2年目 初冬

慌ただしくて、精神的にもしんどかった新城お披露目パーティも何とか終わり、雪が降り始めました。


新城の各施設が完全に稼働したことで、街には平穏が戻ってます。

領主様、結局王都から北の全貴族を招待したらしく、のこのこやって来た反王族派の貴族たちは、難攻不落のような新城と時折見える壮絶な野獣の日常に圧倒され、情報入手を断念したようです。


たとえ高い窓からでも、肉食獣たちのお食事風景や狼、ヒグマ、ヘラジカの縄張り争いなんかを見れば、自分たちがどんな場所にいるか理解するよね。


街は南の商業区も完成し、本格的に動き始めてます。

領主様が真っ先に建てた診療所もスタッフが揃い、街の人には好評らしい。

ここ、立てる前に領主様に相談されたので、私の設計なの。

診察や処置だけじゃなく、入院も出来るんだよ。

一階が、受付・待合・診察・処置室。

二階は入院病床四床と厨房、宿直室。

裏には二階建てのスタッフ用ワンルームマンション。

通い医師一名、住み込み医師一名、看護師二名、住み込みメイド(看護師見習い)六名。


領主様の運営だけど、住民サービス主体の赤字経営前提。

今までは私一人と街のおじいちゃん医師一人で街の医療を担ってたんだけど、人が多くなりすぎて対応出来なくなってたの。


私は薬草探しに森に入って居ない事多いし、居ても街まで時間がかかる。

そして、治療に走り回ればお薬作れない。

基本おじいちゃん医師が出張診療してたんだけど、移動に時間取られるから、増えた患者さんを待たせることが多くなってたの。


で、おじいちゃん医師の相談を受けた領主様が、私に相談してきたわけ。


他の町なんかでは出張診療する医師を増やして対応するんだけど、どうせならと病院方式を提案してみた。

だって、呼ばれて出向くと医療行為に適さない現場って多いし、次の現場行く前に薬の補充と医療器具の消毒で戻らなきゃいけないから効率悪いし。


今までは適当にポーション飲んで誤魔化してた住民も、行けば適切な治療してもらえるからって、好評らしい。

一度様子を見に行ったら、若いメイドさんに包帯巻かれて鼻の下伸ばしてる兵士さんがいた。

メイド喫茶じゃないぞ!


私の日常も、いたって平穏。

出張診療も新城専任になって件数が減ったし、新城の薬草畑でのお薬作りに三日に一度は行ってるから、その時に往診も出来る。


王様に会った時には、踏み込めるぎりぎりのラインを探られてるように感じたんだけど、なぜかその後は音沙汰がない。

まあ、平穏なのはいいことだな。


さて、今日もお薬作りに、新城行くか。


「ネージュ、お城行くよー」


城門前でネージュとはお別れ。

最近ネージュはお城に来ると、必ず狩りに出るんだよ。

雨でも平気。濡れて無いから魔法使ってるよね。

獲物は、大抵はうさぎ数羽か鳥数羽、たまに牙イノシシ、まれにヒグマ。

獲物を密閉型の箱そりの中に氷と共に詰め、魔法で引いて帰ってくる。

猛獣王国だから、多分血臭対策かな。


事の始まりは、ネージュが城内を散歩(パトロール?)してて、調理場のコックさんにお湯で戻した魚の干物を貰ったこと。

この人、大の猫好きらしく、ネージュを見かけるたびに、わざわざネージュ用のおやつを作ってたらしい。


そんなある日、ネージュがコックさんに鳥を差し出した。(しっかり前足で押し出してたそうな)

