2年目 秋 2/2

【アリス、今どこだ?】

【五階の自室に居るよ】

【報告と相談がある。行っていいか】

【どーぞー】



材料が無いので、自室で改造案考えてたら、ソード君から念話来た。

ちょっと前の念話からすると、王様と会って私の事話してたんだよね。

飛行機の事を秘密にしろって言ってたソード君自身が話したってことは、話さなきゃいけない状況に追い込まれたってことだよね。

私の事で、またしんどい目に合わせちゃったか。

私、ソード君に迷惑ばっかりかけてるな。


コンコンコン


「アリス、俺だ」

「どうぞー」


ソード君のアリス呼びにも慣れて来たな。

でも、『俺だ』って、オレオレ詐欺思い出しちゃったよ。

おっと、お茶の用意しよう。


「いじめられた?」

「なんだそりゃ、いきなりだな。まあ、ある意味間違ってないか。全力でぶつかって、見事に手玉に取られた。陛下すげーって思った」

「一国の主だもんね」

「ああ、今生陛下の御代は安泰だな」

「それで、話って何?」

「まず、例の話、勝手にばらして悪かったな」

「いいよ、私の為に言ってくれたんでしょ。ありがとう」

「人の秘密ばらして礼を言われたら、どう反応すりゃいいんだよ」

「ソード君自身が秘密にしろって言ったことを、信念曲げてばらしたんだもん。そうまでして私を守ろうとしてくれたんだから、お礼は当然だよ」

「…まあ、いいか。それで相談なんだが、アリスの新治療法、普及の邪魔してる奴らを陛下が連れて来た。障害排除に協力してほしいそうだ」


あ、ちょっと照れて話を変えたね。

ソード君、照れると耳の下を掻くからバレバレだよ。


「ああ、そういうことか。習得条件満たしてない人連れて来て、どういう裏があるのかと思ったよ」

「まあ、そういうことだ。で、どうする?」

「いいの?みんなの為になんないことしてる人だったら、私だと徹底排除だよ?」

「おう、やっちまえ」

「わかった」


その後、私の為に頑張ってお疲れのソード君を、かいがいしくお世話してたらお呼びがかかった。


王様の侍女さんに、ソード君と一緒に尖塔の階段使って七階の会議室に案内された。

そっか、六階はパーティ終えた貴族様がうろちょろしてるから、ニアミス対策か。


部屋に入ったら、奥に王様座ってたよ。

えー、同席するのー。

あと、近衛さん四人、侍女さん二人、領主様。

そして、ハゲた太っちょのおっさんと痩せの神経質そうなおっさん。

両人とも、目が気持ち悪い。

お前らが敵か。


まずはみんなにご挨拶。

ここでは、辺境の薬医師リーゼロッテです。

おっさんたちには賢者の事は内緒だし、特級薬医師の称号貰ったのは辺境の薬師リーゼロッテだからね。


「よくぞ参った。では伯爵よ、進めよ」

「はい、それでは始めさせていただきます。特級薬医師リーゼロッテよ、何から始める?」

「はい、まずは習得条件の確認から。祝福回数七回以上、薬師の技である魔力感知が使え、魔力制御も1mm以下の線を刻める方で間違いございませんか?」


まずはジャブから。

対象のおっさん二人に、取得条件を満たしているか聞いてみた。


「我らは宮廷の特級医師だ。そのようなあいまいな条件など無くとも、習得して見せる」


はは、いきなり習得条件無視かよ。

おデブ偉そうだな。

じゃあこれくらい出来るよな。


「では、あなた方は、腕がちぎれた患者に手も触れずに、腕の再接合が可能なのですね」

「馬鹿を言うな。患者の体内魔力が反発して、こちらの魔法を跳ね返すことすら知らんのか。やはり辺境の医術など眉唾物ばかりだな」


今度はがりがり神経質か。

ケンカをご希望なのね。

