僕たちの世界は。

月夏

第1話 恋の始まり


僕は歌唱部に入部している。

歌を聴くのも歌うのも、元から好きだった為迷わず歌唱部に入部した。

今日は何故か部室がザワザワと騒いでいる。何かあるのかと思い、周りの話への聞き耳を立てる。


『今日さ、新しい入部員来るらしいよー。』


『そうなの!?どんな人なんだろう、楽しみだねー!』


周りはそんな話でいっぱいだった。

僕は“そんな話か…”と思いながら一人で音楽を聴き始めた。


(別に…僕には関係ない話か。)


そう思っているうちに顧問が入ってきて言った。


「おーい、皆、席につけよー。」


同じ部活員はその言葉に“えー”などと言いながら席に着いていった。


「えーと…今日は皆にお知らせがある。新しい入部希望の奴が来た。」


顧問がそう言った途端、周りはさっきよりも大きく騒いでいる。


「まあまあ騒ぐな。連れてきたから。入ってきていいぞ。」


顧問は宥めるかのように言ってきた。


ガラッと扉が開き、ある生徒が入ってくる。


「はじめまして。入部希望の中里陽太です。よろしくお願いします!」


その生徒は大きな声で、不安の欠片も無さそうな笑顔でそう言った。僕はその生徒を見て、驚きを隠せない。

だって、入部希望として入ってきたのは転校してきて同じクラスである相手だった。そんな風に思っている間に話は進んでいたようだった。


「皆、仲良くしてやってくれ。席はそうだな。確か同じクラスだったよな、颯馬の隣で良いか?」


顧問は突然そんなことを言い出して、中里くんというのは反対もせず僕の隣に座った。中里くんは僕の方をみて笑いながら言った。


「颯馬!これからよろしくね!」


「あぁ…そうだな、よろしく。」


それからというもの、中里くんは何故か教室でも部室でも話しかけてきた。迷惑では無かったが、僕は人との距離だったり関わり方が分からず苦手だ。それに中里くんは転校生だからかよく目立つ。

それでも、中里くんは辞めずに僕に話しかけてくる。理由はきっとクラスメイトだからか、同じ部活仲間だからだろう。でも何だか心地が良くて、その時間は案外嫌じゃなかった。





今日から俺はこの学校の歌唱部に入部する。

前の学校でも上手くやっていたし、友達は問題無くいた。心が不安になるのは俺の性格なのか。不安で落ち着かない気分を掻き立てられる。


(…この部活でも上手くやっていけたらいいな。)


自己紹介では、とても緊張したが何とか笑顔でいられた。

そんな僕はこの学校に転校してきて、歌唱部に入部した。

歌唱部の人たちは優しくて温かく僕と接してくれる。


歌唱部に入って隣の席が颯馬だった。

颯馬は同じクラスメイトだったからとても嬉しくて、不安も無くなっていった。


それからは僕は颯馬と仲良くなりたくて、教室でも部室でも話しかけた。颯馬は話しかけてもあまり返事はしないけれど、嫌な顔などはしなかったから嫌われてはいないようだった。


それからずっと話しかけたり、移動教室も一緒に行ったりした。お昼ご飯も一緒に食べて、ずっと颯馬は苗字で読んでいたから言った。


「ねぇ、颯馬、僕のこと名前で呼んでいいよ。」


「え、?名前…?分かった、陽太。」


颯馬は少し困ったような顔をしたがすぐに名前を呼んでくれた。

何故か、颯馬に呼ばれた名前は他の人に呼ばれる時と何か違った。呼び方は同じはずなのに、どうしてそう思ったのだろう。

そう疑問に感じ、考えたが今の僕には答えが分からなかった。





陽太は僕へとても動物が懐いてるかのように話してくる。

僕は陽太とたくさんの一緒の時間を過ごす日々が過ぎていった。


移動教室もお昼ご飯も一緒に過ごしている。

突然名前で呼んでとも言われて、僕は動揺を隠せなかった。

でも陽太も名前で呼んでくれているし僕も呼んでみたいと感じ、陽太と名前で呼び始めた。


お互いが名前で呼び合い、お昼ご飯なども一緒で親友みたいだった。

最初は僕には関係ない人だと思っていたのに、今では違っていて何だか僕の世界が陽太で変えられていくみたいだ。

でも、それも嫌な気分ではなく、少し心地よくて嬉しかった。

最初は話すのも困っていたが、慣れたからか話せるようになっていった。

陽太と一緒にいる時間が楽しくなっていった。

だんだんと僕から話しかけにいくことも増えていった。


陽太は誰とでも仲良くなれて人に好かれやすい性格だ。僕には出来ない事だからそんな陽太を人として尊敬している。


そして、特別な目でも見るようになった。

何かきっかけがあったわけでもないのに、気付いてしまった。


僕は、陽太のことが好きだということに。


友人としてでも、尊敬としてでもなく、恋愛感情として。


陽太の明るいところが好き。僕と違うところが好き。

僕に優しく、いつも傍にいてくれるところが好きだ。

めげずに話しかけてくるところも、僕に興味を持ってくれるところも。


陽太には、そのことは伝えていない。


きっと、気持ち悪がれて離れられる。“同性”だから。


陽太と離れるくらいなら、伝わらなくたっていい。


だから、僕は言わないようにしている。


僕は陽太の傍にいられたら、それで良いんだ。


だから、僕はこの想いは心の底でひそかに寄せる。

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