感動したコックさん、薬草のお世話してた私の所に報告に来てくれたの。

『偉いぞー』って、コックさんと二人でネージュを褒め倒した。

何度かそんなことがあり、厨房スタッフがネージュを褒め始め、おやつを与えるようになった。

そうしたら、獲物が増え始め、今の状態になってしまったの。


今では厨房スタッフが、ネージュの事を『食肉担当』と呼んでいる。

夕食の量を加減しなきゃいけない私は、帰りに厨房に寄って、おやつの量を確認するようになった。


こんなこともあった。

城門警備中の二人の兵士さんに、狼の小集団が襲い掛かった。

怪我を覚悟で討伐しようと槍を構えた兵士さんの前で、ボルトの雨が降った。

狼は全滅、兵士さんは無傷。

『兵長』と呼ばれ出した。

今では城門前で、兵士さんがネージュに敬礼する。

ネージュもわざわざお座りして、前足片方上げてるし。


そして城の女性陣からは、なぜか『姫』または『ネージュ姫』と呼ばれてる。

『みゃん』って返事されるのが嬉しいらしい。


今日もネージュと別れ、私はソード君に到着の念話。

ソード君はこの城に住んでお仕事してるからね。


いつもは挨拶で終わるのに、今日はソード君の執務室に呼び出された。

何だろうと思いつつ執務室に向かったら、魔力感知にシャルちゃんとマギ君の反応がソード君の執務室からある。

もう二人は知らない反応だけど、お付きの人かな。


コンコンコン


「アリスです」

「ど、どうぞ」


ん?ソード君、なんか笑ってないか?

まあ、いつもは、『来たよー』だからな。

でも、知らないお貴族様いるかもと思って真面目にしたんだから、笑うなよ。


入室したら、ソード君、マギ君、シャルちゃん、知らない二人の少女。

知らない人いるから、きちんと挨拶しようと思ったら――


「アリス、お貴族様対応はいらん。いつも通りで大丈夫だ」

「あ、そうなの?」

「こっちの二人は医療魔法の習得候補だ。アリスの事だ、賢者の件もボロが出そうだから、秘密厳守の契約してる」

「なんかソード君が酷い」

「…あの魔法は難しいだろ。習得時の説明で、結構な知識が必要だ。知識の出所、詮索されるのも面倒だろう」

「…まあ、そうかも」

「それに、初対面の二人は、王家と隣領代官が保証人だ」

「へー。だからお城に連れて来たんだね」


保証人は、被保証人の人格を保証するもので、万一の有責の際は、連帯して責任を持つってことなの。

前世だと、連帯保証人だね。


その後、改めてご挨拶。

知らない二人は、家が代々ポーション作りしてる男爵家の令嬢のイリアナさんと、隣領の錬金薬師見習いのレリアさん。

二人とも十一歳だった。


で、なんでマギ君やシャルちゃん居るのかと思ったら、医療魔法の習得に立候補して、一年限定で国王様から了承もらったらしい。


「まじ?マギ君なんて、超多忙じゃん」

「魔道具技師の一期生、姉妹以外は王都行だ」

「一期生ってソード商会の?」

「いや、あれは創立メンバー。ここで魔道具の生産と技師見習いの講師になる。一期生は募集始めて集まった奴ら」

「なるほどね。でもマギ君は魔道具作り以外にも色々お仕事あるんじゃないの?」

「うん、この城に執務室と自室もらって、離れていても出来る仕事はするよ。向こうでしか出来ない仕事は父上が代行してくれるんだ。陛下が、『王族に医療関係の知識を持つ者がおらねば、知識を鼻にかける愚者が増長する』だって」

「おおう。王様、お邪魔虫に結構イラついてたのね」

「アリスさんが退治した愚者筆頭二人は、王都周辺地域の診療所勤務になったよ。現場で修行し直すのが罰だね」

「退治って…」

「ソードに聞いたよ。みんな笑を堪えるのに大変だったらしいね。あの二人は医療知識を鼻にかけて王城内でも評判悪かったから、話を聞いた皆が笑顔になってたよ」

「あれは王様からか頼まれたからで…」

「陛下がね、『不覚にも吹き出しそうになった』だって」

「ぶー、頼まれたから頑張ったのにー」

「うん、お礼は受けてもらえないだろうから、この領で自由に過ごしてくれってさ」

「あ、それが一番うれしいかも」

「それなら良かった」

「陛下からご放任の許可が出たことだし、アリス、マイスターも公にしないか?」

「ほへ?なんで?」

「アリスが、いや薬師のリーゼロッテが医療魔法開発の功績で放任の許可を得たことは一般にも公表されるんだ。つまりリーゼロッテを束縛しようとすると、王家に弓引く行為になる。今までは賢者の件が内緒だったからこっそりしか守れなかったが、これからは法の下に自由が約束される。だからマイスターも隠さなくていいだろう」

