2年目 春
去年一年を振り返り、大いに反省した私は、早速ソード君にお手伝いの相談してみた。
「ありがたいんだが、今は講師は間に合ってるぞ」
「ほへ?もう魔道具技師育っちゃったの?」
「いや、別の理由。水晶が足りん」
「え?いくらなんでも枯渇するには早すぎない?」
「……まあ、そういうことだ」
「ぬ、……まさか、買い占め?」
「ああ。あと庶民王子への嫌がらせ。魔道具の価格を制限したから、『高い水晶買って、安く売れるならやってみろ』ってところか。腹立つから、今、新しい水晶鉱探してるんだが、見つかるまでは魔力変換水晶作るのは最低限に抑えてるんだ」
「…王様の御触れじゃ、そんなことしちゃダメなんじゃないの?」
「ポーションの時は、劣化品にせよ水増しにせよ売ってる現物があったから摘発出来た。だが、『売るものがありません』と言われて摘発は出来ん。貴族家を強制捜査して現物が見つからなけりゃ、捜査側の責任問題だ」
「嫌がらせや悪事に頭使うくらいなら、みんなの為になることに使えっての!!」
「全くだ。今はうちの領からの水晶で何とか持ってるが、枯渇したら景気が一気に冷え込んじまうからな。マギやシャルの家、良識ある貴族家も水晶鉱探してくれてるが、まだ大きな発見の報告は無いな」
「わかった」
「みゃぁん」
あ、ネージュが心配そうな声で鳴いてる。
いかんな。
「…おい、お嬢。頼むから森奥入ったりするなよ」
「…なんでバレたの?」
「顔がすげー怖い」
「う、…ごめん。怒って無茶して心配かけるのは間違ってるよね。おとなしくしてるよ」
「ああ、これは薬師が解決することじゃない。だから解決すべき奴らに任せろ」
「そうだね、ちょっと感情的になっちゃった。ごめん。でも、薬師じゃなくても友達として協力出来ることがあったら言ってね」
「おう、そんときゃ頼む」
何とか頭冷やして、笑顔でソード商会を出ました。
ネージュを肩に乗せたら、ほっぺにすりすりされてしまった。
うん、みんなに心配かけちゃだめだよね。
ごめんよ、ネージュ。
てんちゃんに乗り込み、しばし瞑想。
前世の父が言ってたんだよな。
『どうしても許せないことがあったら、冷静になりなさい。怒るという感情で脳を使うくらいなら、そのエネルギーも思考に廻して打開策を考えなさい』
これ聞かされた時は、そんな無茶なって思ったんだよな。
でも、次の言葉で納得した。
『相手は君を怒らせて喜んでるんだ。喜ばせちゃダメだよね』
うん、その通りだ。
嫌なことしてきた奴は、喜べなくしなくちゃね。
よし、切り替えた。おうち帰ろう。
おうちに帰って、まずは糖分補給。
小麦粉と砂糖で作った携行食をバリボリ。
これ、糖分補給用に甘く作ってあるからね。
うし、頭よ働け。
今回の問題は、水晶が足りない事。
じゃあ、打開策は?
水晶ガメてる奴らを説得?
そんなの時間の無駄だ。
こっちが困ってることを見せれば相手を喜ばせるだけだ。
なら、水晶探す?
うちの洞窟内や東の水晶鉱では足りないんだから、もっと大きな鉱床要るんだよね。
水晶って、二酸化ケイ素が高温高圧で結晶化したものだよな。
そうなると出来やすいのは造山活動の際だから、大きい鉱床あるのはやはり山が有力か。
このあたりの山って、北の山脈しか無いぞ。
例え山で見つかったとしても、ヒグマや狼、ヘラジカいるから採掘や運搬無理じゃん。
それに、森の奥に入るとソード君に心配かけるし。
人工水晶?
二酸化ケイ素が溶けたアルカリ水溶液を高温高圧にして徐々に出来るってことしか知らんし。
実験するにしても、高温、高圧、アルカリ水溶液。
危ないの三拍子やん。これも心配かけるぞ。
く、前世の父よ。もう思考がとん挫したんだが…。
『あきらめるの早すぎない?君の怒りはその程度だったの?』
うん、その通りだ。
この程度で思考を放棄しちゃダメだ。
…
あ、まだ考える方向あった。
魔法ってどうなん?
石英こねこねしたら光らなくなった。
マギ君も、磨いた水晶だと効果が薄いって言ってた。
じゃあ、表面の結晶構造が必須だよね。
この世界の魔法って、かなり汎用性が高い。
なら、魔法で結晶構造再現出来ないか?
