2年目 冬 2/2
そんな騒がしくも楽しい日々を過ごし、試験当日になった。
みんなで昨日からお城に泊まりに来てて、朝から魔法使ってないから、魔力満タンだよ。
午前中は見習い卒業試験。
受験者は見習いさん八人、うちのメンバー四人の計十二人。
見習いさんはもっといるんだけど、講師陣の許可がないと卒業試験受けられないからね。
試験は、一人ずつソード君の前で水生成の変換水晶づくりを実演して提出。
出来た変換水晶は、ソード商会のマイスターさんたちが性能を確認。
全員が実演終わってから合格者が発表される。
合格者は別室に移って、魔道具技師としての義務と権利を説明される。
不合格者は、提出した水晶の性能に何が足りなかったかを説明されて、次回までの重点学習課題になる。
うちのメンバーは全員が合格。
マイスター試験受けるレベルなんだから、当然だけどね。
昼食を挟み、午後はマイスター試験。
今回の受験者はうちのメンバーだけだった。
マイスター試験は試験官の都合上見習い卒業試験と一緒にやるってだけで、実際に受けるのは半年で数人らしい。
しかも、合格率はかなり低いそうだ。
今度の試験は、各自の机に水晶を七本渡され、出来た変換水晶から提出して、次の変換水晶にとりかかる。
判定する水晶が多いので、姉妹ちゃんも応援に駆り出されてた。
全員が規定時間内に全ての変換水晶を提出。
そして全員合格。
心配はしてなかったけど、ほっとしたよ。
マイスター合格者は、ソード君からお祝いの晩餐に招待されるんだけど、辞退しておうちに帰ることになった。
ここで帰らないと二泊になるし、明日吹雪かれたりしたらうちの薬草がほったらかしになるからね。
三日後、魔学研究所の教室で、工房棟メンバーのマイスターバッジと証書の授与式があった。
なるほど。見習いさんたちにこういうのを見せることで、モチベーション上げてるんだな。
工房棟のみんながマイスターに合格したことで、法衣子爵位と王家の後援が就いた。
これである程度、横暴な貴族からの守りも出来たね。
そろそろ本題の医療魔法に本腰入れてかなきゃいけないんだけど、まだみんなは自分の体内さえ詳細には見れない。
そうなると、みんながまだ見られないものを私が説明していくことになるので、知識の伝授は難しいと思うんだ。
イメージ送れば見られるけど、自分の身体と比較出来ないからね。
私自身、時間をかけて使えるようになった魔法だからなぁ…。
医療魔法。事の発端は、治癒魔法の開発から。
ポーションが魔力を補填して怪我を直すのなら、自分の魔力を怪我したところに集めれば治癒魔法になるかと試してみた。
結果は、ポーションを裂傷にぶっかけるより直りが遅かった。
回復を早めようと魔力マシマシで患部付近に集めたら、傷の修復は早くなったけど、魔力消費量がやばい。
で、患部付近じゃなくて裂傷の傷部分、断面だけに集中したら、何とかポーション以上の回復速度にはなった。
当然のごとく欲を掻いた私は、見えない内部も直したくなった。
でも、見えて無いから、ぼんやり患部付近にしか魔力を集められない。
そこで思いついたのが、薬師の技として母ちゃんに教えて貰った魔力感知を使った魔力の流れを見る技。
あれは、流れの強弱がぼんやり分かる程度だった。
なら、もっと精細化出来れば治癒魔法の補助として使えるのでは?