じゃあ、カウンター返してあげよう。


「患者の魔力に同調すれば、患者に対して魔法が効くこともご存じないのですね。やはり宮廷医師の医術など、たかが知れてますね」


「な!?なんと無礼な!。陛下、このような者の言など、聞く価値はありませんぞ!」

「な!?なんて無知な!伯爵様、このような者にいくら教えても、時間の無駄です!」


秘技、まねっこ返し。

でも、許しを得てないのに、いきなり王様に話しかけちゃダメだぞー。


「こっ、こっ、こっ、この辺境人のガキが!」

「やはり辺境人、なんと無礼な!」


お、ガリガリはニワトリ化したぞ。

おデブも顔、真っ赤だな。血管切れるぞ。


「だっておじさんたち、辺境の子供の私に出来ることが、全然出来ないって事でしょう。何言ってるの?」


子供っぽく煽ってみた。

あ、後ろでソード君が肩揺らしてる。


「きっ、きっ、貴様ーっ!。陛下!このような無礼者、即刻手打ちにいたしましょう!」


おいガリガリ、やりたきゃ自分でやれよ。

なんで王様にやらせようとするんだよ。


「あーあ、国王様に許しも無く話しかけちゃダメなんだよー。伯爵様ぁ、この人たち大丈夫ぅ?」

「確かに無礼者はこの者たちだな。平民の子供でも知っている礼儀すら知らん無知者のようだ。そうなると薬医師殿の言う事が理解出来ぬのも、当然だな」


わー、領主様も参戦だ!

あ、王様、口押さえてプルプルしてる。

我慢は毒だよー。


「そっか、ちぇー、早く広まれば、それだけ患者さんが助かると思ったのになー」

「宮廷医師に問う。そちらは辺境の薬医師殿が出来ることを、行えぬのか?直答を許す故、答えよ」


あ、王様プルプルから復活してる。

立ち直り早いな。


「この子供が言う事は、全くのでたらめです。妄想をしゃべっておるだけです」

「ねえねえ、王様に問われたら、ちゃんと答えよーよ。出来るか出来ないかで答えよーね」


ちょっと心配そうにのぞき込んでみた。

私、性格悪いわー。

父ちゃんや母ちゃんにどやされるかな。

ソード君は、口とお腹押さえてプルプルしてやがる。


「薬医師殿、そのあたりで勘弁してやってくれ。それ以上は壊れかねん」

「ごめんなさい」


何がとは聞かない。

私、ちょっと調子に乗りすぎた。

王様が止めてくれたので、王様に、深々と腰を折りました。

あ、やば。これ、賢者の謝罪方法ってバレるか?

ちらっと領主様見たら、うんうん頷いてくれたから大丈夫なのかな。


「宮廷医師たちよ。おぬしたちの所業、余は不快であるぞ。以降勝手に発言するのであれば、首を賭けよ。では、薬医師殿に問う。習得に必須な詳しい条件を聞きたい。以降、薬医師殿の直答は許す」

「はい。祝福回数七回は、魔法を発動するための魔力量が、最低それだけ必要だからです。

患者の魔力に自分の魔力の一部を同調させるための魔法を使い、さらに同調させた魔力を患者の内部に浸透させ、患者の体内で痛みを遮断する魔法に変換します。

魔力を同調させるには、まず患者の魔力の質を読み取れることが大前提です。

そのためには、最低でも薬草の微弱な魔力を感知して、魔力の質で薬草であると判断出来るレベルの魔力感知精度が必要です。

また、読み取った患者の魔力に自分の魔力を同調させ、なおかつ患者の体内の痛みを伝達する部分にのみ、魔法を発現させるレベルの魔力制御力も必要になります」

「ふむ、人々の魔力は個々に違うのだな。だから他者に魔法が聞かぬのか」

「正確には、質の違う魔力を無意識に危険視して、自身の魔力で相殺してしまいます。魔法は行使者に近いほど強く発現しますので、自分の体内であれば、他者から離れた魔法を相殺するのは簡単です」