うし、実験してみよう。
まずはクズ石英材料にして――
出でよ水晶!!
ガハッ!これあかんやつや。
いきなり魔力持ってかれた。
止めなかったら枯渇コースだったな。
残りの魔力は半分くらいか。
うーん、どうすべ?
…出でよ二酸化ケイ素!
あ、これは発動可能なのね。
なんか白っぽい粉がいっぱい出て来たよ。
よし、おまいら結晶化せよ!!
ぬお!魔法は発動したけど、結構魔力食うな。
あれ?魔法発動してんのに粉に変化が無いぞ。
何だこれ?
あ、これ加熱の魔法なんかと同じだ。
一瞬の魔法じゃなくて、連続的に魔法使用しないと効果が薄いパターン。
やばい、そろそろ魔力枯渇しそうなんですが…。
も、もう無理。一旦止めよう。
あかん、くらくらする。
ポーション飲んで魔力回復を待とう。
ポーションはね、元々魔力を身体に充填してケガや体力回復、炎症を修復するから、魔力が足りない時に飲むと回復が早くなるんだ。
飲んだらしばらくぐでっていよう。
…
うん、私、なんとか復活。
いやー、久々の魔力枯渇、やっぱきついわー。
レベルが上がるとね、豊富な魔力があるのが当たり前みたいになっちゃって、その分、枯渇した時の症状がひどいんだよ。
低レベルの時は『身体重いなー』くらいなんだけど、今じゃ枯渇即意識喪失。
枯渇直前に魔法止めたんだけど、それでもきつかったねー。
さて、こんなしんどい目にあってまで発動し続けた魔法、結果はどうなの?
……
細っ!
つまようじ1/3くらいに折ったサイズのニードル水晶っぽいものが、粉の中に埋まってた。
これ、ちゃんと水晶になってんのか?
魔力供給してみたけど、光らんぞ!
あ、手で覆って暗がりにしたらぼんやり光ってる。
一応は成功なの?
でも、小さい上に透明度低いな。
しかも、私の魔力半分使ってこのサイズじゃ、実用は難しいぞ。
魔力少ししか回復してないし、今日はここまでにしよう。
根詰めてネージュに心配かけたくないしね。
翌日のあさー。
お、雨だ。
よし、日課済ませたら工房で昨日の続きしよう。
昼食後、工房棟で色々実験してみた。
まず、結晶化の魔法を、じわじわとゆっくり結晶化するイメージに変えてみた。
結果、同じ大きさの水晶作るのに、魔力消費は半分になった。
時間は体感で倍以上かかったけど、水晶の透明度が増して、点灯実験でも昨日の水晶より明るくなってた。
この結果から、ゆっくりと時間をかけて結晶化した方が良いと判断。
時間をさらに倍ほどかけて、ゆっくりと結晶化するようにしてみた。
透明度、発光量共に上がったが、効果はいまいち。
また、使用魔力量の軽減も軽微だった。
しばらく悩んだ末、二酸化ケイ素の粉を水に溶いた状態で結晶化してみた。
三本目より太く透明度の高いものが出来た。
しかし、透明度にムラが出たので、濃度や水流を変化させ、実験を続けた。
…くう、魔力二割以下。今日はここまでか。
人工水晶づくり三日目。
いつもの日課を済ませ、今日はポーションやお薬納品に、街に来てます。
ネージュを肩に乗せ、キックスケーターをのろのろ走らせてソード商会近くまで来たら、なんかネージュの様子が変です。
向かい側にある魔学研究所の建物の方を睨み、全身に力を入れてます。
「ネージュ、どうしたの?」
問いかけると、通りを歩く男のイメージが送られてきます。
ん?あの男か。
イメージ通りの男が実際に歩いてるけど、少し挙動不審です。
ゆっくり歩いてるのに、魔学研究所の入り口にばかり目線が行ってます。
これは、ソード君にお知らせした方がいいね。
不審者のイメージをソード君に送りながらソード商会に入ったら、ソード君が二階から下りてきました。
二人して窓から、こっそり覗きます。
「お嬢、連絡ありがとな。歩いてるだけだが、ちょっと怪しいな」
「ネージュが知らせてくれたの。あ、研究所の門、通り過ぎたね」
「急に歩くのが早くなったな。角曲がって見えなくなった。お嬢、追えてる?」
「うん、大丈夫。あ、戻ってくるよ」
「どう見ても研究所の中の様子を窺ってるな。さて、どうするかな」
「いま捕まえても、怪しいってだけだもんね。え?」
ネージュからもう一人、男のイメージが送られてきた。
今度は背負ってた荷物を下ろして荷物に腰掛け、汗を拭いてる男だけど、帽子を目深にかぶってるから顔が見えない。
「まじか、あいつもかよ」
あ、ソード君にもイメージ送ったのね。
男は汗を拭き終わって、今度は荷物の点検してる振りなのかな?
