2年目 秋 1/2

みなさんこんにちは、アリスです。


私は今、シャルちゃんから宮廷作法の猛特訓受けてます。

所作を覚えるのは面倒なので、シャルちゃんに実演してもらってイメージを覚え、魔力制御で強引にイメージと同化させてます。

言葉遣いは、シャルちゃんに念話魔法習得してもらったのでカンニングする予定です。

私、新城の完成記念パーティ出ないのに、王様への内々の謁見が決まっちゃったから、仕方なく特訓中です。


いや、ほんとは謁見なんかしたくないよ。

でも、賢者関連でかなり守ってもらってるし、私平民だから、王様に請われれば嫌って言えない立場だし。


この特訓の為に、わざわざシャルちゃんは五日も前に先入りしてくれてるんだよ。

シャルちゃんママも一緒に来て、今は工房棟の客室に宿泊してもらってます。

専属侍女さんも一名ずつ付いてきてるし、姉妹ちゃんたちも泊まりに来てくれてるから、初めて工房棟のキッチンが稼働したよ。


あ、この世界、侍女さんとメイドさんは職務内容が違うんだよ。

メイドさんは、着替えや給仕など高貴な方のお世話が主体。

そして侍女さんは、メイドさんの仕事プラス秘書みたいな、事務的・対外的なお仕事もするのね。


シャルちゃんママにはお礼を言い倒され、苔庭、おうち、工房棟を褒められまくられ、ちょっと褒め殺しされそう。

さらにママさんはレベル0だったので、スライムぷすりも参加してきゃーきゃー言ってた。

今もネージュを抱っこしてほっぺに猫スタンプされて身悶えしてるし、なんかかわいい人だな。


「では、そろそろ終わりにしましょうか」

「お二方のご指導、感謝いたします」

「そこは『いたしますわ』の方が女性らしい表現になりますよ」

「はい、気を付けますわ」


うわ、自分で喋ってて鳥肌立った。

身震いして思わず腕をさすったら、シャルちゃんに笑われてしまった。


「お嬢様言葉、私には鳥肌ものなんだよぉ…」

「あと少しだけの辛抱ですわ。頑張って下さいまし」

「シャルちゃんはその言葉遣いがぴったりでかわいいけど、私には激烈に合わないよ」

「そうでもありませんわよ。アリスさんの容姿なら、貴族的な言葉の方が似合ってますわ」

「…」


シャルちゃん的にはそうなのか。

今の私、淡い金髪に翠眼だからなのかな。

シャルちゃんの言葉はありがたいけど、私は黒目黒髪の意識が強いんだよ。

だって、前世じゃ朝の身支度やトイレで鏡を見るのは当たり前。

でも、今世じゃ母ちゃんの手鏡しかなかったから、自分の顔なんてほとんど見てないよ。

おうち出来てから洗面台や姿見見るようになったけど、まだイメージが上書きされてないんだよ。


しかも、前世では母が亡くなって以降、兄と父と3人暮らししてたから、話し方が男寄りなんだよちくせう。

本番明日なのに、どうしよー。


夜、ネージュを抱き締めながらベッドでゴロゴロ。

えーん、やだよー、行きたくないよー。



朝、来ちゃった…。

お貴族様一行は昨日のうちに街から自走車で運ばれて新城に到着し、旅の疲れを癒すためにゆっくり寝てるだろうから、私たちは見つかりにくい早朝に新城に向かいます。

一応侍女見習いの格好して、公爵家の皆さんと向かう予定です。


てんちゃんはまだ見せない方がいいからって、朝から商会員さんが自走車で迎えに来てくれる手はず。

朝からシャルちゃんママのぷすりして、薬草のお世話してたらお迎え来ちゃった。

うあああぁぁぁ…。


新城、着いちまったぜ。

私はネージュを抱っこして、ペットお世話係の少女の設定です。

公爵家ご一行、中庭下で自走車を降り、固まってます。


「ふわー、なんてきれいなお城なんでしょう。やはりアリスさんの感性は、素晴らしいですわ」

「これは…。まるで大国の王城に来たようですわね。大きな城なのに圧迫感がなく、かといって荘厳と言う訳でもなく、『美しい』以外に言葉が浮かびませんね」


朝日を浴びたお城、大絶賛されてるけど、今の私は侍女見習いだから返事できない。


自走車を運転して来た商会員さんは、一人でせっせと荷物降ろしてる。

普通、荷物の上げ下ろしは侍女さんが手伝うはずだけど、侍女さんたちまで呆けてお城見てるの。

手伝いたいけど、私みたいなチビが荷物ひょいひょい降ろしたら、絶対目立つよね。


ここからだとお城の貴族エリアは私の探知圏外だから、窓から見られててもわかんないし。


商会員さん、一人で荷物降ろし終えて、後ろでうんうん頷いてる。

『そうだよねー。そうなるよねー』って感じ。


あれ?みんなの反応見るに、思った以上にやらかしてないか?

