新メンバーが続々です!
第51話 突然の初舞台!?
最初に時間転移した時と同じ感覚をシルスは感じていた。
シルスの三半規管を襲う船酔いに近いふわふわ感。
真っ白な空間にただ一人、空中に浮いているような、上昇しているのか、下降しているのか、平衡感覚が全くわからない状態だ。
「うええ、やっぱり慣れないなあ……きもちわるい~目が回るうう」
もう少し、もう少しだけ我慢すれば。
元の時代に。
母の元に。
友達に。
シェラーラに会える。
みやげ話を聞いてもらおう!
両手じゃ抱えきれないくらいの思い出を!!
聞いてもらいたい!!
そう思っていた。
「『ぅあいてぇっっ!!』」
「え!?なに!?えっ……親分さんっ?」
突然、背後から野太い男の声。
シルスはそれが何故か、切り株親分の声だと直感する。
「うわわわっ!?」
天地が逆転するような感覚。もとからどこが上か下かも判らないから、頭が上だと仮定しての天地が逆転するような感覚に襲われる。
「うえええ~まわるううう~っあっ?あー!?見えたっ!」
真正面にぽっかりと開いた黒い穴。
その穴が、少しずつ頭上に移動していく。
やがてシルスの頭上にピタリと止まると、その穴に吸い込まれるようにして急上昇していく感覚。
ぐんぐんと加速していき……
しゅぱっ!
軽快な音と共に一瞬ふわりと浮き上がり、とん、と両足で着地する。今度は尻もちをつかずに済んだ。
「着地成功!到着ぅ~!……あれ?」
始めにあったアナウンスがない。
周りは薄暗くて見えない。というより、シルスが立っている場所だけがスポットライトで照らされた様に明るいのだ。
静寂、一瞬のざわつき。
そして。
沸き上がる大歓声。指笛。割れんばかりの拍手、喝采。
ごわわ~ん、と鳴り響くドラの音を合図に、眩いばかりの照明がいくつも点灯した。
「え?えっ!?なに!?」
シルスは全く理解できない。
再びドラが鳴るとそれを合図に、半裸に近い衣装の三人の若い女性達がシルスを中心に踊り始めた。
きらびやかな装飾品を散りばめた衣装をまとい、軽やかなステップを踏む踊り娘達。身体の至るところにタトゥーが施されている。
棒立ちのシルスにその内の一人が近づき、
「笑顔!笑顔で!」
栗色のポニーテールの娘が耳元で囁き、踊りの流れを切らさないようターンしながらシルスから離れていく。
入れ替わりで、燃えるような赤毛の踊り娘がするりと回り込みシルスの片腕を掴む。と、振り回すようにしてシルスと踊っているように魅せ、途切れそうになった踊りの流れをつなぐ。
空気を震わせるように鳴り響く弦楽器と打楽器の音は、数名の奏者による生演奏だ。
「なに、ぼーっとしてんだ!舞台潰す気か!?」
シルスの耳元で赤毛の娘が怒りを込めて囁く。
――舞台っ!てナニ!?
「ここでキメポーズ!両手拡げて片膝つけばカタチになるから!合図に合わせてね!」
再び入れ替わりで赤みがかった栗色のツインテールの娘がシルスに耳打ちする。
ドン、タタン、タン、タン!
足を踏み鳴らし、手拍子でリズムを取るポニーテールの娘。
「3、2、1、ハイ!」
三人が手と手を取り合い輪をつくり、その中心にシルスを配置すると、鮮やかにフィニッシュを決めた。
舞台を締めるドラがごわわ~んと鳴り響く。
再び沸き起こる大歓声、指笛、拍手喝采。
「アルシーアー!」
「ルーフェリカー!かわいいー!」
「きゃー!ルメちゃーん!」
三人の名を呼ぶ観客達。
どうやらここは演舞場であり、現在舞台公演の真っ最中である、とようやくシルスは気付いた。
――なんでっ!?ここはどこっ!?
