2年目 冬 1/2

雪が舞い始めてからそろそろ一ヶ月。

お外はすっかり雪化粧。


シャルちゃん、スノードームの情景が実際に見られたと、いたく感動してた。

イリアナさんもしっかり積もった雪は初めてらしく、シャルちゃんと一緒に外に突撃。

エリーヌさんも、心なしか嬉しそうに付いて行ってた。


私とレリアさんは、部屋でお茶飲みながらまったり。

雪国っにとっては、雪景色は暖かい部屋から見るのが一番だよ(異論は認める)。


しばらくして、三人が耳とほほを赤くして帰ってきた。

全身熱魔法と重量軽減教えた。

シャルちゃんに、『先に教えてください』とむくれられた。

可愛かった。


うちに来たみんなも、生活に徐々に慣れて来たみたいで、今では家事も楽しくわいわい言いながらこなしてる。


みんなで楽しく過ごしながら、今日もお城通い。

今はお城の薬草畑に来てるんだけど、いつもとは違ってみんな目隠ししてるの。

そろそろ第二段階に移行しようと思ってね。


「まずは私がポーション作るけど、魔力感知で出来るだけつぶさに感じてみてね」


今日はゆっくりと分かりやすくポーション作ります。

出来たポーションは、グレード5.0。

ゆっくり作業すると、5.0前後にしかならないんだよね。


「じゃあ、目隠し外して、一人ずつポーション作ってみよう」

「え?いきなりですの?」

「いや、一ヶ月間ずっと私のポーション作り見てたから、やり方は分かるよね」

「手順は覚えていますが、一段階ずつ指導を受けていくのではないのですか?」

「うん。だって、もうみんなポーション作れちゃうから」

「アリスさんの事を疑う訳ではございませんが、わたくし一度も作業していませんわよ」

「うん、大丈夫。試しにやってみようよ。それに、普通は何度も失敗して覚えるものでしょ?」

「そうですわね。では、わたくしから作らせていただきますわ」


シャルちゃんは、慎重に手順をこなして行く。


「出来ましたけど、ポーションになったのでしょうか?」

「測ってみて」


シャルちゃん、初めて作ったポーションを、恐る恐るはかるんで測定。


「4.5と出てしまいました」

「いや、しまいましたって…」

「ですが、普通はあり得ませんでしょう?初めてで成功してしまうなんて…」

「でもそれ、れっきとしたポーションだよ。しっかり売れるレベル」

「…」


シャルちゃん、ちょっと呆然としちゃってる。


「僕もいいかな?」

「どうぞどうぞ」



「グレード5に近い……。マジで?」

「全部自分でやったじゃん」

「わ、私もやってみる!」



「グレード5.0。…なんで!?」

「あたしにもやらせて!」



「うそ…。グレード5.5が、こんな簡単に…」

「よし、俺も!」



「うがっ!5に届かねえ!」

「仕方ないよ、作り慣れてないんだから」

「あのねぇ。あたしなんか、2.0が出来るまでにどれだけ失敗したことか…。初めて作って4.5超えてて文句言ってたら、世の錬金薬師が発狂するわよ!」

「はーい。じゃあ、みんなで順番にポーション作りしてみよー。ついでだからエリーヌさんも混ざってね」

「よろしいのですか?私は受講メンバーではございませんが」

「もうエリーヌさんもみんなの仲間だから。仲間外れは寂しいよ」

「そうですわよ。この一ヶ月、みなさんと共に過ごした仲間なのですから、わたくしもエリーヌに参加して欲しいですわ」

「…承知しました」


さすがシャルちゃん。エリーヌさんも参加だ。

エリーヌさん、シャルちゃんの護衛も兼ねてるから元々レベル6近くだったし、ちょこっとうちのダンジョンでぷすってもらって、7まで上げたからね。

せっかくみんなと一緒になってエリーヌさんも頑張ってくれてたんだもん。だから、ちゃんと作れるはずだよ。


みんなにはポーション作ってもらって、私は一人、せっせと薬草のお世話しました。


終わりごろには、全員5.5以上を作れるようになってた。


「うーん。これは器材増やさないとダメかな」

「手配しとく。俺も6.5目指す」


みんなで器材洗って、六階に移動しました。

今日は診察予約、無かったからね。

寒くて泊まりに来る貴族様いないし、みんなも冬ごもり感覚抜けて無いから、人の動きも少ないもんね。


「ねえ、あたしたちって、何か修行した?」

「手の代わりに魔法使ったことと、暗くても明かり使わなかったくらい?後は普通に、ていうか優雅に遊んで暮らしてた気がする」

「そうですわよね。お二人と違ってわたくしはポーションを作ったことがございませんでしたの。仲の良いお友達と一ヶ月間楽しく共同生活していただけでしたので、正直なところ進展の無さが不安でしたわ」