私はこの国の王城見た事無いけど、ソード君が、王都の城はもっと広いって言ってたから、ちょっと大きめの領主館程度のつもりだったんだけど…。


これは、正気に戻った領主様、冷や汗案件なのかも。

まずいな。私が作りたくってやちゃったお城だから、フォローしとくべきかな?


やっと正気に戻った公爵家ご一行と共に、お城の中に入りました。


すんません、階段だらけで。

本来なら、中庭上に一回、正面玄関に上がるのに一回の、計二回だけの設計だったけど、エレベーター計画白紙化されちゃったから、あと三階分階段上がります。


荷物持ってる侍女さんと手伝ってくれてる領主様の家人さん、ほんとごめんなさい。


七階にある公爵家用の客室(ノーブルスイート)に入り、シャルちゃんたちはパーティ用の衣装にお着替え。

12時からパーティ開始だけど、招待客は11時から受付して入ります。

領主様とソード君はホスト側なので、先に会場入りです。


貴族位が低い者ほど先に来てなきゃいけないマナーなので、王様の登場は12時。

私は11時半から謁見です。

この時間だとほとんどの貴族が会場入りしてるから、こっそり謁見してもバレないだろうとの配慮です。


うあ~、謁見時間30分近くあるぅ。

え?短い?

いや、謁見って、ほとんどの人が五分以内だそうだよ。

シャルちゃんとシャルちゃんママは一緒に来てくれるそうだけど、時間長すぎて不安しかない。


あ、私もお着替えですか?

はい、自分で着替えま…あ、侍女さんにお任せですか、はい。


…子供だからコルセットは無かったけど、パニエなんて初めてだな。

ドレスはシャルちゃんのおさがりだけど、このドレス、すごい高そうだよ。


あ、髪も結うのね。

昨日、侍女さんに長さを整えられたのはこのためか。

え?八歳児も化粧するの?あ、はい。


…誰だお前は!?

鏡の中で私と同じ動きをするんじゃない!

なんかスカートの裾がフラフープみたいに動くぞ。

腰か?腰のひねりが重要なのか!?


あ、すんません。

ちょっとやけになって、現実逃避してました。

公爵家様ご一行に、七階奥の貴賓室隣のラウンジへドナドナされました。

ネージュ~、行ってくるからねぇ~。


おお、扉の前に金属鎧の騎士さんが左右に並んでる。

近衛さんかな。

侍女さんが来訪者の名前を告げてます。

コンコンコンコン

あ、正式なノックは四回なのかな。


「公爵夫人ご一行がいらっしゃいました」

「通してよい」

「はっ!」


近衛さん(?)が返事と共にドアを開けてくれました。

うわ、ドアの内側にも近衛さん(?)が立ってる。

失礼になるかもと、魔力感知切ってたから分からなかったよ。

部屋の奥には、テーブルの向こう側に、がっしりした初老のおじさまが座ってる。


【お許しがあるまで目線を上げてはいけません】


シャルちゃんからの念話。

そうだった、言われてたのに忘れてたよ。

みんなで目線を伏せながら、室内に入ります。


【ここでカーテシーです】


あ、了解。


「謁見ではなく、ただの雑談だ。時間も少ないゆえ、まどろこしい作法も使うな。座ってくれ」

「陛下の思し召しのままに」


シャルちゃんママが代表して答え、みんな席に着きました。

でも、『時間が少ない』?

そんなに話さなきゃいけないことあるの?

あれ、私、王様の真正面?