そして始まったのが魔力感知の高精細化。
当時は物の魔力がぼんやり分かる程度だったので、目隠し生活を始めたの。
最初は身体のあちこちをぶつけちゃったけど、打ち身も治癒魔法の実験には役立ったよ。
毎日そんな生活をし続けて、やっと細かく内部を把握出来るようになったので、いざ他人に使ってみたら、全然体内が把握出来なかった。
原因は自分と他者の魔力の質の違いと推測して、魔力同調に行きついたの。
でも、同調あまいと他者の内部はぼんやりとしか分からなかったから、同調精度を上げるのにまた時間が掛かった。
やっとのことで習得した内部診断。
これで他者の内部にも治癒魔法かけられると思ったのに、実際に使ったら、怪我の程度や箇所によっては細胞が急激に修復する痛みで患者さんは痛がるし痛みで動いちゃって治癒魔法の焦点ズレるしで、実用にならなかった(患者さん、痛くしてごめんなさい)。
自分でテストした時は、それほど大きな傷じゃなかったから耐えられたんだよ。
ポーションがゆっくり効く理由が、よくわかった。
そして考え付いたのが痛覚遮断。
痛いなら、痛みを感じさせなきゃいい。
神経は把握出来るんだから、痛みの伝達止めてやれ。
そして痛覚遮断も出来上がった。
自分の腕で実験したんだけど、最初はめっさ痛かったりジンジン痺れたりで大変だったよ。
こんな経緯で習得した魔法だから、習得時間の短縮は難しいよね。
まあ、期限まではまだ十ヶ月以上あるから、ゆっくりやっていこう。
冬も本番になり、吹雪くことも多くなってきた。
降る雪は粉雪になり、積雪も1mほどになった。
朝方には樹氷も見られ、王都出身の三人は、辺境の冬景色に圧倒されてた。
お外がこんなだと、当然ウィンタースポーツの出番だよね。
最初はスノースクーターで遊んでたんだけど、私のとレリアさんが作った分の二台しかない。
なので、スノーボードを全員で作り、登り道に出かけたの。
ただ板の先を曲げただけだけど、ベクトル魔法で方向制御出来るからね。
登り道は目測で、高低差70~80mはある。
直線で幅も4mくらいだけど、日中の雪上車の往来は、ほぼ無い。
当然利用した。
リフト無いけど、ベクトル魔法で滑りながら登れるからね。
身体強化で段を飛び上がってもいいし。
スノーボードなんて全員が初めて(私もだ)だから、雪に突っ込んだり刺さったりと無茶苦茶だったけど、みんなきゃーきゃー言いながら楽しんでた。
なぜかネージュは、香箱座りで滑ってた。
みんなで遊ぶと楽しいな。
晴れた日は、登り道通いが日課になった。
そんなある日、雪上車で通りがかったソード君に見つかった。
ソード君やマギ君も、時々参加するようになったよ。
ソード君とマギ君、女性陣より楽しそう。
マギ君、雪に突っ込んで大笑いしてるし。
ちょっとスノーボードに飽きたので、エアクッションの魔法でチューブそりしてみたら、見事にコースを外れ、10mの崖から吹っ飛んだ。
天地が分からなくなって重量軽減(ベクトル魔法)を掛けられず、クッション魔法で身を守ったものの、下の段の雪に刺さってしまった。
それを見たソード君、いきなりスノーボードでマネしやがった。
空中での技を囁いたら、何度も雪に突っ込みながら技を開発してたよ。
女性陣は雪焼け嫌なので、遊ぶ前にしっかり対策したよ。
自分の魔力を皮膚表面上に薄っすら展開。
これだけで有害な紫外線はカット出来ちゃうんだ。
遊びに夢中で展開おろそかになって雪焼けしても、ポーション飲めば直るしね。
ウインタースポーツでたまに怪我したら、内部診断の出番。
打撲による炎症や毛細血管の破裂なんかを説明して、治癒魔法使ってもらった。
怪我した当人に了解貰って、他の人は魔力同調で患部だけ内部診断ね。
このための遊びかとソード君に言われたけど、私はみんなと遊びたかっただけだから無実だ。
まあ、怪我したら当然医療魔法習得に利用する気だったけど、怪我させることが目的じゃないから!