「僕もだよ。みんなと行動出来るのは三日に一度だったから、不安が大きくなってたんだ。でも、今日の結果を見たら、確実に、そしてかなり早く進歩してたみたいだね」

「知らぬ間に、侍女の私までポーションを作れるようになっていました。感激です」

「ま、アリスだからな。慣れろ」

「…正直、ソードがうらやましいよ。こんなすごい事に慣れられる君が」

「はっはっは。これで驚いてたら、身が持たん」

「この人、全くの素人が一ヶ月で、しかも失敗無しで5.5ポーションまで作り出せたのに、平然と笑っちゃってるよ」

「私のお父様、4.0ポーション作りに成功するの十回に一回くらいなのよ。それを、一ヶ月遊んでたら超えちゃってたわ。さっきから何度も頬つねってるんだけど、この痛みも幻覚かしら」

「言っとくぞ。こんなの序の口だからな」

「「…」」


ぬ、何か後ろでぼそぼそしゃべってるけど、よく聞こえないな。

内緒話だったら聞いちゃ悪いから、音に集中するのは止めとくか。


「さてさて、何で無人の六階に来たか?それは、かくれんぼをするためでーす」

「は?かくれんぼって…。六階は冬になって誰も来ないから出来るだろうが、何が目的だ?」

「個々の魔力の判別。だからルールは、見つける前に『〇〇みーっけ』って声かけてからね」

「よし、やってみよう」


ソード君、いきなり乗り気になったな。

で、私以外が順番に鬼になってかくれんぼしたんだけど、順番が一周しただけで結果出た。

なんだこれ?みんな予想以上に魔力の質を判別出来てるぞ。

これは、次の段階に進んでも良さそうだね。


「はーい、みんなお疲れ様。すごいね。みんな予想以上に魔力の質の違いを判別出来てるね。じゃあ、次の段階に行っちゃうか。次は、魔力まねっこだーれだ?ゲーム!」

「なんだそのネーミングは?」

「いや、今とっさに付けたからまんまなの」

「どうやるんだ?」

「廊下の端に一人だけ後ろ向きに立ってもらって、残った中の一人だけが近づいてくの。で、探知圏内に入ったら、後ろ向きの人が近づいた人をいい当てるの。ただし、近づく人は、他の誰かの魔力をまねっこして、近づくの。後ろ向きの人がいい当てたら勝ち。間違ったら近づいた人の勝ち」