目が合っちゃったので、思わず会釈しました。


「実績からは疑いようも無かったが、賢者なのだと改めて認識した。今のは“あちら”の挨拶だな」


【宮廷作法は使うなとのお達しですから、直答すべきです】


シャルちゃん、ありがとー。


「はい。前世の国では、ごく一般的なものです。ただの挨拶から、敬意、謝罪、感謝などを表す場合にも使われていました」


「文献には『誰に対しても、座っていても腰を折った』としか書かれていなかったが、そういう意味であったか。では、余も感謝を表すとしよう。賢者の知識による我が国への貢献、感謝する」


うわ、座ったままだけど、王様が頭を下げちゃったよ。


「感謝するのは私の方です。『辺境で自由に暮らしたい』という私のわがままを聞き入れていただいたお礼に、前世の知識を参考にしたものを提供したにすぎません」

「功績を考えれば、伯爵位は堅いが?」

「お礼を功績に数えられては困ってしまいます。なにとぞご容赦を」

「こちらが貰いすぎていると思うのだが?」

「いいえ、それだけの価値があるわがままを言っているつもりです」

「なるほど、等価なのだな」

「はい。こちらの新城も、私のわがままでこの規模になりました」

「ふむ、そういうことであったか。承知した。だがな、薬師としての功績は、そなた自身で治療してしまっておる以上、隠せんぞ。従って、特級薬医師の称号を与える」


うん、魔道具とかはマギ君が発表すれば私は隠れられるけど、治療に使う薬や技術は、患者さんに対して『私がやりました』ってモロバレしてるよね。これは仕方ないな。


「ありがたく、称号頂戴いたします」

「ふむ、今後も励まれよ。…それで、マギからは、駆け引き無しに直接聞いた方が良いと言われておるのだが…」


おや、王様もマギ君呼びなんだな。

でも、急に歯切れ悪くなったな。

なに聞かれるんだろ?


「そなたの危険度を確認したい」


うお!ずい分ぶっ込んで来たな。

前賢者さんのことがあるから心配なんだろうなぁ…。

仕方ない、覚悟を決めるか。


「潜在的脅威はかなりかと。前世の知識を悪用すれば、大量に人を傷付けることが可能です。しかも暗殺や討伐も異常に難しい存在です。ただし、自由な薬医師である限りは、絶対に安全な存在となります」


自分の危険性をアピールすることになるけど、同時に自分を守るための抑止力にもなるから、認識してる現状を素直に答えた。


「……まずは実直な回答、感謝する。詳しく知りたいが、『人を傷付ける』とはどのようにか?」

「誰にも気付かれずに大勢の人を病にすること、人が集まる都市を人ごと破壊すること、軍隊を一人で壊滅させることが可能です。ただし、これらを行うには、開発すべき兵器が必要です。薬医師である私は、人を治療以外で傷つける事を両親より禁じられております。私や大切な人の自由が脅かされぬ限りは。これが先ほどの『お礼』の意味です」

「自身と守りたい者が自由であるための『お礼』か。ある意味相応かもしれぬな。……暗殺や討伐が困難な理由も聞いてよいか?」


『自由でいさせてくれたら、今後もお礼するよ』って伝わったかな。

『お礼』の大きさは理解してくれてるみたいだし。

何とか第一段階はクリア?

今度は、『危ないから殺しちゃえ』をなんとかしなきゃね。

王様も探り入れてくれてるし。


「現在この部屋の前にはレベル7の方が四人。左右の部屋にはレベル5と6の方が五人ずつ。このフロアにある二か所の階段付近にレベル5の方が三人づつ。そして王様の後ろの騎士様はレベル10。あと、お茶を載せて来た大型ワゴンの中にレベル8の方が一人です。レベル10の騎士様、私は後ろを向きますので、何かを私に思いきり投げていただけますか?」