◇
年明け前日からお城に泊まり、今日は生誕祭です。
祭りと名は付いてるけど、家族の無事を祝い、新年の健康を願うものだから、どんちゃん騒ぎとかは無いよ。
お城の人も大半が実家に帰ってるから、必要最低限の人員しかいなくて、お城の中は閑散としてる。
厨房の人も少なくて居残り人員用の食事の準備で大忙しだったから、パーティ用の料理は自分たちで作ったよ。
パーティ出席メンバーは全員が全身熱魔法使えるので、厨房スタッフの邪魔しないように最上階の厨房を使った。
会場は最上階のエントランスだ。
ここは一面に窓が並んでるから、ホールより見晴らしいいからね。
貴賓控室の方が見晴らしいいけど、あそこは家具が配置してあるから持ち出すの面倒だし。
領主家の家人さんたちが新年初日も働くって言ってくれてたんだけど、領主様と相談してお休みしてもらう事にしたの。
マギ君の護衛さんもお休みだ。
パーティメンバーは、領主様、ソード君、姉妹ちゃん、マギ君と私ん
レリアさんは隣領だから帰省するかと思ったんだけど、『みんなといたい』と、実家に手紙出してた。
エリーヌさんも仲間なんだから、当然参加だ。
女性陣全員で料理してる間に、男性陣は物品倉庫からテーブルや椅子を引っ張り出して会場設営。
みんなで用意して、みんなで楽しむホームパーティだ。
男性陣に席に着いてもらい、女性陣がサーブ。
エリーヌさんに指導してもらってるから、マナーも大丈夫だよ。
みんなが席に着いたら、領主様の言葉でパーティが始まった。
女性陣多いし、一応着飾ってる(ドレスじゃないけどね)ので、かなり華やかだ。
例のごとく、領主様はでれでれ顔。
もし娘なんかいたら、溺愛しまくりだろうね。
和やかに楽しく過ごしてたら、ソード君が領主様をせっついた。
「そうだったな。いい忘れる所だったよ。皆に直接な関係は無いが、一応報告がある。我が王国では、スライムの核不足が顕著になってきたために、陛下がダンジョンを抱える領主にトラップ化の技術と改造許可を与えることになった。また、新たなダンジョンの発見には、ダンジョンの規模に応じたかなりの額の報奨金が出される。この話は、王都の新年祝賀の際に発表されるので、皆も一応覚えておいてほしい」
おやまあ、世間様ではそんなことになってたんだね。
「僕からも一応報告。陛下が友好国に対しても、ダンジョンのトラップ化技術を伝えることになったよ。ただし技術は超極秘扱いで、核をある程度供出してもらうのが条件だけどね。我が国だけが魔道具の恩恵にあずかって、発展しすぎるのは良くないからね。数年後には、魔道具技師を目指す留学生も受け入れる計画もあるよ」
「あの、あたしとんでもない事聞いちゃってない?国の今後の政策なんて、あたしが聞いちゃダメでしょ」
「残念だけど、君は法衣子爵だよ。マイスターなら、今の話は聞いておくべき立場なんだ」
マギ君にしては、珍しく強めの発言だな。
これはレリアさんに、立場の自覚を促してるんだろうね。
「そうだった。あたし平民じゃなくなったんだった…」
「心配すんな。法衣子爵位持ってても、マイスターはあくまで自身の安全の為の物だし、法衣だから義務もそれほど多くは無いぞ」
気配りソード君、マギ君とレリアさんの両方をフォローしてるな。
でも、安心させすぎもまずいから、私もちょこっとだけ発言しよう。
「レリアさん。爵位に引っ付いて義務は増えるけど、義務なんて大人になっていけば増えるの当たり前だから、ちょっとずつ慣れて行けばいいのよ。シャルちゃんやマギ君なんて、義務だらけなんだよ」
「アリスさん、肩が重くなるから止めて」
「わたくしも帰りたくなくなってしまいますわ」
しまった。話題のチョイスミスった!
マギ君とシャルちゃんの背中に、大荷物が幻視出来てしまった。
「…ごめんなさい」
「みんな、そんなにいっぱい義務背負ってるの?」
「国から爵位や称号貰うってことは、その権利以上に働けってことなんだ。だが、マイスターは俺やマギが義務を押し付けないように出来るから、安心してくれ」
「……ひょっとして、この中であたしが一番背負ってるものが少ないの?」
その質問はあかーん!!
さっき私が失言したばかりじゃん!
