☆7階ラウンジにて

今、俺の目の前に国王陛下がいる。

子爵位の授与の際に謁見したけど、そん時は定型文の受け答えだけで充分だった。

でも、今からは定型文なんて無い。

どうすりゃいいんだ?


「まず言い置くぞ。宮廷儀礼は無視せよ。言葉遣いも飾らずに単刀直入に答えよ。ではまず近衛騎士団長、賢者殿の強さ、危険性をどう見る」

「私を完全に抑え込み、なお余裕があるようでした。投げたスプーンは2mほど手前で止められましたが、私を床に張り付けられる以上、本来なら投げることすら叶わぬかと。賢者殿自身が語られた危険性については、実現可能なのかどうかわかりません。ですが、賢者殿自身の性格は、かなりの善性であると見えました」

「ふむ、余と大差ない考えか。伯爵よ、賢者殿は街や軍を一人で壊滅可能と言っておった。実現出来ると思うか?」


な!?アリス、なんてこと言ったんだよ!!


【アリス!陛下に、街や軍を壊滅可能なんて言ったのかよっ!?】

【うん、言ったよ。私を怒らせる危険性を認識してもらって、放置してもらおうと思って】

【うをいっ!?無茶しすぎだろ!?】

【いや、ずばっと斬り込んで来たから、カウンターで返しちゃった。触らぬ神に祟りなし作戦】

【意味わからん!?】

【下手に私をいじると、後で何があってもあんたのせいだよ作戦】

【了解!】


「正直、判断出来ません。ですが、これまでの発明や開発品の質からすれば、あの能力で武器を作り出せば、可能性はあるかと」

「ふむ、子爵はどうか?」


うお!こっち来た!


「え、と、か、可能と思われます」

「根拠は?」

「アリスは初対面の人に嘘を言うことはありません。陛下にそうお伝えしたのであれば、実行は可能でしょう」

「ほう、おもしろい見方よの。人間性で判断するか。では、危険度は高いな」

「いえ、ほぼありません」

「なぜだ?」

「アリスは人を傷付けることを極端に嫌がります。ご両親がそうあって欲しいと願ったために、かたくなに言いつけを守ろうとしています」

「…なぜ『ほぼ』なのだ?」

「ご両親の一番の願いが、娘の幸せだったからです。自身や周囲の者を傷付けられれば、幸せではなくなります」

「事件事故で自身や周囲の者が傷付く可能性は低くはない。ならば危険性は高いであろう?」

「いいえ、傷付く可能性はほとんどありません」

「なぜだ?」

「誰が彼女を傷つけられますか?しかも守りたい周囲の者は、たとえ最弱であろうと一年あれば強者に育てられますよ」

「それでは力を振りかざす集団が出来てしまうではないか!?」


へえ、やけにアリスを危険視したいみたいな言い方だな。

さすがにイラついてきたぞ。

あ、イラつかせたいのか?本当の目的は何だ?


「力に溺れる者など、アリスが守りたいと思う者にはなれませんから」

「だが、強くなる方法を賢者殿は我々に公開しておる。いずれは力に溺れる者も出てくるぞ」


ああ、なるほど。

俺を追い詰めて、俺がどっちに着くか知りたいのかな。

追い詰めようとするなら、追い詰められる覚悟もあるよな。

じゃあ、俺も斬り返そう。


「それは育ててしまった者の責任では?アリスは自分が強くした者が万一力に溺れたら、おそらく力を与えた責任を取って、アリス自身が粛清しますよ」

「ほう、余を前にして言いよる。余が育てた者が力に溺れれば、余の責任に於いて対処せよと言っておる」


そうだよ。やっちまった者が責任取るのは当然じゃん。


「きちんとお伝えせねば、アリスが守ろうとする者にはなれませんので」

「そちの主人は誰じゃ!?」


おや、言い負けそうになったから路線変更か?