王様はしばらく驚いていたが、騎士様を見て頷きました。

私は椅子をずらして後ろを向きます。

あ、スプーンが高速で飛んで来た。

でも、私から2mほど手前で止まり、空中に浮いています。

私は椅子を戻し、王様に向き直ります。

スプーンも、元の位置に戻しておきました。


「このように、飛び道具は効果がありません。それと、この部屋の騎士様方、歩けますか?」


騎士さん、動こうと身をよじってますが、誰も歩けません。


「なんと!?すざまじいな!」

「レベル10の騎士様は、身体強化を使わずに手加減して頂いてますので」

「そうなのか?」

「はい、全力を出せば動けはしますが、戦うのは難しいかと。おそらくですが、こちらも手加減を頂いております」

「…王国有数の騎士たちが、歩く事も出来ぬか。ありがとう、よく理解出来た」

「蛇足ですが、私の強さは賢者だからではございません。この世界の誰もが習得可能な強さです。私はゼロから薬師の修行と並行しながら五年ほどでこうなりました」

「今、八歳であったか?」

「はい」

「三歳から始めれば、八歳には皆がその強さだと?」

「いえ、既に情報はお知らせしておりますが、集中すれば二年ほどかと」

「まさか、マギは既にこの強さなのか?」

「残念ながら魔道具関連のお仕事に忙殺されているようで、四月にお会いした時は、扉の内側の騎士様くらいでした」

「マギがそなたと初めて会ったのは…」

「一年と三か月ほど前です」

「そ、そうであるか…。ん?この領の継嗣に会ったのは?」

「一年と五か月ほどになります」

「そのご継嗣殿の強さはいかほどであろうか!?」


おっと、レベル10の騎士さん、喰い気味に会話に入って来たね。


「貴方様と扉の中の騎士様一名、お二人で同等くらいでしょうか」

「くっくっく、近衛騎士団長より強い子供が二人もおるぞ。賢者殿から貴重な情報を伝えられておきながら、どうやら軽視しておったようだ。あいすまぬ」

「いえ、ソード君の稀有なひたむきさが結果に出たのだと思います。他の方だった場合、さすがにゼロから一年半では難しいかと」

「ぜ、ゼロから一年半で我より上にぃっ!?」

「で、ですから、稀有なひたむきさがあれば、ですって」


わーん、近衛騎士団長の圧がきついよー。

顔怖いー。


「くくく、賢者殿があたふたしておるぞ。近衛騎士団長よ、少女を威圧するでない」

「はっ、申し訳ございません!」

「しかし、近衛騎士団長より強いのに、なぜうろたえる?」

「だって、近衛騎士団長さんは何も悪いことしてないもん。でも顔が怖かったから、私の不用意な発言で怒らせちゃったかと思って申し訳なくて…」

「ははは、愉快愉快!最強であるはずが相手の心をおもんばかって劣勢になるか」

「私は人を傷付けるような人間には、なりたくないもん!」

【アリスさん、お言葉が乱れてます】


しまった、動揺して思わず地が出ちゃった。

王様声立てて笑ってるけど、後で叱られないかな?


あ、ソード君の反応が近づいて来た。

そろそろ時間なのかな?

せっかく猫かぶって頑張ってたのに、最後に地が出ちゃったよ。

シャルちゃんやシャルちゃんママも笑ってるし。

さっきまでの緊迫した真面目なやり取り、どこ行った。


やばい。この雰囲気じゃ猫かぶり直せそうにない。

この状況、拝謁の雰囲気じゃないよ。

真面目にしろってソード君に叱られそう。

いや、真面目に対応したはずなんだけど…。


廊下を歩くソード君の反応を無意識に追ってたら、また近衛騎士団長の圧が上がってる。

王様、また笑いだしてるし。


ソード君、入室したら素早く王様に跪拝。

王様笑っちゃてて、手で立てって合図してる。

ソード君、雰囲気がおかしいと気付き、私の方をぎろり。


ぎゃー、私がやらかしたことばれてるー。


おろおろしてたら、王様、シャルちゃん、シャルちゃんママは、私とソード君を交互に見て笑いが堪えられない様子。

近衛騎士団長や騎士さんたちはソード君を睨んじゃってるし。

もう、なんなのこの状況!?


ソード君に視線の抗議を受けながら、何とか謁見終了です。

終わったけど、きっとまだ終わってない。

王様を脅すようなこと言っちゃったし、王様相手にグダグダの雰囲気にしちゃったし、なんか称号とかもらっちゃったし、騎士さんたちを身動きできなくしちゃったし。


…やらかしちゃった?