「魔力を真似る?」

「ソード君はそのまま目を瞑ってみて」

「おう」

「今、私がいる位置分かるよね」

「ああ、わかる」

「で、こうすると?」

「…うわ!マギが二人になった!」

「これが魔力のまねっこ。慣れないと魔力を真似るのに時間がかかるから、まねっこしてから近づくの」

「どうやって真似るんだよ?」

「自分の魔力と真似たい人の魔力、違いは分かるよね。で、自分の魔力を、同じようになるようにイメージして魔法を発動するの。少しやってみて」

「おう。………うーん?…あ、ちょっと分かったかも。こうか?」

「おお、変わって…って、これ私じゃん!でも、半分くらいソード君の魔力も残ってるよ。言い当てる人は、そこで判別するんだよ。みんなも試してみて」


しばらくみんなが変顔しながら身をよじったり、変なポーズしたりてる。

うん、変化は出来てるね。

でも、完全に真似るまではいってない。

これならゲームとして成立しそうだね。


「じゃあ、やってみよう」


このゲーム、残念ながら私は不参加だ。

ほぼ完ぺきに真似られるし、わずかな違いも読み取れちゃうから一人勝しちゃうもんね。


私は、一人で貴賓控室という名の展望室から雪景色眺めてたら、みんながやってきた。

へろへろで。


「アリス、この遊びはきついぞ。魔力喰い過ぎだ」

「ありゃりゃ。とりあえずみんな、自分で作ったポーション飲んで休憩しよう」

「うん、そうさせてもらうよ。取得条件の最初に有った『レベル7以上』、ほんとそうだね」

「似せれば似せようとするほど、魔力消費が激しくなるのですね。習得条件が厳しいはずですわ」

「じゃあ今からは、魔力ほとんど使わない魔法を試してみよう。ソード君、マギ君、シャルちゃんは習得済みだから、ちょっとお休みね。残りの人は目を瞑って、頭の中で私の魔力を思い浮かべてみて」


みんなそれぞれに、楽な姿勢で瞑想みたいになってる。

うん、やっぱりみんな覚えがいいね。私と繋がった感じがあるよ。


【ぴんぽんぱんぽーん♪これが念話でーす】


私は、私以外の全員に、念話飛ばしてみた。

既に習得済みの人には、私が相手の魔力を覚えてたら、すぐに繋がるからね。


「えっと、声は聞こえてるけど、念話ってどういうこと?」


レリアさんから質問来た。

そうか、目を瞑ってるから、気付かないか。


【目を開けて私を見て。私、しゃべってる?】


「うそ、口が動いてないのに、声が聞こえる」

【そうだよ。私に、頭の中でだけ話しかけてみて】

【え?頭の中で話しかけるって…】

【レリアさんは思考ダダ漏れ。声になって考えてることが届いちゃってるよ】

【え?え?】

【次はエリーヌさん、どうかな?】

【…これで伝わっているのでしょうか?】

【うん、ちゃんと伝わってるから大丈夫だよ。じゃあ、イリアナさん】

【えっと、何を話したらいいんでしょうか】

【はい、聞こえたから大丈夫だよ。これで全員念話出来るね】

【アリス、壁の向こうとか、距離が離れると魔力食うぞ】

【うん。これからは、伝えたいことがあったら、とりあえず念話してみるの。返事が無かったら探さなきゃいけないけど、それも魔力感知で探してね】

【まいったね。王家には習得難易度がかなり高い魔法だって報告されてて、僕も習得には苦労したけど、相手の魔力の質を理解してるとこんなにも習得早いんだ】

【うん。レベルがある程度高くて森に入って気配を探る人だと、無意識に判別しちゃってる人もいるから、そういう人は覚えられると思うよ。マギ君やシャルちゃんは、多分念話出来る距離が伸びてると思う】

【だとうれしいね。…上位の騎士団員が人の気配を読めるのって、まさかこれなのかな?】

【分かんないけど、私たちは、気配だけじゃなくて個人の特定も可能だよね】

【さっきのゲーム、半分くらいしか当てられなかったよ】

【初めてで五割の的中率なんだから、遊んでるうちにもっと上がるよ】

【こんな言い方はおかしいかもしれないけど、真剣に遊ぶよ】

「うん。思いっきり遊ぼう!」

「なんで急に声出した?」

「…誰も言葉を発しない部屋に、耐えられなくなった」

「だろうな…」

「……えー、コホン。念話は、みんなが便利に使っていけば上達するから、次に行くね。

もうみんなは、他者の魔力どころか、物の魔力の違いまで感じ取れるようになってる。

そうなると、自分の魔力なんて手に取る以上に分かっちゃう。

実際、ポーション作りで自分の魔力を混ぜる時、魔力見ながら調整して混ぜたはず。

じゃないとグレード5.5なんて無理だからね」

「そうですわね。手から放出する魔力が、まんべんなく行き渡るように調整しましたわ」

「うん。だったらもう、自分の中の魔力がどうなってるかなんて、簡単に分かるはずだよ。また目を瞑って、魔力感知に集中して、自分の中の魔力を感じてみて。箱の中身を知ろうとするみたいに」