「おおー、放任の許可って意外に役立つね。じゃあ、魔道具作ってるのバレても大丈夫なんだ」

「…新発明とかはポンポン見せるなよ」

「うん、わかったよ」

「じゃあ、見習いの臨時講師も頼むな」

「それが目的っ!?」

「姉妹のおすすめ。レベル5である程度の魔法制御力身に着けたら、アリスに指導してもらえってさ」

「放任許可貰ったのにお仕事増えた。今でもお城の薬草畑のお世話が増えたし、医療魔法の講習もあるのに…」

「薬草畑、勝手に作ったよな」

「あれ?私言ってなかった?」

「おう。陛下を室内畑に案内した時、奥に知らない薬草畑が出来てて、父上焦ってたぞ」

「…ごめんなさい」

「お話し中すみません、質問よろしいでしょうか?」

「イリアナさん、だったよね。どうぞ」

「ありがとうございます。本当にポーション用の薬草の栽培が可能なのでしょうか?」

「うん、出来るよ。王都でもマギ君がやってるはずだけど、この領だと、城の一階横と私の畑だね」

「あ、王都での栽培は断念したよ。魔力を詳細に感知出来る人がいなくて、どうしても安定した魔力濃度に出来なかったんだ。だから、今は王都周辺の直轄地にあるダンジョンでの栽培になってるね」

「あ、そうだったんだ。私も濃緑薬草作る時は、自分で魔力濃度調整してるもんね」


「本当に出来るのですね。私の家では何度も栽培に挑戦して、全て失敗に終わっています。今のお話ですと、魔力濃度が関係するのですね。濃緑薬草なんて、存在すら知りませんでした」

「私の家でも同じです。仕方なく森での採取人を雇っているのですが、運搬に時間がかかって質が落ちてしまうのです」


「レリアさんだっけ。先に二人にお願いがあるんだけど、話し方を崩してもらえないかな?」

「僕もお願いするよ。これから同じ魔法を学ぶ者同士、硬い言葉は止めようよ」

「そ、そんな。王子殿下にそのような言葉遣い、不敬になります」

「えっとね、マギ君の場合、公の場以外では硬い口調が不敬なんだよ。あんまり使ってると、拗ねるよ」

「アリスさん、さすがに拗ねはしないよ」

「でも、嫌なんでしょ?」

「まあ、確かにね」

「…本当にいいんでしょうか?」

「うん、お願いするよ」

「わかり、いえわかったわ」

「平民もでしょうか?」

「ぜひそうして欲しい」

「うん。わかった」

「マギ君が大丈夫なんだから、私やシャルちゃんにもお願いね」

「たとえ親でも、師事するなら言葉遣いは変えなさいって言われたんだけど…」

「うちもです。父に叱られます」

「…ソード君、どうしよう。マギ君は大丈夫なのに、なんで私はダメなの?」

「わかった、説明してやるから泣きそうになるな。二人に言っとくけど、アリスは師匠になる気は無いぞ。一緒にいて、同じことをする仲間、遊び友達感覚なんだ。友達を手助けするのは当たり前で、友達に敬語使われたり敬われたりしたら嫌だろう」

「そうなんですのよ。私はこの口調しか話せませんのでお許し頂いていますが、マギ様もアリスさんも、友達言葉が基本ですわ。私も頑張って覚えたいのですが、なぜかうまくいかないのです」

「いや、シャルちゃんは友達としてその言葉遣いなんだからいいんだよ。二人は友達にも敬語なの?」

「「違います」」

「なら、お願い。私、八歳の平民少女だから」

「平民が陛下笑わせたりしないがな」

「うっさい!」

「マイスターや特級薬医師は法衣子爵扱いだけどね。…でもまあ、このメンバーの時は、友達言葉で行こうよ。えっと、それで、何の話だっけ?」

「薬草栽培と魔力濃度のお話でしたわ」

「そうだった。シャルちゃんありがと。ポーション用の薬草は、一定の魔力濃度じゃないと育たないんだよ。少しでも低くなるとすぐしなしなだし、濃くなると黒くなって魔法弾いちゃうからポーションに使えなくなるし」

「…私たち、苦労してレベル上げして良かったね。こんなすごい知識を学べるんだ」

「うん。おじいちゃん、隣領で医師してるんだけど、すごい勢いでアリスさんに師事するのを勧められたよ。やっと理由が理解出来た」

「では、今後の予定なのですが、本来はわたくしたちはこのお城にご厄介になって、基本的なことを学びながら、アリスさんがいらっしゃった時に教えを乞うというお話でした。ですが、わたくし思ったのです。アリスさんと共に居て、たとえ医療や薬学に関係のない事であっても、同じことをすることこそが重要ではないかと。ですので我儘を申し上げれば、工房棟に住まわせていただくことは出来ませんでしょうか」