みんなが自分の背負ってるものを思い浮かべちゃって、一斉に凍り付いた。
「その質問には誰も答えられないね。背負っている物の重さは、たとえ同じ義務だったとしても、それぞれ感じ方が違うからね」
さすが領主様。みんなが沈黙する中、大人な回答をしてくれたよ。
「…ありがとうございます。あたし、いつまでも子供じゃダメなんだってことは分かりました。少しずつだけど、頑張って考えてみます」
「ありがとう。大人としては、嬉しい答えだよ。…さて、大人な私は、そろそろプレゼントを頂こうかな」
領主様、話題チェンジありがとー。
固まってたみんなが、再始動出来たよ。
「じゃあまずは俺とマギの合作。これだ」
ソード君が領主様に渡したのは、結構な長物。
領主様が巻いてある布を取ったら、ハルバートが出て来たよ。
「くっくっく。これは狩りに使えと言うのかな?」
「ああ。父上はロイヤルスイートの敷物用にヒグマ狩りに行ってたろ。すげー楽しそうな笑顔で帰って来てたけど、大剣修理に出してたから、こっちの方がいいかと思って」
「確かに戦用の大剣では、間合いが足りずに苦労した。これを持って、是非とも狩りに行かねば。ありがとうソード、マギ君」
領主様、ちょっと獰猛な笑顔になってるよ。
おっと、続いては女性陣だね。
私は、リアーナお姉ちゃん(
女性陣みんなを代表して、リアーナお姉ちゃんが領主様にプレゼントを渡します。
「伯父様、本日の料理とこれは、女性陣みんなからの感謝の気持ちです」
渡されたプレゼントに掛かっていた布を取った領主様。
姿を現したのは、魔道具式の車輪・スキー板換装型キックスケーターです。
「おお、これはソードやアリスさんが乗っている物だね」
「はい、キックスケーターとスノースクーター、両方に使えるものです。伯父様は街中の移動は徒歩でされてますが、商業区のはずれとかだと時間がかかると思って、女性陣みんなで作りました」
「ああ、助かるよ。領主が街中を駆けるわけにもいかず、かといって車を出すほど遠くも無い。これは時間の節約になるね。手作りの、おお!しかも紋章入りの物を未婚女性からいただいてしまったぞ!昨年に引き続き、なんとも嬉しい。皆、ありがとう!」
出た!領主様の超でれでれ顔。
めっちゃ嬉しそうだ。
途中で紋章に気付いたんだね。
紋章は例によってネージュ作。
私でもなんとかなりそうだったけど、ネージュにも参加してほしかったからね。
続いては領主様からみんなへのプレゼント。
「私から皆へはこれだよ」
これは、ジュエリーボックスなのかな?
女性にはワインレッド、男性には紺の、それぞれ金色の装飾が入ったベルベットっぽい外装の箱が渡された。
領主様に促されて箱を開けたら、細いゴールドチェーンのブレスレットが入ってた。
……なんか、ワンポイントでダイヤっぽいのがぶら下がってるんだが…。
女性陣、ため息出てるぞ。
ふとソード君を見たら、男性は5mm幅くらいの、細かい模様が彫金されたバングルタイプだった。
早速ソード君ははめてるし。
「公爵家のご令嬢には不釣り合いかもしれないが、皆に同じものを贈りたくてね」
「ご領主様、そのご配慮には感謝いたしますが、さすがにこれは高価すぎるのではございませんか?」
「申し訳ないが、私には女性への贈り物がさっぱり分からなくてね。陛下がいらっしゃった折りに相談したら、これが届いたんだよ」
領主様、女性への贈り物を王様に相談しちゃってるよ!