みんなが押し黙って集中してるので、私は変化があるまで待ちます。


「うえ、なにこれ気持ち悪い!」


まずはレリアさんが出来たか。


「これが、わたくしの身体ですの…」

「うん、なんというか、すごい衝撃的な感覚だ」


シャルちゃんとマギ君も行けたね。

エリーヌさんも困惑した表情で手を見てる(目は瞑ってるけど)から、大丈夫だね。


「ぬお!?どうしたのイリアナさん?泣くほど気持ち悪かった?」

「い、いいえ、違います!弟が事故に遭った時にこれが出来ていたら、助けられたかもしれないと思ったら、つい…」

「…開発遅くてごめんなさい」

「とんでもありません!今の私がここまで出来るなんて、全部アリスさんのおかげです!」

「現時点では、まだ自分の体の中をぼんやりしか見れないけど、魔力同調がうまくなれば、患者さんの身体の中も分かるようになるからね。ただし、ここで約束。身体の中の魔力感知は、患者さんの診察時と、相手が健常者だったら同意があった時しか絶対に使わないで。意味は分かるよね」

「そうだね。これは同意なく使っていいものじゃないね。異性になんて使ったら、もう犯罪だよ」


魔力感知って実際に目で見てるのとは全然違うの。

最初は精度の悪い魚群探知機みたいなんだけど、人によって色が異なる感じ。


で、慣れてくると段々鮮明になって、物の魔力も感知出来るように。サーモグラフィーっぽいか。

この時点で、人の魔力に柄っぽいのが見えだすの。

精度が上がると、色柄ものっぽい物体が歩いてる感じ。

遮蔽物があると、遮蔽物の厚みや密度で向こう側がぼやける。

でも、三次元的に感じてるらしく、人に隠れた人でも感じ取れる。


そして体内魔力を見る(感じる)と、最初はぼやけた色柄付きレントゲン?。


で、更に精度が上がると、無理に例えるなら、色柄付きの3D化したMRI画像かな。


まあ、私の脳が、魔力感知で感じたものをそういうふうに処理してるってだけだから、他の人がどう感じてるかは分かんないけどね。


全然エッチっぽくは無いけど、表皮近くを集中して見ちゃうと、服なんか関係なく色んな場所の形状や大きさまで分かっちゃうからね。

プライバシーの侵害どころか、完全に痴漢レベルの犯罪になっちゃうよ。


え、私?

私は患者さん見る時、内部しか見ないようにしてるよ。

怪我や打ち身なんかは、患部だけに集中して見るんだ。


あれ?いつも習得早いはずのソード君が、何にも反応無いぞ?


「ソード君、ひょっとしてうまくいかない?」

「…あ、いや、出来てるぞ。面白くて心臓の動き見てた」

「この人、面白がって次の段階に行っちゃってるよ。臓器や血管、神経の働きなんかは、見るの慣れてからだって」

「あ、そうなのか。なんか膨らんだり縮んだりして面白かった」

「もう少し正確に見れるようになったら、どうやって血液循環させてるのかも分かるから、その時まで説明はお預け」

「わかった、頑張る」

「改めて思ったよ。ソードって、すげー」

「わたくし、少しは慣れたつもりでしたのに、まだまだですのね。精進いたしますわ」

「あたしは普通の人だから!この人たちみたいにはなれないから!」

「でも私たち、高グレードポーションを失敗なく作れちゃったし、暗闇でも歩けちゃうし、見えてない人も判別出来ちゃう。あ、念話も出来るし、自分の体内も覗けるわね」

「既に手遅れっ!?ポーション、ほんとに序の口だった!」

「…ねえ、マギ君って、一般人から急に王子様になったんだよね?」

「うん、そうだよ」

「この二人に、有名人になった時の注意事項とか教えてあげられない?」

「その方がいいね。一緒に学んだ人たちが、食い物にされるのを見るのは忍びないね」

「あ、あたしたち、食べられちゃうの?」

「この国の王子としては申し訳ない限りだけど、今までの感覚でいると、まず間違いなくね」


みんなで帰郷後の対応策を考えた。

マギ君やシャルちゃんが後援に就く話も出たが、実績の無い二人だと後援しにくく、保護も弱いらしい。


後続のためにもと、マギ君は国王様に上申して新たな後援制度を考えることになったんだけど、王家が主体で始めた新規分野の魔道具とは違い、医療分野は利権が複雑で根回しに時間がかかるっぽい。


私の特級薬医師称号も、高グレードポーションやポーション軟膏・丸薬作成、医療魔法開発という大きな功績プラス、辺境の薬師だから自分たちの収入も上がる上にテリトリーかぶらないからと、何とか認定されたらしい。