「ほう、宮廷の魔法師どもが喜びそうな情報だの。新たな治療法、証明は可能か?」

「怪我をされた方がいらっしゃれば、実演は出来ます」

「そうか。誰か怪我をしておるものを探さねばいかんな」


あ、侍女さんが手を挙げてる。


「誰か知っておるのか?言うてみよ」

「お恥ずかしながら、慣れぬ場所での作業で、先ほど肘をしたたか打ち付けてしまいました。この程度では試しになりませんでしょうか?」

「すまぬが見せてくれぬか」


侍女さん、袖口のボタンをはずし、肘を王様に見せています。

ちょっと恥ずかしそうなのに、実演に協力してくれてるんだね。

私にも見せてくれたけど、右腕、肘の少し下に青あざ出来てる。

うわ、結構痛そう。


「薬医師殿、実演は可能か?」

「はい、お任せを」


座ってもらい肘を王様の前にあるテーブルに置いて、テーブル越しに王様に患部が見えるようにしてもらいます。

私は侍女さんの隣に座ります。


ん?、宮廷医師、机の左右から身を乗り出して見てるな。

さすがに首が懸かってるからか発言はしてないけど、勝手には動くのかよ。妄想とか言ったくせに。


「では、始めます」


私は椅子に座ったまま、軽く目を伏せただけ。

手をかざしたりもしません。

この方が、触れてないって分かりやすいからね。


「まずは魔力の質を見ます。…あれ?公爵夫人の魔力に似てる?」

「…そこまでわかるか。彼女は公爵夫人の姪だ」

「そうでしたか。次は魔力を同調させて、内部診断です」

「…何か違和感はあるか?」

「いえ、全くございません」

「全体的には表層の毛細血管の内出血ですが、一部だけ、少し外れた部分は深めに炎症が出てます。何かの角が当たったようですね」

「何にぶつけた?」

「ワードローブの扉に。取っ手の角にも当たりました」

「次は、本来なら治癒の段階です。痛覚遮断までは必要のないレベルですので。いかがしましょうか?」

「痛覚遮断した場合のデメリットは?」

「最初一瞬だけ痛みがあります。後は30分ほど肘から先の感覚がなくなり、腕が動かしにくくなります。作業などでは腕の自由が利かず、ぶつける可能性が高くなります」

「この後一時間静養せよ。薬医師殿、痛覚遮断を」

「承知しました。一瞬ピリッとするけど我慢してね」

「はい」


お、一瞬びくんてなったけど、声は上げなかった。

侍女さん、偉いな。


「出来ました」

「もうか?腕はどうだ?」

「最初の一瞬だけ痛みましたが、今は全く痛みを感じません。それどころか、机の感覚すらありません」

「あ、今腕動かしちゃ――」


侍女さん、感覚が不思議だったのか、腕を動かしちゃったよ


「あ、すみません、つい。何か不都合が出ますか?」

「他人の腕がくっついてるみたいで気持ち悪い」


侍女さん、大きくこくこくしてる。


「…よく分からん感覚だな。では、次を頼む」

「はい。患部を良くご覧になっていてください。治癒します」

「なんと!どんどん痣が薄くなっていく。これはすごい!」


今やってるのは治癒魔法。

これ、相手の魔力に同調させて、さらに高速で修復出来るほどの魔力を送り込むから、レベル10くらいの魔力量が必要になるんだ。

だから普段はやらないの。

少し時間は掛かるけど、ポーションで充分だから。


「終わりました。移動の際は、左手で右腕を持って、ぶらぶらしないようにしてね」

「わかりました」

「…薬医師殿、治癒の魔法は報告には無かったはずだが?」

「はい、レベル10の魔力量と、0.5mm以下の線を刻める魔力制御が必要ですので。わざわざ難しいことをするより、ポーションを服用すれば事足りますから。今回は、魔力同調の有効性をお見せするために使用しました」

「あいわかった。ところで、ちぎれた腕を本当に繋げられるのか?」

「治癒魔法ですと、私の全魔力を使ってなんとか出来るレベルです。

ですが、高グレードのポーションを使い、ちぎれた断面を合わせ、最初に骨だけ、次に内周から血管、神経を繋ぎ、最後に患部にしみ込ませるように筋肉を繋げる方法であれば、最初お話しした習得条件以上の方なら可能になります。