まったくもって訳がわからず、シルスはただただ混乱の極みであった。
カーテンコールに三回、アンコールに二回駆り出されてシルスはようやく舞台そでに逃げる事ができた。
シルスぐったり。
舞台に出演したことなど一度も無い。せいぜいが幼い頃のお遊戯会程度である。
それがいきなり客席が満員に近い舞台に放り出されたのだから、戸惑うのも無理はない。
三人の踊り娘達の連携の取れたアドリブが無ければ、そのまま棒立ちで突っ立っているしかできなかったかもしれない。
踊り娘達三名が両手いっぱいの花束を抱えてシルスの元へやってきた。
シルスもワケもわからないまま沢山の花束を渡され、前すら見えない。
「こっちこっち」
「一緒に来て!」
大勢のスタッフに拍手で見送られる三名の踊り娘。彼女達に混じって、シルスは引きずられるようにして楽屋へと連れて行かれた。
「えっ?えっ?どこ行くんですかっ?」
「いーから来い!ハナシは楽屋でだっ!」
赤毛の娘がぐいぐいと手を引いていく。
◇ 楽屋にて ◇
楽屋に入るや否や赤毛の娘がぱぱっと衣装を脱ぎ捨て、上下とも小さな下着一枚、ほぼ全裸になると、身体の至るところに施されたタトゥーをペリペリと剥がし始めた。
体脂肪の少ない鍛えられた肉体は女性らしさがやや欠けるものの、腰のくびれからお尻への曲線は美しいの一言に尽きる。
「はー、このタトゥーシールともオサラバだな。蒸れるし痒いんだよな、これ」
「シアシア!まずは!解散公演、お疲れー!」
ポニーテールの娘がシルスを含めた3人にハイタッチを交わしていく。
「ウケてたよねー!」
「ウケてたねえ。最終日に相応しい演出だったよねぇ。ルメちゃんもビックリしたものー」
ツインテールの娘がゆったりと喋る。ここでシルスは気がついた。
――この二人って……双子ちゃんかな?
「ウケりゃいいってもんでもないだろっ」
と、赤毛の娘。
「イヤ、ウケでしょ!」
「ウケないとお」
「次につながらないよね!」
「そうよねえ」
ポニーテールとツインテールが交互に喋る。
髪型以外の見分け方は、喋り方と胸の大きさかな?とシルスは思う。ツインテールの娘の方が明らかに胸が大きい。
「もう次はないだろ。で。なんなの、オマエ。誰!?きったねーリュックだなっ」
知らない場所に連れて来られたネコのようにおとなしいシルスに、シアシアと呼ばれた赤毛の娘が語気荒く問う。
「わっ……わたしの名前はシルスです!えと、13歳です!シアシアさん!」
「シアシアじゃねーし。それあだ名だし。飛び入り参加でぜーんぶ持っていってくれたなあ!?なんなんだ!?」
「シルスです!13歳ですっ!」
「それ聞いたっつの」
「シルスちゃん……ハーフエルフ……よねぇ?」
「ハイ……そうですけど……」
ツインテールの娘がシルスをじいっと見つめ……
「耳、舐めてもいいかなあ?」
「え!?」
「エルフの耳汁には美容効果があるとかないとかぁ……」
「ないですよっ、そんなのっ。……またヘンタイさんに会うなんてっ」
思わず耳を隠すシルス。
「また、ってことは経験あるんだー……」
「ルメちゃんってヘンタイだからねー。気をつけてねシルスちゃん!」
「あっ、自己紹介もせずに耳舐めさせてってダメだったかぁ。わたしはルーフェルメ。ルメちゃんって呼んでね。ツインテールが見分けポイントだよー」
「自己紹介すれば耳舐めてもいいてコトでもないですよっ!?」
「アタシはルーフェリカ!ポニーテールが目印!ポニテリカって覚えてね!見ての通り、双子ちゃん!ねえねえ!どっちがお姉ちゃんだと思う?」
ルーフェリカ、ルーフェルメの双子の姉妹。
髪型が違うだけで顔はほぼ同じである。情報量が少なすぎる為に、質問には当てずっぽうで答えるしかない。
「えっと……ルーフェリカさんがお姉ちゃん?」
「その答えでいいの?」
「えっ?」
「本当にその答えでいいのね?」
「え……はい」
ルーフェリカはそう言うと腕組みをしてシルスをじっと見つめだした。
――なに?この緊張感……
ゴゴゴゴゴ……
おかしな効果音が聞こえるような気すらしてくる。
「……正解!いやースゴいねー!なんでわかったの!?」
「え、いやーあははー。たまたまデスヨー」
「また始まったよ、リカの一人クイズ。なんなんだよ、その長い間は。シルス、あんまり相手にすんなよ、チョーシに乗るから。あたしはアルシーア。シアって呼べ」
燃えるような赤い髪、意思の強そうなつり目。スラリと長い手足。自信が全身から溢れ出ているような強いオーラを感じさせる娘だ。
「とりあえず汗流そうよー、シャワーしよシャワー。シルスちゃんも一緒に♡ねぇ?」
ルーフェルメがすうっと、音も無くシルスの背後に回り込んだ。
「ひ……っ!?」シルスは思わず肩をすくめる。
「まーた始まった……このロリスケベっ!」
「えー、だってカワイイんだもーん♡」
「そのうち捕まるからな。いや、捕まれ。その方が世の為だっ」
「さっさとシャワーして打ち上げ会場行かないとっ。積もる話はその後だよ!」
ルーフェリカもぱぱっと衣装を脱ぎ捨てると、シャワールームの方へと向かった。
「ほら行こうシルスちゃん♡」
「え、あのっ行きます!行きますから耳は触らないでくださいぃ!」
やたらとくっついてくるルーフェルメに若干身の危険を感じつつ、シルスも半ば強引にシャワールームへと連れて行かれたのだった。
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