今度は我がまま暴君のふりかな。


「国王陛下に御座います」

「賢者殿を主としておるように聞こえるぞっ!?」


権威主義の暴君のふりか。

アリスを王都に招聘しない陛下が、暴君のわけないだろ。

もう一回、正論で斬り返してみるか。


「いいえ。あるじが間違った判断をしそうになったら、止めるのが臣下の務めです。そう教えてくれたのもアリスですが、間違っているのですか?」

「…余に対してその斬り返し、さすがに言が過ぎぬか?」


あ、トーンダウンした。

引いてくれたか。


「陛下が遊ばれておりますので」

「くっくっく、やりおる!どこで気付いた?」

「私に何度も否定させたあたりで」

「はっはっは。しかし、もし読み違えておったら、如何する気であった?」

「忠義を貫くなら、全力を持って行います」

「読み違えておった場合は、全力を持って余を諫める覚悟か。さすがにあっぱれ過ぎぬか?」


最後にアリスの作戦後押ししとくか。


「お諫め出来なければ、王国民の大量死が待っておりますので仕方ございません」

「……本当になってしまうのか?」

「陛下にのみお話いたしたいことがございます」

「…耳打ちを許す」

「では、失礼いたします」


【アリス、作戦の一環で王様にだけ秘密を話すから聞いててくれ】

【あ、うん。わかった】


俺は、王様に近づき、念話と同時に耳打ちした。


「【アリスは高い空を飛ぶ乗り物を作れそうです。そうすると矢の届かぬ高所から、一方的に物を落とせることになります。

重量軽減という魔法がありますので、岩石の重量を軽減して搭載して高所から落とされれば、元に戻った重量で都市や軍隊は壊滅的被害を受けてしまいます。

王都に招聘されたくなければ、作るなと言ってありますので、束縛されることを嫌うアリスは、飛翔する乗り物を作ろうとはしておりません。

このこと以外にも、自身に課した制約を外せば、隠し玉は多いはずです】」

「そのような乗り物があれば、作らせるために王都に力づくでも招聘しようとする者はおるな。隠し玉の存在を示唆するようなことも言っておった。そなたの進言、的確に的を射ておる。これまで通りが一番良さそうだな」

「ありがとうございます」

「これは単なる興味で聞くのだが、先ほどの進言、誠に王国民のためだけのものか?」

「アリスが間違った方向に行かない限り、王国民のためにすることがアリスのためにもなると思います。なにせ彼女は、厄介ごとを避けるなら秘匿すべき技術を、民のためにと公表するお人好しですから」

「なるほどの。伯爵よ、聡明な息子を持ったの。よくぞ育てた」


お、俺のパート終わったか?

やっと相手を変えてくれたぞ。


「お言葉、誠にありがたく。ですが、我が息子もまた、彼女に影響されて勝手に育った一人にございます。どうぞ我が領の民をお褒め下さいませ」


うわぁ。父上、平然と陛下に賞賛を求めたぞ。


「ふむ、そなたにとっては、自身や息子を褒められるより重要なことであるか?」

「はい、面目無きことながら」

「まいったの。余の臣は、賢者殿に会うて勝手に育ちよる。王都の馬鹿どもを会わせて見とうなるの」

「それは危のうございます」

「なぜじゃ?幾人かでもまともに育てば、治世もましになるぞ」

「私見ですが、人は誰しも天使と悪魔を内包しております。彼女の中の天使は、すでに周りの者を癒し育てられるほどの最高位に昇っておると思われますが、他者を苦しめる悪魔を目覚めさせる糧は与えてはなりません」

「うまい表現よの。…愚者に囲まれれば、何が目覚める?」

「寝ている状態でありながら、愚者により不足した水晶を数日で作り出してしまう程度には、危険な代物かと」

「大自然が育んで生まれるはずの水晶を人造可能にする事が、愚者に突かれた寝返り程度の産物か。……ちとまずいの。愚者を躾ける算段で、この後会わせる予定ぞ。しかし、中止もうまくない。奴らは自己の名誉や権威欲の為に、賢者殿の新たな治療法の普及を邪魔しておるからの」


うわ、宮廷医師と面談があるとは聞いたが、躾が目的かよ。普及目的を名目にして躾に利用されたって知ったら、あいつ絶対怒るぞ。

…あれ?でも、普及させるための障害排除なら、進んでやるぞ。

これは、対処方次第でなんとでもなるな。


「陛下、新たな治療法を普及させるための障害排除という目的は、間違いないのですよね?」

「うん?ああ、余の目的の半分ではあるな。あとの半分は、私利私欲に走って若手の邪魔をする奴を懲らしめるためだな」

「ならば問題ありません。理由を話して、真摯に頼めば答えてくれます。アリスにとって、あの治療法の普及は民のためのものですし、若手医師の躍進も、医学が進歩して民の為になる。アリスが嫌がるのは、自分の知識や能力を、私利私欲に利用されることです」

「あ奴らは専門知識を鼻にかけ、余には理解できぬことだと政策に口出ししよる。やり込めることは、余の私欲にならぬか?」

「アリス曰く、『許容量を超えた薬は毒になる。更に摂取すれば、致死の猛毒。人の欲も同じ』だそうです」

「くくく、適度の欲は人にとって薬。過ぎたる欲は毒か。至言よの。では子爵よ、賢者殿への説明、任せても良いか?」

「陛下の御心のままに」

「伯爵、子爵よ。此度の会見、誠に良き議論となった。大儀である」


ふう、やっと終わった。

でも、さすがに国家元首だな。

やり込めようとして、見事に俺が働く方向に誘導された。

しかも、俺自身、自分が動く方がいいと思ってる。

現状分析するための情報収集も、かなり正確に集められたな。

俺たちが自発的に言い出すように仕向けられてたし。

やっぱ陛下ってすげえわ。


さて、仕事するか。


【アリス、今どこだ?】

【五階の自室に居るよ】

【報告と相談がある。行っていいか】

【どーぞー】

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