「へえ、さすがアリスの友達。よくわかってるな」

「あ、そんな予定だったんだ。確かに知らないおじさんが泊まるとかは抵抗あるけど、この女性陣なら大歓迎だよ。でも、マギ君の部屋はどうしよう」

「いや、残念だけど僕はここで仕事があるからね。王子としての執務だけじゃなく、魔道具関連の仕事も多いんだ。だから、こちらに来た時に講義してもらえるとありがたいね」

「そうだね。このお城に来る理由が、薬草畑のお世話とポーション作り、あとケガや病気の診療だから、みんなでやれば、いい実習になるね」

「助かるよ。でも、他の二人はいいのかな?」

「師事すると思ってたから、元々住み込みだと考えてました」

「あたしもです。正直こんなすごいお城に寝泊まりするなんて、勉強に身が入らないよ」

「うん、わかった。でもシャルちゃん、専属侍女のエリーヌさんは?」

「今はマギ様の部屋を整える手伝いに行かせてますわ。わたくしも皆様と共に弟子入りした覚悟で学ぶつもりですので、この後、家に帰しますわ」

「そこなんだけど、みんなって料理やお洗濯、食料・日用品・お金の管理って、出来る?」

「「「…」」」

「だよね。普通はしてもらう年齢だもんね。だからね、エリーヌさんにみんなのサポートをしてもらえないかと思って。もちろん一人で担ってもらうんじゃなくて、みんなでやるんだけど、先生は必要でしょ。専属としてのプライドとかお給金の話とかで難しいかもしんないけど、一度聞いてもらえないかな?」

「侍女を連れての弟子入りなど、よろしいのでしょうか?」

「だって、初めての医療魔法を学びに来て、それ以外にも初めて自分で生活しなきゃいけないんだよ。さすがに覚えること多すぎるから、手助けしてもらおうってことなの」

「あたし、料理やお洗濯、お金の管理を覚えなさいって言われてやり始めてたけど、無理だった。ポーション作り覚えるので精一杯だからって、延期してもらったよ」

「そんなに大変なのですか?」

「服の汚れ全然落ちないし、包丁なんて怪我しそうだし、手順は料理ごとに違うし、お金の管理なんて意味わかんない」

「…エリーヌに聞いてみます」

「うん。でも、あくまでエリーヌさんの気持ち優先でね」

「承知しましたわ」


「お願いね。じゃあ、色々やる前に、大前提が一つだけあるの。あなたたちは、患者である相手の命を、目の前で失ったことがある?」

「あたしは病気で亡くなる仲の良かったおばさんの最後を、おじいちゃんと一緒に看取らされた。あれからしばらくおじいちゃんが嫌いになったよ。でも、今はありがたかったって、尊敬してる」

「私は事故で内蔵がダメになった弟を見送ったわ。今回志願したのは、同じような人がいれば、少しでも助けられる可能性を上げるためです」

レリアさん、イリアナさんは大丈夫だね。

マギ君は、…あれ?首傾げてるな。


「覚悟の話だとしたら、患者ではなく、罪人ではダメかな?」

「…自分で手に掛けたって事?」

「うん、王子教育の一環でね。罪を裁く立場になることは、こういう事をすることだって。その日は眠れなかったよ」


マギ君、雰囲気も変わらず平然と言ってる。


「なら大丈夫。マギ君はすごいね。私は患者さんが亡くなっただけで、三日間うなされ続けたよ」

「…あの、少し違うかもしれませんが、わたくしは川の氾濫で大勢が亡くなって、ご遺体を火葬する場にお忍びで連れて行かれました。領政を誤れば、こういった犠牲が増えるのだと。残されたご家族の慟哭が、わたくしたちを責める声に聞こえて、震えが止まりませんでしたわ」