でも、わざわざ荷物の後ろに回って、研究所の入り口を視界に入れてるね。
「日中だから、多分下見だよね?」
「ああ、事を起こすのを待つのも面倒だ。身元を確認してマークしとこう」
「兵士さん呼ぶ?」
「怪しいと思った時に念話入れといた。今日は副長が街の巡回のはずだから」
「おお!即時連絡体制が出来てるね」
「お嬢の兵士強化計画と念話のおかげでな。兵士の半数近くが念話使えるようになったから、各隊に一人は念話使いを振り分けてる」
「すごいね。王都でも出来ない事やっちゃってるよ」
「残念なことに、ここ最近念話が必要なくらい怪しい奴が多いんだ」
「うわ、大変だねぇ…」
「あ、副長たち来たな」
「ん?あれは何してるの?」
「ああ、身分証の印を確認してるんだ。出身領の証明印が押されてるから、見本と見比べて本物かどうか確認するんだ。どうやら二人とも偽造みたいだな。連行されてく」
「あー、そのためかぁ。少し前に、隊長さんにはんこの見比べ方聞かれたよ」
「は?なんだそれ?俺、聞いて無いぞ」
「いや、詰め所に常備用のポーション持ってった時に聞かれたんだよ。素早くしっかりはんこを確認する方法は無いかって」
「は?見比べる以外やりよう無いだろ?」
「うん、見比べるんだけど、交互に見るんじゃなくて、いっぺんに両方見てはんこを重ねるんだよ」
「??よくわからんぞ。説明してくれ」
説明を要求されたんで、二人で執務室に上がって立体視の方法を説明しました。
ソード君、10分くらい試行錯誤して、立体視習得してた。
「まじか…。魔法も使わずにこんなこと出来るんだな」
【これ、前世で間違い探しってのがあってね、絵も二つで目も二つあるんだから、片目ずつ違う絵を見て比較出来ないかとやってみたら出来たの。こうして見ると、違う箇所がはっきり分かるでしょ】
賢者関連の話になるし、間違い探しで絵を重ねるイメージも送りたかったから、念話してみた。
「…先にこのイメージ送ってくれたら、もっと早く習得出来たと思うぞ」
「あ、そうだよね。言葉で説明するより早いよね。今度からそうするよ」
「…」
あ、ソード君、ちょっと拗ねてる。
だよね、ソード君は苦労して覚えたから、後で簡単に覚えられる方法見つかったら納得いかないよね。
「ごめんごめん。お詫びにこんなのどう?」
念話で、長曽祢興里入道虎徹のイメージ送ってみた。
「うお!何だこの剣、細身だけどすげーきれいだな。儀礼剣か?」
「いや、これ実用品なんだよ。刀(かたな)っていう刃物。私の剣は、日本刀の作り方を参考にして作ったんだ。形を参考にしたのはこれ」
今度は熱田神宮所蔵の国宝、来国俊の短刀のイメージ送ってみた。
「おお!確かにお嬢の剣だ。あ、刀って呼ぶのか」
「いや、私のはまねっこのもどきだから剣でいいよ。本来の刀の製造工程と工夫は、私じゃ再現できないから」
「ほえ~、確かに見てるだけで圧倒されるな」
ソード君、目をつぶってイメージに集中しちゃってるよ。
機嫌、完全に治ったね。
イメージ送るの止めようとしたら、何度も延長して送らされたよ。
◇
おうちに戻ったら、早速工房で昨日の続き。
今日は結晶化の変換水晶作って、溶液も加熱して対流させてみよう。
…
をう、結晶化の変換水晶づくりで魔力がやばい。
水晶表面に細い模様が出来ただけで魔力不足。
仕方ない。これで魔道具化して溶液の上に吊るして放置しよう。
対流用の過熱は…
失敗作のホットカーペット型魔道具の上に置いとこう。
これ、一部しか暖まらなくてお蔵入りになってたから、丁度いいや。
リビングに戻ってネージュとごろごろ。
魔力回復中です。
ぺちぺち、ぺちぺち
は!うたた寝しちゃった。
またネージュに起こされてしまった。
はいはい、夕食ね。用意しますよー。
夕食後、洗濯機回しながらお風呂タイム。
まったりのんびりー。
…いかん、また眠くなってきた。
さっさと上がって、今日は早寝しちゃおう。
翌朝、日課終わってから工房行ったら溶液容器の底に水晶クラスター出来てた。