おかしいな、一生懸命頑張ったはずなのに。


ロイヤルな皆さまは、ソード君に先導されて会場入り。

私は公爵家の客室に戻り、ネージュもふりながらぐでってます。

着替えようとしたんだけど、私の荷物、領主様の部下さんたちが運んじゃったから、どこにあるのかわかんない。

みんなパーティや警備で大忙しだから、下手に動くと邪魔になっちゃう。

しかたない、おとなしくしてよう。

しかしどっと疲れたな。

私、体力もお化けなはずなのに…。


すぴー


ぺちぺち、ぺちぺち。

ふおっ、いかん、寝てしまった。

あ、ネージュ、ごめんね。今日は昼食無理かも。

私、動き回れないし、コックさんたちは料理で大忙しだろうし。

謁見の事で頭いっぱいで、その後のことまで気が回ってなかったよ。

ごめんなさい、保護者失格だよね。


ん、誰か来たぞ。

でも一人だから、まだパーティは終わってないな。


コンコンコン。

およ、ノック三回だ。

四回は上位者向けなのかな?


「薬師様、今よろしいでしょうか?」


あ、この声、シャルちゃんの専属侍女さんだ。


「はい、どうぞ」


おお!ワゴンに食事が乗ってるぞ。

ネージュ、ご飯来たよ。


「遅くなりましたが、お食事をお持ちしました」

「ありがとうございます。でも、こちらに来て良かったの?」

「お嬢様は主だった方へのご挨拶もお済になりましたので、奥様とご一緒にご歓談されております。お二人には奥様の専属が付いておりますので、わたくしは薬師様のお食事を仰せつかりました」

「助かります。実はお腹空いてました」

「従者用のサンドイッチやパンで申し訳ございませんが、わたくしも共に頂いてよろしいでしょうか?」

「どうぞどうぞ。あ、ひょっとして交代での食事休憩なのに、私に食事運んでくれたの?」

「いえ、パーティの際、従者は食事出来ないことも多々ございます。薬師様のおかげで、わたくしも食事の時間がいただけました」

「それなら良かった。じゃあ、いただきましょう」


お茶淹れて総菜パンやサンドイッチを頂きながら、パーティの様子を聞きました。


パーティ会場は、最上階の大広間と言う名の屋根裏部屋。

大きな体育館サイズだから、屋根裏部屋とは思えないけど。

ドーマーが、左右合わせて24個もついてるし。


断面は一辺30mの正三角形なので、すごい解放感。

平面図は、漢数字の『四』を縦長に伸ばした感じ。


『四』の底辺部分が10mx30mの階段ホール兼エントランス。

『四』の真ん中の縦に広い部分が40mx20mのメインホール。

『四』の右面が、貴賓・従者用控室。

左面はキッチンとバーカウンター、倉庫。


『四』の右下の角に配置されたメイン階段は来客用になるので、本館の両側面中央付近にくっついた形の尖塔型螺旋階段の、右側が貴賓用、左側がスタッフ用。


重さの関係で、最上部じゃないと、この広さは取れなかったんだよ。

屋根裏空間が広すぎて、もったいない精神が現れちゃったとも言える。


ちなみに、真冬の利用は無理です。

だって、壁や屋根材、軽量化の為に薄いもん。


「会場の大広間は、王城の大広間より広く感じました」


うん。メインホールだけで、エカテリーナ宮殿の大広間サイズだもんね。


「床が高級家具のようで、足を踏み入れるのをためらってしまいました」


えへへ、エカテリーナ宮殿のまねっこで、寄せ木細工っぽく張り合わせてあるあらね。

でも、大広間だと石床の方が映えるんだけど、重量の関係で苦肉の策だったんだよ。


「貴賓控室に入りましたら、どこかの山頂に出てしまったかと錯覚しましたわ」


わーい、その通り!

あれ、展望台デッキをイメージして作りました。

2mx1mの大判天窓が、1m高さを上げてずらりと並んでるの。

材料(石英)不足で二部屋しか作れなかったけどね。


後で主任さんに、石英使いすぎだって文句言われた。

『外壁で重量支えてるから階下の窓は小さくしか出来ない。だからここで使った』と強弁して呆れられた。


「厨房にも入りましたが、料理人の後ろに在った背板付きの配膳台、まさか仕切り壁代わりになっているとは思いませんでした。料理が完成した配膳台を押し出せば、一瞬で会場内に料理が出せてしまう。空いたワゴンと入れ替え、そのまま料理を運べます。パーティの度にワゴンを押して走り回る私たちにとっては、夢のような設備です」