「さようでございましたか。ご領主様のお気持ちと、国王陛下のお見立て。ありがたく頂戴いたします」
「ありゃりゃ、王様のお見立てじゃあ、受け取らないわけにはいかないよね」
「こ、こ、こ、これ、王ひゃまが!?」
あ、レリアさんこわれた。
すごいぷるぷるしてる。
「レリアさん。これはね、気の良いお金持ちのおじさまに知り合って、もらったくじがたまたま当たりくじだったくらいの感覚でいいと思うよ」
「うわ、ぶっちゃけすぎだろ!」
「はははははは。その通りだよ。私が陛下に相談してしまったことが悪かったんだ。申し訳ないのだが、受け取って欲しい」
「は、はひ。あ、ありがとうございまひゅ」
みんなそれぞれにお礼を言って、頂いたブレスレットを身に着けた。
イリアナさんとレリアさんは、手が震えて着けるの大変そうだったので、シャルちゃんとエリーヌさんが手伝ってた。
「姉妹ちゃんは、意外に落ち着いてるね」
「私たち、国王陛下から直接お褒めの言葉を賜ったのよ。あの時の緊張に比べたらねぇ…」
「そうだよね。私、緊張で息の仕方忘れそうになったもん」
をう、気楽にほいほい人に会っちゃう王様だな。
私たち、子供なのに…。
領主様のリクエストで、みんなで装身具着けて記念写真。
でも、ここで困った。
領主様、大きな写真が欲しいって言うからA4サイズのガラス板に焼き付けようとしたんだけど、透明なガラスに焼き付け出来る人は全員被写体。
急遽私が変換水晶作って、領主様に撮影してもらった。
額縁付けて、執務室に飾るそうだ。
パーティ後、中庭上で雪像づくり。
理由は、中庭を除雪した雪が左右に山になってて、景観いまいちだったから。
ソード君とマギ君は、剣を掲げだ甲冑騎士作ってた。
なかなかリアルに、細部まで作り込まれてた。
シャルちゃんとエリーヌさんは女神像。
この世界の女神像なんて初めて見たけど、優しそうな表情の女神様だね。
でも、なぜか大量のパンを両手に抱えてる。
イリアナさんとレリアさんは工房棟作ってた。
円筒形、意外に難しいよね。
姉妹ちゃんは、かまくら作ってるのかと思ったら、猫バスの顔だった。
大口開けてて、中に入れるの。
瞳孔が明り取りのスリットになってた。
ネージュはいつものごとく、本しめじはうす。
もう定番だね。
私はペアからあぶれたので、一人でペガサス作った。
躍動感出そうと、後ろ足で立って翼を広げてる構図にしたのが失敗だった。
後ろ足と翼の付け根が、荷重に耐えられずポッキリいった。
仕方ないので、お腹の下に氷で透明な補助柱立てた。
ポーズも翼を掲げてるようなのに変えて胴体への接着面積を増やし、強度出そうと圧縮しまくってたら氷像になってしまった。
まあ、雪像コンテストじゃないからいいか。
みんなの雪像見てたら、お城に残った人たちも見物に来た。
褒められるのもなんか恥ずかしいので、昼食作りに城内に戻りました。
朝が豪勢だったのでお昼は軽めに済ませ、いざ帰ろうとしたら吹雪き出した。
うにゅう、帰れん。
仕方なく七階の会議室で、身体の内部構造のお勉強会。
男どもよ、男性特有の器官はよく分からん。男性医師に聞け。
女性陣には、工房棟で下腹部の講習しよう。
お勉強会も終わりかけたころ、ソード君に念話で転落事故発生の知らせが来た。
診察室に怪我人運んでるらしいので、みんなで診察室に移動した。
怪我した兵士さんが運ばれてきたけど、ぱっと見で分かっちゃう。
肘が増えてるもん。
左上腕骨骨折だね。
まずは痛みを取るために痛覚遮断。
兵士さん、痛みが無くなったら、とたんに元気になった。
みんなのお勉強に診察と処置を見せたいって言ったら、気軽に了承してくれた。
室温上げて上半身裸になってもらって、左上腕の内部診断。
みんなに念話繋げて、私の感じてる内部画像を転送しながら説明します。
「見事に折れてるけど、折れた外側の筋肉も結構傷付いてるね。何かにぶつけたの?」
「門の見張り塔の階段が凍ってて、足滑らせて落ちた。かなりころがってから左腕下にして止まったんだ」