真ん中の水晶は太さ3cmくらいで透明度も良いし形もきれい。
でも、周りの水晶は中心から離れるほど歪になってる。
これは容器を立方体にしたのが失敗だったか。
対流が安定してないのかもね。
よし、入れ物円筒形にして直径も変えてみよう。
加熱方法も色々変えて再チャレンジしよう。
結晶化の変換水晶もう一本作って、比較実験だね。
うん、知ってた。
ゆっくり結晶化しないときれいな水晶になんないから、触らずに明日まで放置だ。
ネージュもお出かけしちゃったし、すること無くなったな。
よし、工房棟の掃除でもしよう。
二階や三階は全然使ってないけど、埃くらいは溜まるからね。
せっせとお掃除してたらネージュが帰って来た。
あ、もう夕方か。よし、夕食作ろう。
翌日、畑のお世話してたらお散歩行ってるネージュから念話が入った。
このイメージ、隣領にある西の果樹エリアだね。
え?知らない六人組の兵士っぽい人たちが、うちの領の西の森方向に歩いてる。
これ、無断越境ぽいな。
ネージュ、すぐ行くから見つからないようにね。
ソード君に念話入れながら、森用装備してダッシュで出かけます。
緊急事態っぽいので、裏の崖に飛び上がって一直線に進みます。
ネージュから送られてくるイメージだと、もうすぐ領境の川に差し掛かりそう。
やば、無断で川を超えたら害虫認定されちゃうよ。
なんとか止めなきゃ。
目いっぱい急いだら、おじさんたちが川を渡るために下半身の装備を外してるところで到着しました。
一気に川を飛び越え、着地と同時に警告します。
「おじさんたち、この川勝手に渡ると捕まっちゃうよ」
一瞬でおじさんたちが振り向き、武器を手にしてます。
この反応、無断越境だって認めちゃってるようなもんだよね。
「川向こうの伯爵領は立ち入り制限されてるから、無断越境は王命で害虫認定されちゃうんだよ」
「…嬢ちゃん、俺たちはちゃんと許可貰ってるから大丈夫だぞ」
ふむ、子供だから言いくるめて渡ろうってか。
でも武器から手を離したから、子供を斬り捨てるような外道じゃないみたいだね。
「残念だけど、森に入る許可貰ってる人は事前に面通しされてるんだよ。伯爵領の兵士さんやご継嗣様もこっちに向かってるから、おとなしくしてくれるのが一番穏便に済むよ。逃げようとしても足の速い兵士さんばっかりだから、すぐ捕まっちゃうよ」
「…」
おじさんたち、戸惑って行動を決めかねてるみたい。
ああ、足を怪我してるっぽい人がいるから、置いて逃げるのも出来ないんだね。仲間思いじゃん。
「私薬師だから、おとなしくしてくれたら怪我してる人は治療するよ」
「……治療頼めるか?足がかなり腫れてきてるやつがいるんだ」
「うん、任せて」
一応魔力感知でおじさんたちの動きに注意しながら、びっこ引いてる人に近づきます。
あ、ネージュが草むらに隠れてボルト構えてる。
【そのボルトは仕舞って!悪い事してない人向けて撃っちゃダメだから!!】
念話でネージュに注意しながら、怪我人の足を触診。
ふくらはぎパンパンに腫れて熱持ってるよ。
「これ、何か動物に噛まれたでしょ。患部が熱持ってるから、身体もだるくない?」
「あ、ああ、昨日夕方狼に噛まれた。だんだんだるさが強くなってきてる」
「狼の牙に付いた雑菌が体の中に入っちゃって、身体が拒否反応起こしてるのよ。昨日の今日でこの腫れ方だと、傷口開いて洗浄した方がいいわ。診察台作るから、そこに寝て」
「は?診察台?うお!!」
土で簡易の診察台作ったら、みんなびっくりしてる。
「ここにうつぶせで寝て。少しだけズボンの裾切るね」
「お、おう」
リュックから治療器具や薬品類を取り出し、患部が見えるようにはさみで裾を切り開いたら、ばっちり歯形が付いてます。
「下あごの歯形は無いから、防具で保護出来たんだね。肉、持ってかれなくて良かったね」
「…まじかよ」
「防具無かったら、大抵は齧り取られるから」
「…」
「少しだけ足がピリッとするけど、ちょっとだけ我慢してね」
ここで新開発魔法、部分痛覚遮断!