おおぅ、苦労してるだけあってか、力説されてしまったぞ。

あれ、発案は私だけど、作ったのは姉妹ちゃん。

背板を装飾して壁っぽい雰囲気出そうと、二人してわいわいやってたもんな。


「また、貴重な卵を使った料理の数々。季節を無視したかのような新鮮な野菜類。王都でもあのような饗膳は無理です」

※饗膳(きょうぜん):もてなすための料理


野菜類は、温度設定の違う地下菜園のおかげだね。

卵はね、街の東に地下養鶏場があるの。

街の地下に山になってたレンガを商業区の建材に使って、地下が空き部屋だらけになったからどうしようかって相談されたの。

で、卵が欲しかった私は、ソード君をそそのかした。


野菜みたいに成長待たなくても、飼いだしてすぐに手に入るよー。

栄養豊富だから、卵食べると身体丈夫になるよー。

餌はトウモロコシとかの穀類だから、出来の悪かった穀類食べてくれるし、空き部屋で餌作れるよー。

獲物解体して出た骨とか、粉にして餌に混ぜると食べるよー。

卵の殻は畑の肥料になるよー。


私、頑張ってそそのかした。

最後に、養鶏場づくりを私が手伝うと言ったら許可が出た。

養鶏は匂いが問題になるからと、地下から煙突立てて強制排気にしたんだ。

養鶏場内が若干負圧になるので、入り口二重扉にして煙突高くすれば、匂い対策もばっちり。

予定地を街の外の東の地下にしたので、高い煙突立てても邪魔にならなかったしね。

でもね、ちょっと隔離して新規に作っちゃったから、空き部屋は餌用畑と卵保管室以外埋まらなかったね。


食後もまったり侍女さんとお茶しながら、薬医師について聞いてみた。


王都での分類は以下の通り。

薬師:通常薬を作る人

錬金薬師:通常薬だけでなく、ポーションも作れる人

医師:通常薬やポーションを使い、医療処置で患者を癒す人

薬医師:薬(ポーション含む)を作り、医療処置もする人

と分類されてるらしい。


辺境では兼任がほとんどだが、薬作りは必須のため、便宜上薬師と呼ばれてるんだって。

そうなのか。私、正式には元々薬医師だったよ。

さっき王様に言われたからそう名乗ってたけど、なんだ、『特級』付いただけじゃん。


侍女さんのお話聞いてから、侍女さんに私の荷物出してもらって、私服にお着替えしてたら公爵家ご一行が戻ってきた。

よし、これで帰れると思ったら、シャルちゃんが申し訳なさそうに言ってきた。


「申し訳ないのですが、陛下から、内部診断と痛覚遮断の魔法の指導をお願いしたいとのことです」

「がーん、私、帰れない…」

「はい、習得が難しければ明日もと…」

「……あの魔法、最低レベル7以上、薬草の魔力感知が出来て、魔力制御もソード君クラス、年単位の時間が必要だって説明書きしといたはずなのに…」


さっき、『特級』が付いただけとか思っちゃったのがフラグだったか。

初対面の人にあの魔法習得してもらうの、一日や二日じゃ絶対無理だよ。

帰りたいー。


「王宮医師が二名来ているそうです」

「は?錬金薬師の技が必須なのに、なんで医師?」

「当然陛下は条件をお読みになっているはずです。その上で、ご聡明な陛下がお供をお許しになったとすると、何か裏がありそうね」


ママさん。私、裏なんて要らねーです。


「…勝手に利用されるのは嫌なんだけどなぁ。だけど、患者さんの為を思えば、我慢して教えなきゃダメかな。でも、習得条件満たしてない人だったら、教える以前の問題だよなぁ」


はぁあ、やっと帰れると思ったのに『残業ヨロ、休日出勤ヨロ、相手ド素人ね』ときたよ。

気分は急降下だよ。


「私、とりあえず五階の自室行ってるから、なんかあったら念話してね」


シャルちゃんにお願いして、私はしんなりしながら五階に移動します。


五階にはね、領主様、ソード君、姉妹ちゃん、私、領主家の家人それぞれに個室があるんだよ。

中庭上の地下には、私たちだけの専用工房もあるの。


魔道具技師を隔離して外敵から守るっていう目的からすれば、この城に仕事場と私室があるのは当然なんだけど、私、おうちと工房あるよ。

ここに引っ越す気、無いよ?


いまいちテンションが戻らんな。

……ここって『私の自室』ってことは、自由にしてもいいってことだよな。

よし、気分転換に改造してやる。

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