「シャルちゃんも大丈夫そうだね。…みんなごめんなさい、嫌な事思い出させて」

「いいや、確認は必要だよ。人の体の中をいじるんだから、相手を死なせる恐怖にたじろいでたら、治療なんて出来ないよね」

「そうだぞアリス。危ない魔法を伝授するなら当然だ。今回は全員合格で良かったな。みんなある意味、アリスの同類だ」


ソード君、君が一番強いよね。

私を守るために何人も手に掛けてるはずなのに、そ知らぬふりだもんね。

他人の為に、何やってんのよ。ほんと、ありがとね。


「うん、よくわかったよ。それで、いつから始めるの?」

「今日も薬草の世話とポーション作り、それと診療やってくんだろ。まずは見学してもらったらどうだ」

「そうだね、じゃあまずは畑に行こう」


ソード君を置いて、みんなでぞろぞろ薬草畑に向かいました。


薬草畑に到着したら、イリアナさんとレリアさんが狂喜乱舞した。

マギ君とシャルちゃんは苦笑い。

まあ、場所がいっぱいあったからって、ちょっと広すぎたかも。

うちの薬草畑の十倍くらいあるもんね。


お世話の仕方見せて、みんなでお世話しました。


次はポーション作成。


「ポーション作れる子も二人いるけど、纏う魔力を見た感じ、レベルアップで増えた魔力を制御しきれてないよね。ここは基礎からじっくりやり直してもらっていいかな。そうすれば、高グレードのポーションも作れるようになるから」

「あたし、グレード3がたまに成功するくらい。高グレードが作れるなら、基礎からやるよ」

「私は古い薬草でしか練習してないから、どれだけ出来るか分からないわ。出来るようになるなら、私もお願い」


了承貰えたので、ポーション作りを実演してみた。

出来上がったポーションは、はかるん値、5.5だった。


「基礎からじゃなきゃ無理だよ。工程は知ってるものに近いけど、魔法を利用すると、速さが段違いじゃん」

「王都では幻とさえ言われてるグレード5以上のポーションが、こんなに簡単に…。私、来て良かった」

「この畑広すぎるから、摘んでから調薬机に来るまでの時間で、グレード落ちちゃうね。移動式の調薬机作ろう」

「は?5.5がグレード落ち?」

「うん。摘んで直ぐポーションにすれば、6.0超えるよ」


摘みごろの薬草の横に机を移動して、再度ポーション作ってみた。

はかるん値6.5。


「グレード6.5。…とんでもないわね」

「ひょっとしておじいちゃんが見せてくれた9.0ポーションって、アリスちゃんのポーション?」

「9.0ならそうだね。私しか作れないらしいから」

「私たち、新たな治療用の魔法覚えに来たんだけど、高グレードポーション作りまで教えて貰えるのね。夢みたい」

「でも、アリスさん。ポーション作りは約束には無かったはずだよね。いいのかな?」

「マギ君、高グレードポーション作れる人いなくて困ってるでしょ。みんなが覚えて帰ってくれたら、王都でのポーションの価格も安くなるよね」

「ありがとう。しっかり覚えて帰るよ」


薬草のお世話とポーション作り終えたら、次は診察。

このお城、まだ常駐医も錬金薬師もいないから、私が三日に一度来てるの。

だから診察は予約制。

私が診察室に入ったら、予約した人を呼びに行ってもらうの。

え?子供が診察して不安がられないかって?