「多分階段の角にぶつかったんだね。処置するよ」
ベッドに横になってもらい、内部診断しながら骨の位置を確認しつつ、治癒魔法で軽く骨を接合。
肩から肘近くまでを、包帯巻いた後に粘土ギプス固定。
9.0ポーション飲んでもらって、追加問診。
さっきから右手がお腹さすってるもん。
「お腹も打ってるみたいね。念のために、全身チェックしていい?」
「…下も脱ぐのか?」
ちらちら女性陣見てるね。
若い女性陣の前で、下を脱ぐのは恥ずかしいよね。
「そのままで大丈夫だよ」
「なら頼む」
了承してくれたので、頭から全身チェック。
頭は大丈夫。背中や肘、太ももも結構打ってるけど、ポーションで大丈夫そう。
でも、さすってたお腹の中、血が漏れてた。
「お腹の中で、血が出てるよ。まずは出血止めるね」
割と太めの血管が破れて、結構な量の血が出てたので、治癒魔法で血管を修復した。
「血は止まったけど、お腹の中に出た血が溜まってる。抜いた方がいいけど、お腹に小さな穴開けていい?」
「え?まじかよ。腹の怪我ってやばいんじゃ…」
「大丈夫だよ。溜まった血を抜けば、数日で直るから」
「そうなのか?…頼む、やってくれ」
「穴を空ける時の痛みを無くすのに、一瞬だけ痛いから我慢してね」
「お、おう」
腕の痛覚遮断の時は骨折の痛みと大差ないから気付かれなかったけど、お腹は痛んでないから、突然やったら驚かせるからね。
血溜まりの位置見ながら、金属ドレーン刺す最適な位置を決めて、一瞬で痛覚遮断。
兵士さん、ビクってなったけど、もう刺す位置の痛覚消えたよ。
金属ドレーンと自分の手を消毒して、患部を内部診断しながらぶすり。
「のわ!こんな太い針刺されてるのに痛みが無い。まじか!?」
ドレーン管からお腹に乗せたステンレストレイに血が出始めます。
「…なあ、俺、血が足りなくならないか?」
「兵士さんの体格だと、大ジョッキ一杯分までは大丈夫だよ。溜まってる血はコップ一杯も無いから」
「そ、そうなのか…」
「でも、普通は目を逸らすんだけど、よく見てるよね」
「あ、いや、痛くないから変な感じだ」
「よし、抜けた」
金属ドレーン引き抜く前に、筋肉の内蔵側を締めてから抜くと、出血しないよ。
後は注射器で穴にポーション注入して、筋肉結合したら、施術はおしまい。
手を洗って、万一の緊急用のポーションと骨折箇所修復用に丸薬渡しときます。
「今日はここで夕方まで安静にして、誰かに担架で部屋に運んでもらって。トイレ行く時も、お腹と左腕は力入れないようにゆっくり動いてね。三日もすれば普通には動けるけど、お仕事は十日後まで禁止ね」
「うへぇ、人少ない時にやべえな」
「無理して悪化したら、もっとみんなに迷惑かけるよ」
「わかった。おとなしくしとく」
急患の処置が済んだので、器材洗って消毒してから会議室に戻って、さっきの処置の補足説明しました。
「きれいに折れてるって、きたない折れ方もあんのか?」
「ぽっきり二つに折れてたからそう言ったの。折れた骨の破片とかが散らばってると、割れた壺みたいに破片全部集めてくっつけなきゃいけないからめんどいのよ」
「めんどいって…。まあ、よくわかった」
「全部集めなきゃいけないのかな?」
「破片が残ってると、動かした時に神経や血管を傷付けるかもしんないから、出来るだけ集めたいの」
「そうか、後の事も気にしなきゃだめだよね」
「二の腕が骨折した場合は、肩まで固めてしまうのですか?」
「うん。無意識に動かされても困るし、腕の重量を骨折箇所に掛けたくないからね。さらに三角巾で首に吊っといたから、無茶しなきゃ一週間くらいでギプス取れるよ」
「アリスさん。お腹に血が溜まったら、全部抜かなきゃダメなの?まだ少し残ってた気がしたんだけど」
イリアナさんは内臓破裂で弟さん亡くしてるみたいだから、お腹の処置が気になるんだね。
少し情報追加しておこう。
