけないって貴族教育で教わったぞ!?」
「ソード様、『むやみに』ですわよ。アリスさんには撫でたり抱き締めたりしていただけるご両親がおりませんの。普段からお近くにおられるソード様が適任ですわ。万一アリスさんが嫌がったら、止めればよろしいのです。まずありえませんが」
「え、お、俺?今はシャルたちの方が近くにいるんじゃ…」
「わたくしたちも当然気に掛けますが、わたくしたちはいずれいなくなりますの。長くそばにいられるソード様が適任ですわ!」
「え、あ、お、おう、だけど両親の代わりって言うなら、父上の方がよくないか?」
「だめ!!伯父様は成人男性よ。少女抱き締めちゃったらまずいでしょ!!あんたがやらなくてどうすんのよ!?」
「わ、分かった、俺が頑張るから、ちょっと離れてくれ。なんか近いぞ。呼び方も王都にいたころみたいで怖い」
「じゃあ、アリスさん甘やかし担当は、ソードってことで」
「「「「「「賛成ー!!」」」」」」
「うお!……おい、マギ。甘やかしたら、アリスが暴走してマギと俺が大変なことになりそうなんだが、そこはいいのか?」
「はっ…」
「ソード様。締めるとこは締めて、叱るべきは叱る。ただ、『偉いな、よくやってるな、頑張ってるな、抱きしめたいな』と思った時に、甘やかせば良いのですよ」
「えっと、最後が良く分からんが、何となくは理解した」
「はい。アリス様の為に、どうぞよろしくお願いいたします」
「…なあ、マギ。みんな身を乗り出して来て、なんか怖いんだが」
「……まあ、みんながそれだけアリスさんの事を思ってるってことで」
「なんか違う圧を感じた」
「女の子はこういうノリ多いから。ソードも精進しようね」
「…」
◇
お昼寝済んだ。
私、何とか復活。
みんなは、私を責める気なんて全然ないんだよね。
当のソード君やマギ君も、感謝してるって言ってくれてるし。
多分これは、私自身が、ソード君やマギ君に迷惑かけてるって気持ちが大きいからなんだよね。
で、恩を返そうとしても、私には発明くらいしか出来ない。
そうすると、またソード君やマギ君を忙しくしちゃう。
うーん、堂々巡りだ。
でも、まいったな。みんな悪くないのに泣いてしまった。
謝らなきゃ。
ちょっと赤くなった目を治癒魔法で癒し、みんなの反応があるノーブルスイートに向かった。
部屋に入ったらみんなテーブルに着いてお茶してたので、みんなの前で、しっかり謝った。
「みんな全然悪くないのに、私、勝手に泣いちゃってごめんなさい」
およ、ソード君がこっち来て、頭撫でてくれたぞ。
本日二回目のなでなで。
雪でも降るんじゃ――外、既に猛吹雪だったわ。
「みんな分かってるから大丈夫だぞ。さっきは俺の言い方が悪かったんだ。俺は、アリスはこんなにも頑張ってるんだって言いたかったんだ」
「そうですわよ。わたくしも頑張りすぎではと言いたかったのです」
みんな、うんうん頷いてる。
なでなでは継続中。
「そうだったんだ。私、変に感情的になって泣いちゃった」
「ああ、だから安心しろ。みんなアリスの友達なんだ。お前を傷つけたりするわけないから…って、おい、なぜまた泣く!?俺、また言い方悪かったのか!?」
「ごめん、違うから。今のは嬉しかったから」
なぜかソード君が崩れ落ちた。
みんなはソード君睨んで、なんか合図みたいなのしてるけど、ソード君は見えてないよ。
念話飛び交ってるっぽい感じするけど、私宛じゃないから聞こえないや。
ソード君、崩れ落ちたまま時々ビクッってなってる。
なんかよく分かんないけど、私、許してもらえたんだよね?
仲間に入れてもらって一緒にお茶したら、みんなに頭撫でられた。
泣いちゃったからかな。
父ちゃんと母ちゃんに撫でられたこと思い出して、嬉しかった。
みんなとのお風呂では、エリーヌさんが頭洗ってくれた。
みんなも、いつも以上に妙に優しい。
泣いちゃったから気を使ってくれてるんだよね?
ごめんね。みんなに心配掛けないように、私頑張るよ。
翌日は晴れた。
でも、中庭や城壁はかなりの積雪。
城内は人少ないから、除雪人員いない。
医療魔法関係者全員で除雪した。
左右の城壁に一名ずつ登り、残りは中庭で雪ブロックづくり。
城壁上は魔法でさくっと雪を外に落とし、中庭班から渡してもらった数メートル角の雪ブロックも、城外の崖下にポイ。
街から戻ってきた第一陣の人たちが、目を剥いて驚いてた。
ネージュは、昨日作ったみんなの雪像を掘り出してくれてたので、第一陣の人たちが見物始めちゃったよ。
うん。なんか恥ずかしいから帰ろう。
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