どちらも腕がちぎれてからの時間が、成功の可否に繋がりますが」


実際にお肉用のうさぎで実験したから、多分、出来るよ。

協力してもらったうさぎさんには、10日間新鮮野菜たっぷりあげて経過観察した後、感謝を込めて解放しました。


「よくわかった。条件を満たしている者の指導は可能か?」

「私の生活や活動に支障が出ない程度で、きちんと学ぶ意欲のある方でしたら。しかし、かなり難しい魔法ですので、条件をクリアしている方でも習得には年単位の時間が必要になるかと」

「承知した。本日はご苦労であった」


やったー、終わったよー。


【こら、まだ気を抜くな!】


うを!?ソード君から念話飛んで来た。


「宮廷医師よ。薬医師殿が実際に行えることを、そなたらは妄想とたばかり、無礼打ちを進言したな。自身の技術が最高と思い上がり、相手を嘘つき呼ばわり。さらに自分より上の技術を持った者を亡き者にしようとするなど、余の王国に仇なす行為ぞ。厳罰を覚悟せよ」


ほんとだ、終わってないや。

宮廷医師、真っ青。

王様はこれがやりたかったのね。

でも待って、王国に仇なすから厳罰って、かなりまずくない?

まさか首ちょんぱなんてしないよね。

私が煽ったから?

どーしよー!?


「薬医師殿よ、そのように心配そうな顔をするでない。薬医師殿はどのような罰が妥当と考える?」


き、急にこっち来たー!

ちょ、待って、私が罰を考えるの?


「えっと…。国王様、お戯れが過ぎます。私は人を癒すことを生業にしております。人を罰する立場にはございません」

「そうであった、すまぬな。あまりに慌てておる故、なにかあるのかと思っての」

「ごめんなさい。自分が煽っちゃったことで、罰が酷くなったらどうしようかと思ってしまいました」

「ふむ、薬医師殿の負担になるような罰ではいかぬな。持ち帰り、皆と諮って厳罰にならぬようにしよう」

「お願いします」

「承知した」


ソード君と一緒にご挨拶して、御前を辞しました。

廊下に出たら、どっと疲れが…。

さっき治療した侍女さんに先導されてるからまだへたれられないけど、思わず背中が丸くなってたみたい。

ソード君が、黙って頭撫でてくれた。

おおおう、めっさ貴重なソード君の頭なでなで。

私、そんなに疲れた顔してるのね。

自室に戻ったら、ネージュにも癒してもらおう。

…あれ?何でネージュの反応が上からするの?


「ねえ、ソード君。ネージュの反応が上からするんだけど。シャルちゃんたちの反応もある」

「暇になって散歩に出たんじゃないか?どのあたりだ?」

「…多分貴賓控室」

「あそこか。あの見晴らしはすごいからな。休憩がてら俺たちも行くか」

「うん」


侍女さんもそのまま静養のはずなので、降りるはずだった螺旋階段を昇って、貴賓控室と言う名の展望デッキに到着しました。

侍女さん、右手利かないからちょっと大変そう。


公爵家ご一行に迎え入れられ、私はソファーでぐでってます。

おお、我が癒しよ。もふもふもふもふ。


「アリスさん、お疲れさまでした。何とかなりまして?」

「うーん、何とかなったのかな?」

「充分だろう。陛下もあの治療法の普及の障害になる奴らを排除出来そうだし、条件付けたから治療法覚えに来る奴もまともになるだろうし。なによりアリスの生活を脅かさないと、陛下が約束してくれたからな」

「あれ、そんな約束あったっけ?」

「おいおい、アリスが陛下に要求したんじゃないか、『生活と活動に支障の出ない範囲で』って。陛下も『承知した』っておっしゃったじゃないか」

「あれってそうなるの?」

「生活と活動に支障が出ないってことは、引っ越したりせずに空いた時間に習得可能な奴を教えるってことだろ。充分じゃないか」

「そう言えばそうだね」

「陛下にそのような要求をしてお認め頂いたのですか?普通は何か請われれば、全力を持ってとお答えするところですわよ?」

「まあ、アリスだからな」

「むう、なんか貶された気がする」

「貶してねーよ。陛下に要求して了承させちまうのは凄いって意味だ」

「ぶー、私、一人で頑張ってたのに、ソード君後ろで笑ってたし」

「笑っちまうようなこと言うからだ。あいつらを一瞬で茹でだこみたいにしやがって、さらに子供言葉使って馬鹿にしてたじゃねえか。あいつらが子供に手玉に取られてるみたいで、陛下まで失笑しそうになってたぞ」