うん。王都に戻るみんなに特級薬医師称号与えるなんて、絶対反対されるな。


マギ君は王子様の学友枠に入れようとしてくれたんだけど、ソード君がストップかけた。

貴重な医療魔法の使い手を個人で囲ってると、おこぼれに預かれない欲深い人たちから非難されかねないからって理由。


婚姻に関しても、エリーヌさんも子爵家の三女なので、シャルちゃん以外は上位貴族からの婚姻申し込みが断りづらい。


そこで、王家が既に保護を打ち出してる魔道具技師のマイスター資格を取ることになった。

マイスターは法衣だけど子爵家当主扱い。

婚姻は、嫌なら王家が断ってくれる。

分野違いの応急措置的な対応だけど、ここには認定権限を持ったマギ君とソード君がいるからね。


王子様、公爵家ご令嬢、子爵家当主で次期伯爵、おまけで特級薬医師が、自分たちの為に真剣に協議してるのを見たイリアナさんとレリアさん。

自分たちが思った以上に貴重な人材になりつつあると自覚したらしく、青い顔で涙目になってオロオロしてた。

エリーヌさんは、シャルちゃんとマギ君に、『どこまでもお仕えさせてください』なんて言ってるし。


毎月やってる認定試験が十日後にあるから受けることになったんだけど、何の修行もしてないのに無茶言うなって当の本人たちから言われてしまった。


魔力変換水晶づくりは魔学研究所の秘匿事項なので、作り方知らないとそうなっちゃうよね。

私も、今回の工房棟宿泊メンバーには説明してないし。


「アリス、どんな感じなんだ?」

「作り方さえ知れば、現時点でマイスターに一発合格」

「わかった。まあ、俺たちと一緒に魔力使って遊べる時点で、ある程度予想はしてたがな」

「あの、アリスさん。今のお話ですと、わたくしたちは既にマイスターになれる実力があるということですか?」

「そうだよ。一ヶ月間頑張ったんだから、当然だよ」

「いや、頑張ったって…。あたしたち、ほぼ遊んでただけだよ」

「暗闇で折り紙折ろうと思ったら、詳細な魔力感知と魔力制御、繊細なベクトル操作は必須。粘土で動物の置物出来てるんだから、圧縮、融着、水消去も使ってる。お外で雪だるま作ってる時は、全身熱魔法と重量軽減、さらに加工のベクトル操作も同時に使ってるし。料理では、お湯出したり食材カットもしてるじゃん。食材も凍らせてから保存庫に入れてたし。あと、スノースクーターもエアクッションで浮かせてたでしょ」