身体の内部診断出来ないかと思って色々やってたら、相手の魔力に自分の魔力を同調させることで、ある程度内部診断が可能になったんだよね。
しかも、神経の位置とか分かったから、同調させた魔力で神経の伝達を阻害して部分的に痛覚遮断することに成功しました。
あ、人体実験は自分の腕でやったから安心してね。
「ぐっ」
これで膝から下は、しばらく感覚無いはず。
「ここ、触ってるの分かる?」
「ん?全然分からんぞ」
「よかった。これで患部切り開いても痛くないからね」
「は?」
森用手袋を外し、お酒から抽出したアルコールで、手とメスを消毒。
いざ、切開開始。
歯形に沿ってメスを入れます。
良かった、うまいこと太い血管は除けてるね。
「お、おい、痛くねえのかよ?」
「あ?なんかしてんのか?」
はは。患者さんはうつぶせだから、何してんのか分かんないよね。
お次は、患部を開いて水洗い。
水球作って、強めの水鉄砲みたいに噴射して患部を洗います。
水球で直接洗おうとすると、患者さんの魔力反発で水球が崩れちゃうからね。
よし、洗浄終了。
次はグレード9.0ポーションを傷口内部にかけて、お肉を合わせてくっつくまで待ちます。
9.0を使うと、一分くらいで一応くっつくからね。
この時、傷口が辛うじて閉じる程度の力加減がコツ。
押し付けすぎると、くっついた時に引きつった感覚が出るからね。
あとは患部が開かないように、少しきつめに包帯で巻きます。
あ、ソード君の反応だ。
「あの、さっき話したご継嗣様と兵士さんが到着するけど、出来たら武器を置いて離れてくれる?」
「……ほんとに来るのか?」
「うん、あと数十秒。あっちに来るよ」
指さした川向こうの森の奥から、茂みをかき分ける音がしてきました。
おじさんたち、素直に武器を置いてくれてます。
よかった、仲間思いないい人たちみたい。
これなら穏便に済みそうだね。
「お嬢、待たせた」
ソード君が川を飛び越えてきました。
川幅10mくらいあるもんね。びっくりするよね。
うちの領の兵士さんたちは、不安を与えないためか川向こうで待機です。
「ううん、いま治療終わったとこだから丁度良かったよ。
私、この人たちに川を渡らなかったら穏便に済むって約束しちゃったんだけど、何とかなる?」
「ああ、渡ってなけりゃ、多分な。あんたたち、直轄領の兵士じゃないよな?」
みんな首を横に振ってます。
「じゃあ、直轄領への無許可侵入程度で何とかなるぞ。森の中じゃ領の境界なんて分かりにくいからな」
「ありがたいが、俺たちは家族が人質みたいになってるんだ。捕まってはいないが、命令聞かなきゃ罪人として捕縛するって貴族家の家人に脅されてるんだ。手ぶらで帰ったら何されるか分からん」
「あんたら侯爵領の兵士だろ?なら何とかなるぞ」
「な、なんで分かるんだ?俺たちは侯爵領の領兵、俺はこの隊の分隊長だ」
「今朝早馬で知らせが来た。あんたらの領主、あんたたちに王命を無視した命令出した罪で捕縛されるんだ。今、騎士団が直轄領に来てて、出発の準備してる。あんたらは生き証人になるから騎士団が守ってくれるぞ。もちろん家族もな」
「そりゃあありがたいが、何でもう騎士団が来てるんだ?」
「前々から内偵されてたんだ。ある程度の証拠が固まって騎士団が派遣されてきたところで王命無視だ。査問会出頭命令のはずが、捕縛に切り替えだ」
「そんなことになってたのかよ。分かった、全面的に協力する」
「良かった。万一なんかあったら俺の名前出して騎士団長に相談してくれ。後で紹介状渡すから」
「感謝する」
「ああ、あんたらが川越を思い留まってくれたおかげだ。さてお嬢、話纏まったぞ」
「うん、ありがとう。そっちの兵士さんには薬も渡しといたけど、歩けないから適当に作った担架で運んであげて」
「このまま森を下って平原に出るが、あんたら運べるか?」
「ああ、大丈夫だ。…でも、いつのまに担架なんか出来たんだ?」
「ま、お嬢だからな」
「ちょ、ソード君酷い!お話し中にせっせと作ったのにー」
「ありがとよ。ちゃんと領宛に治療代請求しろよ」
「ぶー」
私はもうお役御免なので、ネージュと一緒に川を飛び越えて帰りました。
お昼過ぎてるからお腹空いたよー。
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