「国王陛下がプライベート以外でお笑いになるなんて、非常にまれですのよ。午前の謁見でも何度も快活にお笑いになっておられて、わたくし驚きました。ですが、失笑を堪える姿など、一度もお見掛けしておりませんわ」

「まあ、あれは仕方ないだろ。あの医師たち、普段から嫌味な奴らなんだろうな。なのに、あいつらの言動全てを一人の少女に正論でダメ出しされるんだ。しっかりと嫌味付きでな。滑稽過ぎて護衛や侍女さんたちまで変顔になってたし」

「そうだったの?私、見て無かったよ」

「そりゃ、子供演技でからかいまくってたからな!」

「あー、侍女さん笑ってるー。静養しなきゃいけない人を笑わせちゃいけないんだぞー」

「それだよそれ!笑わせてんのはアリスの演技だよ!」


痛覚遮断で右手が麻痺してる侍女さん。静養だからとソファーに座ってもらってたんだけど、ついに堪えられなくなったか、左手で口を抑えて顔を背けてる。

お腹がひくひくしてるし。

笑い上戸さんなんだな。


「陛下の侍女たる姪がここまで笑うなど、いったい何事が起ったのかしら」

「うくく、まさに、ソード、子爵の言われる通り、痛快でした。また、アリス様の演技がお可愛らしくて、傲慢な宮廷医師が少女に諭されて情けない顔をするコントを見ているようで、おかしくてたまりませんでした」


侍女さん何とか復活したみたい。

でも、筋肉痛でお仕事とか大変そうだから、そろそろ子供演技はやめた方がいいな。


その後、沈みゆく夕日を眺め、各々解散になりました。

私は自室に戻って、シャワー浴びました。

この階のお風呂は男女別の中規模浴場なので、私一人のためにお湯張るのももったいないからね。


はぁ、おうち帰れなかったよ。

明日は早朝から貴族様ご出立なので、私はその後しか帰れない。

お昼には帰れるかなぁ…。


初めて新城に泊まったけど、ベッドの寝心地悪かった。

エアクッションじゃない普通のベッドだったからね。

そのうち改造してやる!