大丈夫。お城勤めの人の大半が村時代からの街の人だから、みんな私が治療出来るって知ってるもん。


本日の予約は二名。

一人目。指先の怪我。

昨日指先を詰めちゃって、爪が紫色になってる。

常備されてるポーションは飲んだらしいので、かなり良くなってる。

内部診断したけど、骨や血管、神経には異常なし。

再度少量のポーション服用。


二人目。右肺の上部の痛み。

この人もポーション服用済みだけど、痛みが引かないらしい。

内部診断したら、右肺上部、肩に近い部分に空気が溜まってる。

この人、かなり痩せてるし、右胸部に外傷はないので自然気胸かな。

肺の穴はポーションですでに塞がってるけど、漏れた空気が多い。

患部付近を痛覚遮断して、金属製のストローみたいなドレーンを、内部診断しながらぶっ刺す。

空気が抜けたら、刺した穴にポーション注入。

後は後日、要経過観察。


三人目(飛び入り)、腹痛。

内部診断すると、腸に内容物いっぱい。かなり胃にも残ってる。

閉塞個所、炎症箇所は無し。

問診した結果、便秘も無し。好きなメニューだったので昼食二回。

「喰い過ぎじゃー!」


診察終わって、機材の消毒や薬の補充しながらおしゃべり。


「内部診断や痛覚遮断って、すごい。神経や骨に異常が無いのも触れずに分かるんだ」

「あんな金属の管を刺されてるのに、患者さん、平然としてたわ」

「まあ、そのための魔法だからね」

「驚いたよ。改めてアリスさんの技術力の高さを再認識した。王城でも、あれほど的確な診察や処置は無理だからね」

「いや、的確かどうかは分かんないよ。空気抜いた人も、経過観察にしたでしょ。最後の人も、乗りで宣言しちゃったけどフォローはする気だよ」

「それでも、診察や処置の時間が早すぎるよ。僕たち、一年で覚えきれるのかな?」

「詳細な魔力感知出来れば、自分の身体でカンニング出来るよ。出来るようになったら大まかな内部の働きは教えるし、医療魔法を覚えるんであって、医師になりに来たわけじゃないんでしょ」

「わたくし、どれほどの知識量が必要なのかと、少し気が遠くなりましたわ」

「第一優先は魔力同調による内部診断と痛覚遮断。あと、出来ればポーションづくりね。診断や処置は医師の領分だよ」

「あたし、おじいちゃんからは錬金薬師を目指した方がいいって言われたんだけど、その通りかも」

「私も医師は無理かも。特級薬医師って、とんでもないわ」

「私はほら、例の知識でズルしてるからね」

「専門で習われたのですか?」

「いや、ほぼみんなが習うこと。十二年間は全般的に習って、あとは四年か六年、専門的に学ぶのが多いかな」

「アリスさんはどうされていたのですか?」

「十八年コース。でも、専門知識は医学じゃなくて、こっちにはまだ無い電気ってのを専門に習ってた」

「それでは、専門外ではないですか!?」

「まあ、『仕組み』ってことに興味があって、色々手を出してたんだよ。『作る』ってことが大好きだったし。でも、向こうの医学の専門知識なんて、多すぎて細分化されてて、それぞれが専門分野だったからね」