「え?私たち、遊んでわいわい楽しく共同生活してただけなのに、修行しちゃってたの?」

「今数えてみたけど、重複してる分を抜いて、変換水晶に出来る魔法が九種類あるよね。マイスター合格ラインは、変換水晶七種類なんだけど…」

「あ、髪を乾かすのに、温風魔法も使ってたんだった」

「アリス様、透明なガラス板に風景やご友人のお姿を焼き付けてもおりました」

「ぅおい!透明なガラス板にって、それは俺も聞いてねえぞ!」

「あ、ごめんごめん。遊んでる途中で出来たから、言い忘れてた」

「…僕、王都で後進育てるのに、一年かかってまだマイスター合格者出てないんだけど…」

「それはゼロからだから仕方ないよ。私は、ほとんど出来そうな人の最後の仕上げをしただけだから。それに医療魔法はまだまだ時間掛かるもん」

「…ねえソード。君の従妹姉妹って、五ヶ月でマイスターだったよね?」

「マギ、いい加減慣れろよ。これがアリスだ」


またソード君の『慣れろ』が出た。

文句言いたいけど、過去の『やらかし』持ち出されると反論出来ないから、むくれるだけで我慢しよう。


みんなで楽しく夕食摂って、お風呂でお湯でネージュとか作って騒いでから就寝です。



翌朝、街と城を往復してる定期便雪上車に乗せてもらい、おうちに帰りました。


工房に着いたら、シャルちゃんが真面目な顔で話しかけて来た。


「アリスさん。わたくしたちが遊んでいたと思っていたことが、全て修行になっていたのですね」

「私なりに、遊びに修行を取り入れてみたの。人って、楽しい方が覚えるの早い生き物だから」

「まさか、お昼寝まで修業とは言いませんわよね」

「修行じゃないけど、意味はあるよ。生活や遊びのほとんどに魔法を使うから、レベル7だと夜まで魔力が持たないんだよ。だから途中で補給してたの」

「どこまで深くお考えなのですか…。この生活を王都でも行えば、マギ様の助けになる方々が増えるのでしょうか」

「うーん、ある程度効果はあると思うけど、大人の人は真剣に楽しんでくれるかなぁ…」

「子供世代には、充分に有効ですわね」

「でも気をつけてね。子供は力に溺れやすいから」

「……導入は、慎重に皆と協議してからにしますわ」


その日から、魔法を使った楽しい工房棟の生活に、ポーション作りと魔力変換水晶づくりが加わった。

魔力使用量がポーション作りで増えちゃってるので、変換水晶づくりは寝る前に一個だけ。


最初は水生成の変換水晶を作ってもらった。

これが見習いから魔道具技師への試験になるからね。


一定量の核の粉でどれだけの水量を生成出来るかを測り、時間当たりの水量と核の消費量を計算して、一定値以上だと合格になる。


見習いは魔力制御力を身に付けるためにレベル5で止められてるけど、合格時点でレベル7まで上げることが許可されるんだ。


商品になる変換水晶いっぱい作って欲しいからレベル上げるんだけど、7までなのはレベルアップに必要なスライムの数の都合。

檻詰めスライム、まだまだ需要に追い付いて無いからね。


みんなの作った変換水晶は、文句なしの合格品質だったよ。


でも、マイスター試験では、規定値以上の変換水晶を七種、一気に作らないといけないんだ。

私の感覚だと、魔力制御力が高ければ、レベル7の魔力量でも十個くらいは作れると思うよ。

十二個あたりが限界値だと思うけど、十二個も作っちゃったら全員倒れるからね。


翌日からは、各々好きな魔法の変換水晶作ってもらった。

ちゃんと魔道具にしてプレゼントするから好きに使っていいって言ったら、シャルちゃんは、ガラス板への風景焼き付け用だった。

自分は魔法で出来るから、お友達へのおみやげにするんだって。

レリアさん、イリアナさん、エリーヌさんは、スノースクーターをリクエストしてきた。

帰ってからの、手軽な移動手段として使いたいらしい。

エリーヌさんは、お使いの時の時間短縮が目的だった。


セキュリティ上(誘拐とか盗難とか)ちょっと危ないので、エリーヌさんの短剣術とベクトル操作の石飛ばしを覚えてもらい、スノースクーター使用時は、必ず魔力感知を最大で使ってもらう事にした。


王都ではキックスケーター型の魔道具をたまに見かけるらしいので、結局キックスケーター型を作ることになったけどね。

レリアさんは、両方作るって気炎吐いてたよ。

隣領も雪多いから、雪の上をキックスケーターじゃ変だもんね。


お城行の日は、吹雪対策でてんちゃん通勤が解禁(てんちゃんは車輪だけど、エアクッション魔法で雪道対応出来るよ)になって、ついに魔道具技師の臨時講師も始めたよ。


みんなには試験を魔学研究所の人たちと一緒に受けてもらうので、マイスターである私の弟子ってことで、授業の補佐をしてもらってる。

試験でいきなり知らない女性陣が来るよりは、反感少なくなるかと思ってね。


私の授業は、泊った翌日の午前中のみ。

ボードゲームやガードゲーム、卓球、雪合戦、玉入れ、雪像づくりなど、基本的に遊びだ。

ルールは『手を使ったら負け』。

勉強の息抜きになってるのか、はたまたかわいい女性陣が手助けしてくれるのが嬉しいのか、意外に好評だ。


ちなみにエリーヌさん(十七歳)が一番人気。

見習いは学舎卒業後の十二歳から、成人前の十五歳までが多いからね。

私なんて、初回にマギ君とソード君が『トップクラスのマイスター』って紹介してくれて、十個連続の変換水晶づくり実演しなかったら、きっと相手にされなかったろうね。


妙に変換水晶の種類を指定されるなーって思ったら、出荷用の変換水晶作らされてた。まあ、いいけど。

でも、『アリスちゃん先生』って何さ?

お手伝いしてるみんなは『さん』付けなのに…。


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