朝、一瞬『ここはどこ?』状態だった。

うーん、自室なのに慣れん。


朝食は、お貴族様たちは大広間でバイキング形式のモーニングなんだけど、私、行けないよ。

魔力感知だと、上の階は人が動き回ってるし、メイン階段も往来が激しい。

職員用の螺旋階段使って職員食堂に朝食貰いに行こうかと考えてたら、領主様のメイドさんが新しい服と朝食届けてくれたよ。


ここでも服、用意されるんだ…。

もう侍女見習いの服に着替えてたんだけどな。


ネージュと朝食摂って、しばしまったり。

することないの、暇だな。


自室の改造は材料無いから取りに行かなきゃだけど、今日は王様が城内視察するって言ってたからニアミス怖い。

失礼になるかもと、王様の魔力を読み取らなかったのは失敗だったな。


待てよ、昨日治療した侍女さんならわかるぞ。

…だめだ、一人で七階動き回ってる。

ソード君は…あれ?いないぞ。

領主様の反応も無いから、一緒に探知圏外だな。

中庭下で見送りかも。

シャルちゃんは七階の食堂か。周りにいっぱい人の反応あるから、遊びには行けないな。

うにゅぅ、動けん。


仕方なく、ネージュとごろごろしてたら、ソード君から念話が入った。


【アリス、悪い。昼まで帰せん】

【およ?まだ貴族様たちいるから仕方ないよ】

【貴族の見送りはさっき終わったぞ】

【でも、六階には、たくさん人が残ってるよ】

【そりゃ掃除の人たちだ】

【ああ、そうか!人がいなくなるまでダメだと思ってたけど、そりゃ、空いた部屋からお掃除に入るよね】

【今残ってるのは、陛下とシャルん家の両ご一行だぞ】

【じゃあ、何で帰れないの?】

【やんごとなきお方がお呼びだ】

【ま、またなの!?】

【正確には、俺が近衛騎士団長と御前試合。アリスは巻き添えだ】

【なんでよー!私、武人じゃないよ!?】

【一応、万一の怪我人の治療って名目だが、武人じゃないどこぞの薬医師が、近衛騎士団長以下陛下の護衛を全員身動き出来なくしちまったからなぁ…】

【…私、やりすぎた?】

【いいや、強さを見せつけるのは対等な交渉に必要だった。今からは……まあ、蛇足的お付き合いだ】

【うへぇ~】

【諦めて大広間に来てくれ】

【はぁ~い】

【…ネージュは連れて来るなよ。もっと面倒になる】

【…あい】


お散歩に出るネージュと別れ、とぼとぼと大広間に向かいました。

中庭じゃないのは、多分お城勤めの人に見られないようにだろうな。

そんな配慮するくらいなら、とっとと解放してよー。


大広間に着いたら、結構人がいた。

宮廷医師以外勢ぞろいかな。

王様の御付き、20人以上もいたんだね。

パーティ用の机が片づけられ、奥には王様とシャルちゃん、ママさんが、長机に着いてる。

一応、カーテシーしとくか。


「薬医師殿、足労感謝する。こちらへまいられよ」


侍女さんが先導してくれて、私はシャルちゃんの横に座ります。

王様の隣じゃなくてよかったー。


「それでは伯爵、始めよ」

「はっ。ではこれより、近衛騎士団長対ソード子爵の御前試合を始める。両者礼を」


へー。領主様、名前じゃなくて地位で呼ぶんだね。

あ、ソード君は、受爵の折に新家名をソードにしちゃったから、ソード子爵で合ってるよ。

『ソード』はラストネームになってるの。

名・伯爵家家名(ミドルネーム)・ソード(姓)って並び。

でも伯爵家を継ぐと、名・ソード(ミドルネーム)・伯爵家家名(姓)ってなるらしい。ややこしいな。


二人は国王様に向かって礼を執った。

右手を肩の位置に挙げ、手のひらを国王様に向けてる。

あれ、宣誓のポーズだよね。

聖書無いから左手は気をつけの状態だけど。

なんか誓ってるのかな?

あ、そうか。鎧着てたら跪拝なんて難しいか。

今、二人が身に着けてるのは皮鎧だけど、金属鎧なんかだと大変だもんね。


二人とも近づいて剣先を当ててるね。

あれは、間合い調整なのかな?

次に、お互い、顔の前に剣を立ててる。木剣だけど。


「それでは、始め!」


始まっちゃった。

って、ソード君、いきなり突っ込んだ!