「なんて世界だ。想像を絶するね」

「まあ、私はこっちの方がよっぽど好きだけどね。あ、人が近づいて来たから、この話はおしまいね」


その後、各人の能力の把握とかしてたら夕方になってたので、お泊りになった。


で、どうせ三日に一度は来るんだし、講習とかしてたら遅くなるだろと、各人がお城に自室を宛がわれることになった。


私は五階に自室あるし、マギ君は七階の二間続きのスイートを執務室と自室に整え中。

本来シャルちゃんも七階のはずなんだけど、みんなと一緒がいいと主張。


ここで部屋に困った。

四階奥に未利用部屋はあるけど、玄関奥だし領主様とソード君の執務室あるから、わりと人通りがあって落ち着かない。

領主様は、普段は街の館で執務なんだけどね。


魔道具技師の女子寮は空きがいっぱいあるけど、彼女らは魔道具技師になりに来たわけじゃないから、ちょっと浮く気がする。


五階は領主家のプライベートエリアで、大分埋まってる。


六階は空きまくってるけど、たまに貴族が泊まりに来る。


結果、マギ君をノーブルスイートに移動して、女子三名プラス侍女一名(サポートのOKもらえた)でもう一つのノーブルスイートを使う事になった。


王子様なんだからとマギ君をロイヤルスイートに隔離しようとしたんだけど、マギ君は泣きそうな顔で嫌がった。

あそこは広すぎるし、内装めっちゃ豪華だから仕方ないか。

まあ、マギ君の御付きやシャルちゃんの侍女さんいるから、問題ないな。

お付きや侍女さん以外、みんな子供だし。


イリアナさんとレリアさんも、部屋を見てちょっと泣きそうになってたけど、みんなで説得した。


だって、医療魔法や高グレードポーション作れるようになれば、すごく希少な人材だよ。

絶対パーティにご招待とか、お偉いさんとの会食あるだろうから、お泊りとかもあるよね。


これを機に、お茶会の作法とか食事のマナーとかを、シャルちゃんを講師にして覚えようねって説得したんだけど、なぜか私も受講することになった。

なぜだ?自由のお墨付き貰ったはずなのに、どんどん忙しくなってる。


夕食は、初日だからとソード君が食事に招待してくれた。

お仕事終えた姉妹ちゃんも参加してくれて、女性だらけの夕食になった。

七階の食堂使って、領主家の家人さんたちに給仕を受けながらのマナー講習になったよ。


ネージュが魔法でカトラリー使うのを見て、みんなが真似し出した。

違う。それはマナーじゃない。魔法は上達するけど。

結局、豪華な食事を摂る時は、真面目にマナー習得に励むことになった。


食後のお茶しながら、ちょっと深めの自己紹介。

ソード君が、元領地無し子爵家の三男って言って、イリアナさんとレリアさんに気楽に話しかけられてた。

私、平民なのに、頑張って頼まなきゃいけなかったのに…。

ちょっとむかついたので、そいつは伯爵家の継嗣で子爵家の現当主だってバラしてやった。

何故か女性陣から、微笑ましいものを見る目を向けられた。

なぜだ?


お風呂は、女性陣の友好を深めようと、私もノーブルスイートの女子部屋のお風呂にお邪魔した。

シャルちゃんとの仲間意識が芽生えた。AA…くっ。


入浴後、私は五階の自室に戻って寝ました。すやぁ。



翌朝、例のごとくメイドさんに新しい服を用意されての起床です。

てか、知ってた。

自室のはずのこの部屋のワードローブ、なぜか見るたびに新しい服が増えてるの。

最近は、あきらめの境地になりつつあります。


朝食は七階の女子部屋に用意してもらえるらしいので、身支度整えたら七階に向かいます。


ノックしてお部屋に入ったら、すでに朝食届いてた。

エリーヌさん(シャルちゃんの専属侍女さん)が、せっせと配膳してる。


「みんなおはよー。ちゃんと眠れた?」

「アリスさん、おはようございます。わたくしは以前にも利用させていただきましたので、朝までぐっすりでしたわ」

「アリスさん、おはよう。私たち、お姫様の気分が味わえたわ」

「おはよう。…ベッドが魔道具ってなんなの?こんなすごいお城で寝られないかと思ってたけど、ふわっふわで背中がじんわり暖かくて、気付いたら朝だった」

「そっか、良かった」

「えっと、なんでアリスちゃんが寝心地聞くの?」

「このお城の設計も、ベッドの魔道具の設計も、みんなアリスさんだからですわ」

「え゛?ちょっと意味わかんない」

「最高位のポーション作れて医療魔法発明して、さらに魔道具どころかお城まで設計しちゃうなんて…。私、何に弟子入りするの?」


あかーん!『誰に』じゃなくて『何に』とか言われた。

ここは懐柔せねば。


「あのね、もしイリアナさんが、このお城出来る前にこっち来て、王城の絵を描いて凄いって言われたら、イリアナさんは凄いって事になる?」

「いいえ、単に王城を知ってただけだわ」

「私もよ。単にこのお城を知ってただけ。ポーション作りは母に教わったし、医療魔法よりすごいのが向こうには有ったし」

「…そう言われると、すごさが大分減るわね」

「そうそう。私は単に、知ってただけ。でも、一年したらみんなも私の気持ちが分かると思う。だって、すごいポーション作れて、医療魔法使えて、多分魔道具も作れちゃう。そして上位貴族の所作が身に付いてる」

「「…」」


何とか行けたか?

私、普通の少女。怖くないよー。


「お嬢様方、お食事の用意が整いました」

「あ、エリーヌさんありがとう。そして、お手伝いしなくてごめんなさい」

「「「あ」」」

「大丈夫ですよ。今日、この城を出るまでは、お客様気分を味わってください。それからは、一緒にやりましょうね」

「「「「はい」」」」


朝食後、みんなで荷物まとめてからマギ君、ソード君に念話入れたら、すでにお仕事始めてた。


なので、修行内容を書いて置いて来た。

内容は――

・暗くなっても、書物読んだり細かい作業以外では、明かりを使わない。

・危険性の無い作業は、極力魔法で。

・目隠し人当て(目隠しして、前に並んだ人を当てていく)。

・ゲームは手を使うの禁止で魔法オンリー。

・暗闇で折り紙を折る。

・夜、寝る前に、金属板に出来るだけ細い線を一本だけ入れていく(定規の目盛みたいに)。


マギ君用だけど、きっとソード君もやるだろうな。

何でもやりたがるからね。


ソード君が自走車手配してくれたので、おうちに送ってもらった。

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