もう少しだけあなたのそばに

チカチカ

1話完結

「それじゃ、お母さん、いってきまーす」

お兄ちゃんたちはそう言って、元気よく旅立って行った。

「いってらっしゃーい!頑張るのよー」

お母さんはちょっぴり寂しそうな顔をして、お兄ちゃんたちを見送った。

春風が優しくそよぐ。お日様がぽかぽかして暖かい。

今日は絶好の旅立ち日和。


「ねえ坊や。坊やはまだ出発しないの? 」

お母さんが心配そうに僕に尋ねる。

「うん。もう少しだけ、お母さんと一緒にいるの」

僕はお母さんに甘えるように、そう言った。

「もう、仕方のない子ね、甘えん坊さん」

そう言いながらも、お母さんはどこか嬉しそう。

ねえ、お母さん。この間、お姉ちゃんたちが出発したときも、さっきも、お母さんは寂しそうにしていたでしょう。

だから、もう少しだけ、僕はここにいるの。お母さんのそばに。

大丈夫。春風さんも待っていてくれるから――


「あ、ママー、みてー、ふわふわしたのがとんでるー」

「あれはね、たんぽぽさんの綿毛よ」

「わたげ? 」

「そう。ああやって、風に乗って飛んでいくの。そして、どこかに着いたら、そこで大きくなって、新しいたんぽぽさんのお花を咲かせるのよ」

「ふうん・・・・・・? 」

小さな男の子は分かったのか分からなかったのか、きょとん、とした顔をした。

そして繋いでいたママの手を、もう一度、ぎゅっと握った。

それは、道端に生えていたたんぽぽに、一つだけ綿毛が残っているのに似ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もう少しだけあなたのそばに チカチカ @capricorn18birth

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