突然始まった剣戟の応酬。

大広間には甲高い音が響き渡ってる。

なんかリズム刻めそう。


団長さんは、すごく戦い難そう。

だよね。あんな剣術見た事無いはずだもんね。

しかも、ほとんどの斬撃を流されて、崩れそうな態勢直すのに苦労してる。


ソード君、相手の剣ばっかり狙ってるな。

身体の動きは小さいのに、剣先は縦横無尽。

腕が鞭みたいにしなって、剣先あたりを相手の鍔元にガンガン当ててる。


団長さん、振りの途中や引きの途中で剣を押されるから、真面な斬撃が出せなくなってる。

焦らせて大振りさせる気かな。

だとすると、そろそろ間を変えるね。


あ、やっぱり。

ソード君が斬撃の間隔を少しだけ長く取ったところで、団長さん、気合の上段からの振り下ろし。

でもそれ、狙われてるよ。


ソード君、右に飛び込み、相手の鍔元を切っ先で突いた。

突っ込むようにバランス崩した団長さんの首に、突いた位置から少し動いた剣の物打ち部分が当たってる。

あれ、私がソード君にやって見せたことの応用だね。


「それまで!勝者、ソード子爵」


うん。とりあえず二人とも、怪我が無くてよかったよ。


「……ソード子爵よ。よくぞそこまで研鑽に励んだ」

「お言葉、光栄にございます」

「子爵の剣術は見覚えが無いが、何という流派か」

「スライムを討伐するための我流ですので、流派はございません」

「スライムの討伐は槍ではなかったか?」

「ダンジョンには規模がございます。小さなダンジョンでは槍が振れませんので、最小の動きで力を余さず剣先に伝えるように試行錯誤した結果にございます」

「ダンジョン内での討伐を主体にしておるのか?」

「はい。辺境では、生活の糧の多くを森から得ております。スライムをダンジョン外に出せば、森に入る民が危険になるだけでなく、糧となるはずの動物も減り、民が困窮しますので」

「なるほどの。他の街から取り寄せようにも、多くは望めぬ上に冬は雪で閉ざされるか。その腕、今後も民の為に役立てよ」

「はい。お言葉、拝命いたしました」


よし、試合終わってうまく纏まったね。

これで帰れる!


「ところで賢者殿、そなたにも何か披露してもらえぬか?」


ぎゃー!終わってないー!!

しかも賢者呼びってことは、賢者として何かしろってことだよね!

せっかくソード君が矢面に立ってくれたんだから、剣術は見せたくない。

槍術は隣領で見せちゃってるけど、人相手には使いたくない。

なら魔法?魔法でなんかする?

多分強さを示して欲しいんだろうけど、ちょっと癪なので練習中の無害な魔法でも披露しよう。


「えっと…、つたない芸でよろしければ…」

「無理を言っておるのだ、どのようなものでも構わぬ」


よし、言質取った。


「わかりました。では――」


私は座ったまま、試合用に開けてたスペースの中央に、光でうさぎを二匹登場させます。

まだテレビみたいにリアルなのは無理だから、うさぎっぽい光の塊だけど、そこはシルエットや動きでカバー。

うさぎを後ろ足で立たせ、服のシルエットを追加。

片方は淡いピンクのスカート、もう片方は、貴族っぽい紺のベスト。

ベストのうさぎが、スカートのうさぎにダンスを申し込みます。

スカートのうさぎがベストのうさぎの手を取り、ダンススタート。

ワルツを踊り出す二匹のうさぎ。

2匹のターンに合わせ、スカートが舞い踊ります。

やがて、きらきらと光る蝶が舞い降り、二匹はフィニッシュ。

優雅に王様に礼を執り、ゆっくりと消えていきます。


ぬお?女性陣から拍手が来た。

よし、消えながら左右にも礼だ。


「以上、つたない技で申し訳ございません」

「くっくっく、小さき動物の懸命に踊る姿を見せられては、褒めぬわけにはいかぬな」

「ありがとうございます」


よかった。

これ、光の色や動きを合わせて制御しなきゃいけないから、めっちゃ大変なんだよ。

今も若干頭痛い。


「しかし、どこが拙いのだ?」

「完全にするには、私の技量がはるかに足りません」

「完全とは?」

「森の中、実際の動物たちが踊る姿が見られれば、完成です」

「なんとも高い目標よの」

「精進いたします」


御前試合が終わり、三々五々、部屋へと戻った。

王様とシャルちゃん一行は、もう一泊してから帰るそうなので、私は公爵家の客室で指導のお礼とお別れを言ってから、自室に戻った。


荷物まとめてたら、ネージュがお散歩から帰って来た。

ネージュ、外壁や窓は出入りするとこじゃないよ。

しかし、ここって猛獣の森に囲まれてるんだけど、どこにお散歩行ってるんだろう。


おっと、またお呼びがかからないうちに、さっさと帰ろう。

探知で人を避けながら、こそこそと移動して三階の回廊入口に。

さらに回廊を通って城門横の、兵士詰め所へ。

ここで顔見知りの兵士さんに兵士通用門から出してもらい、やっと城を出れた。

よしネージュ、かけっこしておうちに帰ろう。

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