「お腹の中に溜まった血は徐々に吸収されてくんだけど、少し量が多かったから、内蔵圧迫したりしないように抜いたの。
さっきの人は破れたのが血管のごく一部で、治癒魔法使って修復出来たからあんな施術だったけど、内臓が大きく傷付いてたりしたらお腹切り開いて破れた部分にポーションぶっかけて塞がなきゃいけないの。
その時は、お腹開いたついでに血も捨てちゃえばいいよね。
ほんとは全部血管に戻したいんだけど、空気に触れた血は固まりやすいし内臓に触れて汚れてるかもだから難しいんだよ」
「…ありがとう。すごく参考になったわ」
「うん。えっと、レリアさんは何かある?」
「ごめん、覚えるだけで精いっぱい」
「まあ、いざとなったら私が今日みんなに念話で内部診断見せたみたいに、医師に見せて判断してもらう方法もあるからね」
「あ、そんな手もあるんだ。ありがと」
レリアさんはいっぱいいっぱいみたいだね。
まあ、今日の症例と処置は、初心者への題材には不向きだよね。
今後も診察室に同行してもらって、小さな怪我から慣れて行ってもらおう。
会議室出たけど、依然お外は猛吹雪。
こりゃあ、今日は帰れないね。
「すごい吹雪ですわね。少し怖くなってしまいますわ」
「辺境は大自然の中で生きてるようなもんだから、より身近に大自然の力を感じるよね」
「俺もこっち来た時は衝撃の連続だった。でっかい山脈あるし、村の連中は気さくで親切だし、森の前には巨人の階段みたいなのあるし、森に入ったらスライム強ええ上に猛獣徘徊してるし、挙句の果てにそんな森の傍で幼女が一人暮らししてた」
「果てって…」
「まあ、その後の衝撃に比べたら、可愛いもんだったけどな」
く、この流れはまずい。
ソード君にはすごい迷惑かけてる自覚あるから、下手な発言出来ない。
「そうですわよね。七歳の幼女が王家の宝である妖精の杖の仕組みを解き明かして水晶ランプを作り、スライムの討伐数と祝福の関係性を解き明かし、スライムを安全に討伐するトラップを作り上げ、魔道具と言う素晴らしい発明をもたらし、グレード9.0などという高品位ポーションを作り出し、王族の住まいを凌駕する快適なお宅を作り上げ、更には医療魔法まで発明してしまいましたものね」
「……シャルちゃん、もう勘弁してください。胸が痛くて倒れそう」
「え?わたくし、すごいと言いたいのであって、アリスさんを苦しめるつもりなど、全くございませんのに…」
「ねえ、今、水晶ランプや魔道具を、アリスちゃんが作ったように聞こえたんだけど」
「そうだぞ。スライム式浄化槽や自走車、他にもいっぱいあるぞ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。もうほんと勘弁して」
「あれ?今聞いた発明のほとんどって、マギ君とソード君の発明って、私、王都で聞いてたんだけど」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい私が辺境でのほほん暮らししたくてマギ君とソード君を身代わりにしました犯人は私ですごめんなさいごめんなさい…」
「さすがにかわいそうだよ。アリスさんのおかげで僕の立場は確立されたし、ソードも子爵位賜ったから、感謝してるんだよ」
「わたくしも臨終直前でアリスさんの知識に助けられました。本当に感謝しております」
「ぐす、マギ君、シャルちゃん、ありがとう」
「すまん、俺の言い方が悪かったみたいだ。謝るから泣き止んでくれ。な?」
ソード君に頭撫でられて、ちょっと復活した。
「う、うん。わかった」
「こういう反応は、年相応で可愛いいんだよねぇ」
「でも、王子様と子爵様を身代わりにして、こき使っちゃってるけどね」
「がふっ!!」
最後に姉妹ちゃんからクリティカルくらって、崩れ落ちた。
この後みんなから慰められたけど復活しきれず、ネージュ抱いてちょっとお昼寝した。
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